20010418(水)02-1

 5時に目覚めたのは、それが日本時間では8時半ということと、この宿のあるロケーション(=通称フリースクール・ストリート)に活気があるためだ。なぜかうるさい、騒々しい、やかましいではなく、活気があると表現したくなる。

 何度か眠ろうと試みたが、6時に起床。健康生活の始まりだ。一晩たてば、この部屋もなかなか快適に思えてくる。バッテリーを充電するのに必要なコンセントがあり、15ある電源スイッチも何となく役割がわかり(笑)、ベッドを動かすことでドレッサー(?)が机として機能するようになった。窓が外の通路に面しているからプライバシーが半分ないのは諦めよう。この宿の人間はかつてのパラゴンみたいにフレンドリーな感じなのが良い。
lonely planetの記述では従業員の態度についてクソミソ)
 とりあえずこの日記形式で記録を続けていく。出納関係の計算も終え、コンタクトレンズも装着。カルカッタ最初の食事はどこでとろう。今日の予定はインドに順応することだけ。

 10時半に晴れ間が出てきたが、朝から雨。
 朝食をとるために適当に歩き始めて、カルカッタに来て良かったと実感。感情だけでなく、こんなにも「人間」が表に出ているのは快適だ。チョーロンギー大通りをぼけっと見ているだけでも声がかかってくる。雨だね。雨ですね。カルカッタはどうだ。そりゃ、大好きですよ。そうかそうか。他愛のない会話が続く。正体は土産物屋の親父であるが、商売目的というより開店前に朝の会話を楽しんでいるという風なのだ。きちんと挨拶をして、雑談をたっぷりしてから「近くに私の店が」となるところがカルカッタらしい。その礼儀正しさに準じて、店内を拝見。もちろん最初に「これから旅が始まるのだから何も買わない」と釘を刺しておいて、そのとおりにしたのであるが。

 チョーロンギーをしばらく北上してから雨が激しくなってきたので、ニューマーケット周辺に戻り、そこからマーキスを通って、ボース通りへ。この界隈を歩くのにに地図は不要。小銭を持っていないので、道端の軽食はもちろん、適当な食堂に入ることが出来ない。昔のことだけど、20ルピー札を出してつりがないと言われたことがある。両替直後の財布の中には50ルピーと100ルピー札しかないのだ。
 結局、小銭を作るために高級レストランが並ぶパークストリートまで歩くことになる。ところが、どこも営業は昼からで開いていない。道端では食欲をそそるプーリーなどが売られているのに……今までになかった選択、不本意な選択をするために苦労させられるとは。
 雨の中を日本の服で歩くのも辛いものがある。インドの庶民服クルタとピジャマを早く入手したい。

 物乞いの子どもたちもかわいく、手を握られると「たまらん」と思う。こういった直接的な人間の触れ合いが日本ではなくなっている。入ってすぐにインドの体温を感じられるなんて最高の贅沢だ。
 背後には悪賢い母ちゃんがいて、これは外人旅行者の情緒に直接訴える汚い作戦ではある。高級店の並ぶパークストリートならではと添えてもいいだろう。ところが、子供は幼すぎて作戦の意味がわかっていない。無邪気に「遊び」を楽しんでいる。こちらも楽しい散歩気分なのだから、喜んで笑いかけると子供もニコニコして、ますます母ちゃんの指令を忘れてしまう。
 母親にとって私は「とんでもない奴」のはずだ。だったら、自分で働きなさいな。ビルの陰で何もしない母ちゃんよ。

 初めてカルカッタを訪れた時、一緒に歩いていた日本人旅行者がこれをやられて、宿に戻るや情緒障害に陥った。それからというもの部屋から一歩も出なくなった。当時は「軟弱者め」と思ったけれど、確かに手を握られるというのは大きなショックである。ただし、そのショックをどう受け止めるのかが問題だとは思う。私なんぞは握ってもらえなかったことが悔しいのだぞ。

 朝食を求めて1時間以上かけて近所を一周することになったのだが、とにかく見るもの聞くものすべてに心が動く。居心地がいいよなぁ、この町は。そして、コンピュータが確実にカルカッタにも入っているのが印象的だ。インターネットカフェはいくつも見たけれど、それよりカルカッタ式(広くはインド式)商売の中にコンピュータ技術が入ってくるほうに興味がある。需要あるところに供給あり。それは生きるためのギリギリの真剣な選択でもあるのだが、真剣であればあるほど笑ってしまうのも事実。防水機能のないインド製腕時計を汗から守るためのウォッチカバー、誰が買うのかわからない路上の『付け髭』売り、使い捨てライターのガス補充屋(技術のある者は石まで交換してしまう!)、古くは有名な路上の体重測定屋、使い古しのペットボトルも空き瓶も、売れるものは何でも売ってしまう。
 彼らはコンピュータを使ってどのようなインドスタイルを作り出すのだろう。online graphicなんて看板を見た時にはぞくぞくしてきた。それは言葉から想像できるものとは違っているはずだし、これから全く新しい商売に進化していくような予感を抱かせるのだ。

 朝食は結局のところ安宿街サダルストリートの外国人旅行者相手の店でサンドイッチとラッシーに落ち着いた。こういったサンクチュアリはなるべく利用しないつもりでいたから不本意。値段は41ルピー。暴利に近いと思うのだが、どうにも物価感覚がつかめない。もしかしたら安食堂で50ルピー札を出しても、おつりは貰えたかもしれないとも思えてきた。

 その食堂で相席したのが広島の男。いつもは東南アジア中心で、インドはこれが初めてなんだそうだ。昨日着いたばかりというのに、早速ハッシッシに20$払ったという。物価感覚がつかめていないのだから、気のない感じでふーんと答えるしかない。いったい何を期待してインドへ来ているのやら。ところが、そいつは「女を買えるところはどこか」とたずねてきやがった。これが初めて訪れたインドで考えることか。こういうバカは性病をうつされちまえ!

 さりげなく朝食をとってインドの1日を始めるはずだったのに、最悪のスタートに近い。一人で孤独にもそもそと飯を食っていた方がましだってもんだ。まあ、カルカッタは今回の旅のイントロダクション。早めに移動しよう。
SONALI GUEST HOUSEに外人旅行者は泊まっていないような雰囲気。どうせ孤独なら、外人旅行者と出会わない南へ行ったほうがましなのである。

sudderst
とてもきれいになったsudder st.