欧州の鉄道技術・日本の鉄道技術
【RAMS】14-信頼度と安全性について

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私(認証機関)

ここで紹介するのは、学問的な考え方の紹介です。

おそらくほとんどの方は興味がない話ですが、要は、システム規模が大きくなると、製品品質に影響が生じる、ということを説明しております。まあ飛ばして下さい。

なお、鉄道製品が故障した場合には修理をして再びシステムを稼働させるのが普通ですが、ここでは話を簡単にするために、故障した部品は修理せず放置するイメージで説明しております。その点をご了解下さい。

 

信頼度について

RAMS規格(EN 50126-1:2017など)では、信頼性(R)、可用性(A)、安全性(S)について下表のように定義しております。

信頼性(R)

要求された機能を、失敗することなく、所定の時間動作させることができる能力
可用性(A) 部品やシステムが、要求された機能を、ある瞬間又は所定の時間動作させることができる状態にしておける能力
安全性(S) 許容できないリスクが生じないこと

 RAMSでいう可用性は、故障している場合や故障を修理している場合を除いた時間が、全体のどのくらいになるかを表します。
 一方、確率統計や信頼性工学では、次の表のように信頼性、信頼度を定義しております。信頼性工学でいう「信頼度」は、故障率の逆数に当たるもので、上述のように修理しない前提で考える場合には、RAMSにおけるAvailabilityとは、ずれが生じます。このページでは、故障したものを修理しない前提で考えますので、ある製品がある瞬間に故障している確率(信頼度の逆数)を「故障率」と表記することとします。

     信頼性

期待される機能を遂行できる能力
信頼度 期待される機能を遂行できる確率
≒故障しない確率

故障率の推移

・・と、故障率を決めたところで早速ですが、1時間あたり0.1%の確率で故障する部品が1000個あって、同時に使用開始したとします。そのときのこの部品の平均寿命や、(修理しないとして)部品の半数(500個)が故障するまでの時間はどのくらいになるか見積もってみて下さい。どのくらいに感じるでしょうか。

 
  この設問を考える上では、当然ながら故障率(k)(この設問ではk=0.1[%/1時間])が高いほうが、より早く故障するようになります。
 時間経過に伴って部品が故障していく様子をグラフに作画できれば、元の数(1000個)が、半数の500個になってしまうまでの時間が分かりますが、そのようなグラフを作ろうとすると、k=0.5%の場合、k=1.0%の場合・・・と、故障率毎にたくさんのグラフを、下図(上)のグラフのようにたくさん書く必要が生じてしまいます。
 これは煩瑣です。そこで横軸には経過時間ではなく、「故障率×経過時間(t)」を横軸にとってみると、下図(下)のグラフのように、さまざまな故障率のグラフを、1本のグラフだけで表現することができるように改善されます。補足すると、故障率が0.001/hの部品が100h経過した場合はk×t=0.001×100=0.1 ですが、故障率が0.1/hの部品が1h経ったときもk×t=0.1×1=0.1 と同じになりますから、その時点でまだ故障していない部品の数は同じになるので、1本のグラフにまとめられるのです。
【図(上)改善前】故障率別のグラフ

【図(下)改善後】故障率×時間を横軸にしたもの

こうして作画したグラフを利用することで、上記の設問は簡単に解けるようになります。

■平均寿命

 設問にある部品の故障率k=0.1%/1hとは、1000個の部品を1h使った際に1個故障することと等価となります。

ここから、

 平均寿命T=1000h=(約41です。 なお、平均故障間隔(MTBF)は1/kですので、1000時間です。

 

■半数になるまでの時間

上のグラフから、故障していな部品が徐々に減っていき、ついに50%になる地点の横軸の値は、大体0.7と読み取れます。

横軸はk×tですから、0.7 =0.001×t  より、t=700 と求めることができます。つまり、700時間(約29日)です。 

 

■平均寿命における非故障数

設問にはありませんが、平均寿命(T)における故障していない部品数は、グラフから、1000×0.001を見ると大体35%です。より正確には36.8%になります。平均寿命=50%ではない、ことや、0.1%だから1000時間後には全て壊れるということではないということも重要な点です。


直列系と並列系

故障率が違う部品1と部品2を直列に接続した場合の故障率の計算方法を覚えておられますか。

システムの故障率をRとして、部品1の故障率をr1、部品2の故障率をr2、部品xの故障率をrxと表すとき、Rは、

  R=r1×r2×・・・×rn

 と表せます。

並列に接続されている場合には、同じく

R=1−(1r1)×(1-r2)×・・・×(1-rn

 となります。

 

そのため、r=0.999/h(故障率=0.001/h) の部品を使うシステムについて計算してみると

 直列で10個使うシステムでは、R0.990/h   MTBF=100h

  直列で1000個使うシステムではR=0.367/h   MTBF=1.58h となり、あっという間に故障しやすいシステムとなってしまいました。

より信頼性が高い(故障しにくい)r110-71h(故障率=0.0000001/h) の部品を使うシステムについても計算してみます。

部品1個でしたら MTBF=1141年なのですが、・・・

 直列10個のシステムでは、R0.999999/h  MTBF=114.1

 直列1000個のシステムでは、R=0.9999  = MTBF1.14

となってしまいます。

 つまり接続される部品数が増えると、システムの品質が大幅に低下するわけです。規模の変化が品質の変化をもたらすため、安全に長年稼働した実績があるシステムであっても、別の場所で使って安全だとは一概に言えないということになります。

※実務上は、海外鉄道プロジェクトの入札仕様書では、一般的な使用環境より過酷な気温や走行条件設定がありますので、その点からも実際の一般環境下での稼働実績は参考程度となります。この話は後述します。

まとめ

直列系のシステムとは、輪軸のように車軸によってつながっている右側・左側の車輪のように、どちら側か片方でも故障すると列車が動けなくなってしまうようなイメージのシステムです。このようなシステムでは、片側の車輪だけ高品質(故障が僅少)に製造したとしても、反対側の車輪の品質が低いままにしてしまっては、せっかくの高品質な車輪の足を引っぱってしまうような感じになります。このような直列系のシステムでは、部品の点数が増えて大規模化するほど、故障率が高い部品がシステム全体の足を引っぱってしまい、システム全体の品質・信頼性が低下する、ということは押さえて下さい。

これに対して、並列系は、どれかが故障していなければ稼働できるので、冗長な構成のほうが一般的に信頼性が高くなります。