F・C・スカルソープ(著)
近藤 千雄(訳)
訳者まえがき
スカルソープ氏は地味な霊能者である。経験年数から言うと既に三十年近くになるが、派手な活動をせず、著書も本書の続編が一冊あるだけで、コツコツと体験を積み重ねながら、常に修養を第一に心掛けている真摯な学徒という印象を受ける。
本当は全ての霊能者がそうあらねばならないのである。ところが、これは世界どの国の霊能者にも言えることであるが、霊能が出始めると何となく偉くなったような錯覚を抱き、周りの者にもてはやされるとその錯覚を一段とエスカレートさせ、ご大層なことを言い出し、法外な金銭を取り出す霊能者が多過ぎるのである。
そうした中でスカルソープ氏は初心を忘れない極めて貴重な存在であり、そうした性格や生活信条は本書の随所に現れている。私が是非とも本書を翻訳して紹介したいと思った理由もそこにある。
そうした特質は取りも直さず守護霊を中心とする背後霊団の霊格が高いことの指標であり、そのことは更に、シルバーバーチ霊や『ベールの彼方の生活』のアーネル霊、『霊訓』のイムペレーター霊が指摘している地球規模の霊的大事業の一翼を担っていることを想像させる。
その地味なスカルソープ氏が霊界旅行から持ち帰った情報は、しかし、読む者の殆どが〝まさか!〟と思わずにいられないであろうと想像される驚異的なことばかりである。現実離れがしているという意味ではない。逆に、あまりに現実的過ぎるのである。霊界での生活ぶりがあまりに地上とよく似過ぎているのである。
現実的過ぎる――だからおかしい、というのが大方の読者の第一印象であろう。そう思われる気持は私に分からないでもない。しかし、多くの霊界通信を読み、かつ翻訳してきた一人として私は、そうした印象を抱くということ自体が地上人類の意識的レベルの指標であると言いたいのである。それは丁度コペルニクスの地動説が当時の人によって信じてもらえず、あまつさえ、その支持を表明したガリレイが神を冒涜する者として宗教裁判にかけられたという歴史的事実が当時の意識的レベルの指標であったのと同じである。
もっとも、現実味溢れる霊界事情を実感をもって理解するというのは多分地上にいる限り無理であろう。と言うのは、正直言って私は、我々が生活している地球が丸いこと、しかもそれがクルクルと自転しながら太陽のまわりを公転しているという事実が未だに実感をもって信じることが出来ない。その地球の公転のスピードが秒速30キロというに至っては、絶対に信じられない。おそらく轟音を轟かせながらであろうと想像されるが、それが一向に聞こえず身体に響いてこないのも不思議でならない。
それと同じで、地表にへばりついて生きている我々人間にとって、本書で語られているような霊界体験は、まさか? と思いたくなるようなことが多いことと思われるが、私がこれまで三十年余りにわたって調査・研究し体験してきたことから偏見なしに判断して、スカルソープ氏が報告してくれている情報は、宗教的偏見も脚色ない、あるがままの霊界の現実であると断言出来る。
そう断言出来る根拠を今ここで披瀝する余裕はない。それは1848年の心霊研究の発端にまで遡(さかのぼ)り、今日までの百数十年の間のスピリチュアリズムの歩みを辿らねばならない大仕事となる。その間に夥(おびただ)しい数の霊界通信が入手され、かつ又、A・J・デービスに代表される霊界旅行体験者によっても、信頼に値する知識が持ち帰られている。
では、幽体離脱とはいかなる現象か――これを本格的に論ずれば一冊の書物にもなるが、幸い本書にはカール・ミュラー博士の解説がついている。概略を知る上では十分であり、内容的にもスピリチュアリズムの知識に裏打ちされたオーソドックスなものとなっている。
ご自分で密かに同種の体験をされてる方は、スカルソープ氏の体験を読まれて、それが決して妄想でも幻覚でもない――したがって自分が異常者でないことを知って安心なさることになるであろう。
又一方には半信半疑ながらも興味をそそられ、次の段階の勉強に進まれる方もいるであろう。願わくば是非そうあって欲しいというのが私の切なる気持であるが、他方には全てを他愛ないオトギ話として一蹴される方もいるであろう。
そうした方に一言だけ申し上げておきたいのは、当たり前のように思っているこの地上環境を構成している物質について、現代の最先端を行く科学者ですら、まだ、その本質を捉え切れずにいるという事実を忘れないで頂きたいということである。
目 次
訳者まえがき
第1章 霊界の様子
第1節 そもそものきっかけ
第2節 霊能育成会に参加
第3節 ついに肉体を離れる
第4節 二度目の体験
第5節 霊的法則を知らなかった為の失敗
第6節 霊界の妻と再会
第7節 中国人の指導霊
第8節 幻覚でないことの証
第9節 その他の体験
第10節 幽体離脱のコツ
第11節 睡眠と死の共通点と相違点
第12節 記憶がこしらえる世界
第13節 無知の報い
第14節 哀れな同胞達
第15節 喧嘩ばかりしている霊
第16節 冷酷な指導者の末路
第17節 隙を狙う邪霊達
第18節 波長の調節が鍵
第19節 界と界との境界
第20節 人を騙して喜ぶ霊達
第21節 地上とよく似た世界
第22節 妻とともに
第23節 霊界の私の家と店
第24節 娘とともに
第25節 霊界の博物館
第26節 母の来訪
第27節 スピリチュアリストの集会所
第28節 グレンジャー通り
第29節 霊界でのドライブ
第30節 霊界でのショッピング
第31節 霊界での憑依現象
第32節 『死』のバイブレーション
第33節 『常夏の国』のハイカラ族
第34節 霊界の病院
第35節 霊界の動物達
第36節 戦争による中断
第37節 上層界の単純素朴さ
第38節 神の公正
第39節 自由意志の問題
第40節 時間の問題
第41節 霊の望遠鏡視力
第42節 もう一つの自分との対面
第43節 霊界での乗馬
第44節 肉体と幽体との相関関係
第2章 幽体離脱現象の諸相
第1節 幽体離脱(体外遊離)現象とは何か
第2節 筆者の個人的体験
第3節 スカルソープ氏とよく似たケース
第4節 歴史上の記録
第5節 バイロケーション
第6節 切断された四肢の幽体
第7節 主観的要素の問題
第8節 オリバー・フォックス氏の体験
第9節 イーラム氏の体験
第10節 ラーセン女史の体験
第11節 マルドゥーン氏の体験
第12節 新しい研究
第13節 スピリチュアリズムの観点から
第14節 一つの試論
第15節 結語