第5章 犯罪および自殺をそそのかすスピリット
第1節 ●肉体離脱後も残る『犯罪癖』
習慣とか願望、性癖といったものは精神の奥深く根を張っているもので、肉体を離れた後も、当人の意志によって自然的に取り除かれるまでは、死後もずっとそのまま残っていることが多い。
特に、処刑されて強引に肉体から離された場合は、怨みを抱き復讐の機会を求めて、いつまでも地上圏に留まり、霊的なものに過敏な人間に憑依して、好き放題のことをすることがある。我々の調査によって、まさかと思うような真面目な人間が、地上で殺人を犯したスピリットに憑依されて新たにむごたらしい殺人を犯すというケースが少なくないことが分かっている。
第2節 ●マジソン・スクェアガーデン惨殺事件の真相
1906年にスタンフォード・ホワイトという男性が、ハリー・ソーという名の犯人によって、ニューヨークのマジソン・スクェアガーデンで惨殺された事件も、その典型だった。ハリーは、生まれつき霊的感受性が強く、スタンフォードを殺害した時の心理状態がどうであったにせよ、恨みに満ちた複数のスピリットに唆されていたことは間違いないことが、我々の招霊実験で判明した。つまり、ハリーは、無知で復讐心を抱いた低級霊集団によって演出された、見えざる世界での恐怖のドラマの、地上の執行人に過ぎなかったわけである。
その殺人事件から数週間後の7月15日にホームサークルを催している最中に、予定されていたのとは違う別のスピリットが私の妻に憑依し、妻の身体はその場に倒れた。私が抱き上げて椅子に座らせてから質問しようとした。すると、身体に触れたことに腹を立てて『余計なことをするな』と言ったあと、
「おい、ウェイター、酒だ!」と大声で言った。そこで、私が聞いた。
「何にいたしましょう?」
「ウィスキーをソーダで割ってくれ。はやくしろ!」
「どなたでしょうか」
「誰だっていい。余計なお世話だ」
「ここはどこのおつもりですか」
「マジソン・スクェアガーデンじゃないか」
「お名前は何とおっしゃいますか」
「知りたけりゃ教えてやろう。スタンフォード・ホワイトだ」
そう言ってから片手で後頭部を押さえ、もう一方の手で痛そうに胸や腹をかきむしりながら、「早くウィスキーをもってくるように、ウェイターに言ってくれ!」と言う。
私がさらに質問しようとした時、そのスピリットの目に他のスピリットの姿が見えたらしく、急に恐怖で身体を震わせ始めた。
「死んだ人達の姿が見えるのでしょう?」
私がそう言うと、激しくうなずいてから、大声で、「あいつらが俺を追っかけてくるんだ」
と言うなり、椅子から飛び出して部屋の隅の方へ走って行き、そこで霊媒の身体から離れてしまった。
その直後に、今度は別のスピリットが乗り移って、ひどく興奮しながら行ったり来たりして、「こいつは俺が殺ったんだ! この俺が殺ったんだ! 見ろ、あそこにくたばってやがる」
と言って、さっきのスピリットが離れた隅の方を指差し、さらに、「こん畜生め! 奴を殺そうと思って何年チャンスを待っていたことか。ついに殺ったぞ! こん畜生めが! 」と怒鳴った。
そこで、その男を無理矢理椅子に座らせて質問してみると、名前は『ジョンソン』であることが分かった。
そして、「ホワイトは俺が殺ったんだ。あれでいいんだ。奴は娘っ子をおもちゃにしやがった」と述べた時の言葉の響きには、上流階級への憎悪がむき出しになっていた。
さらに言葉をついで、「あいつらは俺達の(階級の)娘をさらっては、奇麗なドレスを着せておもちゃにしてやがる。親達も知らん顔さ」と言う。
私が死んだことには気づいているのかと尋ねると、バカバカしいと言わんばかりに笑い飛ばして、「死んだ人間がものを言うかよ。医者は、俺が肺をやられているから先は永くないと言ってやがったが、死ななかった。こんなに気分がいいのは初めてだよ」
そこで、私が手と足とドレスを見るように言うと、男が女の身体をもつとはどういうことかと言い返し、私との間で長々とやりとりが続いたが、どうにか納得がいったらしく、おとなしく去って行った。
続いて憑依したスピリットは、自分の死をよく理解していて、「ハリー・ソーの父親で。息子を救ってやってください。どうか救ってやってください。息子には罪はないのです。電気椅子に座らされるようなことはしていません」
と言い、続けて――
「ハリーは霊的影響を受け易く、子供の頃からそうでした。行動が風変わりで、すぐに興奮するので、発狂するといけないという心配から、私も家内も、彼を強くいさめることをしなかったのです。
今それが間違っていたことが分かりました。地上にいた頃は、ハリーの異常の原因が分かりませんでしたが、今、霊界から見ると、ハリーは生活のほとんどを低級な地縛霊の道具にされていたことが分かります。
スタンフォード・ホワイトを殺した時も、復讐心に燃えた複数のスピリットのとりこにされていたのです。これまで私は可能な限りの手段を尽くして、地上の人達にハリーが本当は気が狂っているのではなく、霊的に過敏な子であったことを分かって頂こうと努力してまいりました。どうか、あの子を救ってやってください! どうか救ってやってください!」
「どうして欲しいのでしょうか」
「私の妻と弁護士のオルコットに手紙を書いて頂き、この度の私が述べたことを知らせて、ハリーの本当の事情を教えてやって頂ければと・・・」(その時点では、ハリーの弁護士のことは何も知らなかったが、後で間違いなくオルコット氏であることを確認した)
「おっしゃる通りに致しましょう」と言うと、そのスピリットは離れて行った。その翌日(七月十六日)の晩には、さらにもう一人のスピリットが出現した。初めのうち、誰かを探している様子で、「他の連中はどこへ行った?」と聞き、やはり上流階級への恨みつらみを述べて、若い女の子がすぐに騙されてしまう愚かさを吐き棄てるように言ってから、さらに、
「金持ちは、俺達の娘を奴らの隠れ家へ連れ込んで、金づるにしてやがる。娘達も親のことなんかどうでもいいと言い出す始末さ。痛い目に遭わせてやらんといかんのだ、あいつらは!」
と、ジェスチャーを交えながら喋るのだった。初めから終いまで興奮し通しで、私が質問らしい質問をしないうちに、突如として霊媒から離れた。
翌年の二月十六日に、ソーの父親が再び出現して、前回と同じように、息子が霊的感受性が強い子で、しばしば邪霊に唆されていることを述べた後、地上の人間はこの邪霊の影響の実在を正しく理解することがぜひ必要であることを説き、それがスピリットにとっても、気の毒な犠牲者にとっても、悲劇を未然に防ぐ最善の方法であることを力説するのだった。
第3節 ●ホリスター夫人殺害事件の真相
1906年、シカゴで起きたベッシー・ホリスター夫人の殺害事件の犯人として絞首刑になったリチャード・アイベンスは、事件当時、彼自身の意志ではなく、外部からの影響力の犠牲者であったということは明々白々である為に、精神病学者も犯罪学者も心理学者も、揃ってアイベンスは無罪であると主張し、また催眠暗示の状態での尋問でアイベンスが、知らない人間に唆されてやったと自白している事実を指摘していた。
確かにアイベンスは、取り調べに際して恍惚状態のような目つきで『図体のでかい奴』が殺せと唆したからやったのだと告白するかと思うと、すぐまた、それを激しい口調で否定する、ということを繰り返していたのである。
ハーバード大学の心理学教授H・マンスターバーグ博士は、事件のあった年の1906年6月に、次のように書いておられる。
[これは人格分裂と自己暗示の、興味深いケースである・・・十七世紀の魔女達は似たような告白をして焼き殺されたわけである。異常心理についての一般の理解は、魔女狩りの時代から大して進歩していない]
同じくハーバード大学のウイリアム・ジェームズ教授はこう述べておられる。
[アイベンスが有罪か無罪かはともかくとして、犯行当時に人格分裂状態になったであろうことは間違いない・・・その宿命的な最初の数日間、彼は本来の『自我』ではなく、稀にある人格転換の犠牲者であった。それは、他からの暗示性のものか自発性のものかのいずれかであろうが、先天的にそういう素質をもった人間がいることは、よく知られていることである]
以下はその後日の話である。
1907年3月7日
スピリット=リチャード・アイベンス
スピリットが乗り移ると、霊媒はまるで死んだようにフロアに倒れ込んだ。そして意識を取り戻させるのに三十分もかかった。が、意識が戻っても、
「ほうっておいてくれ。もう一度絞首刑にしたいのか」と言いながら、しきりに首のあたりの痛みを訴え、とにかく眠らせてくれと言うのだった。
「首がどうかしたのですか」と聞くと、「首の骨が折れている。絞首刑にされて、俺はもう死んだんだ。死んだままにしておいてくれ。生き返ったら、また絞首刑にされる」と言う。
名前を尋ねると、リチャード・アイベンスだと言うので、「ホリスター夫人を殺害したのは、あなたでしたか」と尋ねると、「知らない。人は俺がやったと言ってる。しかし、俺がやったとしても、身に覚えがないんだ」
「ではなぜ、自分がやったと言ったかと思うと、すぐに否認したりしたのですか」
「三人のゴロツキがいる時はそう言った。その中の図体のでかいのが俺を見下ろして『言わんと殺すぞ』とナイフで脅したんだ。そいつがいない時は、殺したかどうか記憶がないと言った。警察でもそう言った。看守にもそう言った。聞いた奴にはみな同じことを言った。が、本当のことを言っても信じてもらえなかった。
ああ、酷い目に遭った!」せっかく死ねたのに、なぜ呼び戻すんだ。なぜそのまま眠らせてくれなかったんだ。また逮捕されて吊るされるじゃないか!」
次の瞬間、恐怖におののいたような叫び声をあげて、「見ろ! また、あいつだ! 手にナイフをもって、側に二人の背の低い奴がついてる。わっ!」
そう叫んで、膝を抱きかかえる仕草をしながら、「膝をやられた! 膝にナイフを突き刺された――もう一方もだ! 脚を切られた! 脚を! あいつは悪魔だ!」
そこで私が少しずつ事情を説明し、みんなスピリットであること、もう肉体はないのだから傷つくことはないことを得心させてから、「あなたは今、ご自分の身体を使っているのではないのです。そういう精神的な妄想を捨てないといけません。三人の他にもスピリットの姿が見えませんか」と言うと、
「おや、ほんとだ、見えます。私の味方のような感じがする。あれ、ホリスター夫人だ!」
「ナイフを持ってる男に、なぜ追い回すのか聞いてみてください」
「ニタニタ笑ってるだけです」
「なぜホリスター夫人を殺さないといけなかったのか、聞いてみてください」
「女が憎いからだと言ってます」
そう言ってから急に黙り込み、固唾を呑んで何かものすごいシーンを見ている様子だった(マーシーバンドのスピリットが三人を取り押さえた)。
「あの三人を連れて行きました。ものすごい格闘でしたが、ついに取り押さえました」
そう言ってホッとした表情を見せ、「ヤレヤレです。あの恐ろしい男がいなくなって助かりました」と言った。
そこで私が、ホリスター夫人殺人事件について思い出してみてほしいと言うと、こう語った。
「あの夜、ホリスター夫人を見かけた時、私の目には、あのでかい男の姿も見えて(霊視して)おりました。そのうち妙な感じがしてきたと思うと、首を絞められて意識を失ってしまいました。次に意識が戻ってみると、その男が、夫人を殺したのはこの私だと言うのです。
その男の姿は一ヶ月程前から見かけていましたが、それがスピリットであるとは知りませんでした。ずっと私をつけていたのです。なぜ、私を生き永らえさせてくれなかったのでしょう? たとえ刑務所の中でも良かったのです。家族には大変な恥をかかせてしまいました。母親に済まない気持ちで一杯です。真相を知ってもらえればという気持ちです。もしも母に会えたら、あれはどうしようもなかった――私は絶対に殺してないと言ってあげたいのです。
誰も同情してくれなかった。あのでかい男がナイフを持っていた話をしても、誰も信じてくれなかった。あいつが私に自白させたのです。
本当に私がやったのなら、後悔もします。でも、私には身に覚えがないのです。なのに、なぜ私を処刑したのでしょう?」
そこで私が、生命の死後存続と高い霊的境涯への向上の話をすると、「私が死んでないとすると、あの夫人も生きているということですか」と真剣になって聞いた。
「勿論ですとも。きっと今ここへあなたを許しに来ておられるはずですよ。確かにあなたはその方の身体を滅ぼしたかも知れませんが、それはあなたの罪ではありません。邪霊によって催眠状態にされて、彼らの道具にされただけです」
最初元気のかったアイベンスは、やっと事情が分かって、マーシーバンドの手に委ねられた。そのメンバーの話によると、『でかい男』は子分の二人と共に、地上で『白帽団(ホワイトキャップ)』という、英米で婦女子ばかりを襲って手足を切断したり殺したりしていた『殺人狂集団』に属していたという。
それからほぼ三ヶ月後に、その『でかい男』の招霊に成功した。
1907年6月6日
スピリット=チャールズ・ザ・ファイター(人呼んで『喧嘩チャールズ』)
霊媒にかかってきた時は酔っぱらったような態度だったが、目が覚めると暴れ出し、数人がかりでやっと押さえ込むことが出来た。
「人呼んで『喧嘩チャールズ』とは俺のことだ」
そう凄んでから、まわりにいるマーシーバンドのスピリットに向かって、そこへ自分をおびき寄せた恨みを口走り、突っ立ってないで助けろ、と命令した。
そのうち落ち着いてきて、私の説明にどうにか耳を傾けるようになった。他人の身体を使って喋っていることを納得させる為に、手を見るように言った。
すると片手だけ見て、それが女性の手であることを知って、ひどく狼狽し、「この手をもってってくれ! もってけ! こんなもの、見たくもない!」とわめいた。
そこで私が、なぜそんなに怒り散らすのか、そのわけを聞かせてほしいと言うと、
「言うもんか! 言うくらいなら死んだ方がましだ! ああ、またあの女の顔が! ダイヤの指輪を取るために切り落とした手も見える! どこへ行っても、その顔と手がつきまとうんだ」
さらに見回すと、大勢の亡霊に取り囲まれているらしく、
「見ろ! あの顔、顔、顔! ぜんぶ俺が殺したって言うのか? 俺を呪いに来やがったのか? 見ろ、あいつもいる(アイベンス)。首を吊られたはずなのに、まだ生きてやがる。あの女を殺したのは俺だ。だが、あの男に上手く自白させたはずだ。(私に気づいて)ちょっと待て! コラ、きさま! お前だな、これを企んだのは。あとで覚えてろ! 八つ裂きにしてやるからな! 」
そう言いながらも、我々の説得によって、ついに、これ以上の抵抗は無駄であり、強盗と殺人の時代は終わったことを悟った。彼は身の毛もよだつ犯罪の数々を語り、それは女への報復としてやったこと、強盗はウィスキーを買う為の金欲しさであり、ウィスキーを飲むのは良心の呵責を紛らわす為であり、絶えず呪い続ける亡霊から逃れる為だったという。
彼は、幼少時代は優しい母親の愛を受けて幸せだった。が、その母親が死んだ後、後妻にひどく虐待され、泣く泣く自分の部屋に駆け込んで、亡き母に助けを求めて祈ることの毎日だったという。が、そのことがますます義母の嫉妬心をあおり、気弱な父の抑止も聞かずに彼を殴り続け、二度と実母の名前を言うなと叱りつけたのだった。
その義母の残忍な暴君的態度が、少年の心に計り知れない恨みの念を植え付け、大きくなったら女という女を皆殺しにしてやるという誓いをさせるに至った。そして、その恐ろしい誓いを着々と実行に移し、全生涯を、主に女性を対象として、残虐な計画と犯行に終始した。
その彼も、仲間割れの喧嘩で殺されたのだが、この日まで自分が死んだことに気づいておらず、その後もずっと警察を上手くまいて、犯行をきちんと重ねて来たのだと自慢するのだった。
「ところがだ、ボストンでのことだが、警官を殺してやろうと思って、後ろにまわってこん棒で殴りつけたんだが、どういうわけか、空を切って手応えがなかった。そいつは振り返りもしなかった」
我々やマーシーバンドに取り囲まれて、彼はもう逃げられないと観念したのか、亡霊の呪いから解放されるためなら、どうなっても構わんと言い出し、「この拷問のような苦しみから逃れられるのなら、地獄にだって喜んで行く」とさえ言うのだった。
私が因果応報の話をし、霊界の素晴らしさについて語るのに素直に聞き入っているうちに、霊的波長に変化を生じたらしく、すぐ側に実母が立っているのが見えた。やはり母親の姿の効果は絶大だった。さすがの非情の極悪人も、椅子の中で縮み上がり、母親の説得の言葉に、哀れにも泣きじゃくるのだった。
罪の意識と後悔の念がよほど強かったとみえて、彼は、「僕は行けないよ、母さん。母さんは天国へ行くんだ。僕は地獄へ行くんだ。そこで八つ裂きにされて火で焼かれるんだよ」と言いながら、なおも泣きじゃくるのだった。
しかし、母性愛は負けなかった。さすがの極悪人も、神妙に、母親に連れられてスピリットの世界へと旅立って行った。
第4節 ●人間を自殺に追い込む憑依霊
“どうしてまた、あの人が・・・”と思いたくなるような、原因らしい原因がまったく見当たらない自殺の大半は、自縛霊による憑依や唆しが引き金となっていることが判明している。
それには邪霊が意図的に自殺を唆している場合と、既に自殺をして霊界に来ていながらその事実に気付かず、自殺が失敗したと思い込んで、何度も自殺行為を繰り返しているうちに、波動の合った人間に憑依して、その人間を道連れにしてしまった場合とがある。
いずれにしても、その行為の結果は例外なく惨めである。
第5節 ●突然首吊り自殺した女性のスピリット
最初に紹介するのは、私自身も少年の頃に通ったことのある日曜学校の女の先生で、X夫人と呼んでおく。妻とは一面識もない。知的で、霊性も豊かで、勿論熱心なクリスチャンで、二人の子供に恵まれた幸せな家庭の母親だった。
どこからどう見ても、何一つ不幸の陰は見当たらなかったその先生が、ある日、突如として首を吊って死んでしまった。ご主人も子供も、訳の分からない悲劇に呆然とするばかりだった。
それから10年後の冬のことである。シカゴの拙宅で、妻と二人きりで寛いでいた時に、突然、妻にあるスピリットが憑依して、苦しそうに喘ぎながら首のところに手をやって、もがき始めた。
よくあることだが、自分が既に死んでいることに気付いていないスピリットが再び物質と接触すると、死に際の断末魔をもう一度体験するのである。この場合も同じだった。
いろいろと尋ねていくうちに、そのスピリットは、驚いたことに、私の知っている日曜学校の先生で、首を吊って自殺したことを述べた。その時もまだ地上圏に釘付けにされていて、それまでの地獄のような精神的苦痛を述べ、さらにこう続けた。
「肉体から離れてすぐ、私の愚かな行為の原因が分かりました。私達一家の幸せな生活を妬む教会関係の人達の念によって引き寄せられた邪霊の一味が、私のすぐそばに立っていて、上手くいったとばかりに、ほくそ笑んでいる姿が見えたのです。
なんとかしてもう一度肉体に戻りたいと思いましたが、時既に遅しでした。その日から今日まで、どれ程の絶望と悔恨の情に苛まれたことでしょう。楽しかった家庭は破壊され、夫は生きる勇気を失ってしまいました。子供達はまだまだ私の世話が必要だったのに――私が近づいて語りかけても、全く通じません。私は、今日まで薄暗い闇の中で、悶々として過ごすしかありませんでした」
私の説得によって慰めを得て、霊界の事情に目覚めたX夫人は、喜んで高級霊の手引きに従って霊界入りし、心を入れ替えて、改めて地上の愛する家族のために役立つ仕事をすると誓ってくれた。
その後何年かして、我々のサークルで自殺志向の強い患者を扱っている最中に、突然X夫人が戻ってきて、次のような体験談を語ってくれた。
1918年11月17日
スピリット=X夫人
「あれ以来随分になります。この度は自殺を考えておられるこの若い女性に、一言ご忠告申し上げたいと思ってやって参りました。
何年も前の話になりますが、私は二人の可愛い子供と優しい夫に恵まれた、幸せな家庭の主婦でした。私共夫婦は相性が良くて仲睦まじかったせいか、教会関係の方達の中にはそれを妬ましく思う人が多くいたようです。
当時の私は、バプテスト派教会に属していたせいもあって、自分が霊感が強いということを知りませんでした。ただひたすら家庭を守ることに専念しておりました。が実は、見えざる世界に、私を陥れようとする者がいたようです。ある日、いつものように明るく夫にキスをして送り出した後、ふと、誰かに捕まえられたような感じがしたのです。
それから後のことは何も知りません。何一つ知らないのです。何か妙な感じがして、誰かに捕まえられて身動きが取れなくなったところまでは覚えているのですが、それからあと自分がどんなことをしたか、まるで分からないのです。
暫くして我にかえってみると、全てが一変しておりました。目の前で夫が激しく慟哭しているのです。どうしたのだろうと思っているうちに、なんと、私の身体が首を吊ってぶら下がっていることを知ったのです。
ああ――その時の私の苦悶をどう表現したらいいのでしょう――夫は部屋の中でぶら下がっている私の体の前で、悲嘆に暮れて泣き崩れています。なのに私はどうしてあげることも出来ませんでした。夫のそばに立ったまま、なんとかしてもう一度その身体の中に戻れればと願いましたが、駄目でした。二人の子供も泣きじゃくっています。その二人にも、私は何もしてあげられないのです。
そのうち、何人かの邪悪そうなスピリットがすぐ近くに立って、私達一家の悲劇のシーンを見つめながらニタニタしているのを見て、やっと事情が分かりました。人の幸せを妬む彼等は、私を霊的に金縛りにし、私の身体に憑依して自殺させたのです。
夫は、私が首を吊っているシーンを忘れることが出来ません。子供はまだ小さくて、面倒を見てやる必要がありました。私がやってあげるべきところを、夫が背負うことになってしまいました。
もとより私は、自分の意志で自殺した訳ではありませんが、それから10年もの永い間、その行為が私の目の前から離れませんでした。といって、もはやどうしようもありません。そのことでどれほど苦しい思いをしたことでしょう。子供が可哀想で、可哀想で――ある日のことです。とても寒い日でした。ふと生き返ったような感じがしたのです。そして、なんとなく温かい感じがするのです。自分がどこにいるのかも分かりませんでしたが、とにかく生き返ったような感じがしました。先生(博士)が事情を説明してくださり、一時的に先生の奥様の身体を使わせてくださっていることを知りました。そして、知り合いのスピリットが霊界へ案内してくださることも知りました。
そのことがあってから気持が幾分安らぎました。現在いるような美しい環境に行けたのも先生のお蔭です。しかし、それまでの10年の永かったこと――目に映るのは自分が首を吊っているシーンと、いたいけない我が子の姿でした。夫に子供・・・どんなにか私の手を必要としたことでしょう――が、私には為す術がありませんでした。
死にたい気持を抱いておられる方々に申し上げます。どんなことがあっても、それを実行に移してはなりません。自ら死を選んだ時、どれ程の地獄の苦しみが待ち受けているか、人間はご存じないし、また理解することも出来ないことでしょう。一旦その肉体から離れてしまうと、二度と戻れません。ということは、地上での義務がそれっきり果たせなくなるということです。
子供達は、自分達の母親が自殺したという思いを拭うことは出来ません。夫も子供も私を許してはくれないでしょう。スピリットに唆されたとはいえ、苦しむのは私でしかありません。
霊界の法則をお知りになれば、その結果の恐ろしさが分かって、自殺などしなくなるはずです。自分で死のうなどという考えは、棄て去って下さい。寿命が来るまで、なんとしてでも、この地上で頑張るのです。私が苦しんだ10年間は、地上に存在しているべき期間でした。本来ならその期間を地上で過ごしてから、こちらへ来るべきだったのです。そうすれば、その間に夫と子供のために私が果たすべき義務を果たすことが出来たわけです。
私に割り当てられた寿命を全うせずにこちらへ来るべきではなかったのです。それで、10年間にもわたって私の目の前から、首を吊った自分の姿が消えなかったのです。そして、その間ずっと、夫と子供が私を必要としていたことを思い知らされたのです。
もう今では、家族がこちらで再会するまで明るく過ごすことが出来ます。子供達のために、霊界から精一杯世話をしてあげることが出来ます。
どうか夫によろしく伝えて下さい。夫は今でも孤独です。すぐそばにいてあげることは出来ても、その孤独感を慰めてあげることは出来ないのです。
では、さようなら」
第6節 ●自殺した映画女優の警告
1920年にフランスで自殺した映画女優のオリーブ・Tは、アルコールとタバコの中毒症状があった上に、霊的感受性が強かったことが誘因となって、邪霊に唆されたのだった。それから間もなく、まだ精神状態が混乱している中で招霊されて、どうにか真相に目覚めた。
それから二年余り後に同じく映画女優のバージニア・Rを招霊会場に案内してきたオリーブが、その二年間の反省と体験を元に、特に若い女性に対して、次のような警告のメッセージを述べた。
1922年4月19日 スピリット=オリーブ・T
「前回ここでお世話になって以来、霊界で得ることが出来た素晴らしい体験のお礼を述べなければと思って、やって参りました。
人生についての正しい教訓は幼少時から教え、真実の意味での生命を理解するように導いてあげるべきだと思います。生命の実相を映像の形で説いてあげたらどうでしょう? それをスクリーンに映し、死というものは存在しないことを教え、すべての人を待ち構えている美しい死後の世界のことを教えてあげれば、地上世界はずっと違ったものとなることでしょう。
私も、女優としての仕事柄、一種の架空の世界に生き、人様を楽しませることを心掛けました。が、近頃の若い女の子が、遊び半分の人生に陥っていくのを見て、気の毒に思います。楽しいかもしれません。でも、束の間のことです。人間には必ず、ささやきかける声、というものがあります。『良心』です。どんなに打ち消そうとしても、どこまでもついてまわります。そういう浮かれた人生を送っている若い人達に、その愚かさを教えてあげられたら、と残念でなりません。
より高い生命の世界が存在することを教え、その真実味を実感させてあげることが出来たら、と思うのです。自分の為でなく、人の為に生きることが大切なのです。そういう人生の基本原理を教え、間違った教義を教えてはいけません。
地上世界の障害の一つは、アルコールとモルヒネの乱用です。そうしたものが少年少女を悲劇へと追いやっています。大人達は、ただいけないと咎めるばかりで、有効な手段を講じようとしません。結果的には、ますます彼らを悩みへと追いやっております。なぜかといえば、法律で禁じても、欲しいものはなんとしてでも手に入れるものなのです。禁じられる程、スリルがあって痛快なのです。
それに付随して、もう一つ別の要素があります。それは、ウィスキーのような度の強いアルコール類には、様々な感情が絡んでくるものだということです。気難しい評論家は一方的にアルコールを目の敵にして魔物扱いしますが、それがかえって過敏な若者を刺激して、酔うと様々な感情が湧いてきて荒れ狂うようになり、ますます悩みへと落ち込んでいきます。
人間はもっと、神の顕現である森羅万象の素晴らしさを学ばなくてはいけません。神は全存在の背後の生命であり、人間こそ、それを荒廃させている悪魔なのです。私が『人間』と言う時、現在の地上の人間だけを言っているのではありません。過去から現在に至るまでの『人類』のすべてのことを言っているのです。神は自由意志をお与えになったのですが、人間はそれを乱用しているのです。
キリストの教えの本当の意味を理解しないといけません。アルコール党は『ワインはキリストがこしらえたんじゃないのか』とか、『それをみんなに分け与えたじゃないか』とか言って弁解しますが、ワインとは生命のことだということを理解しておりません。大半の人が、それをワインそのものだと思っているのです。
神についても正しく理解しないといけません。神を怖がってはいけません。白い玉座に腰掛けた人間的存在ではありません。全生命の根源である霊的存在なのです。身の回りにあるものすべてが、霊的生命の顕現なのです。人間の言う『善なるもの』に存在価値があるように『悪なるもの』にも存在意義があります。悪を知らなければ善を知ることも出来ません。人生の教訓を学び、叡智を獲得し、不滅の生命の存在を悟るのは、現実の人生体験を通してのみ可能なのです。
私が、死後、霊界へ来て真理を見出し、救われることになったのも、苦しい体験を味わっていたからです。良心の呵責という火の洗礼を受けて、私は霊的に浄化されたのです。私は真理に飢えておりました。だからこそ、いったん真理を見出したら、邪念というものが全てなくなったのです。黄金は火の精錬過程を経て初めて見出せるのです。良心の呵責を経て、私は自分自身の中に神を見出したのです。外にあるのではありませんでした。
自己の中に神を見出し、そして得心することです。他人を裁く前に自分自身をよく知ることです。そうすれば、他人を裁けなくなります。すべての人を友とし、すべての人に善行を施し、どこにいても善行を心掛けることです。自我(エゴ)の垣根を取り払うことです。
エゴが頭をもたげ、怒りやアルコール、その他もろもろの愚かなことに負けそうになるごとに、自分に、こう言って聞かせるのです――『絶対に腹を立てまい。いかなる誘惑にも負けないぞ』と。そして、仲間達にはおかまいなく、さっと『回れ右』して、我が道を行くのです。すると怒りもどこかへ消えてしまいます。そのように、言いたいことも我慢するということを繰り返すことにより、心に調和が生まれるのです。
怒りの情念の中にある時は、後になって言わなきゃよかったと後悔するようなことを、つい言ってしまうものです。そして、その言葉がいつまでも心から消えないのです。ですから、怒りの念が湧き出るのを覚えた時は、そんなものには負けないぞと自分に言って聞かせ、回り右をして、『自分は自分を克服するのだ。もっと高いものを求めるのだ。つまらぬものには負けないぞ。お前(怒り)なんかには入らせないぞ』と言って聞かせるのです。
あの時の私は怒りに燃えていました。それは私の死を意味していたのです。どういうことをしたか――自殺したのです。本気で自殺するつもりではなかったのです。が、その後の私が怒りの中にあったことが、死に繋がったのです。手遅れにならないうちにエゴを克服することです。度を超えないうちに怒りを抑えるのです。
あの時の私は、怒りの念に押し流されてしまったのです。その結果はどうなったか――自殺していたのです。目が覚めて、自分のしたことに気づいた時、地団駄を踏んで後悔しました。それが、ただの怒り、つまり利己主義の絡んだ怒りからやってしまったことだったのです。
自我を克服しましょう。もしも怒りの念に襲われた時は、こう言うのです――『さがれ、サタンめ!』と。そして、心の中で回れ右をすれば、それで、取り憑こうとしていた邪霊を閉め出すことになるのです。私がもしそうしておれば、あのようなことにはならなかったであろうに、と悔やまれてなりません。
もしも私が、地上の人々に歩むべき正しい道について語り、生命の実相とイエスの教えの本当の教訓、それに、心がけ次第で私達みんながいかに多くの善行を施すことが出来るものであるかを、映像の形でスクリーンに映し出してあげることが出来たら、多くの犯罪者が心を入れ替えて、善男善女となってくれることでしょう。
オリーブ・Tでございます。さようなら」
第7節 ●シカゴで自殺した女性
これは招霊実験を始めた頃で、1906年11月15日にシカゴで起きたものである。いつもの交霊会を催している最中に急に霊媒の様子がおかしくなって床の上に寝転び、しばらく人事不省のような状態が続いた。そのうちやっと憑依霊が引き出された。
とても苦しんでいる様子で「もっと薬を飲めばよかった。死にたい。もう生きているのはイヤ!」という文句をくり出した。それから弱々しい声で、あたりが真っ暗で何も見えないと言った。部屋の電灯の明かりが直接顔に当たっているのに、それが見えないのだった。それから、か細い声で、「息子がかわいそう!」と言うので、事情を説明するようにきつく求めると、名前はメアリー・ローズといい、住所はサウス・グリーンストリート202、ということだったが、我々の全く知らない住所だった。
最初のうち年月日がさっぱり思い出せなかったが、「今日は1906年11月15日ですか」と尋ねてみると、「いえ、それは来週です」という返事が返ってきた。それから色々と聞き出してみると、彼女は慢性の腹部疾患に悩まされ、その人生はいわば失望の連続だった。その惨めな人生に終止符を打ちたいと思って服毒したのだった。そして実際には自殺に成功しているのであるが、私と接触のあった当初はそれが理解出来なかった。
というのも、大抵の自殺者がそうであるように、彼女は生命の不滅性と死後の世界の実在について全く無知だったのである。が、私との対話によって人生の目的、経験の意義、苦しみの効用が分かり始めると、自殺したことへの後悔の念に襲われ、真剣にゆるしを求めて祈り始めた。そしてそれが僅かながらも霊的視覚を開かせ、迎えに訪れていた祖母の霊姿がおぼろげながら見えた。
あとでそのスピリットが述べた住所を調べてみたところ、間違いなかった。メアリー・ローズという女性がかつてその家に住み、今でも息子が住んでおり、母親はクック郡立病院へ運び込まれて一週間前に死亡したという話だった。私は念のため同病院を訪れて、さらに確定的な事実を発見し、記録のコピーを入手した。それには次のように記してあった。
クック郡立病院 イリノイ州 シカゴ
メアリー・ローズ
1906年11月7日 入院
1906年11月8日 死亡
石炭酸中毒
ナンバー・341106
第8節 ●恋人と心中した男性のスピリット
R夫人は自殺志向が強く、絶えず髪の毛を掻きむしり、食べることも眠ることもせず、いつしか骨と皮ばかりに痩せこけてしまった。そして「もう五百人も人殺しをした。あとは自殺することしか用がなくなった」などと口走るのだった。好転の兆しが見られないので精神病院に送られ、3年間もの間、鍵のかかった部屋に留置されていた。
我々の手に預けられてからも、数回にわたって自殺を企てたが、二、三週間もするうちに、かつて自殺して死んだ陰鬱なスピリットが取り除かれて、それ以来、自殺の衝動は見られなくなった。
その後もしばらく、我々の治療所にいて、体重と体力と健康の回復をはかり、完全に正常に復してから家族の元に帰り、今では、病気になる以前にやっていた仕事が出来るようになった。次の実験は、その除霊されたスピリットとの対話である。
1919年2月23日 スピリット=ラルフ・スチーブンソン
博士「どちらからおいででしょうか」
スピリット「うろついていたら明かりが見えたので入ってきました」
博士「お名前を教えていただけますか」
スピリット「いえ。自分でも分からないのです」
博士「ご自分の名前が思い出せないのですか」
スピリット「何もかも思い出せなくなったみたいで・・・。頭がどうかしたのでしょうか。ひどく痛みます」
博士「ご自身は、どうしてだと思われますか」
スピリット「考えるのが難しくて・・・。私は何をしにここへ来たのでしょうか。あなたはどなたですか」
博士「ドクター・ウィックランドと呼ばれている者です」
スピリット「何のドクターですか」
博士「医学です。あなたのお名前は?」
スピリット「私の名前? 妙なことに、思い出せないのです」
博士「死んでどのくらいになりますか」
スピリット「死んで? 冗談じゃありません。死んでなんかいませんよ。死んでた方が良かったのですがね・・・」
博士「人生がそんなに面白くないですか」
スピリット「ええ、面白くないです。もし私が死んでいるとしたら、死んでいるというのもなかなか辛いものですね。何度死のうとしたか知れませんが、死ぬたびに生き返るのです。なぜ死ねないのでしょうか」
博士「[死]というものは存在しないからです」
スピリット「ありますとも!」
博士「何を根拠にそう断言なさるのですか」
スピリット「根拠は知りません。(急に苦しげに)ああ、死にたい! 死にたい! 人生は暗くて憂鬱だ。もう死んでしまいたい・・・何もかも。なぜ死ねないのだ! 」
博士「あなたは道を間違えられたのですよ」
スピリット「では、正しい道はどこにあるのですか」
博士「あなたの心の中です」
スピリット「私は、神の存在を信じた時がありました。天国と地獄の存在を信じたこともありました。が、今はもう信じてません。あたりは暗く陰鬱で、良心が咎めてばかりいます。ああ、忘れさせてほしい! 忘れてしまいたい! ああ、忘れたい!」
博士「あなたは肉体を失っていることをご存知ですか」
スピリット「何も知りません」
博士「では今、なぜ、ここにいらっしゃるのでしょう?」
スピリット「皆さん方の姿は見えております。見覚えのない方ばかりですが、お見受けしたところ、親切そうな方ばかりです。どうか私も仲間に入れて頂き、少しでも結構ですから、光と幸せを恵んでくれませんでしょうか。もう何年もの間、光も幸せも味わっていないのです」
博士「それほどまで苦しみを味わう原因は何なのでしょうね?」
スピリット「神は存在しないのでしょうか。なぜ神は、私をこんな暗くて陰気なところに押し込めておくのでしょうか。私もかつては純心な少年でした。なのに私は・・・ああ、言えない! 言っちゃいけない! いけない、いけない、絶対に言っちゃいけない」(非常に興奮している)
博士「今、あなたの心にあるものを全部吐き出してごらんなさい」
スピリット「大きな過ちを犯してしまいました。絶対に許されないことです。私のような者を神は決してお許しにならないでしょう・・・決して、決して、決してお許しにならない!」
博士「今、あなたが置かれている現実に目を向けることが大切です。私達が力になりましょう。で、まず、あなたは男性であるかのようにおっしゃってましたが・・・」
スピリット「男性ですとも」
博士「その身体は女性ですよ」(博士の奥さんが霊媒だから)
スピリット「苦しんでいるうちに女になっていて、しかもそれに気がつかないなんて、そんな馬鹿なことがこの世にありますか。(あるスピリットの姿を見てひどく興奮して)こっちへ来るな! 来るな、来るな! あっちへ行け! わあっ、あれを見ろ、あれだ。もう勘弁してくれ!」
博士「一体何をしたというのですか」
スピリット「それを喋ったら逮捕されてしまう。これ以上ここへはいられない。帰らせてもらいます。走って逃げないと! (R夫人は何度も逃げ出そうとする行動を見せた)奴らが追いかけてくる。こんなところにいたら、捕まってしまう。帰らせてくれ! 見ろ、やってくる、奴らが!」
博士「今どこにいると思っているのですか」
スピリット「ニューヨークです」
博士「ここはロサンゼルスですよ。今年は何年だと思いますか。1919年ですよ」
スピリット「1919年? そんなはずはありません」
博士「何年のつもりですか」
スピリット「1902年です」
博士「17年も前の話ですね。肉体という物的身体を失っていることがまだ分かりませんか。本当の死というものは存在しないのです。地上界から霊界へと移るだけのことです。なくなるのは肉体だけなのです。生と死の問題を勉強なさったことがありますか」
スピリット「いえ、勉強というほどのことはしていません。信じていただけです。名前はラルフと申します。姓は忘れました。父は死にました」
博士「お父さんは、あなたと同じく死んでませんよ」
スピリット「勿論私は死んでいません。いっそのこと死んでしまいたかったくらいです。お願いです。私をどこかへ連れて行って、死ねるように殺してください(R夫人もしばしば「殺して」と頼んでいた)。
あっ、また奴らが来る! 白状なんかするもんか! 白状したら最後! 牢へぶち込まれるに決まってる。あんな思いはもう沢山だ」
博士「ご自分の身の上についての無理解が、あなたをいつまでも暗闇の中に閉じ込めることになるのです。白状なさい。悪いようにはしませんから」
スピリット「それが、しようにも出来ないのです。前にもしようとしたのですが、どうしても出来ませんでした。私の過去の映像が目の前に立ちはだかるのです」
博士「おっしゃってることから察するに、あなたは明らかに人間に憑依していて、あなた自身が自殺しようとして、実際はその人達を自殺させてしまったのでしょうね。時折、ご自分でも変だなと思うような状態になったことはありませんか」
スピリット「自分がどうなっているかを考えてみたことはありません。(急に驚いて)あっ! アリスだ! 嫌だ、嫌だ、怖い! アリス、僕は本当はあんなことをするつもりじゃなかったんだ。頼む、アリス、もう責めないでくれ!」
博士「お二人の間でどういうことがあったのかを話してくだされば、我々が救ってあげられるのです」
スピリット「二人で一緒に死のうと誓い合ったのに、死んでなかったのです。アリス、なぜ殺してなんて言ったのだ? なぜ言ったのだ? 君を先に撃ってから自分を撃った。が、僕が死ぬことが出来なかった。ああ、アリス、アリス!」
博士「今では多分、アリスの方が事情が分かっているはずですよ」
スピリット「彼女が言っています――「ラルフ、私達二人共馬鹿だったの」と。では、あなたに全てを打ちあけます。言い終わったところで逮捕されるでしょうけど・・・。
アリスと私は、結婚を誓い合った仲でした。ですが、アリスの両親が私を気に入ってくれなくて、結婚に反対したのです。しかし二人とも心から愛し合っていたものですら、いっそのこと心中しようと決めたのです。先にアリスを殺し、続いて私が自分を撃とうと・・・。そして、その通りにやったのですが、私はどうしても死ねませんでした。アリスがそこに来ているところを見ると、彼女も死んでなかったようです。
あの時、アリスは私に向かって「さ、早く殺して! 早く、早く殺して! 何してるの、早くやってよ」と叫びました。私は深く愛していましたから、どうしても引き金が引けません。でも、アリスは、殺して殺してと言い続けています。家にも帰れない、結婚も出来ないのなら、二人で死ぬしかないじゃないの、と言います。
といって、アリスは自分でピストルを撃てません。私にもその勇気はありません。が、アリスがあんまりせがむものですから、ついに私は目をつむってアリスを撃ちました。そして、彼女の身体が倒れてしまわないうちに自分を撃ちました(実際は、それで二人とも死んでいる)。
ところが、アリスの倒れている姿が見えます。私は怖くなって、起き上がって逃げました。逃げて逃げて逃げまくり、今もまだ走ったり歩いたりしながら逃げているところです。なんとかして忘れようとするのですが、どうしても忘れられません。
時折、アリスが姿を見せます。が、私は「僕が殺したんだ。近づかないでくれ」と言って逃げ出しました。警察からも、誰からも逃げてまわりました。そのうち、自分が年のいった女性になったような感じがして、それが暫く続きました。そのうち脱け出たように思いますが、暫くすると、また同じ女性になったような気がしました」
博士「その時、あなたは人間に憑依していたのですよ」
スピリット「憑依? それはどういうことですか」
博士「聖書に、汚れたスピリットを取り除く話がありますね?」
スピリット「ええ、あります。でも私は、その女性になった時も、死にたいと思っていました。なのに、死ねなかったのです。その女性が私に付きまとうのを振り払うことも出来ませんでした。もうこれ以上付きまとわれるのはご免です。(急に興奮して)あっ、アリスだ。来るんじゃない!
私があの女性といる時に、あの稲妻みたいなものを浴びせられました。私を殺そうとしているのだと思い、私も死んでしまいたいと思いました(患者のR夫人は、電気治療を施すと、いっそのこと殺してくれと叫んでいた)。稲妻みたいで、私に命中はするのですが、それでも死にませんでした」
博士「あの火花は、私達が治療している患者の一人に流した静電気の反応です。あなたはその患者に取り憑いておられたのです。その女性もあなたと同じように、死にたい死にたいと言っていました。あなたが乗り移っていたからで、その方の人生を台無しにするところでした。
幸い、あの電気であなたをその方から離すことが出来て、これでその方は正常になられることでしょう。あなたも、もうすぐ救われますよ。
ここをお出になったら、アリスについて行ってください。アリスがあなたの事情をよく説明してくれますよ。あなたは肉体をなくしていることに気づかずに、まだ地上で生きているつもりでいるようですね。あなたもアリスも、スピリットになって生き続けているのです。人間の目に見えないスピリットになっていて、あなたは今、私の妻の身体に宿って話しておられるのです。スピリットと精神は永遠に滅びないのです」
スピリット「私にも、心の安らぎが見いだせるでしょうか。一時間でもいいから、心の安らぎが欲しいのです」
博士「一時間どころではありませんよ。あなたの前途には、永遠の安らぎが待っております」
スピリット「私の行為は許されるのでしょうか」
博士「それだけの懺悔の気持ちと苦しみで、もう許されるに十分ですよ。これからも辛抱して、進んで真理を学ぶことです。そうすれば救われます」
スピリット「おや、母さんだ! 母さん! 僕はもう、息子と呼んで頂く値打ちもない人間になってしまいました。母さんのことはずっと心にありましたが、今はもう、近づいて頂ける人間ではありません(すすり泣く)。
ああ、母さん、こんな僕を許してくださいますか。こんなわがまま息子を迎え入れて頂けますか。これまでの僕は、ああ、本当に苦しい目にばかりあってきました。許してくださるのなら、私を連れて行ってください。母さん!」
博士「お母さんは何とおっしゃっていますか」
スピリット「「何を言ってるのかい。母親の愛情はそんなことくらいで消えるものじゃないよ。これまで何度お前に近づこうと努力してきたことか。でも、お前はいつも逃げてしまって・・・」と」
ここで息子が去り、母親の手に預けられた。代わってその母親が出て、お礼の挨拶を述べた。それを紹介しておく。
[スチーブンソン夫人の挨拶]
「今ようやく息子と一緒になれたところです。私は永い間息子と接触しようと、随分努力したのですが、駄目でした。今度こそと思って近づいていく度に、あの子は私から逃げるのでした。私の姿は何度も見えていたのです。が、怖がったのです。それは、人間は死ねばもうおしまいという間違った信仰を教え込まれていたからです。それが、人間が死者の出現を気味悪がる理由でもあります。
人間に(死)はないのです。霊的な生活の場へと移るだけなのです。その事実を理解している人は美しい境涯へと参ります。地上にいる間に死後の世界について大いに学んでおくべきです。
自分の人生とは何か、自分とは何なのかについて、しっかりと勉強しておいてください。そうしないと、私の息子のようなことになります。あの子は、私と恋人、それに地上で見かけた警官から逃れようとして、何年もの間走り続けておりました。
あの子は、暫くの間、一人の婦人に憑依していて、事情が分からないものですから、その方の磁気オーラにひっかかったままになっておりました。一種の地獄の中にいたわけです。火の地獄ではなく、いわば[無知]の地獄です。
死は、いつ訪れるか分からないのですから、いつしか行くことになっている世界について、どうか、今から知っておいてください。死のベールの彼方にあるものを、あらかじめ知っておくのです。そうすれば、この世に別れを告げるべき時が訪れた時に、しっかりと目を見開いて霊界へ入り、私の息子のように地縛霊とならずに、赴くべきところに赴くことが出来るのです。
かわいそうに、息子は今、すっかり疲れ果て、精神的に病んでおります。これから私が看病しながら、永遠の生命について教えていくつもりです。そうすれば、霊界の美しい境涯を実感するようになるでしょう。
信じるだけではいけません。それでは進歩がありません。他人のために生き、他人のために役立つことをするという[黄金律]を実践しないといけません。そういう生活をしていれば、スピリットの世界に来てから幸せが得られます。
息子へのご援助に感謝申し上げます。母親の愛は強いものでございます。今度、息子をご覧になった時は、全ての疑念も無くなっていて、ずっと立派な人間となっていることでしょう。疑念は精神的な壁のようなものです。生と死の間に自分自身でこしらえているのです。その壁があるかぎり、親子といえども、一緒になれないのです。
その疑念に囚われていた息子は、私を見るとすぐに逃げ出し、アリスも近づけませんでした。まだ地上にいるつもりで、自殺が成功しなかったと思い込んでいたのです。そうしているうちに、ある感受性の強い女性と波長が合ってしまい、その方に憑依してしまいました。本人はそれを、牢に入れられたように思っていたようです。
今夜は、私の息子の為に皆様のお手を患わせ、心から感謝しております。このお仕事に、これからも神の祝福がありますように。さようなら」
第9節 ●身重女性殺害事件の真相
1919年7月、ロサンゼルスのトパンガ・キャニオンで起きた殺人事件が、全米の関心を集めた。ハリー・ニューという名の青年が恋人のフレダ・レッサーをピストルで撃ち殺した事件で、レッサーが身重であったことから、それが殺人の動機とされて、ハリーは十年の刑に処された。
次に紹介する招霊実験は、その裁判がまだ進行中のことで、殺されたレッサーが出現して事件の真相を語ってくれた。もしもこれが法廷での証言と同じ証拠性を認めてもらえていたら、事件はまったく別の決着をみていたことであろう。
1920年1月7日 スピリット= フレダ・レッサー
霊媒に乗り移ってすぐから悲しげに怯え続け、当惑している様子が窺えた。
博士「どうなさいました?」
スピリット「残念で残念で・・・」
博士「何が残念なのですか」
スピリット「何もかも・・・」
博士「力になってあげられるかも知れませんから、おっしゃってみてください」
スピリット「もうダメなのです。ああ、なんということを!」(泣く)
博士「死んでどのくらいになりますか」
スピリット「死んではいません。悲観して滅入っているだけです」
博士「なぜ滅入るのですか」
スピリット「自分の愚かな行為の為です」
博士「どんなことをなさったのですか」
スピリット「アレもコレも、愚かなことばかりで・・・」
博士「その中で、特に残念なのは何なのでしょう? 幸せだったのですか」
スピリット「とんでもない! 幸せではありませんでした。(両手を強く握りしめて)あんな愚かなことさえしなかったら・・・ああ、馬鹿なことを!」
博士「何かあったのですね?」
スピリット「ありましたとも!」
博士「お名前は? ジョンですか」
スピリット「私は男ではありません。(法廷の中のビジョンを見ているらしく)わっ、あんなに人がいる! あんなに大勢の人が! でも、あの人達は私がどう説明しても知らん顔なのです」
博士「お名前は?」
スピリット「混乱して思い出せません。ああ、ハリー! あなたが悪いんじゃない。あの人達(裁判に携わっている人)は何を考えているの? 彼は何もしていない――私が馬鹿だったのです」
博士「あなたが何をなさったというのですか」
スピリット「彼と取っ組み合いになったのです。私がピストルを手にして彼をからかったものだから、彼がピストルを取り上げようとして、二人で奪い合いになったのです。私は、ただ、からかってみただけなのです。今でも彼のそばに行ってみるのですが、どうもしてあげられません」
博士「なんでまた、あなたはピストルなんかを手にしたのですか」
スピリット「冗談で脅かしてみただけです」
博士「発砲してしまったのですか」
スピリット「彼が私から奪い取ろうとした時に爆発してしまったのです。申し訳なくて・・・彼は一切私に口をきいてくれないし、あの人達(検察側)は彼を責める一方です。彼は何もしていないのです。すべて私の愚かさが原因なのです。彼はいい人でした。その彼を私がからかってみたのです。ここはどこでしょうか」
博士「ロサンゼルスのハイランドパークです」
スピリット「私がなぜこんなところへ?」
博士「ある方が連れてきてくださったのです」
スピリット「でも私は、ハリーのところへ行くつもりでした」
博士「ハリー・ニューのことですか」
スピリット「勿論です」
博士「彼のことが気がかりでしたか」
スピリット「彼と通じ合えないものですから、なおのこと気がかりで・・・。彼がやったのではないのです。彼が私を撃ったのではないのです。私が『死んでやる』と言ってピストルを取りに行ったのです。ピストルを手にしていたのは彼ではないのです。私が彼の車の中からピストルを取ってきたのです。撃つ気なんかなかったのです。ただ冗談に脅かすつもりだったのです。ああ、なんという馬鹿なことを! 馬鹿なことを! 馬鹿なことを!」
博士「お名前は?」
スピリット「フレダーフレダ・レッサーです」
博士「ご自分がもう肉体を失っておられることはお気づきですか」
スピリット「何も知りません。ただ、母やハリー、その他誰のところへ行っても相手にしてくれないのです。本当のことを教えてあげたいのです。誰も、ただの一人も、私の言うことを聞いてくれません。訳が分からないのです。あれだけ喋っているのに、なぜ聞こえないのかが分かりません」
博士「その人達には、あなたの姿が見えていないのです。あなたはもう肉眼には見えない存在となっておられるのです」
スピリット「ああ、ハリーがかわいそう! 私の馬鹿な行為で苦しい思いをして・・・。あなたには私の気持ちは分かりません。私が何と言っても聞いてはくれないのです――誰一人として」
博士「あなたが目の前にいることが分からないのですよ。あなたの姿は人間の目には見えないのです。ここにいる私達も、あなたの姿が見えていないのです」
スピリット「なぜこの私が見えないのでしょうか。(そう言って手を握りしめながら泣く)なんて馬鹿な女でしょう、私は!」
博士「気持ちを落ち着けてください。あなたは親切な方の手引きでここへ案内され、暫くの間私の妻の身体を使って話をすることを許されたのです。その身体は一時的な借り物なのです」
スピリット「私に代わって、あなたからあの人達に、私の軽卒な行為からあんなことになった事実を伝えて頂けませんか」
博士「たとえ教えてあげても、聞き入れてくれないでしょう」
スピリット「何を教えるのですか」
博士「本人が出て来てそう述べた、ということです。ピストルが暴発した時にあなたに命中して、それであなたは肉体を失ったのだということが、まだ分かりませんか」
スピリット「ただ傷を負っただけだと思ってました。ああ、それからの苦しみの辛かったこと! 私が死んでるなんて考えられません。死ねばそれっきりのはずです。なのに私はこうして苦しんでいます」
博士「本当に死んでしまう人はおりません。みんな肉体がなくなるだけなのです。あなたの苦しみは精神的なものです」
スピリット「でも、頭がひどく痛みます」
博士「それも今の精神状態の現れです」
スピリット「ハリーはなぜ、私に話しかけられないのでしょうか」
博士「目の前にいるあなたが見えないのです。彼の目には、あなたの姿は見えていないのです」
スピリット「彼の側まで行って事情を説明しようとするのですが・・・。ああ、なんということをしてしまったのでしょう! あの時、私はピストルを手にして自殺するマネをしたのです。びっくりさせてやるつもりだけだったのです。それを見て彼は、ピストルを取り上げようとして、私ともみ合いになったのです。冗談のつもりだったのに・・・。ピストルは彼の車の中に置いてありました。それを私が取り出してきて、しばらく衣服に隠しておいたのです」
博士「彼とは結婚するつもりだったのですか」
スピリット「ええ、そのつもりでした」
博士「結婚を考える程まで愛しておられたのですね?」
スピリット「はい、一度も喧嘩をしたことはありません。私はただ脅かしてやるつもりだったのです。女って、時々馬鹿なことをするでしょ? 私は彼が本当に愛してくれているかを試してみるつもりだったのです」(泣き出す)
博士「いいですか、今あなたは私の妻の脳と身体を使っておられるのです。心を落ち着けてください。あたりを見回してごらんなさい。親切なお友達が来ているはずですよ」
スピリット「私はもう救いようがありません。どうしようもありません」
博士「ここをお出になったら、皆さんが霊界へ案内してくれますよ。今までは、苦しみの中にあって心の動揺が大きかった為に霊界が見えなかったのです」
スピリット「あの人達に本当のことを教えてあげたいのに、どうしても聞いてくれません。私の声が聞こえてないみたいですし、私の姿も見えていないみたいなのです」
博士「あなたはもう身体に束縛されない『スピリット』になっておられるのです。迎えに来てくれている方達の言うことをよく聞かないといけませんよ。霊的な悟りを得て、苦しみを克服する方法を教えてくれます」
スピリット「私の愚かさのせいなのに、あの人達はハリーを死刑にするのでしょうか」
博士「私は死刑にはならないと思っています」
スピリット「可哀想に! 可哀想に! ハリーだけでなく、お母さんにも申し訳なくて・・・二人とも泣いていますし、私の母も泣いています。なぜ、あんな馬鹿なことをしてしまったのかしら!」
博士「さ、あたりを見回してごらんなさい。誰かの姿が見えるでしょう?」
スピリット「あそこに若い女性が立っています。あの方も、ここでお世話になったそうです。私をここへ連れてきたのもあの方だそうです。私と似たような体験をされて、ここへ来て救われ、今はとても幸せなのだそうです。やはり、恋人を心配させてやるつもりで青酸カリを飲んで、そのまま死んじゃったんですって」
博士「名前を言いましたか」
スピリット「ずっと私についてくださっていたそうです。似たような苦しみをもつスピリットの世話をするのが、今のお仕事なのだそうです」
博士「悲しそうに見えますか」
スピリット「いえ、とても幸せそうです。あちらこちらを見てまわって、かつての自分と同じような状態に置かれている若い女性を見つけては、ここへ連れてくるのだそうです」(と言って泣き出す)
博士「もう、感情的になるのはお止めなさい。こうして生身の人間の身体を借りてお話が出来るということが、どんなに恵まれたことであるかを理解しないとけいません。何年も何十年も、当惑した状態のままで苦しんでいる人が多いのですよ」
スピリット「あの方も、ここで私と同じ状態だった時に、救って頂いたのだそうです」
博士「名前は何と言ってましたか」
スピリット「マリオン・ランバートだそうです。今では愚かな行為で思いも寄らなかったことになっている気の毒な女性の為に、一生懸命活躍しているそうです。それがあの方の使命で、私もあの方が連れてきてくださったのだそうです」(また泣き出す)
博士「今、あなたは他人の身体を使っているのですから、そんなに感情的になると困るのです。そこに来ておられる方は、数年前にあなたと同じ苦しみを抱えてここへ来られたのです。その方が、今は幸せそうに人助けの仕事をなさっているそうじゃないですか」
スピリット「私も幸せになれるでしょうか」
博士「なれますとも! 今の苦しみは一時のものです。人は決して『死ぬ』ことはないのです。亡くなるのは肉体だけです。スピリットは決して死なないのです」
スピリット「そんなこと、何も知りませんでした。スピリットのことなんか何も聞いたことがありませんでした」
博士「たとえ誰かからそういう話を聞かされても、あなたは笑って相手にしなかったでしょうよ」
スピリット「その方が言ってます――これから私のお世話をしてくださるのだそうです。疲れてるから少し休んだ方がいいそうです。そして、ここへ来させて頂いたことを感謝しなくてはいけない、と言ってます。あの方と一緒に行って、また泣きたくなるのでしょうか」
博士「そんなことはありませんよ。生命についての本当のことを教わるのです。地上での生活はどっちみち短いものです。その中で誰しも何らかの苦しい体験をするものです。が、そうした苦しみを体験して、少しずつ賢くなっていくのです」
スピリット「(あるスピリットをじっと見つめている様子で、顔が次第に紅潮してくる。やがて顔を左右に振って)そんな! まさか! そんなはずはないわ!」(と言って泣き出す)
博士「何が見えてるのですか」
スピリット「私はあの時にお腹に赤ちゃんがいたのですが、女の人が赤ちゃんを抱いて来て、私のものだと言うのです。もらってもいいのでしょうか」
博士「勿論、いいですとも」
スピリット「でも、あたしのような女には資格はないわ。あの人達が軽蔑するはずです」
博士「もう地上とは関係がなくなったのですよ」
スピリット「ここへ来た時よりも、ずっと幸せそうな気持ちが感じられるようになりました。あの子は、いつ、こちらへ来たのでしょうか」
博士「あなたが肉体を失った時に、その肉体から離れてこちらへ来たのです」
スピリット「どうしてそんなことが有り得るのか、理解できません」
博士「あなたの知らないことが、まだまだ沢山ありますよ。素晴らしい生命の神秘が、まだお分かりになっていませんね」
スピリット「ピストルが爆発した時に、赤ちゃんまで殺しちゃったのでしょうか」
博士「あなたの身体が死んだ時に、赤ちゃんのスピリットもその身体を離れたのです。今その身体で喋っておられても、あなたの姿は私達には見えていないのです。生命の実相というものは、すべて肉眼では見えないものなのです。音楽を見たことがありますか」
スピリット「聴いたことはあります。今とても美しい音楽が聴こえてきました」
博士「それは、生命の実相に目覚め始めた証拠ですよ」
スピリット「もう一人、白い髪をした奇麗な婦人がいらっしゃいます。当分の間、私の母親代わりになって、面倒を見てくださるのだそうです。マーシーバンドのメンバーだと言っておられます」
博士「マーシーバンドという高級霊の集団は、死というものが存在しないことを、世の人に教える為の仕事をしており、私達はそのお手伝いをしているわけです」
スピリット「とても奇麗な方です。最初に姿を見せた方とは違います。赤ちゃんを連れて来てくれた方とも違います。ケイスという名前だそうです」
博士「その方は、地上にいた時からこの仕事に熱心だった方ですよ」
スピリット「赤ちゃんを連れて来てくださった方が、その赤ちゃんの面倒を見てくださるそうです。そういう仕事を専門にしておられるのだそうです。身寄りのない子供達のお世話です。この方も、地上にいた時からスピリットと死後の世界の存在を信じていたそうです。ああ、かわいそうなのはハリーです! この私を許してくれるでしょうか」
博士「彼は事情を知ってるわけですから、許してくれますよ」
スピリット「お願いです。この方達と一緒に行かせてください。もう泣かずに済みますね? あんまり泣いたものだから、目が痛いのです」
博士「今、あなたがご覧になった方達が、生命について色々と教えてくださいます。そうすればきっと幸せになれます」