第11章 地上時代の信仰から脱け切れずにいるスピリット
〈キリスト教の場合〉
第1節 ●霊的事実に無知のまま他界した牧師からの警告
次の例は、れっきとした牧師で、自信をもってキリスト教を説き、大勢の信者をもっていたが、交通事故で他界してから様子の変化に戸惑い、精神が混乱して彷徨っているうちに、Aという女性のオーラに引っかかってしまった。

A夫人に施される静電気治療による稲妻のような光を、彼は地獄の炎と思い込み、神の代理人として選ばれて真理を説いて来た自分が、なぜ地獄に送られたのかが理解できなかった。

かくして、事故死してから八年目に招霊されたのであるが、さすがにベテラン牧師だけに、私との対話は延々として、かつてない長時間に及んだ。が、最後は霊的事実に目覚めて、当日出席していたA夫人と、そのご主人に詫びを言って去って行った。

次に紹介するのは、それから三年後に戻って来て、その間の反省と償いと勉強の後を振り返りながら、後継者への警告を述べたものである。

1922年3月14日  スピリット=J・O・ネルソン

「今夜は、皆様方へのお礼を申し上げたくてやってまいりました。三年前のあの日、私は本当の真理を教わりました。そして、無意識のうちにとはいえ、地上の人間に憑依していたことを知らされました。

その後、私はつくづく思いました。この地上にいる間に霊的事実を知っておくことが、どんなに大切かということです。私は決して悪い人間ではありませんでした。が、あまりにも無知な人間でした。

何しろ私は、人に真理を説き、正しい生き方を教えるべき立場にあったのですから、本当はもっともっと霊的事実について啓発されているべきでした。今の時代に、教会の説教壇に立つ人の果たして何人が、真実を説いているでしょうか。死後の生命について説きながら、その実、ただ伝統的な教説を繰り返しているだけです。真実に触れてすぐさまそれを受け入れる人もいますが、目をつぶる人もいます。

私は幸いでした。本当の意味で救われました。あの静電気の反応を私は、地獄にいるのだと錯覚していました。悪魔が追いかけているのだと思いました。が、かえってそれによって、地上で為すべきであったことを思い知らされる結果となったからです。(同席していた、かつての患者A夫人の母親のW夫人に向かって)Wさん、あなたにもお礼と、A夫人への詫びを申し上げねばなりません。改めて申し上げますが、私はまったく無意識でした。そういう霊的法則があることを知りませんでした。

人に法を説いているつもりでいながら、自分が一番無知だったのです。キリストが罪を背負って死んでくださった、信じなさい、信じることによって救われるのです、と説いていました。が、それは間違っておりました。信仰に知識を加えないといけません。その知識こそが自由を与えてくれるのです。バイブルも、実はそう述べているのです。なのに私は、そうは説きませんでした。ただ信ぜよと説いておりました。

キリスト教の牧師は、本当の意味での魂の高揚と神の理解においては、何も貢献していません。口を開けば信ぜよ、信ぜよと言うだけです。あまり多くを知られたくないのです。知ると疑問が生じ、質問をします。我々は、それに答えるだけのものを持ち合わせていないのです。

真実を語ればいいのです。本当の意味での神と生命について、信者に理解させてあげるべきなのです。これまでの古びたドグマを説いても通じない時代となりつつあります。教会の座席が埋まることを望むのなら、教えるものを変えないといけません。

牧師としての私が『立派』でなかったことは確かです。平たく言えば、人気がなかったという意味です。それは、私が内心どこかじくじたるものを感じ、牧師としての仕事に全身全霊を打ち込むことが出来なかったからです。

信じることの大切さは、私も知っておりました。しかし、時折、こんな程度ではいけない――もっと死後の生命について現実的なものを知るべきだという強い観念に襲われることがありました。が、私はその度に、心の扉を閉めたのです。そのことを、今一番後悔しています。

私の死は急に訪れましたので、その変化にまったく気づきませんでした。Wさん、あなたはご存知と思いますが、あの時は皆さんと一緒に家路を急いでおりました。踏切のところで列車が通り過ぎたすぐ後、私は反対方向から来る列車に気づかずに横切ってしまって、撥ねられたのでした。

ところが、その時の私は、肉体から離れてしまっていることを知らずに、そのまま家に帰り、部屋に入りました。が、家族の誰一人として私に気づいてくれません。どうなっているのかと思い、一人ひとり捕まえて声をかけるのですが、みんな知らん顔をしています。実に妙な心境でした。

どうしていいか分からないまま、教会へ戻ってみました。そのまま教会に居続けました。そのうち、Wさん、あなたが教会を訪れました。あの時のあなたは、私のことで一杯でした。薄暗い中で、あなたが明かりのように見えました。それで、あなたについて行けば事情が分かるかも知れないと思って、あなたの家までついて行ったのです。そして、家の中に入った途端、どこか狭いところに閉じ込められたような感じがしました(A夫人に憑依した)

やがて私は、寝入りました――寝入ったような感じがしました。ずいぶん永い間、薄ぼんやりとして妙な感じがしていましたが、ある時突然、全身に火を浴びせられ、雷が鳴り響きました(A夫人への静電気治療の反応)。私はてっきり死んで地獄へ落ちたのかと考えました。それ以外に考えが浮かばないのです。『人を救うべき牧師が、地獄のまっただ中にいるとは!』と無念に思いました。

そう思っているうちに、もう一度火を浴びせられたかと思うと、口がきけるようになっていました(ウィックランド夫人に乗り移らされた)。それまでは、なぜか口がきけなかったのです。あの時は、まだ死んだことに気づいていませんでしたので、てっきり元気になったと思い込んでおりました。実際は、このサークルに連れてこられていたわけです。

目覚めさせてくださって有り難く思っております。あの時の『地獄の火』に恨みは感じておりません。あのお陰で『地獄』から『天国』へ、つまり霊界へ行くことが出来たのですから。霊界というところは、地上時代に想像していたところとは、まったく違っておりました。

我々牧師から見て、死後の世界をどう思うか、ですか?

正直言って、牧師は死後のことについて、自分では何も考えていないのです。説教はしても実践はしていません。『人を救う』と言いつつ、では何から救うのかとなると、まるで理解していないのです。

前回ここで初めて、生命の実相について教えて頂いた後、私は死後の生命について多くを見、そして学びました。目が覚めてからの三年間――死んでから三年間とは申しません。かなりの間夢幻の中にいましたので――自分が置かれている実情に目覚めてからというものは、見るものすべてが美しく、心は愉快で、やりたいことが一杯です。

今の私の仕事は、霊界の狂信者を相手にして、真理を説き聞かせることです。彼らは暗い闇の中に置かれています。祈り、歌い、そして、キリストは自分達の罪の為に血を流されたと叫び続けております。ただ、それだけの行為を延々と続けているだけで、何一つ、進歩も進化もありません。

地上にも、精神病的狂信者が大勢いますが、みんな霊界の狂信者に憑依されているのです。だから、歌って祈ってばかりなのです。中には、とても狂暴で手のつけられない者もいますが、私の説得に、ふと心を開いて、目覚めてくれる者もいます。地上で福音を説いている人達が、神学から離れて、バイブルの本当の意味を理解する時代の到来を待ち望んでやみません。

私は今、霊界で用意されていた住まいを頂いて、一応幸せな境涯にいますが、しなければならないことが沢山あるのです。地上で間違った教えを説いた信者達をこちらで探し出して、その間違いを指摘してあげないといけません。私は、ドグマばかりを説いておりました。今、それに代わる真理を教えてあげないといけないのです。

Wさん、私が、あなたの娘さんにあたるA夫人に憑依していたことをお許しください。正直言って私自身は、あんなことになっていたとは知らなかったのです。すべて無意識のうちにやっていたことです。

ついでに、あなたにお願いしたいことがあります。今、あなたが通っておられる教会の牧師のウィリアムさんに、心の奥で気づいていることを包み隠さずに、思い切って信者に説きなさいと告げて頂けませんか。こちらへ来るまでに心を開いておかないと、私のように暗い境涯で悶々と過ごすことになります。

今日の若者は、古いドグマには顔を背けます。それが真理でないことは、みんな分かっております。ずばり真理を説けば、若者はついて来ます。メソジスト教会のジョン・ウェスレーは、心霊現象の意義をちゃんと説いております。それを思い切って全面に押し出して説けばいいのです。

では、失礼します。さようなら」

第2節 ●誠実なメソジストだった身障者
次の例は、教会に真面目に出席し、信者としての義務を忠実に守り、正しい生活を送るということそれ自体は、必ずしも死後の霊的向上を保証するものではないことを物語っている。

1922年7月19日  スピリット=ヘンリー・ウィルキンス

霊媒に乗り移った時の様子は、身体を前屈みにして、地上時代は身障者であったことをうかがわせた。

博士「背筋をまっすぐにできないのですか。さ、目を覚ましなさい」
スピリット「居眠りしているのではありません」

博士「なぜ、そんなに身体をねじ曲げているのですか」
スピリット「背骨が折れてるのです」

博士「折れてなんかいませんよ」
スピリット「いいえ、折れてます」

博士「昔は折れてたかもしれませんが、今は折れてませんよ」
スピリット「どうしても背中をまっすぐに出来ません。折れてるからです」

博士「私達が治してあげましょう」

スピリット「そう言ってくれた人が大勢いましたが、誰一人治せませんでした」

博士「今度こそ、大丈夫ですよ」

スピリット「もし私の背骨をまっすぐにしてくださったら、十ドルあげます」

博士「お金はどこにあるのですか」

スピリット「まっすぐに立てたら、あげます。十ドルでも足りないくらいです」

博士「『歩けるのだ』と自分に言って聞かせるのです。そうすれば歩けます」
スピリット「やって見せてくれますか」

博士「脚を動かしてごらんなさい。歩けますよ」
スピリット「何度もやってみましたが、どうやってもダメでした」

博士「でも、必ず治ります」

スピリット「しかし、私には、お金の持ち合わせがありません。ここしばらく手にしたことがないのです。お金を見つけて手に取ろうとするのですが、まるで生きてるみたいに、すっと抜けていくのです」

博士「ご説明しましょう。あなたは今はもう、スピリットになっておられるのです。『死んだ』のです――そう、地上世界から去ったのです」

スピリット「そうとは知りませんでした。そして、まだ天国へは行っていないというわけですか。私は真面目なメソジストでした。日曜の礼拝も、日曜学校も欠かさず通いました。障害が治りますようにと、一生懸命祈ったものです。仕事は靴職人でした」

博士「お住まいは?」
スピリット「テキサスです」

博士「お名前は?」
スピリット「ヘンリー・ウィルキンスです」

博士「年齢は?」

スピリット「六十を過ぎたじいさんです。三十歳の時にワゴンに乗っていて、馬がいきなり走り出して振り落とされ、背骨を折ったのです。当時は農業を営んでおりましたが、それが出来なくなって、靴の修繕みたいなことしか出来なくなりました。なんとか生計は立てられましたが、きつい時もありました」

博士「今年は何年だと思いますか」
スピリット「思い出せません」

博士「大統領は誰でしたか」

スピリット「ちょっと待ってください――知っていたはずです・・・思い出しました。たしかクリーブランド大統領でした」

博士「何が原因で死んだのですか」

スピリット「私は死んでいません。今も仕事をしていますよ。もっとも、客が差し出した代金を私が頂こうとしたら、若いもんが受け取ってしまうのです。今は、店はその若者の手に渡っているという話は耳にしますが、私はずっとそこで仕事をしてきたのです。なのに、お金は全部そいつが取ってしまうのです」

博士「その店は、あなたが始めたのですね?」

スピリット「そうです、ずいぶん前に。その後、ある若者が見習いにやって来て、色々教えてやりましたが、今はそいつが代金を全部取っちゃって、私には全然くれません」

博士「ですから、あなたはもう地上を去ってしまったのです――死んだのです。その店を営んでいるうちに亡くなって、その後、その若者が店を継いだのです。その若者は、あなたがその店にいることは知りませんよ」

スピリット「たしかに、知らないみたいですね。私が椅子に腰掛けて仕事をしていると、その椅子にそいつが座るのです。どかそうとしても、どけられないのです」

博士「今年は、何年だと思いますか」
スピリット「1892年です」

博士「それは今から三十年前ですよ。ここはどこだと思いますか。カリフォルニアのロサンゼルスですよ」

スピリット「カリフォルニア!?」

博士「着ておられる衣服をご覧なさいよ」
スピリット「誰がこんな服を着せたのですか。女のドレスなんか嫌です!」

博士「ご説明しましょう」
スピリット「その前にズボンを持って来てください!」

博士「その手をご覧になってください」

スピリット「これも、私のものではありません。指輪なんかしたことはありません」

博士「仮に今、あなたがお店で靴の修理をしているとしましょう。その姿を見て、人は何て言うと思いますか。『おいおい、今日はどこかの女が靴を修理してるぞ』と言うでしょうね。『どこかの女』は私の妻なのです。あなたは今、その身体を使っておられるのです」

スピリット「私は女じゃありません。結婚を約束した女性がいましたが、私が事故で障害者になってしまい、彼女は他の男と結婚してしまいました。身障者と結婚するのは嫌だと言うのです。でも、私は彼女が好きでしたし、今でも愛しております」

博士「その女性の名前は?」

スピリット「メアリ・ホプキンスです。本当は身障者になったからこそ彼女が必要だったのです。でも、こんな身体ではダンスにも行けません。ある日、彼女から『身障者とデートするのは恥ずかしい』と言われてショックを受けました。そんなにつれない女だとは想像もしていなかったからです。その時から、身体だけでなく、心まで歪んでしまいました。女は全部悪魔だと思うようになりました」

博士「立派な女性も大勢いますよ」

スピリット「神なんかいるものかと思いました。身も心もこんなに苦しめられるなんて・・・。自暴自棄になるのを必死でこらえました」

博士「今その我慢が報われようとしていますよ」

スピリット「私はせっせと教会に寄付をしました。神がお金を必要としておられると教会は言うのです。時には手元の金がなくなって、その日の食べるものにも困ったことがあります。寄付しないと天国に行けないと言われるものですから・・・」

博士「牧師が説くような『天国』はありませんよ」
スピリット「ではなぜ、あんなことを言うのでしょうか」

博士「生活費を稼ぐ為です。イエスの教えの立派さは、あなたもお分かりでしょう?『神は霊であり、したがって霊と真理の中に神を崇めなさい』とおっしゃっています。

キリスト教は、天国がどこか空の高いところにあるかのように説きますが、『天国』というのは各自の精神状態をいうのでして、目に見える場所ではないのです。

私達は物的身体をもっていても、霊的存在なのです。目に見えない存在なのです。ですから、物的身体から脱け出ても、相変わらず霊的存在のままです。間違った考えに迷わされていなければ、先に霊界入りした人達が迎えてくれて、霊界へ案内してくれます。

神は形ある存在ではありません。神は霊であり、神は愛です。あなたは先ほど愛し合った女性がいたとおっしゃいましたが、その『愛』は目に見えましたか」

スピリット「いいえ。でも、心でその存在を感じ取っていました」

博士「そうでしょう?『愛の中にある者は神の中にある』とイエスは言っております。私はこうして、あなたと話を交わしておりますが、私にはあなたの姿は見えていないのです。見えているのは私の妻の顔だけです」

スピリット「あなたは、先ほど、私があなたの奥さんであるみたいな言い方をされていますが、どういうことなのか分かりません。『死』というものはないとおっしゃりながら、私はもう死んでるみたいな言い方をされてます。でも、ご覧の通り、障害者のままですよ」

博士「あなたが、もし霊的な真理を理解していたら、死んですぐから障害者でなくなっていたはずなのです」

スピリット「ずっと前から正常になってるとおっしゃるのですか」

博士「そうです。もしも真理を知っていたら、です。イエスが言ってるでしょう――『人は、私のことを口先で崇めてくれるが、心は遠く離れている』と」

スピリット「イエスは、我々人間の罪を背負って死んだと、みんな信じてます。真面目に生きた人間は、死後天国へ行くと説いていますが、私はまだ天国へは行っておりません」

博士「キリスト教の言う『天国』へは行けませんね。そんなものはないのですから。もしあっても、そんなところへ行ったら、誰もいなくて寂しいですよ。『天国』とは、霊的真理の理解を通して到達した心の状態を言うのです。あなたは音楽はお好きですか」

スピリット「昔は好きでした。聖歌隊で歌ったこともあります。恋人も同じ聖歌隊にいたのです。素敵なハーモニーで歌った時は、とても幸せでした。が、牧師が壇上に上がると、教会に寄付をしない者のことを悪し様に言うのです。そういう人間は、まっすぐに地獄へ行くことになっていると言うのです。清く正しく生きていても、お金を教会に持って来ないと地獄へ落ちるというのが、私にはどうしても理解できませんでした」

博士「メソジスト教会の創始者であるジョン・ウェスレーは、霊的真理をよく理解していて、死後の生活やスピリットとの交信についても、正しく説いておりました。彼にとっては、死後の世界のことは信仰ではなくて、事実として本にも書いているのです。ところが、信者にはそれが理解できなかったのです。

イエスの教えも、クリスチャンは正しく理解しておりません。というよりは、理解しようとしないのです。それは、教会が理性的に考えることを禁じて、ただ信ぜよと教えるからです。霊的真理は信じるだけではいけません。理性的に理解しないといけません」

スピリット「店で仕事をしていると(死後の話)、時折、父親と母親がやってきました。でも、とっくに死んでいるので、会ってもしょうがないと思って、近づきませんでした」

博士「なぜ、会ってみなかったのですか」

スピリット「だって、私は生きた人間ですよ。店で靴を修理しているのです。母が、一緒においでと言ってくれましたが、身体が不自由だし、お金も稼がないといけないし・・・」

博士「その時既に、あなたはスピリットだったのです。だから、ご両親の姿が見えたのです。あなたは、死んだ後もずっとお店を離れなかった――死後の生命の法則を知らなかったからです」

スピリット「教会へ通わないと、地獄へ行って永久に火あぶりになると教えられました」

博士「永遠の火あぶりなどというものはありません」
スピリット「それは有り難い!」

博士「辺りを見回してごらんなさい。どなたか、知った方の姿が見えませんか」

スピリット「身体は不自由だし、もう靴直しも飽きました」

博士「ここを去った後は、もう靴の仕事とは縁が切れますよ」

スピリット「思い切って遊びたいし、歌も歌いたい。音楽はいいです。身体が不自由になるまでは、歌のレッスンが楽しかったですけどね」

博士「多分、メアリも来ているはずですよ」

スピリット「メアリが? あの女はこの私を棄てて、他の男と結婚しましたよ。でも、幸せにはなれなかった。その男が飲んだくれでしてね。彼女、悩んでましたよ。あれ、母がいる! 母は優しかったなあ」

博士「何かおっしゃってますか」
スピリット「『もう身障者じゃないんだよ』と言ってます。

あれ、母さん、僕は新しい身体になってるよ。でも(と言いながら泣き出す)母さん、女になっちゃってる。なんということだ――女みたいにめかし込んで!」

博士「私の妻の身体で話をしているだけですよ」
スピリット「他人の身体で話が出来るのですか」

博士「出来るのです。私の妻は霊媒といって、スピリットがそれを使って話をすることが出来るような身体をしているのです。あなたが話をしている間、妻の意識は控えていて、表面に出てこないのです。不思議に思われることでしょうが、事実そういうことが出来るのです。あなたは『生命とは何か』という疑問を抱かれたことがありますか」

スピリット「いえ、そんな難しいことを考える余裕はありませんでした。靴を製造する為に頭を使うのが精一杯でした」

博士「それは言い訳になりませんね」
スピリット「母が言ってます――」

ここで突然、そのスピリットが霊媒から離れて、代わって母親が乗り移り、あたかも息子に向かって説教するかのような口調で語った。

「ヘンリー、生命には実感があるのだよ。教会で教わったような神秘的なものは何もありません。お前も知ってのとおり、私とお前はせっせと教会へ通ったのに、父さんは一度も通わなかった。なのに、父さんは霊界へ来てから私よりずっと早く向上していきました。信仰とドグマが私の進歩を妨げたのです。

父さんは心霊学の本を読んでいて、時折交霊会にも出席していました。私達はそんな父さんを気狂い扱いにして、死んだら地獄へ行くと心配していたのに、実際は私の方が惨めでした。

父さんは、私より先に死にました。私が死んだ時、父さんが迎えに来てくれたけど、私はてっきり幻覚だと思ったのです。父さんは一生懸命私の目を開かせようとしてくれたようですが、駄目でした。教会の説くドグマや教義は、多くの地縛霊を生み出す原因になっております。それがまた、地上の人間にも悪影響を及ぼしているのです。

ヘンリー、バイブルにもあるでしょう――『汝が大切にしているもののところに汝の心もある』と。お前にとって大切なものはお店だったのです。死んだ後もずっとあのお店にいて、新しい若い男を雇ったつもりでいたのです。だから、私達が近づこうにも近づけなかったのです。

その第一の原因は、地上で身体が不自由だったことです。それが精神まで不自由にしてしまって、霊体には何の障害もないことが理解できなかった。身障者だという観念が凝り固まって、私達がなんとかしようと思って近づいても、心が通じ合えなかったのです。

だから、ヘンリー、ここで目を覚まして、霊体は真新しくこしらえられたものであることを理解しなさい。昔の不自由だった身体のことを思い出してはいけません。新しく若返るのです。

あなたは、真面目な人間でした。悩みは多かったけど、その中にあって精一杯の努力をしました。あなたを今のような状態に封じ込めたのは、無知と、間違った教義と、信仰です。

ヘンリー、お前にも美しい家が用意されているのだよ。あたしが案内してあげますから、ついていらっしゃい。そこで生命について色々と勉強しましょうよ。まず第一に、自分中心の考えと、無知と、自分に対する憐れみと、他人への嫉妬心をなくさないといけません。心の窓を大きく開くのです。そうすれば、自分の中に神の王国があることを知ります。

まだまだ学ばないといけないことが沢山あります。幸せな心と愛を知っている状態が天国であり、利己主義と無知の暗闇が地獄なのです。地獄は自分でこしらえているのです。あたしも真面目な人間でしたが、霊界へ来て苦しい思いをさせられました。自分中心に生きていたからです。教会へ通ったのも、自分と自分の家族の為でした。死んだ後も、教会で教わったことしか頭にありませんでした。そのことが、お前の妹のオーラに引っかかる原因となり、あの子に憑依してしまったのです。かわいそうに、あの子は精神病院に入れられて、そこで死にました。死んでようやく解放され、私も解放されました。

たった一人の人間、たった一人の家族の為に一生懸命になりすぎるのは感心しません。それが死後もその子、その家族から離れられなくし、悪くすると、私のように、その子に憑依してしまうことになります。ですから、地上にいる時から死後の事情をよく知っておくということが、いかに大切であるかが分かるでしょう。多く知っておくほど、こちらでの幸せが多くなのです(このあたりからサークルの人達を意識して語っている)

霊体というのは、肉体とそっくりです。精神が成長するにつれて霊体も成長します。死ぬということは、肉体にさよならをして霊体に移ることです。地上で私のように自分中心に生きていた人々は、地上の時のままの環境に置かれ、そして苦しみます。それは一種の教育なのです。私の経験を、皆さんの教訓としてください。

私は今、母親を知らない子供を百人以上も面倒をみています。育て上げながら、母親の愛情を味わわせてあげます。彼らは、家庭の温かさを知らないまま、こちらへ来ているのです。

私はヘンリーが可愛くて、ヘンリーの為に一生懸命に働いたのに、こちらへ来てからヘンリーに近づけませんでした。反対に夫は、さっさと高い境涯へと向上していきました。地上で学ぶべきものを学び、何一つ足かせとなるものがなかったからです。私には間違った信仰しかありませんでした。それが障害となりました。皆さん、私の苦しい体験から学んでください。

本日は、息子をここへ連れてくることを許してくださって、有り難うございました。娘もここへ来ております。私も光明を見出し、可愛い子供達を相手にした功徳積みの仕事をしております。

どうか皆さんも、我が子だけを可愛がらないで、全ての子供に愛を向けてあげてください」

第3節 ●死後も自己暗示状態から脱け出せない『狂信者』
宗教というのは、本来は、神及び死後の生命の本質を理知的に理解するのが目的であるはずなのに、人類は未だに恐怖心や迷信、ドグマや信条によって雁字搦めにされていて、死後はどうなるかということについての基本的な認識が生み出す、本当の意味での自由からはほど遠い進化の途上にある。

大半の人間は『死』と呼ばれている一大変化を通過していながら、その事実に気づかず、地上時代の間違った教義が禍いして、地上圏から脱け出られずにいるのが実情である。

宗教的なものに熱心な人が、とかく精神的に異常をきたすのは、そうした行事や集会に、他界した狂信的なスピリットが死の自覚なしに参加していて、熱狂的な雰囲気の中で憑依状態となるからである。

憑依された者の中には『神のささやき』が聞こえるという者がよくいる。それは、低級霊の仕業に過ぎないにもかかわらず、本人はそれを神と思い込む。

そしてますます深みへとはまり込む。

それがさらに悪質なものになると、無意識ではなく意図的に狂信的に取り憑いて、天使を装って『お告げ』を語るようなことまでする。

地縛霊の中でも、とりわけ啓発が難しいのは、その種の狂信者である。地上時代の狭い固定した信仰に固執し、論理的分析と自由な思考を拒否し、死後も一種の自己暗示の状態でわけの分からない説教をわめき散らしている。

1923年3月28日  スピリット=セーラ・マクドナルド

霊媒に乗り移ってすぐから、大声で賛美歌を歌っている。

博士「ここへおいでになったのは、今回が初めてですか」
スピリット「もう少し歌いましょう!」

博士「あなたとお話したいのですが・・・」
スピリット「もう一曲歌いましょう!」

博士「これ以上歌ったら、少し熱狂的になり過ぎませんか」

スピリット「ここは教会じゃありませんか。大いに歌わなきゃ。さあ、歌いましょう、ハレルーヤ! 話って、何ですか」

博士「少し落ちついて話しましょうよ」

スピリット「まず賛美歌を歌わなきゃ。それが教会のしきたりです。永遠に祈り続けましょう、イエスの御名のもとに!」

博士「永遠はちょっと退屈ですね」

スピリット「賛美歌を歌い、そして主に祈るのです。ハレルーヤ! 主イエス・キリスト!」

博士「それまでにしてください。もう十分です。お名前は何とおっしゃいますか」

スピリット「歌いましょう!祈りましょう!」

博士「冷静になって頂くか、それともここを去って頂くか、どちらかにしてください。あなたは、一体、どなたですか。どちらからおいでになりましたか」

スピリット「そのものの言い方は何ですか。ここは、一体どういう教会ですか」

博士「死んでどれくらいになりますか。何かが、あなたの身の上に起きたことはご存知のはずです。これまであなたは、何年もの間、地球上を当てもなく彷徨っておられたのです。冷静にお考えになってみてください」

スピリット「あたしは冷静ですよ。狂ってはいません」

博士「信仰的には狂っておられます」
スピリット「神と聖霊に祈っているのです。(大声で)ハレルーヤ!」

博士「そんな大声を出さなくてもよろしい」
スピリット「イエス・キリストの御名において行っているのです」

博士「ここは、そんな話をする場ではありません」
スピリット「あなたは罪深きお人ですね」

博士「いいですか、よくお聞きなさい。あなたがどなたであろうと、もう肉体はなくされたのです」

スピリット「ここは何という教会ですか」

博士「ここは教会ではありません」

スピリット「そう聞いて安心しました。教会もここまで様変わりしたのかと、びっくりしました。では、イエスの御名のもとに、あたしに語らせてください」

博士「あなたが現在の本当の状態を理解していらっしゃらないようなので、高級霊の方達がここへあなたを連れてこられたのです。あなたはもう『スピリット』になっておられるのです。それも、かなり前からのはずですよ。そのことを教えようとする方達の言うことに、あなたは耳を貸しませんね?」

スピリット「じゃあ、まずあなたからお話ください。そのあとあたしが喋りますから」

博士「何か変わったことが起きたことはお気づきですか」
スピリット「いいえ」

博士「素直にお考えになれば分かります。少し感じが変だということはご存知のはずです。そのことを素直に認めようとなさらないだけです。ここがカリフォルニアのロサンゼルスであることをご存知ですか」

スピリット「どうやってそんな遠くまで行ったのでしょう? あたしは宣教師として、あちらこちらで祈り、そして歌ってましたから、いつの間にかそんなところまで行っちゃったのでしょう」

博士「あなたはスピリットになっているのに、そのことに気づかずにいらっしゃるので、ここへ連れてこられたのです。お母さんはあなたのことを何と呼んでいましたか」

スピリット「ちょっと待ってください。頭が働かなくて・・・」

博士「あなたには、もう肉体はないのです。その自覚の無い方は、地上時代のこともよく忘れてしまわれます。あなたは名前も思い出せないのですね?」

スピリット「名前はセーラでした。(大声で)イエスの御名のもとに申し上げます!」

博士「セーラ・何とおっしゃいましたか」
スピリット「マクドナルドです。イエスの御名のもとに申し上げます!」

博士「そんなに絶叫しても、何にもなりません。あなたは死んで、かなりの年月が経っているということが分かりませんかね?」

スピリット「ハレルーヤ! 」

博士「その身体は、ほんの一時だけ使用していらっしゃるのです。聞こえてますか。今年は何年でしょうか」

スピリット「イエスの御名のもとに、そんなことはどうでもいいです」

博士「狂信者は、信仰以外はどうでもいいのですね?」

スピリット「あたしは、敬虔なクリスチャンです――イエスの御名のもとに。神に栄光あれ! ハレルーヤ!」

博士「イエスの言われたことをご存知ですか」

スピリット「知ってますとも! イエスはこうおっしゃってます――『彼らを許すのです。彼らは自分のしていることが分かっていないのですから』と。あたしも、あなた達の為に祈ります」

博士「あなたに祈って頂くには及びません」
スピリット「神に栄光あれ! 」

博士「ご自分が死んだことに気づきませんか」
スビリット「そんなこと、どうでもよろしい」
スピリット「イエスこそ私の味方です!栄光あれ! 」

博士「私達はここで、人間は死後どうなるかを実験的に研究している者です。私達が知ったところによると、狂信者ほど霊的事実を知らず、頑に信仰にしがみつき、わめき散らして信仰を説き、賛美歌を歌っています。イエスは『真理を知りなさい。真理こそ魂を自由にします』とおっしゃいました」

スピリット「神よ、この者達を許し給え。この者達はこれ以上のことが分からないのでございます。皆さんの為に、私が祈ってさしあげます」

博士「それには及びません。とにかく、あなたは現在の自分の身の上が分かっていらっしゃらないのです。しかも、あなたは心の奥では自分を偽っていることを知っている――いかがです?」

スピリット「神よ、許し給え! 祈りましょう!」

博士「神の許しなんかいりません。私の言うことをよくお聞きなさい」
スピリット「(気取った口調で)まだ何か言いたいことでもあるのですか」

博士「なぜ、そんな気取ったものの言い方をなさるのですか。あなたは今、ご自分のものではない身体を使って喋っておられるのです。そんなに強がって、恥ずかしいとは思いませんか。自分で自分を偽っていることに気づいておられるはずです。ここへあなたをお連れしたのは、高級霊の方達です。私の妻の身体を使って、こうして話をして頂いて、あなたの現在の身の上を悟って頂こうとしているのですが、どうやら無駄のようですね」

スピリット「大きなお世話よ!」(と歯をむき出すような言い方で反抗する)

第4節 ●間違いだらけの信仰の犠牲になった少女
結局このスピリットは、一片の理性も見せようとしないので、強制的にマーシーバンドの手に委ねられた。その直後に、今度は少女が乗り移った。今のスピリットの娘で、しきりに泣いている。

1923年3月28日  スピリット=メアリ・アン・マクドナルド

博士「どうしたのですか。泣いていては分かりませんよ」
スピリット「ママはどこ?」

博士「お母さんがいなくなったのですね? 一緒に探してあげましょうね。あなたのお名前を教えてちょうだい」

スピリット「メアリ・アン・マクドナルド」(と言ってから、咳をしたり喉を詰まらせたりして泣き続ける)

博士「泣くのはもう止めましょうよ。なぜ泣くんですか」
スピリット「あたしのママはどうなったの?」

博士「見失ったのですね?」
スピリット「急にいなくなったの。どこにいるのか分からなくて・・・」

博士「私達がいるから大丈夫ですよ。お母さんの名前は?」
スピリット「セーラ・マクドナルド。ママを見つけて連れてきてくださる?」

博士「きっと見つけてあげますよ。お家はどこ?」

スピリット「知りません。ママはお祈りと賛美歌を歌ってばかりで、あたしが一緒にしないと地獄に落ちるって言うの」

博士「そんなことは絶対にありませんよ」

スピリット「あたしは、教会の人達みたいに本気で祈ったり、歌ったり出来ないのです」

博士「祈りも賛美歌も必要ないのです。それは、信仰とは関係ありません。大丈夫です。ここにいる人達は、あなたのような人達を救ってあげる仕事をしているのです」

スピリット「あたし、どうしたらいいのか分からない」

博士「ほんとのことを言うとね、さっきお母さんもここへ来て、あなたと同じようにその身体で話をしたのです。あなたもお母さんも、今はスピリットの世界にいるのですよ」

スピリット「ママはもういなくなったの?」

博士「お母さんはスピリットの世界の病院へ連れて行かれたのです。信仰のことになると、お母さんは変なことばかり言って、こちらの言うことを聞こうとしないからです」

スピリット「ママは、祈りと歌を続けていないと、神様が許してくださらないって言うの」

博士「それは信仰とはいえません。信仰の病気なのです。イエスはそんなことは説いておりません」

スピリット「あの大きな火が見える?」

博士「いいえ、私達には見えません。どこで燃えているのですか」

スピリット「家が全部燃えてしまいました。ママはお祈りと賛美歌ばかりで、私は寝ていたので、火事になっていることに気がつかなかったのです」

博士「もうそのことは心配しないでよろしい」
スピリット「目が覚めてみたら、喉が詰まっていて、息が出来なかったの」

博士「もう、それは終わったことです。何という町に住んでたのですか」

スピリット「知りません。少し待って――今、思い出してみます。火事でぐったりして、何が何だか分からなくなりました。これからどうなるのか心配です」

博士「私達は、あなたのようなスピリットを救ってあげる仕事をしているのです。ここでの勉強が済んだら幸せになりますよ」

スピリット「あのね、あたし達が通っていた教会の牧師さんは『毎晩祈り、すべてを教会に捧げないと地獄に落ちます』と言うのです。食べてもいけない、床に身を横たえて、キリストの為に苦しみなさい、と言うのです」

博士「その牧師さんも病気ですね」

スピリット「乾パンと水しかいけないと言われました。そして、あたしは罪人だから、お金を全部イエスに寄付しないとその罪が消えないと言われました。

それであたしが、イエス様はそんなにお金に困っているのですかと聞いたら、そんな質問は悪魔の質問です、と叱られました。

あたしは一生懸命働きました。頂いたお金は、全部、ママが取って教会に寄付しました。あたしはお店で縫い物をしていました。晩になると、ママがあたしを教会へ連れて行きました。すごく固いパン一切れと水を、イエスの御名のもとに頂きました」

博士「年齢はいくつですか」
スピリット「十六か十七です」

博士「どんなお店で働いたのですか」
スピリット「オーバーオールを縫ってました」

博士「シカゴですか」

スピリット「いいえ。大きい町でしたけど、名前は覚えていません。あの牧師さんはお説教ばかりして・・・」

博士「それも、これからはもうありませんよ」

スピリット「あたしは、神様が愛で、あたし達が神様の子なら、なぜ神様はあたし達にヘトヘトになるまで働かせて、お金まで寄付させるのかが分かりませんでした。神様は、そんなにお金に困っているのですか」

博士「主は、そんな話とは何の関係もありません。何も知らない、心が病気になった人がそんなことを言っているのです」

スピリット「でも、あの人は牧師さんです」

博士「何という教会でしたか」

スピリット「あの牧師さんは、言うとおりにしないと地獄に落ちると言っていました。主のことを喋り通しで、あたしは、こんな話を聞いているよりは、地獄へ行った方がましかもしれないと思ったこともありました。

それに、あたしだって新しいドレスが欲しくてたまらなかったのに、もらったお金を全部主の為に取られたのです。もらうお金は少なかったけど、少しずつ貯めていったら、いつかはドレスが買えたと思うわ。なのに、ママが全部取り上げてしまうの」

博士「全部間違っています。神は『霊』なのです。神は『愛』なのです。そんなムチャクチャな話とは関係ありません。お金なんか必要ないのです」

スピリット「じゃ、なぜ、みんな寄付するのですか」

博士「神様がお金を取っているのではありません。牧師が取っているのです。神様は、お金なんかいらないのです」

スピリット「あたし達がお金をあげる必要はないのですか」

博士「ありません。神は霊です。目に見えないものです。私は今、こうしてあなたに向かって話し、あなたは私に向かって話していますが、あなたの姿は私達には見えていないのです。精神は、目に見えないものなのです。あなたには私の身体が見えていても、私の精神は見えないでしょう? 神も同じです。目には見えないものなのです。どこか定まったところにいらっしゃるのではないのです」

スピリット「でも、あの牧師さんは、神様は玉座に座っていて、その右側にイエス様がいらっしゃると言ってました。もしも本当でなかったら、なぜ牧師さんはそんなことを、あたし達に説いていたのですか」

博士「真理は、牧師さんがこしらえるものではないのです。その牧師さんは、真実を説いていないということです」

スピリット「でも、イエス様は、あたし達の罪を背負って死なれたと言っていました」

博士「それも間違いです」

スピリット「イエス様は『私の十字架を手にして、私の後について来なさい。そして、教会に通いなさい』と言われたそうです」

博士「イエスは、教会へ通う話なんか一度も口にしたことはありません。死後の高い世界の話を説かれたのです」

スピリット「天国のことですか」

博士「天国は天国でも、あなたが思っているようなところではありません。天国とは幸せな心の状態のことです。あなただって、もし新しいドレスが買えたら幸せでしょう?」

スピリット「ええ、新しいドレスが欲しいわ。牧師さんの空想みたいな話は面白くないもの。なのに、お金は全部、主にあげないといけなかったのです」

博士「そんな必要はなかったのです。牧師さんにあげていただけです」

スピリット「お金をあげると、他の人が寄付した古いドレスをくれました。ママはそれで我慢しなさいと言うの。私が嫌がると『主がおっしゃったとおりにしないと地獄に行くのよ』と言って叱りました」

博士「『地獄』という場所はないのです」
スピリット「ないの?」

博士「ありません」

スピリット「地獄は、火が燃えているところじゃないの? あたし、見たことがあります。今でも見えるわ」

博士「それは多分、お母さんが頭がおかしくなって、家に火をつけたのじゃないかな」

スピリット「そうじゃないと思う。地震があって、その後火事になったみたいです」

博士「今の大統領は誰でしたかね」

スピリット「知りません。あのね、あたし、あんまり勉強してないの。九つの時から働きに出ましたから」

博士「お父さんは?」
スピリット「あたし、お父さんを知りません」

博士「学校へ行く行かないは、どうだっていいことです。今はもう身体を失って、スピリットになっていることを知ることの方が大切です」

スピリット「身体を失ったのですか。でも、ちゃんとありますけど・・・」

博士「それは、あなたの身体ではありませんよ。私の奥さんのものです」
スピリット「この衣服は、どこから貰ったのかしら?」

博士「それも、私の奥さんのものです」
スピリット「自分のドレスが欲しいんだけどなあ」

博士「もうすぐ新しいのが貰えますよ」

スピリット「あなたの奥さんのを貰うのは嫌です。貰ってはいけないと思うの」

博士「その靴をご覧なさい」
スピリット「あたし、一体、どうなってるのかしら!?」

博士「お祈りをしていた頃よりも気分がいいでしょ?」

スピリット「力がついたみたい。何か食べたのかしら? とても元気になったみたいです」

博士「健康な人の身体を使っているからですよ。それは、私の奥さんの身体ですから」

スピリット「あなたの奥さんの身体は貰いたくないのだけど・・・」

博士「ほんの一時だけですよ」

スピリット「この後、どこへ行くのですか。もう、あの牧師さんのところへ戻るのは嫌です。あの牧師さんが地獄や責め苦の話をしていると、あたしの目に大きな炎や悪魔が見えるのです」(霊界での話)

博士「それはね、牧師さんが地獄の話をする時は、悪魔や炎を想像しながら話すから、それが本物のように見えるのです。全部、幻です」

スピリット「でも本当に見えました。地獄というのがあんなところなら、あたし、行くのなら天国の方がいいです」

博士「お母さんも牧師さんも、スピリットになっておられます。なのに、そのことに気がつかないのです」

スピリット「大勢の人が歌ったり祈ったりています。出席しないと、牧師さんが怖いのです。跪かないと地獄に落ちるって言うの」

博士「全部、ナンセンスです。その人達もみんな、肉体はもうないのです。そして、バイブルで言う『暗黒』の中にいるのです。盲目的信仰の暗闇の中にいるのです。考えを改めないかぎり、いつまでもその状態の中に留まっています。気狂いじみた信仰に凝り固まった人達ばかりなのです。お母さんも、さっきここへ連れて来られて、その身体を使って話をされたのですよ」

スピリット「誰かがママを押し込んでいました。その後、ママと話が出来なくなりました。そこに集まっている人達は、誰が何と言っても聞こうとしません。歌と祈りばかりを続けています」

博士「その人達は、何年でも何十年でもそうやっているのです。ですが、その人達が叫んでいる『主』は、そういうものには耳を傾けません」

スピリット「あら、地獄がもうなくなってる!」

博士「だから言ったでしょ、あれは牧師さんが考えて造り出した、幻なのです。それが、無知なスピリットには本物のように思えるのです」

スピリット「あたしのママを救ってあげてください」

博士「高級霊の方達が面倒を見てくださるから心配いりません。お母さんを『押し込んだ』のは、その高級霊の方達なのです。あなたとお母さんの違いは、あなたは言うことを素直に聞くのに、お母さんは聞こうとしないという点です」

スピリット「じゃ、神様は、あたしのことで腹を立てたりなさらないかしら?」

博士「勿論ですよ」
スピリット「絶対に?」

博士「神様は、何もかもご存知です。神様はすべてのものの中にいらっしゃるのです。創造者であると同時に創造物でもあるのです」

スピリット「人間は、永遠の罪に落ちることはないのでしょうか」

博士「ありません。絶対にありません。もしも人間が永遠に許されない罪に落ちるとしたら、神様はこの宇宙をこしらえた時に、間違いをなさったことになります。神様は全知全能で、あらゆるものの中に存在しておられるのです。宇宙や人間をこしらえたほどの神様が、人間を罪に落とすような過ちを犯すはずがありません。もしもそうだとしたら、神様は全知ではないことになります」

スピリット「では、どうして牧師さんはそんなことを説くのでしょうか? 」

博士「牧師というのは、勝手にこしらえた教義を述べているだけです。バイブルはたとえ話で説いているのです」

スピリット「イエス様は、あたし達の罪を背負って死なれたのではないのですか」

博士「勿論違います」

スピリット「あそこに大勢の人達がいます。見えますか」

博士「私達には見えません。あの人達はスピリットなのです。とっくの昔に肉体を失っているのです。なのに、それ以上の高い世界が見えないのです。あなたはあの人達のすることについていけなくて、疑問を抱くようになった――それで私達がここへ連れて来て、その疑問に答えてあげているのです。信仰に理解を加えないといけません。あなたはもう肉体はないのですよ。だいぶ前に死んだはずです」

スピリット「何が何だか、わけが分からなくなっていました。頭に怪我をしたのは覚えています」

博士「あなたが住んでいた町の通りの名を覚えていますか」

スピリット「いいえ、覚えていません。サンフランシスコにいたように思います」

博士「お父さんは?」

スピリット「お父さんは、あたしがちっちゃい時に死んだと思います。お父さんのことは、ほんとに何も知らないのです」

博士「辺りを見回してごらんなさい。どなたか知った人はいませんか。他にも大勢の人が、あなたを救いに来てくださっているはずですよ。そこは、地球の周りにある目に見えない世界なのです」

スピリット「奇麗なお庭が見えます。見て、あの美しい花! あんなに美しい花は、初めて見るわ! 奇麗な小鳥もさえずってる! あの美しい湖を見て! 岸辺でたくさんの子供達が遊んでるわ」

博士「そこが霊界なのです」

スピリット「あの、歌とお祈りばかりしている人達より、よっぽどいいわ。あの人達が見えませんか。あの人達を救ってあげることは出来ないのかしら?」

博士「さっき、お母さんを連れて来て、あなたと同じようにその身体に入って頂いてお話をしたのですが、私達の手には負えませんでした」

スピリット「まあ、あの素敵な小さい家。部屋が二つあって花がいっぱい咲いてる庭もついてるわ! 聞いて! 美しい音楽が聞こえるでしょ?」

博士「私達には聞こえないのです」

スピリット「こんな美しい音楽も初めてだわ。全ての花が、その音楽におじぎをしてるみたい。音に色があるような感じがして、花と一緒に踊ってるみたい。音が変わると、色も変わってる」

博士「ここを離れた後は、もっとたくさんの美しいものを見つけますよ」

スピリット「あそこに、一人の優しそうな男の人が立っています。私を見つめて、こっちへおいでと言っています」

博士「さ、美しい木と花と音楽のある世界へ行って、人の為に役立つことをするのです」

スピリット「その男の方がやって来ます。あたしのお父さんだそうです。でも、見覚えがないわ。お父さんは死んだはずよ――『他界した』という言い方をする人もいるけど・・・」

博士「そうね、『他界した』という方が正しいのです。本当に死んでしまう人はいないのです。お父さんも肉体をなくしただけなのです。精神やスピリットは、肉体の中にいる時は目に見えませんが、肉体から脱け出た後は、生きている人間の目には見えないのです。肉体は、スピリットが生活する家のようなものです。スピリットが去ってしまうと、その肉体は墓に埋められます。でも、スピリットは死んでいないのです」

スピリット「あたしは、お父さんの為にお祈りをしたこともあります。お母さんが、パパは地獄に落ちたと言っていたからです。お父さんが今、地獄なんかないよ、と言ってます。とても素敵な方よ。ドレスアップしちゃって。お母さんも、早く分かってくれるといいのだけど・・・」

博士「お母さんのことは心配しないでよろしい。一度その身体で話をした人は、霊界の病院に入院することになっているのです」

スピリット「あら、可愛いインディアンの少女がいるわ!」

博士「素敵な方でしょ? これからその方が案内してくれますよ」
スピリット「一緒に行ってもいいのかしら? 名前は何ていうの?」

博士「シルバー・スターです」

スピリット「それがあの人の名前なの? ねえ、あなた、あたしと遊んでくださる? お友達になってくださるんですって。あの人のお家に連れてって、素敵なものを見せてくださるのだそうです。

嬉しいわ! 新しいドレスも着たいなーこんなボロの服じゃなくて・・・。これではイエス様が嫌がりますものね?」

博士「もう、そんなことは忘れてしまいなさい。立派な方達が色々と教えてくださいますよ」

スピリット「シルバー・スターが、一緒に来たら、おばあさんやお父さんや弟のロレンスのところへ連れてってくれるんですって。まあ、ロレンスだわ! すっかり忘れてた。ちっちゃい時に死んだんだもの」

博士「いくつでしたか」
スピリット「知りません。まだ赤ちゃんだったの」

博士「ここを離れたら、色々なことが分かりますよ」

スピリット「シルバー・スターが、皆さんが辛抱してあたしを救ってくださったことに感謝しないといけないと言ってます。いつかきっと、もう一度ここへ来てお話をします。その時はもっと色んなことが思い出せると思います。

あたしの名前はメアリ・アン・マクドナルドです。またいつかまいります。『神の祝福を』と言いたいけど、あたしから言うのはおかしいわね?」

博士「そんなことありませんよ。さ、シルバー・スターと一緒に行きなさい」

スピリット「分かりました。さようなら」