第2章 潜在意識説と自己暗示説を否定するケース
第1節 ●招霊実験が物語る『真実』
『死者』を相手とする研究を倦むことなく三十年余りも続けてきて私は、その間に驚くべき事実を数多く目の当たりにしているので、証明しようと思えばいつでも出来る明々白々たる事実を、他の思想分野の人達はよくぞこれまで無視してこれたものだ、と思うのである。
こうした招霊実験には詐術は断じて有り得ない。霊媒である私の妻は、一言も知らないはずの外国語をいくつでも喋るし、妻の口から聞いたためしのない表現が出るし、その上、憑依霊の身元は再三再四確認され、数え切れないほどの確証が得られている。
一回の招霊実験で二十一人のスピリットと語り合ったことがある。その大半は、地上時代に私の知人ないし親戚だったことを立証するに十分な証拠を与えてくれた。その時は妻の口から全部で六カ国語が聞かれたが、通常の妻はスウェーデン語と英語しか喋れない。
またある時は、シカゴから連れて来られたA夫人一人に十三人のスピリットが憑依していて、それを一人ひとり妻に乗り移らせたが、そのうちの七人までは、A夫人の母親のH・W夫人によって、地上時代の親戚か友人であることが確認されている。そのうちの一人はH・W夫人が属していたメソジスト教会の牧師で、九年前に交通事故で他界していながら、その日までその事実に気づいていなかった。
もう一人は義理の姉、その他に永年家族ぐるみで付き合っていた三人の年配の女性、近所の少年一人、それに患者の義理の母親がいたが、そのいずれも、妻は一面識もなかった。
H・W夫人はその一人ひとりと長々と語り合い、聞き出した事柄の中から数え切れないほどの事実を確認し、その事実をもとに、そのスピリットが現在はもう肉体を捨てて霊的存在となっていること、しかも夫人の娘の身体に憑依している事実を悟らせてあげた。娘さんは今では心身ともにすっかり健在で、社交に、音楽の仕事に、そして家庭生活に、活発な毎日を送っておられる。
もう一つのケースは、精神異常がそっくり患者から霊媒へと移転し、『潜在意識説』や『二重人格説』は、霊媒に関するかぎり、その説明にはならないことを明確に立証している。
ある夏の日の夕方、われわれ夫婦は教養と人格を兼ね備えた著名な婦人の家に呼ばれた。この婦人はかつては第一級の音楽家で、そうした地位にあるがゆえに要求される、様々な人間関係に耐え切れず、ついにノイローゼになってしまった。それが次第に高じて手がつけられなくなり、狂乱状態が六週間も続き、医師も手の施しようが無く、看護婦が日夜つきっきりの監視をしなければならなくなってしまった。
訪ねてみると、その婦人はベッドに座り、一人ぽっちにされた子供みたいに泣いているかと思うと、次の瞬間には恐怖におののいたように「マチーラ! マチーラ!」と叫んだりしている。そうかと思うと今度は、誰かと格闘し揉み合っているような動作をしながら、英語とスペイン語でわけの分からない乱暴なことをわめき散らしている(妻はスペイン語はまったく知らない)。
妻は婦人を霊的に診察して、これは間違いなく憑依現象であると述べた。そして、それが事実であることが、思いがけない形で立証された。ベッドのわきに立っていた妻が、部屋を出ようとした瞬間に意識を失って、その場に倒れた。居合わせた者が、その身体を長椅子に横たえた。私は、それからほぼ二時間にわたって、患者から離れた三人のスピリットとかわるがわる語り合った。
三人はメアリーという若い女性とその求婚者のアメリカ人、そして恋敵のメキシコ人マチーラだった。男性の二人とも熱烈にメアリーを愛している。したがって互いの憎しみも激烈だった。そして嫉妬に狂った一人が女性を殺してしまい、さらにライバルの男性とも命がけの喧嘩となって、ついに二人とも死んでしまった。が、三人とも自分の死には気づいていない。哀れにもメアリーは泣きながらこう言うのだった。
「この分だと二人は殺し合うことになると思ったけど、今もここで決闘を続けてるわ」
愛と憎しみと嫉妬による悲劇は、肉体の死とともに終わってはいなかったのである。三人は無意識のうちに患者の霊的磁場、すなわちオーラに引きつけられ、そのオーラの中で相変わらず激しく争い続けていたのである。そこには患者が神経的に参って抵抗力が極度に低下していたという誘因があり、次々と憑依したその結果が、医師や看護婦には解決のつかない、いわゆる発狂状態となって現れていたのだった。三人に肉体を失っている事実を得心させるのにさんざん手こずらされたが、どうにか理解してくれて、われわれのマーシーバンドの手に委ねられた。
その間に患者は既に起き上がっていて、驚く看護婦を相手にまともな対話を交わしながら、部屋中を静かに歩き回っていた。やがて「今夜はよく眠れそうだわ」と言い、ベッドに戻ると、いつもの睡眠薬を使わなくてもすぐに寝入り、一晩中ぐっすりと寝た。そして翌日には看護婦に付き添われて私の家を訪れた。私は看護婦には帰って頂き、服薬を禁じ、電気治療を施した後で、他の患者と一緒に食事をとって頂き、夜の社交的な催しにも出席して頂いた。
その翌日の招霊実験でさらにもう一人が、この婦人から除霊された。サンフランシスコの大地震で死んだ少女であるが、暗がりの中で道が分からなくなったと言って泣いてばかりいた。この子も私が色々と語り聞かせてなだめてやり、そのあとマーシーバンドによって介護されることになったことは言うまでもない。それまでは婦人のオーラの中に閉じ込められていたために、マーシーバンド側も手が施せなかったのである。
婦人はその後数ヶ月にわたって私の治療所で加療と休養を続け、すっかり元気を回復して退院し、完全に元の生活に戻られた。
第2節 ●スピリットの生前の身元を確認
次の例は、スピリットの生前の身元が確認されるケースがよくあることを証明している。
F夫人はもともと垢抜けのした上品な性格の女性であったが、数人の医師から不治の精神異常者と診断されるほどになった。手に負えないほど荒々しい振る舞いをするようになり、絶えず罵り、いったん暴れ出すと男が数人がかりでやっと取り押さえるほどになった。そうかと思うと突然、昏睡状態に陥ったり、気絶したり、食べ物を拒絶したり、「私は天使の仲介で結婚したのである」と偉そうに言ったかと思うと、とてつもない下品な言葉を口走ったりするのだった。
こうした症状が絶え間なく交互に起きるのであるが、それが憑依現象であるとの確証が得られずにいたところ、ある日、突如として言語能力を失って白痴のように口をもぐもぐするだけとなり、聾唖者とまったく同じ状態になってしまった。
丁度その頃に、隣の州から一人の男性が、入院中のある患者を見舞いに訪れた。その直後に看護婦から、F夫人の様子が変わって今度は幼児のような喋り方をしているとの報告があった。その変わりようがあまりに激しいので、参考までにその見舞客にも部屋に入ってもらって観察してくれるように頼んだ。
もちろんF夫人とは一面識もない人であるが、その男性が部屋に入るとすぐ、夫人が彼を指差して、子供っぽい、かん高い声で、
「あたし、この人知ってる! よくあたしの肩に弓をのせたわ。そして、あたしのキャンデーを引っ張ったこともある。ジプシーのキャンプへ連れてってくれたこともある。私の家の向かいに住んでて、あたしのことをローズバッドと呼んでたの。あたしは四歳よ」と言った。
その男性は、その子の言っていることが一つ一つ事実であることに驚き、確かにアイオワ州の郷里にはそういう名前の子がいたが、しかし昨年死んでいると語った。さらに彼は、自分が大変子供好きで、よくその子をジプシーのキャンプへ連れて行ったこと、そして棒付きのキャンデーを買ってやり、その子が食べている時にその棒を引っ張って『歯と一緒に抜いちゃうぞ』と冗談半分に脅かしたことがあると説明した。
この例では、愛情がその子供を男性のところへ引き寄せたこと、またその子供にとってF夫人が、その男性に自分の存在を知らせる格好の手段となったことは明らかである。
招霊という手段によって、まずその子を除霊し、続いて他の複数の憑依霊を一人ひとり除霊していって、数ヶ月後にはF夫人は法的文書に署名する資格があると診断されるまでに回復し、裁判官および陪審員によって『正常』と宣告された。
もう一つ例をあげると、これはレストランでコックをしていたO夫人の例であるが、同じレストランで働いているウェイトレスの中に行動がおかしく、妄想と幻覚に悩まされている女性がいるので診て欲しいと言って、私のところへ連れてきた。さっそく電気治療を施したところ、ウェイトレスはたった一回ですっかり楽になって、そのまま家に帰った。
ところが、その夜になってO夫人の方が一種名状しがたい状態になって一睡もできず、その状態が翌朝の十時頃まで続いた。それから食事の用意でもしようと起き出て準備をしていると、突如として態度が荒々しくなり、髪をかきむしり、自分で自分を傷つける危険性が出てきた。
家族からの依頼で往診してみると、O夫人は錯乱状態で荒れ狂っており、『どこへ逃げても追い回されて休息する場所がない』と口走るのだった。私は憑依霊の仕業と診断して夫人を椅子に腰掛けさせ、暴れないように両手を縛ってから、幾つか質問してみた。
すると、自分は男性で、死んでもいないし、女性の身体に取り憑いてなんかいないと言い張るのだった。名前はジャックといい、さきのウェイトレスのおじで、放浪の生活を送ったという。
こんこんと諭していくうちに、その霊もどうにか自分の置かれている事情を理解してくれて、もう二度と迷惑をかけないことを約束して去って行った。O夫人はそれでいっぺんに正常に復し、いつもの仕事に戻って、以来、何ら支障を来していない。
あとでウェイトレスに確認したところでは、彼女にはジャックという名のおじがいて、放浪癖があったが、今はもう死んでいるとのことだった。このケースではO夫人が霊媒となって、ウェイトレスに憑依していたそのおじを乗り移らせたわけである。
第3節 ●『人格』として現れるスピリット
数年前の話であるが、リズトンという博士がシカゴの新聞に、フランス語も音楽も知らないある患者が、麻酔をかけられた時に、フランス国歌の『マルセイエーズ』を見事に歌った話を紹介していた。その中で博士は死後の個性の存続を否定して、これは潜在意識ないしは無意識の記憶によるものと説明し、あるラテン語の教授の召使いが狂乱状態の中で、生前その主人が朗唱していたラテン語の古典を完璧に朗唱したケースと比較して論じていた。
私はこれに反論する形で、ある新聞に寄稿し、この種の現象は心霊現象ではよくあることで、唯物的科学者がどう分類しようと、こうしたケースは人間の個性の死後存続と、彼らが生者を通じて意志を伝えることが出来ることの証拠であると論じ、さらに、右の二つのケースの真相を解明すれば、フランス語で歌った患者は霊感の鋭い人で、その時誰かのスピリットに憑依されていたのであり、ラテン語を朗唱した召使いは亡くなった主人のスピリットに憑依されていたことが判明するだろう、と付け加えた。
それから程なくして、リズトン博士の記事で紹介された患者本人が私の記事を読んだと言って訪ねてきて、「私はフランス語はまったく知りません。が、死にたくなる程スビリットに悩まされていることは間違いありません」と言った。
いわゆる『多重人格症』『分裂性人格症』『意識崩壊症』といった症例の研究において現代の心理学者は、そうした人格には何ら超常的知識の証拠は見られないし、霊的原因の証拠も見られないという理由で、外部からの影響力の働きかけの可能性を否定している。
しかし、それとは対照的に、我々が体験しているところでは、そうした人格の大半はスピリットであって、今なお自分が他界したことに気づかないために、肉体がなくなっていることに得心がいかず、またその事実を認めたがらないということが明らかとなっている。
モートン・プリンス博士の著書『ミス・ビーチャム、または失われた自己』の中で紹介されている四重人格の例症でも、ビーチャムという女性患者以外の人格の作用にはまったく言及されていないが、『第三人格』とされている『サリー』自身はビーチャムではなく、まったくの別人だと言い張り、ビーチャムが歩行や言語を覚えかけた頃のことに言及して、『この子がやっと歩き始めた頃から、私はこの子の考えと私の考えとが別のものだったことを覚えています』と述べている。
似たケースとして、オハイオ州のB・レディックという小学生の場合は『ポリー』という乱暴な性格の女の子に急変するのだったが、このケースでも、他界したポリーという女の子が、多分死んだことを自覚しないままレディックに憑依していることを示す証拠は歴然としている。
こうした『人格』が独立した存在であることは、これまでの実験が豊富に実証しているように、その『人格』を霊媒に転移させることによって簡単に証明できることである。それを潜在意識説や自己暗示説、あるいは多重人格症といった説によって説明することは到底無理である。
なぜなら、霊媒である私の妻が数え切れない程の人格をもっていることは断じて有り得ないことであり、同時にまた、精神病者とされている人の症状を妻に転移させることによって、その患者を簡単に正常に復させることが出来るからで、かくして病気の原因は死者のスピリットのせいであることが結論づけられる。そのスピリットの地上時代の身元も、多くの場合、確認することが可能なのである。
第4節 ●ウィックランド バートン夫人の憑依霊
第1項 バートン夫人の憑依霊1
患者に霊聴能力がある場合は、憑依霊の声がひっきりなしに聞こえるので、それによる苦痛も伴うことになる(いわゆる『幻聴』は精神科医もよく観察していることである)。そういう患者が交霊会に出席して憑依霊が霊媒へ移されると、興味深い現象が生じる。
その一例として、バートン夫人のケースを紹介しよう。この夫人は霊聴能力があり、そのために憑依霊と絶えず口喧嘩をすることになったが、我々のサークルに出席しているうちに、その有り難からぬ仲間(五名)から解放された。その憑依霊達の性格は、次に掲げる記録によって明瞭に把握できるであろう。
スピリット=キャリー・ハッチントン
患者=バートン夫人
霊媒=ウィックランド夫人・質問者=ウィックランド博士
博士「お名前を教えてください」
スピリット「手を押さえつけないでくださいよ」
博士「じっとしてないといけません」
スピリット「なぜそんなに手荒なことをするのですか」
博士「名前をおっしゃってください」
スピリット「なぜそんなことが知りたいのですか」
博士「あなたは初めてここへおいでになられた。それで、お名前を知りたいのです」
スピリット「知ってどうなさろうというのです?」
博士「話をする相手が誰であるかを知りたいだけです。あなただって、もしも見ず知らずの人が訪ねてきたら、名前を知りたいとは思いませんか」
スピリット「私はこんなところにいたくありません。あなた達の誰一人として知らないのですから。誰かが私をここへ押し込めたのです。あんな手荒なことをするなんて・・・入ってきて椅子に腰掛けたら、今度はあなたがまるで囚人のように私の両手をつかむのですから・・・。なぜこんなところへ押し込めるのですか(マーシーバンドによってウィックランド夫人の身体に乗り移らせられたこと)」
博士「あなたは多分、暗いところにいらしたのでしょう?」
スピリット「誰かに無理矢理ここへ連れて来られたみたい」
博士「それには何かワケがあったんでしょ?」
スピリット「わけなんか知りませんよ。あんな酷い目に遭わされないといけないわけなんか、身に覚えはありません」
博士「なぜそういう扱いをするのか、そのわけは聞かされなかったのですか」
スピリット「その扱いの酷さといったら、ありませんでしたよ。もう死ぬかと思いましたよ。あっちへこっちへ、いたるところへ追いまくられどおしで・・・。あんまり酷いので、もう腹が立って腹が立って、八つ当たり気分ですよ」
博士「その人達は、あなたにどんなことをしたというのですか」
スピリット「それが、実に恐ろしいのです。私が歩き回ると、酷い目に遭うのです。何だかよく分からないのですが、時には私の全神経が叩き出されるような感じなのです。まるで雷と稲妻に襲われたみたいな時もあります(静電気のよる反応)。それはそれは凄い音です。あの凄い音――ああ、怖い! 私はもう我慢できないわ。これから先もあんな目に遭うのは、真っ平ごめんだわ! 」
博士「真っ平ごめんと思って頂けるのは、私達にとっては有り難いことです」
スピリット「私は招かれざる客ってわけなの?それならそれで結構よ! 」
博士「あなただけ特別というわけではないのですがね」
スピリット「これまで辛い事ばかりでした」
博士「亡くなられてどれくらいになりますか」
スピリット「それはいったい、どういう意味ですか? 私は死んでなんかいません。この通りピンピンしております。むしろ若返ったみたいです」
博士「なんだか他人になったような感じがしたことはありませんか」
スピリット「時折妙な気分になることはあります。特に例のものが私を打ちのめす時に。嫌な気分です。こんな苦しみに遭ういわれはないはずです。なぜだか分からないのです」
博士「多分それがあなたにとって必要だからでしょう」
スピリット「好きな時に好きな所へ行けて良いはずなのに、なんだか自分の意志がなくなったみたいです。行こうとしてみるのですが、すぐに誰かが私を捕まえて、ある場所へ押し込め、そこで気を失いかけるほど打ちのめすのです。そうと知っていれば行かないのですが、なんだか私を好きに連れ回す権利をもった人物がいるみたいです(患者のこと)。でも、私の方こそ、その人物を連れ回す権利があるはずだと思うのです」
博士「その女の人とは、一体どういう関わりがあるのですか。あなたはあなたの生き方をするというわけにはいかないのですか」
スピリット「私はそのつもりで生きているのですが、その女性が私の邪魔をするのです。それで私が叱ると、逆に私を追い出そうとするのです。私もその人を追い出そうとします。そんな調子で、大変な取っ組み合いになるのです。私にだってそこにいる権利があるはずなのに、なぜいけないのかが分からないのです」
博士「多分あなたの方が、その人の邪魔をしているのでしょうね」
スピリット「その人はすぐ私を追い出そうとするのです。私は何も迷惑なんかかけていないはずなのに・・・。ただ、時たま話しかけるだけなのです」
博士「話しかけるのが通じてますか」
スピリット「時たま通じるみたいです。通じるとすぐさま私を追い出そうとするのです。なかなか礼儀正しい方なのですが、カッとなるところがあって・・・。カッとなると、すぐ例のところへ行くものだから、私は気が遠くなるほど酷い目に遭うのです。とても怖くて・・・。私の方からその人を連れ出す力はありません。その人の方から私を追い出そうとしているのです」
博士「あなたは、その方につきまとわない方がいいですよ」
スピリット「だって、私の身体なんですからね。あの人のものではありません。あの方にはそこに居座る権利はありません。なぜ私の邪魔をするのかが分からないのです」
博士「あなたの自分勝手な振る舞いに抵抗しているのでしょうよ」
スピリット「私にも生きる権利があるはずです――そうですとも」
博士「あなたは自分が死んだことに気づかないで、これまでずっと一人の女性に取り憑いていたのです。あなたはスピリットの世界へ行くべきで、こんなところをうろついていてはいけません」
スピリット「私がうろついているとおっしゃるんですか? そんなことはありません。誰にも迷惑はかけてはおりません。ただ、少しばかり喋りたいことがあって・・・」
博士「それが『雷』や『酷い目』に遭う原因なのです」
スピリット「最初の頃はなんとか我慢できましたが、最近はとても酷くて・・・。どうしてこんなことになったのか、少し考えないと・・・」
博士「今、それが分かりますよ」
スピリット「あんな怖いものを止めにしてくれるのなら何でもやります」
バートン夫人「(自分を悩ませていたのは、この霊であることを確認して)私もあなたにうんざりですよ。どなたです、あなたは?」
スピリット「赤の他人ですよ」
バートン夫人「お名前は何とおっしゃるのですか」
スピリット「私の名前?」
バートン夫人「あなたにも名前があるでしょう?」
スピリット「キャリーです」
バートン夫人「キャリー・何とおっしゃいます?」
スピリット「キャリー・ハッチントン」
バートン夫人「どこにお住まいでしたか」
スピリット「テキサス州のサンアントニオ」
バートン夫人「すると、ずいぶん前から私に憑いていたのね」(バートン夫人は永いことサンアントニオに住んでいた)
スピリット「あなたの方こそ私に永い間つきまとってるじゃないの。なぜそんなに私の邪魔をするのか、それだけが知りたいわね。今の私には、あなたの姿がはっきり見えるわ」
バートン夫人「何という通りに住んでましたか」
スピリット「あちらこちらを転々としたわ」
博士「あなたはもう肉体を失っておられるのですが、そのことが実感できませんかね。ずっと病気をなさっていたことは覚えてますか」
スピリット「最後に記憶しているのはエル・パソに住んでいたことです。それ以後のことは何一つ記憶にありません。エル・パソに行ったことまでは覚えておりますが、そこを離れたという記憶はございません。どうやら今もエル・パソにいるみたいです。ある日、大病を患ったことを覚えています」
博士「おそらく、その病気でお亡くなりになったのですよ」
スピリット「エル・パソのあと、どこへ行ったかは知りません。かなり遠くまで行きました。列車で行きましたが、なんだか自分が空っぽになったみたいでした。誰一人話しかけてくれず、私はただその夫人(バートン)のあとを召使いみたいに付いて回りました。不愉快でなりませんでしたけどね」
バートン夫人「あなたはその間ずっと歌い通しだったので、私は気が狂いそうでしたよ」
スピリット「だって、あなたは私の言うことを一つも聞こうとしないから、注意を引くためにはそうでもするほかなかったのですよ。あなたが列車に乗るものだから、私は家からも家族からも遠く離されてしまい、それが辛かったのです。お分かりかしら、この気持ち?」
バートン夫人「あなたの方こそ私の気持ちを理解していないのよ」
博士「ご自分の身の上に何が起きたか、お気づきになりませんか」
スピリット「あの雷みたいなものだけは、もうご免です。私は退散しますよ」
博士「ご自分の身の上をよく理解してください。あなたは今はスピリットとなり、愚かにも人間に取り憑いているのです。あなたにはもう肉体はないということを悟りなさい。おそらくあなたは、重病になられた時にそのまま死なれたのです」
スピリット「幽霊と話が出来るのかしら?」
博士「実際にあることです」
スピリット「私は幽霊なんかじゃありません。だって幽霊じゃ喋れないじゃないの。死んだのなら、その辺に転がっているはずよ」
博士「死ねば肉体はその場に転がっていますよ。しかしスピリットは転がってはいません」
スピリット「スピリットは神のもとへ戻ります」
博士「その神というのはどこにいるのでしょう?」
スピリット「天国です」
博士「天国はどこにあるのでしょう?」
スピリット「イエスさまがいらっしゃるところです」
博士「バイブルには『神は愛なり。愛の中に住める者は神の中に住めるなり』とありますが、その神はどこにいるのでしょう?」
スピリット「天国でしょうよ。とにかく、そういう難しいことは私何も知りません。ただ、あの雷みたいな衝撃のために私が地獄のような苦しみを味わっていることだけは確かです。私にとって何の役にも立っていません。真っ平ご免です」
博士「だったら、この夫人に近づかないことです」
スピリット「今その人の姿がよく見えます。ちゃんとした会話が出来ます」
博士「でしょ? でも、これが最後となることでしょうね」
スピリット「どうしてですか」
博士「この場を離れたら、ご自分が別の人間の身体を使って話していたことに気づかれますよ。その別の人間というのは私の妻のことです」
スピリット「ご冗談を! あなたのことをもう少しは物分かりのいい方と思ってましたが・・・」
博士「突拍子もないことに思えるのも無理はありませんが、でも、この手をご覧なさい。間違いなく自分の手ですか」
スピリット「私の手ではなさそうですが、このところ変なことばかり起きているものですから、頭の中がこんがらがってるんです。あの婦人のすることは気狂いじみているのです。私はそれに振り回されて、一体何をしようとしているのか、なぜそんなことをするのか、そればっかり考えているのです」
博士「あなたが出て行ってくれれば彼女は喜びますよ」
バートン夫人「キャリーさん、年齢はいくつですか」
スピリット「女性は年齢を言いたがらないことぐらい、あなたもご存知でしょう?」
博士「ことに未婚の方はね」
スピリット「どうかそれだけはご勘弁を。適当に想像なさってください。私の口からは申しませんから」
博士「ご結婚はなさいましたか」
スピリット「ええ、ある男性と結婚しましたが、好きになれませんでした」
博士「その方の名前は?」
スピリット「それは言えません。絶対に口にしたくありません。彼の姓を名乗りたくもありません。私の名はキャリー・ハッチントン――これが私の本名であり、彼の姓は使いたくありません」
博士「ところで、霊界へ行きたいとは思いませんか」
スピリット「なんという馬鹿げた質問ですこと! 」
博士「あなたには馬鹿げたことに思えるかもしれませんが、霊界は実際にあるのです。霊的なことは人間の常識ではバカバカしく思えるもののようですが、実はあなたはもう肉体をなくしてしらっしゃるのです」
スピリット「なくしてなんかいるものですか。私はずっとこの婦人と一緒に行動しているのですが、私の気に食わないことが一つだけあります。それは、食べ過ぎるということで、もりもり食べて元気をつけるものだから、私は力で敵わなくなるのよ。私のしたいように出来ないということです。
(バートン夫人に向かって)あなた、少し食べる量を減らしてよ。私はいつもあれは食べるな、これは食べるなと言ってるのに、あなたはちっとも感づいてないわね。聞こうともしないのだから・・・」
バートン夫人「私が行きなさいと言っていたのは、ここのことですよ。でもあなたは、どうしても一人では行こうとしなかったわね」
スピリット「分かってますよ。でもあなたは、私をこんな雷の鳴る場所へ連れてくる権利などありませんからね。あんな酷い目に遭うんだったら、一緒になんかいたくないわ」
博士「雷の仕掛けは隣の部屋にあるのですが、少し掛けてあげましょうか」
スピリット「いえ、結構です。もうたくさんです」
博士「だったら、私の言うことをよく聞きなさいよ。言う通りになされば、あんなものは必要ないのですから。いいですか、あなたは何も知らずにいるスピリットなのです。今、置かれている事情を知らないという意味です。あなたはもう肉体を失ったのです。ご自分では気がついていないようですが・・・」
スピリット「そんなことが、あなたにどうして分かるのです?」
博士「あなたは今、私の妻の身体を使って喋っているのですよ」
スピリット「私はこれまで一度もあなたにお目にかかったことがないのですよ。その私があなたの妻だなんて、そんな馬鹿なことがこの広い世の中に有り得ますか。冗談じゃないわ?」
博士「私もそれはご免こうむりますよ」
スピリット「こちらこそ! 」
博士「実はこれ以上、私の妻の身体を使って頂くと困るのです。あなたはもう肉体がなくなっていることを悟らないといけません。この手(ウィックランド夫人の手)をご覧なさい。ご自分のものだと思われますか」
スピリット「近頃私の身の上に色々と変化があったものですから、頭が変になりそうなのです。もう、うんざりですわ」
博士「これ! キャリー、いい加減に目を覚ましなさい」
スピリット「私はちゃんと目を覚ましてますよ。そんな言い方は止めてください。さもないと、あなたの聞いたこともないことをある人に言わせてやりますからね」
博士「これ、キャリー! 」
スピリット「私はミス・キャリー・ハッチントンでございます」
バートン夫人「キャリー、先生のおっしゃることをよくお聞きなさい」
スピリット「私は誰の言うことも聞く気はありません。きっぱりそう申し上げておきます。あの人になったりこの人になったり。もうこの先どうなっても平気です」
博士「今、あなたは、私の妻の身体を使って喋っていることをご存知ですか」
スピリット「馬鹿なことをおっしゃい! そんな気狂いじみた話は聞いたことがないわ! 」
博士「そろそろ分別心を働かせないといけません」
スピリット「分別心? 私は立派な分別心をもっておりますけど・・・。では、あなたは完璧な人間ですか」
博士「もちろん完璧ではありません。私が言ってるのは、あなたはもうスピリットとなっているのに、そのことを理解せずに、身勝手なことをしているということです。あのご婦人をずっと苦しめていらっしゃるのです。それで、例の『雷』を使ってあなたを追い出したわけです。あなたが認めようが認めまいが、今はもうあなたはスピリットなのです。その事実についてあなたは無知でいらっしゃる。素直に言うことを聞かないと、隣の治療室へ連れてって、またあの『雷』を見舞いますよ」
スピリット「あれはもう勘弁してください」
博士「だったら、その態度を改めなさい。生命に死は無い――肉体を失っても人間の目に見えなくなるにすぎないことを、素直に理解しなさい。(あなたからは私達が見えても)私達からは、あなたは見えてないのですよ」
スピリット「私はお二人とは何の関係もございませんので・・・」
博士「私達はあなたの力になってあげたいのです。なんとかして今の身の上の真実を分からせてあげたいと思っているのです」
スピリット「お力添えは無用ですよ」
博士「どうしても言うことを聞かないとなったら、高級霊の方達に連れて行って頂いて、牢に入れてもらいますよ」
スピリット「私に脅しをかけるつもりなのね! そんなことをしたら、あなたこそ酷い目に遭いますよ。覚えてらっしゃい! 」
博士「その意固地な態度を改めなさい。あたりをご覧なさい。あなたに気づいてもらおうと思っている人が目に入るでしょう? その人を見たらあなたは泣き出すでしょうよ」
スピリット「私が泣いたりなんかするものですか。反対に歌い出しちゃいますよ」
博士「お母さんは、今どこにいますか」
スピリット「永いこと会っておりません。え、母ですか? ああ、母ね! 母ならもう天国へ行ってますよ。立派な女でしたからね。今頃は神と聖霊と、その他もろもろの人達と一緒にいることでしょうよ」
博士「あたりを見回してご覧なさい。そのお母さんがいらっしゃいませんか」
スピリット「ここは天国じゃありませんよ。とんでもない! もしもここが天国だったら、地獄より酷いところですよ」
博士「お母さんを探し出すことです。今のあなたの恥ずべき状態を聞かせてくれますよ」
スピリット「私は何も恥ずべきことはやっておりません。一体なぜ私にあんな雷なんか落としたり牢へ入れたりなさるんです? 私はそこのご婦人と話し合って取り決めたことがあるのです」
博士「この方は私のところへ来られて、あなたを取り除くための取り決めをなさったのです。そこで電気仕掛けで、あなたをこの方の身体から追い出したというわけです。もうこの方はあなたの仲間ではありません」
スピリット「そうね、みんなしばらく私から離れちゃったわね(憑依霊のこと)。見当たりませんもの。あの背の高い男をなぜ追い出したのですか」
博士「それは、自分の身体が大事だからですよ。地縛霊に苦しめられたくはありませんもの。あの連中と一緒がいいのですか」
スピリット「あなたのおっしゃってることの意味が分かりません」
博士「あなたはご自分がこの婦人を悩まし、地獄のような毎日を送られていたことがお分かりになりませんか」
スピリット「(バートン夫人に向かって)私はあんたを悩ませてなんかいませんよ」
バートン夫人「今朝だって私を三時に起こしたじゃありませんか」
スピリット「あなたに寝る資格はないわよ」
博士「あなたはあなたなりの生き方をしなきゃダメです」
スピリット「そうしてるつもりです」
博士「言うことを聞かないと暗い牢の中で暮らすことになりますよ」
スピリット「どうしてそんなことが言えるのよ?」
博士「あなたに、いつまでもそのままでいてくれては困るのです。もっと素直になって助けを求めた方が身の為ですよ。私は妻と共にこの仕事を何年もやってきました。妻はこうやっていろんな性格のスピリットに身体を使わせてあげて救ってあげているのです」
スピリット「(皮肉っぽく)まあ、立派な奥さんですこと!」
博士「恥を知ることも大切です。いかがです、お母さんの姿が見えませんか」
スピリット「見たいとも思いませんね。天国から呼び戻すこともないでしょう」
博士「天国というのは、『幸せである状態』のことですから、あなたのような娘がいては、お母さんも天国なんかにいる心地はしないでしょう――幸せにはなり切れないでしょう。いかがです、もしもあなたが天国にいて、地上に一人の娘がいて、その娘が今のあなたのような状態でいるとしたら、あなた平気でいられますかね」
スピリット「私はへそ曲がりではありません! 私のどこがいけないというのですか。おっしゃってください!」
博士「それはもう言いました。あなたは私の妻の身体に取り憑いているのです」
スピリット「私にどうしてそんなマネが出来るというのです?」
博士「物質の法則を超えた霊的な法則があるのです。そして今はもうあなたは一個のスピリットなのです。スピリットや精神は肉眼では見えないものです。あなたはわがままで、物事を理解しようとなさらないけど・・・」
スピリット「ここは天国なんかじゃありません」
博士「ここはカリフォルニアのロサンゼルスです」
スピリット「お願いだから冗談はやめてよ! 私はどうやってここに来たのかしら?」
博士「こちらの婦人に取り憑いてきたのです。そういうわけです。おかげでこの方は、あなたを取り除くために、あの雷を受ける羽目になったのです」
スピリット「お馬鹿さんですね、そんなマネをするなんて」
博士「なんとしてもあなたに離れてもらいたい一心からなのです。なんとしても離させるでしょうよ」
スピリット「あの雷だけはもうご免こうむります」
博士「素直に言うことを聞かないと、高級霊の方達があなたの嫌がるものをお見せしますよ」
スピリット「(ある幻影に怯えて)それだけは止めて!」
博士「お望みではなくても、こうするしかありません」
スピリット「そんなのないわ! 」
どうしても理解させることが出来ないので、このスピリットはマーシーバンドに引き取ってもらった。
第2項 バートン夫人の憑依霊2
スピリット=ジミー・ハンチントン
患者=バートン夫人
霊媒に乗り移るとすぐ両足の靴を蹴って脱ぎ捨て、ひどくイラついている様子。
博士「どうなさいました? 何か事故にでも遭ったのですか。(霊媒の両手をしっかりと押さえて)靴を履いていませんね?」
スピリット「今脱いだんだ! 」
博士「お名前を聞かせて下さい」
スピリット「名前なんか知らんよ」
博士「どちらからおいでになりました?」
スピリット「そんなこと言う必要ないね」
博士「ぜひお名前を窺いたいものですな。どうなさったんですか。どうもご機嫌がよろしくなさそうですな」
スピリット「よくないね」
博士「このところ何をなさってましたか」
スピリット「何もしてないよ。ただ歩き回っているだけだ」
博士「その他には?」
スピリット「そうさな、特にこれといって、別に・・・どこかに閉じ込められたみたいな気がするな」(バートン夫人のオーラの中のこと)
博士「どんな具合に?」
スピリット「それは分からんが、とにかく出られなくなってしまった」
博士「もっと詳しく説明してくれませんか」
スピリット「説明なんかできんよ」
博士「誰かが話をしているのが聞こえましたか」
スピリット「ああ、大勢の人間が喋ってたな」
博士「どんなことを言ってましたか」
スピリット「あれこれ、好きなことを言ってたね。みんな自分が賢いと思ってるんだよな」
博士「あなたにも話すチャンスはあったのでしょ?」
スピリット「あったけど、いつも一人の女がいて、そいつが俺の言おうとすることを全部先取りするもんだから、頭に来たよ。俺にだって喋るチャンスをくれてもいいと思うんだ。みんなが喋ると、その女が喋り出すんだな。いったん女が喋り出すと、男には口を挟むチャンスはないよ」
博士「結婚はなさってましたね?」
スピリット「勿論さ。結婚してたよ」
博士「うまくいってましたか」
スピリット「どう言えばいいのかな・・・ま、言い訳はよそう。あまり幸せだったとは言えないね。女はいつも喋り過ぎるんだよ。男をそっとしておくということが出来ないんだな」(ここでいう『女』とは憑依霊のこと)
博士「何のことを喋っていましたか」
スピリット「例の女はよく喋る奴でね。のべつ喋りまくるんだ(バートン夫人はいつも独り言を言い続けていた)。少しの間も黙ってはいられないんだな。大人しくさせてやりたい気持ちに何度かなったけど、そのうち新参者が入ってきて、また喋りまくるんだ。もう嫌になってね。それで俺は出て来たんだ。あんなひどい連中はいないよ」
博士「何か変わったことでも起きたんですか」
スピリット「頭のまわりで稲光がして、それきり自分がどこにいるのか分からなくなった(バートン夫人に電気療法を試みた)。遠くで光ったと思ってたんだが、それが見事にこの俺様に命中しちゃってさ!」
博士「その瞬間どうしようと思いましたか」
スピリット「稲妻を取っ捕まえて、俺の頭に当たらないようにしてやろうと思ったんだけど、ことごとく命中するんだな。一度も当たり損ねがないんだ。稲妻というのは、そういうもんじゃなかった――そう滅多の当たるもんじゃなかった。が、今度のは、みな当たるんだ。こんなの初めてだ。今もあんたの目の前にチラチラするものが見えて、おっかなくて仕方が無いが、あの女は稲光がしている時でも平気で喋り続けるんだから・・・」(バートン夫人は電気治療を受けている間でも独り言を言い続けていた)
博士「どんな話をするんですか」
スピリット「下らんことさ。あの女はボスでありたいだけで、俺もボスでありたいから、結局二人が一緒にいることになってしまう」
博士「その女性はどんなことを喋るのですか」
スピリット「女がどういうものか、あんたもよく知ってるはずだ。とにかくよく喋るんだなぁ。どうしようもないよ」
博士「その人からあなたに話しかけることがありますか」
スピリット「もう、のべつ悩まされ通しさ。なんとかして黙らせたいんだけど、これ以上俺には力が出せそうにないよ。そう思ってるうちに別の女が出て来て、同じように喋り始めるんだ。もう、うんざりだよ。女を黙らせるいい方法を知らんかね? たとえご存知でも、手こずるだろうよ」
博士「あなたのお名前は?」
スピリット「永いこと呼ばれたことがないね」
博士「どちらから来られましたか。今カリフォルニアにいらっしゃるんでしたかね?」
スピリット「いや、テキサスだ」
博士「子供の頃、お母さんはあなたのことを何と呼んでましたか」
スピリット「ジェームズが本当なんだが、みんなジミーって呼んでた。それにしても、この俺は、一体どうなってるんだろうな、まったく! あの雷が俺の膝から足へ、頭から足へと当たりやがる。とにかく合点がいかんのは、必ずこの俺に命中するってことだ」
博士「今、おいくつですか」
スピリット「ま、五十ばかりになる男性と言っておこう。ただ、この年齢になるまで、あんな稲妻は見たことが無いし、なんとしても理解できないのは、その稲妻が当たっても、何一つ燃えたためしがないということだ。
それにしても、昨日もいつもの寝所に入ったんだが、あんなにひどい夜はなかったね。どいつもこいつも、悪魔ばかりだった(憑依霊のこと)。今もあそこに一人立ってるが、あれは、昨日来た奴だ」
博士「ジミー、死んでどのくらいになりますか」
スピリット「それはどういう意味かね?」
博士「つまり肉体を失ってからどのくらいになるかということです」
スピリット「肉体を失ってなんかいないよ」
博士「どうも感じが変だということを感じたことありませんか」
スピリット「ずっと変だよ」
博士「テキサスで石油関係の仕事に携わったことはありませんか」
スピリット「どこで働いていたかよく分からん。とにかく何もかも変なんだ」
博士「どういう仕事場で働いていましたか」
スピリット「鍛冶屋だ」
博士「今年は何年だかご存知ですか」
スピリット「いや、知らんね」
博士「この秋の選挙はどうしますか。誰に投票するつもりですか」
スピリット「まだ分からんね」
博士「今の大統領をどう思われますか」
スピリット「好きだね。なかなかやるんじゃないかな?」
博士「大統領について何か特別に知ってることがありますか」
スピリット「彼はいい。ルーズベルトは一点非のうちどころがないよ」
博士「では、ルーズベルトが大統領なんですね?」
スピリット「無論、そうさ。当選したばかりだ。マッキンレーも中々の人物だったんだが、マーク・ハンナが彼を牛耳ってたな。が、俺はもう随分永いこと政治のことには関心がないよ。それに、あの女に黙らされてるしね。四六時中喋りやがって、俺はもう気が狂いそうだよ」
博士「そんなに喋るのは、一体どういう女性なんでしょうね?」
スピリット「あんたにはその女が見えないのかい?」
博士「ここにいないのでは?」
スピリット「いや、いるとも。ちゃんといますよ。その人だよ」(バートン夫人を指差す)
博士「どういう話をするのですか」
スピリット「下らんことばかりさ。もう、うんざりだよ」
博士「特にどんなことを言ってますか」
スピリット「これといって、特にないね。あいつにはセンスというものがないんだよな。時折この俺を小馬鹿にすることがある。いつか仕返しをしてやるつもりだ。それにしてもしぶといよ、あいつは・・・」
博士「ところで、あなたは今どういう状態にあるのか、その本当のところを知って頂きたいと思うのですが。実はあなたは肉体を失って、今はスピリットになっておられるのですよ」
スピリット「俺にはちゃんと肉体はあるよ」
博士「その肉体はあなたのものではありませんよ」
スピリット「じゃあ、誰のだ?」
博士「私の妻のものです」
スピリット「冗談も休み休み言ってくれよ! 俺があんたの奥さんだなんて! 男がどうして女房になれるんだよ。バカバカしい!」
博士「あなたは今はもうスピリットなのです」
スピリット「スピリット? 幽霊(ゴースト)だって言うのかい? 馬鹿もいい加減にしてくれよ!」
博士「スピリットもゴーストも同じことです。」
スピリット「ゴーストがどんなものか、スピリットがどんなものか、俺はちゃんと知ってるよ」
博士「どちらも同じです」(と霊媒の手を取りながら言う)
スピリット「おい、おい、男が男の手を握るのは、やばいよ。どうせ握るのなら、どこかのご婦人にしなよ。男同士は手を握り合わないものだ。ぞっとするぜ」
博士「その女性は何と言ってるんでしょうね?」
スピリット「ただ喋りまくるだけで、ロクなことは言ってないよ」
博士「若い方ですか、年を取っていますか」
スピリット「そう若くはないね。俺は見ただけで胸がむかつくんだ」
博士「あなたが今はもうスピリットであると私が言ったのは、ありのままの事実を申し上げてるんですよ」
スピリット「では、この私がいつ死んだというのだね?」
博士「かなり前のことに相違ないでしょうね。ルーズベルトが大統領だったのは、もうずいぶん前の話ですから。ルーズベルトも今ではあなたと同じスピリットになっています」
スピリット「俺と同じ? おい、おい、彼は死んだと言うのかい?」
博士「あなたも死んだのです」
スピリット「こうしてここにいて、あんたの言うことが聞こえている以上、死んでるはずがないじゃないか」
博士「あなたは肉体を失ったのです」
スピリット「おい、おい、そんなに手を握らんでくれよ。気持ちが悪いよ」
博士「私は、私の妻の手を握っているのです」
スピリット「奥さんの手を握るのは勝手だが、俺の手は離してくれよ」
博士「この手があなたのものだと思いますか」
スピリット「これは俺の手じゃない」
博士「私の妻の手ですよ」
スピリット「でも、俺はあんたの奥さんじゃないからね」
博士「あなたは私の妻の肉体を一時的に使用なさっているのです。ご自分の肉体は、とうの昔になくしておられるのです」
スピリット「どういう具合にしてそういうことになっちゃったのかね?」
博士「私には分かりません。あなたはここがカリフォルニアのロサンゼルスであることをご存知ですか」
スピリット「冗談じゃない、どうして俺がカリフォルニアなんかに来れるんだ? まったくの文無しだったのに。
あのね、今ここに二人の女性がいるんだが、一人はあまり喋らない。どうやら病気らしい(バートン夫人に憑依している別のスピリット)。多分もう一人の女がやたらに喋るもんだから、あんたもこんがらがっちゃったのだろう。
頼むから、俺の手を握らんでくれんかな。窮屈で仕方が無いよ。どこかのご婦人と二人きりというのなら話は別だけどな。両方の手を握らないと気が済まないのかね?」
博士「大人しくしないから、両手を握らざるを得ないので。さ、これ以上時間を無駄にするのは止めましょう」
スピリット「俺も、時々、両手を遊ばせておれないほど忙しくなりたいと思うことがあるよ」
博士「では、仕事をあげましょう」
スピリット「ほんとかね、それは? そいつは有り難い。何でもいいから仕事をくれれば嬉しいね。馬に蹄鉄を打つ仕事なんかどうかな? 俺は昔は蹄鉄を打つ仕事をやってたんだ」
博士「どこの州で?」
スピリット「テキサス。でかい州だよ」
博士「ずいぶん放浪したんじゃないのですか?」
スピリット「うん、相当な。ガルベストン、ダラス、サンアントニオ、その他随分行ったな」
博士「あなたは今はもうスピリットとなっていて、少しの間だけ私の妻の身体に宿って話をすることが許されているのです。私達には、あなたの身体は見えてないのです」
スピリット「おい、おい、あの鬼みたいな連中を見ろよ。まるでいたずら小僧みたいに跳ね回ってるよ(憑依霊のこと)。みんなあの婦人(バートン夫人)を取り囲んでいるよ」
博士「あなたがどいてくれれば、連中もみんな一緒に片付くのですがね」
スピリット「ご免だね、それは。(ネックレスに触りながら)何だ、こりゃ?」
博士「私の妻のネックレスですよ」
スピリット「あんたの奥さん?」
博士「このたびは、あなたにぜひ知って頂きたいことがあってお連れしたのです。あなたは例のご婦人から火であぶり出されたのです」
スピリット「いかにも。稲妻でな。あんなにひどいのは見たことが無い。テキサスでもアーカンソーでも、雷と稲妻のお見舞いはよく食らったものだが、今度みたいに、光る度に直撃を食らうことはなかったんだが・・・」
博士「もう、これからは雷も稲妻もありませんよ」
スピリット「本当かね? そいつは有り難い」
博士「お母さんはテキサスにお住まいでしたか」
スピリット「そうだ。だが、もう死んじゃったよ。葬式に立ち会ったから間違いないよ」
博士「それは、お母さんの肉体の葬式に立ち会ったということで、お母さんの霊、魂、ないしは精神の葬式ではありませんよ」
スピリット「母は天国へ行ったと思うね」
博士「見回してご覧なさい。お母さんの姿が見えませんか」
スピリット「どこに?」
博士「この部屋にですよ」
スピリット「ここは、一体どこなんです? 俺があんたの奥さんだと言われても、俺はあんたには一度も会ったことがないからね」
博士「あなたは私の妻ではありません」
スピリット「でも、さっき俺のことをそう言ったじゃないか」
博士「あなたが私の妻だと言ったのではありません。あなたは今、一時的に私の妻の身体を使用していると言ったのです」
スピリット「まいったね、これは。一体、どうやったら奥さんの身体から出られるのかね?」
博士「私の言うことをよく聞きなさい。いたずら小僧達は何と言ってますか」
スピリット「このまま留まりたいと言ってるね。だが俺は、みんな一緒に出るんだと言い聞かせてるんだ、大声でね」
博士「やっぱり一緒に出てほしいでしょう?」
スピリット「まあね」
博士「彼らに心を入れ替えさせて、自分が今どんな状態にあるかを分からせることによって、あなたは彼らを大いに救ってあげることになるのです。彼らは助けが必要なのです。あなたも含めて、みんな本当の事情が分からずに、あの婦人に迷惑をかけていたのです。みんなスピリットの世界へ行って、どんどん向上できるのです」
スピリット「あのご婦人も行くのかな? 他にも随分いるよ。まるで集団だよ。でも、俺はそのうちの一人として知ってる奴はいないね」
博士「誰か顔見知りの人が見当たりませんか。少し落ち着いて、じっくり見てご覧なさいよ」
スピリット「(興奮ぎみに)おや、ノラがやってきた!」
博士「どういうご関係ですか」
スピリット「ノラ・ハンチントン――俺の妹だよ」
博士「あなたの名前がジミー・ハンチントンじゃないか、尋ねてみなさい」
スピリット「そうだと言ってる。ずいぶん久しぶりねとも言ってる。(急に戸惑いながら)待てよ、妹は死んだはずだが・・・」
博士「妹さんに事情を聞いてごらんなさい」
スピリット「一緒においで、なんて言ってるけど、一体どこへ行くんだろう?」
博士「何て言ってますか」
スピリット「霊界だとよ――信じられんな、あいつの言ってることは・・・」
博士「妹さんは嘘をつく人だったんですか」
スピリット「そんなことはないよ」
博士「だったら、今だって嘘をつくはずはないでしょう?」
スピリット「俺を随分探したけど、どうしても居場所が分からなかったと言ってる」
博士「妹さんは今までどこにいたんでしょうね?」
スピリット「あいつはもう死んでるんだ。俺はあいつの葬式に出たから間違いないよ。生き埋めにされたのではないことは確かだ」
博士「あなたが出席したのは妹さんの肉体の埋葬式で、霊魂は埋葬されてはいませんよ」
スピリット「じゃあ、あれは妹のゴーストというわけ?」
博士「妹さんはしっかりしたスピリットになっておられるはずですよ。そのあたりのことは私から言うよりも、妹さん自身から聞いてごらんなさいよ」
スピリット「『一緒に行きましょう、あの大勢の人達もお連れしましょうよ』と言ってる。今は使節団の一人になって、救える人なら誰でも救ってあげてるらしい。不幸な人達を救ってあげてるんだそうな。俺もその一人ってわけだな?」
博士「例のおしゃべりの女性にも一緒に行くように言ってあげてください」
スピリット「出てしまうと身体がなくなってしまうと言ってるよ」
博士「こう言ってあげてください――肉体の代わりに霊体というのがあり、もう肉体はいらないのだと。そして、一緒についてくれば幸せになる方法を教えてくれる人がいるということもね。例のいたずら小僧達も連れてってくださいよ」
スピリット「全部は無理だよ。第一、みんなついてくる気になるかどうかも分からんしね」
博士「今よりも幸せになれることを実際に示してあげれば、ついていく気になるでしょう。多分あの人達は、生涯に一度も幸せになれるチャンスがなかったのでしょうからね」
スピリット「俺だってこんなことは思いもよらなかったことさ」
博士「ですから、全面的に彼らを咎めるつもりはありませんよ。もっともっと幸せになる生き方があることを教えてあげれば、みんなついてきますよ」
スピリット「では、一体ここはどこですか」
博士「カリフォルニアです」
スピリット「カリフォルニアのどこですか」
博士「ロサンゼルスです」
スピリット「あんたがロサンゼルスにいるからといって、俺もロサンゼルスにいるとは限らないだろう?」
博士「今ここにいるのに、他のどこに存在できるのですか」
スピリット「それも一理あるな。テキサスのダラスにいたことまでは覚えてるよ。たしか馬に蹄鉄を打ってた時に後頭部をぶたれたんだ。奴は俺を殺したってわけか?」
博士「殺したというか・・・要するに、あなたを肉体から離れさせたわけです。死んで消えてしまう人はいません。さ、早く行かないと妹さんが待ちくたびれますよ」
スピリット「行けるものなら今すぐ行ってもいいが、歩いて行かなきゃならないじゃないか」
博士「歩いて行く? 私の妻に宿ったまま? あなたに是非新しいことを勉強してほしいですね。妹さんと一緒にいる、と念じるだけでいいのです。次の瞬間には妹さんのところへ行ってますよ。思念で進むのです」
スピリット「へえ、そいつぁいいなあ」
博士「さあ、これ以上その身体に留まっていてはいけません」
スピリット「面白い言い方をしましたな」
博士「私の妻の身体ですからね」
スピリット「この身体から出たあとは、どんな身体を使うのかね?」
博士「霊体ですよ。私達の肉眼には見えないのです」
スピリット「この身体から飛び出して、うまくその霊体に入れるのかね?」
博士「妹さんが教えてくれますよ。妹さんと一緒にいると、念じるだけでいいのです。肉体はいらないのです」
スピリット「なんとなく眠気をもよおしてきたな」
博士「妹さんについていって、色々教わりなさい。スピリットの世界について新しいことを色々教えてくれますよ。例の仲間の人達も連れてってやりなさい」
スピリット「(仲間に向かって)おい、お前達、俺についてくるんだ。みんなだぞ」
博士「ついてきそうですか」
スピリット「大丈夫です。さ、お前達、ついてくるんだ! では、さようなら」
第3項 バートン夫人の憑依霊3
その後の招霊会に『ハリー』という名のスピリットが出現して、バートン夫人を悩ませているもう一人の憑依霊について、興味深い話をしてくれた。
博士「どちらからおいでになりましたか」
スピリット「今どこにいるのかも分からんのです。自分がどうなっているのかも分からんのです」
博士「事情を知りたいのですか」
スピリット「何がどうなっているのかが分からんのです」
博士「何かあったのでしょう?」
スピリット「それを知りたいくらいです」
博士「最近は何をしてましたか」
スピリット「分かりません」
博士「お名前を教えて下さい。名前くらいご存知でしょう?」
スピリット「そりゃ、まあーええと、知ってると思うんだけど・・・」
博士「ここはどこだと思いますか」
スピリット「知りません」
博士「いえ、ご存知のはずです」
スピリット「知りません。何もかもが変で、何がどうなってるのか、さっぱり分かりません」
博士「振り返ってごらんになって、何か思い当たることがありませんか」
スピリット「振り返るったって、背中に目がついてないもんで・・・」
博士「思い出してみなさいという意味です」
スピリット「背中のことをですか」
博士「いいえ、過去のことをです。考える力を働かせてごらんなさいよ」
スピリット「何も分かりません」
博士「そんなに考え不精では困りますね」
スピリット「人間に何が出来るんでしょうね?」
博士「この肉体は女性ですが、あなたは男性ですか女性ですか」
スピリット「男性ですよ。あの人も男性で、他の人達は女性です。私はずっと男性です。女性になったことなんか一度もありません。これからもなりません。私は男ですとも」
博士「その手をごらんなさい。そんな手をどこで仕入れられましたか?」
スピリット「これは私の手じゃない」
博士「足をご覧になってください」
スピリット「これも私のものではない。私は女になったことなんかない。手も足も女のものはご免だ。他人の身体なんか借りたくないね」
博士「年配の方でしょうか」
スピリット「ガキじゃないよ」
博士「年齢はどうやらおありのようですが、知識がないようですな」
スピリット「ないね。大した知識があるとは思ってない」
博士「知識がおありであれば、こんなことにはならなかったでしょうからね」
スピリット「それとこれとは別だ」
博士「あなたに一番欠けているのは知識なのです。お名前を教えて下さい。メアリーでしたかね」
スピリット「メアリーなんて名の男がいるもんですか。滑稽な」
博士「だから教えてくださいよ、お名前を。私は当てずっぽうを言うしかないのですから・・・」
スピリット「男ですよ。男の名前ですよ。女じゃないよ」
博士「さ、自己紹介を」
スピリット「一体何の為に名前を言わなきゃいけないのですか」
博士「口は達者のようですね。髪の毛は白髪でしたか」(ウィックランド夫人は白髪)
スピリット「白髪でした」
博士「カールしてましたか。その髪はカールしていますが・・・」
スピリット「そんなはずはない。カールした髪は嫌いなんだ」
博士「クシをさしておられたのですか」
スピリット「髪にクシをさした男なんて聞いたことがない」
博士「その結婚指輪はどこで手に入れられましたか」
スピリット「盗んで来たみたいな言い方をしないでほしいね。俺の手は女じゃないんだ」
博士「ジョン、生まれはどこですか」
スピリット「俺はジョンじゃない」
博士「奥さんはあなたのことを何と呼んでましたか。お母さんはあなたをどう呼んでましたか」
スピリット「母はハリーと呼んでたな。結婚はしていない」
博士「姓は?」
スピリット「女ばっかりいるところで名前を言う必要はないだろう」
博士「男性も少しはいますよ」
スピリット「一体何故、こんな女ばっかりのところに連れて来るんだ?」
博士「失恋なさったようですね?」
スピリット「そんなことを女どもに言うほど馬鹿じゃないよ」
博士「彼女はなぜもう一人の方を選んだのでしょうね?」
スピリット「彼女って誰のことだ?」
博士「あなたを捨てた女性ですよ」
スピリット「違う、そんなんじゃない!」
博士「失恋なさったんじゃないのですか」
スピリット「違う! 」
博士「じゃあ、なぜそんなに女性を嫌うんですか」
スピリット「こんなに大勢の女の前で秘密が言えるもんか。笑われるのがオチだよ。一体なぜ、この女達が俺をジロジロ見てるのかが知りたいね。あそこにいるあの男、あいつはどうしたんですか。あの婦人(バートン夫人)の後ろにいるあの男のことだよ」
バートン夫人「あたしは男嫌いでしてね。男には近づかせませんよ」
スピリット「なぜあの男は彼女のそばにいるのかな。彼女の旦那かな? 奥さん、あの男はなぜあんたにつきまとってるんです? あんたがどうかしたんですか。よっぽど彼氏のことが好きで、それで彼があんたから離れられないんでしょうかね?」
博士「死んでどれくらいになるのか、その男に聞いてみてください」
スピリット「嫌な奴だね。俺はおっかないよ。今にも喧嘩をふっかけられそうだ」
博士「死んでどれくらいになるのか、聞いてみてください」
スピリット「死んで? 彼女にぴったりくっついていて、彼女が動くと彼も動いてる。まるで猿まわしだ」
バートン夫人「彼も一緒に連れてってくれませんか」
スピリット「なぜこの俺が? 俺はあんな男は知りませんよ。奥さん、あの人が好きなんじゃないですか」
バートン夫人「とんでもない。うんざりしてるんですよ」
スピリット「一体どうなってるのかな? あんたの旦那さんですか」
バートン夫人「違います。なぜつきまとうのか、あたしにも分からないのです」
スピリット「あんたは彼のこと好きなんですか」
バートン夫人「とんでもない! 逃げ出したいくらいですよ」
スピリット「ここは一体どこですか」
博士「カリフォルニアのロサンゼルスですよ」
スピリット「彼女にはもう一人、女もつきまとってるな。ぴったりくっついてる」
バートン夫人「あなたに力になって頂きたいのです。その人達をみんな連れ出して頂きたいの」
スピリット「つきまとってるあの男、あんた好きなの?」
バートン夫人「とんでもない! 逃げようと思って必死なのよ。ドアは大きく開けてあるから、いつでも出て行けるわ」
スピリット「冗談じゃない、ドアは閉めといた方がいいよ。あんなのにつきまとわれるのはご免こうむるよ。警察を呼んだらどう? 嫌な奴だと思うのなら、警察に連れ出してもらうんだな」
博士「みんなスピリットなのです」
スピリット「スピリット?」
博士「そうです。あなたと同じスピリットなのです」
スピリット「へえ、あの女の後ろに立っている男、あれがゴーストだって言うつもり?」
博士「見えますか」
スピリット「あいつはスピリットなんかじゃない、立派な人間だ。ちゃんと立ってるもの」
博士「彼もスピリットなんだけど、そのことが悟れずにいるのです。彼女には彼の姿が見えないし、我々にも見えません」
スピリット「ここは、一体どういうところなんです?」
博士「あなたも、我々には見えてないのです」
スピリット「見えてない? 声は聞こえますか」
博士「声は聞こえますが、姿は見えません」
スピリット「目が開いているのに見えない人の集まりというわけか。俺には全部見えるんだが・・・。この部屋は人でいっぱいだ」
博士「声が聞こえるといっても、女性の口を通して聞こえてるだけですよ」
スピリット「冗談はよしてくれ。俺が女の口で喋ってるだって? とんでもない! ただ、今の自分が一体どうなってるのかが分からんのです。なぜこんなところにいなきゃならないのかが分からんのです。あんた達からジロジロ見られてるし、他にも大勢の者が立って見つめている。あいつらも話は出来るのかね?」
博士「説明しますから、よく理解してくださいよ。まず第一に、あなたは、いわゆる死んだ人間なのです」
スピリット「この俺が死んだ人間? こりゃ、いいや」
博士「あなた自身が死んだわけではありません」
スピリット「でも、今、俺のことを死んだ人間と言ったじゃないか」
博士「家族の者や知人にとっては死んだ人間となってしまったということです。でも、今度は霊体があります。あなたにはちゃんと自分という意識がある。そして、霊体をもっておられる。その辺の事情がまだお分かりになれないだけなのです」
スピリット「随分歩き回ったことは覚えてる。どこまで歩いても行き着くことがない。それが今は、こうして大勢の人間の前にいる。知らないうちに明るいところへ来ていた。気がついたら、みんなが輪になって祈っている。それで足を止めた。そして、いつの間にか喋り始めていた。それまでは何も見えず、疲れ果てていたのに・・・」
博士「今あなたに見えている人達のほとんどが、あなたと同じスピリットなのです」
スピリット「何のためにこんなところへ?」
博士「あなたの身の上を理解して頂くためです。あなたは今、私の妻の身体を使っておられるのです。あなたが私の妻だというのではありません。私の妻の身体に宿っておられるのです。あなたにはとんでもないことに思えるでしょうけど、でも事実なのです。あなたの姿は私達には見えていないのです。私の妻の口を使って喋っているのです。先ほどあなたが気にしていた男の人も、スピリットなのです。あなたが行かれる時に、一緒に連れてってあげてください。あの人も私達には姿は見えてないのです」
スピリット「叩きのめしてやりたいね、奴を」
博士「バイブルはお読みになったことがありますか」
スピリット「ああ、あるとも、ずっと昔ね。もう、随分永いことお目にかかってないけどね」
博士「イエスが、取り憑いていた悪霊を追い出した話を覚えていらっしゃいますか。その男もこの女性(バートン夫人)に取り憑いているのです」
スピリット「他にも何人かいますよ」
バートン夫人「もう誰も入れないようにしてますからね」
スピリット「厳重に戸締まりをしてくれれば、俺があいつらを連れてってあげるよ。だけどあいつだけは、叩きのめしてやりたいね。おい、名前は何て言うんだ?」
博士「何て言ってます?」
スピリット「ジム・マクドナルドだそうです。奥さん、そんな名前の人間を知ってますか。あいつがスピリットなら、なぜ嫌われている女につきまとうのかな?」
博士「あなたと同じように、あのスピリットもここへ連れてこられたのですよ。あなたも、明かりが見えて、気がついたらここへ来ていたわけでしょう?」
スピリット「暗がりを歩いているうちに、あの婦人が見えたと言ってます。俺もこのままずっと、ここにいなきゃなりませんか」
患者の一人「私の周りにいるスピリットの名前を聞いてくださらない?」
スピリット「二人いるね。時々喧嘩してる。今も喧嘩してるよ」
患者の一人「私も喧嘩するのよ」
博士「腕ずくで喧嘩してはいけませんよ。スピリットにエネルギーと磁場をやることになりますから。心の中で喧嘩するのです。それよりも、いい加減あなたもおしまいにしては?」
スピリット「この俺にできることなら、あの人達を連れてってもいいです。もう二度と喧嘩しないのなら、ですけどね。それにしても、一体この俺はどうなってるんですかね? どうも変な気分です」
博士「お家はどこでしたか」
スピリット「ミシガン州のデトロイトです」
博士「記憶にある年代は?」
スピリット「何も思い出せない」
博士「大統領の名前は?」
スピリット「よく覚えてないけど、たしかクリーブランド(第二十四代・1893 097)だったと思う」
博士「彼は随分昔の大統領ですよ」
スピリット「随分歩きっぱなしで、疲れたよ。横になって休むベッドはありませんか」
博士「あたりをご覧になれば、立派なスピリットが大勢来ているはずですよ」
スピリット「なるほど。奇麗な女の子が何人かいる。これ、女達、その手には乗らんからな。一緒に行く気はないね。とんでもないこった! 」
博士「あなたの知ってる女性とはワケが違います。人間ではなくて、スピリットですよ」
スピリット「なんだか男を誘惑するような目つきで、ニコニコしてるよ」
博士「そんなんじゃありませんよ。迷ってる人に援助の手を差し延べようとしている方達ですよ」
スピリット「あの娘達は真面目そうだが、俺は女は嫌いでね」
博士「たった一人の女性にダメにされたからといって、女性全部を悪く言うべきではありませんよ」
スピリット「よし、この連中を全部連れてってやろう。とにかくあの娘達についていってみよう。(驚いた様子で)オヤ、母さんだ! 母はとっくの昔に死んだんだが・・・」
博士「死んでなんかいませんよ」
スピリット「天国へ行ったんじゃなかったのかな?」
博士「聞いてごらんなさいよ。お母さんご自身が教えてくれますよ」
スピリット「霊界という美しい世界にいると言ってる」
博士「霊界は地球を取り巻いているのです。『天国』というのはあなたの心の状態をいうのです。つまり、あなたが心の満ち足りた幸福を感じている時が、天国を見つけたということなのです。イエスもそう説いているでしょ?」
スピリット「母と一緒に行きたいものです。素晴らしい女性になっている。マクドナルドも連れて行きたい。マクドナルド、こっちへおいでよ。こんなところにはもうこれ以上いたくない。お前も一緒に来いよ。何か必死で目を覚まそうとしているみたいな仕草をしている。さあ、元気を出せよ、マクドナルド。お互い、ましな人間になって、あの娘達について行こうじゃないか。俺はもう行くぞ。何だってあんな女にくっついてるんだ、まったく。俺はもう恥ずかしくなってきたよ。じゃあ、行くよ。グッバイ」
バートン夫人「ちゃんとみんなを連れてってやってくださいよ」
博士「お名前は?」
スピリット「ハリーだ。それしか思い出せないよ。永いこと自分の名前を聞いたことがないもんでね」
博士「他の人達にも、いつまでもこんなところにいるのは愚かなことだということを理解させてやってくださいよ」
スピリット「みんな連れてってやろう。さあ、みんな! この俺についてくるんだ。一緒に行きたがらない奴は承知しないぞ! 一人の女につきまとうなんて、恥ずかしいと思わんのか。さあ、俺と一緒に行くんだ。ご覧よ、みんなこっちへ来るよ。俺がまとめて面倒を見てやろう。じゃあね」
第4項 バートン夫人の憑依霊4
別の日の交霊会で、バートン夫人に憑依していたスピリットの一人で『フランク』と名乗る者が、夫人の身体から離れて霊媒に乗り移って語り始めたが、記憶がほとんど戻らない。
博士「どちらからおいでになりましたか」
スピリット「知りません」
博士「ここにどなたかご存知の方がいますか」
スピリット「知った人は見当たりません」
博士「自分がどこから来たかが分かりませんか」
スピリット「分かりません。自分が分からないことに答えられるわけがないでしょう?」
博士「死んでどのくらいになりますか」
スピリット「死んでから? なんということを! 一体、これはどうなってるんですか。こうして私を取り囲んでいるのが、そもそも変です。何かの集会ですか。何という集会ですか」
博士「その通り、集会です。ご自分が誰であるか、ぜひおっしゃってください」
スピリット「どうして名前を言わなきゃならんのですか」
博士「初めてお会いする方だからですよ」
スピリット「こんなわけの分からない集会にいてもいいものやら・・・。どうもこの私は、初めて会う人に変わった人間に映るらしいな」
博士「どちらからおいでになったのか、おっしゃってください」
スピリット「どう思い出してみても、それが分からないのです。返事のしようがないのです。これこれ、なぜ私の腕をつかむのですか。身体は頑強な男です。じっと座ってることくらい出来ますから・・・」
博士「女性だと思っていたものですから・・・」
スピリット「馬鹿を言っちゃ困ります。どこを見て女だと思うのですか。もう一度よく見てくださいよ。間違いなく男ですよ。これまでずっと男でしたよ。ただ、しばらく具合がなんとなくおかしかったことがあったな。
ずっと歩き続けていたら、どこかで歌う声(交霊会の開会の時に出席者全員で歌う)が聞こえたもんだから、覗いてみようかと思ってるうちに、急に気分が良くなった。それまでは気がすっきりしなかったけど、それから(バートン夫人のオーラに引っかかってから)何もかもが、いつもと違うんだな。一体どうなってるんだか、自分でも分からんのです。
例の歌声のしたところへ行ったら事情が分かると言われて、その気になって見かけた人に片っ端から尋ねてみたが、みんな知らん顔で素通りしてしまった。みんなオツにすましていて、私なんかに目もくれなかった。ただ、みんなロウで出来ているみたいに見えたよ。どれくらいの人に話しかけ、どれだけ歩き回ったことか。なのに、誰一人として返事をしてくれなかったし、そこにいるとも思ってくれなかった(スピリットの方から人間が見えても、人間の方からはスピリットが見えないので、知らん顔をしているように思える)。あんたが返事をしてくれた最初の人だ。時折喉に何やら妙なものが引っかかって、その時は喋れなくなるんだが、そのうちまた楽になる。だけど、とにかく何か変だよ、とても変だよ」
博士「いつのことでもいいですから、何か思い出すことはありませんか」
スピリット「毎日のように何かが起きたもんな。あれやこれや思い出すことはあるが、何一つとして明確に思い出せないのだ。一体今の自分がどこにいるのか分からない。こんな変なことは初めてだ」
博士「年齢はおいくつですか」
スピリット「それも分からんのです。もう、かなりの間、忘れてしまっている。誰も聞いてくれる者もいなかったんで、それで自然と忘れてしまったということでしょう。(汽車が通過する音を聞いて)オヤ、汽車だ! 久しぶりだなあ、あの音は。少しの間だが、生き返った心地がするよ。どうなってるのか、さっぱり分からんね」
博士「以前はどこに住んでましたか。今はどこにいると思いますか」
スピリット「以前のことは分からんが、今はこうして大勢の人と一緒に、この部屋にいる」
博士「ここはカリフォルニアのロサンゼルスですよ」
スピリット「冗談言っちゃいけない!」
博士「では、どこだと思いますか」
スピリット「どうも、物事を思い出すのがダメでね。時には自分が女になったように思える時すらあるんです。すると、面白くない目に遭うんだなぁ」
博士「どんな目に遭うんです?」
スピリット「女になると、髪が長くなって、それが垂れ下がると、その面白くないことが起きるんです」(バートン夫人は静電気の治療を受ける時は、いつも髪をほどいて垂らした)
博士「どんなことが起きるんですか」
スピリット「まるで何百本もの針を突き刺されたみたいで、あんな酷い目に遭ったのは初めてだ。もう二度と女なんかにはなりたくない。女になると、またあの酷い目に遭うだけだ。(サークルの中にバートン夫人を見つけて)あの女だ! あの髪の長い・・・。(バートン夫人に向かって)あとで覚えてろよ! 」
博士「あのご婦人をご存知なんですか」
スピリット「知ってるとも。時々私のことをひどく腹を立てて追い出そうとするんだ」
博士「多分、彼女はあなたにくっついていてほしくないんでしょう。彼女に迷惑をかけているんですよ、あなたの方が・・・」
スピリット「あいつだって、この私に迷惑をかけてるよ」
博士「あなたは今、自分がどんな状態にあるかを理解なさらないといけません。ご自分が今はもう、いわゆる『死んだ人間』になっていることが分かりませんか。今あなたは女性になっておられるのです。衣服をご覧なさいよ。男だとおっしゃるけど、女性の服を着てるじゃないですか」
スピリット「頼むよ、私は二度と女にはなりたくないよ。男なんだ! 男でありたいんだ! 前からずっと男だったんだ。それにしても、一体なぜこんな状態から抜け出せないのか分からん。あの女が私に出て行けという。それで出て行こうとするんだが、どういうわけか出られない。(ふと博士に気づいて)お前だな、この私にあの火の針を刺したのは! よくやってくれるよ。お前なんかにいてほしくないね。あんな火の針は、金輪際ご免だ。あんなものには一切関わりたくないね」
バートン夫人「私に取り憑いてどれくらいになるの?」
スピリット「あんたに取り憑いた? あんたこそ私を追い出そうとしてるじゃないか。私と一緒にいたあの女性はどうした(同じバートン夫人に取り憑いていたもう一人のスピリットで、キャリー・ハッチントン)? あの人は私のために歌を歌ってくれたんだが、いつの間にかいなくなっちゃったんだ。さんざん探したんだが見つからない。ご存知ないですか」
博士「あの方はバートン夫人から離れてから、今のあなたと同じように女性の身体を使って私と話をして、それからスピリットの世界へと向かわれました。あなたもここを出た後、同じスピリットの世界へ行くのですよ」
スピリット「私はあの人(バートン夫人)から、あんな叱られ方をするいわれはない。何も悪いことはしていないからね」
博士「もしあなたが女性で、あなたにスピリットが取り憑いたら、それをあなたは好ましく思いますかね?」
スピリット「勿論、それは困るね」
博士「ところが、あなたはそれをあの婦人にしていたわけですよ。あなたは霊で、彼女は生身の人間です。あなたにどいて欲しいわけです」
スピリット「彼女はあの火の針でこの私を苦しめるんだ。火の針は彼女の頭に刺さるのだが、それがこの私の頭に突き刺さるみたいだ」
博士「彼女は生身の身体に宿っています。あなたはスピリットで、我々の目には見えないのです」
スピリット「それはどういう意味だ?」
博士「今言った通りです。あなたという存在は、我々には見えていないのです。あなたは今、私の妻の身体を一時的に使っているのです」
スピリット「ちょっと待ってください。私はあなたの奥さんに会ったこともないし、会いたいとも思わない。言っておきますがね、私はれっきとした男だし、男以外のものにはなりたくないし、あなたの奥さんになるなんて、まっぴらご免だね」
博士「おっしゃる通り、男かも知れません。しかし、あなたの姿は私達には見えていないという事実を理解してほしいのです。その身体は私の妻のものですよ」
スピリット「本当だ、確かに女だ。(衣服に気づいて)こいつは驚いたな。一体どうしてこんな衣服が私の身体に・・・」
博士「ずっと着てらっしゃいましたよ。ここへはどうやって来られましたか」
スピリット「誰かから『あそこへ行けば何もかも納得がいくよ。そんなにほっつき歩いても仕方ないよ』と言われてやってきたんだが・・・来てみると女になってる! 」
博士「それはほんの一時だけですよ。私の言ってることを分かってほしいですね。あなたはもうご自分の身体を失ってしまったのです。多分、かなり以前にね・・・」
スピリット「あの女(バートン夫人)のせいだ」
博士「あなたの方こそあの人を悩ませてきているのです。多分随分永いことですよ。それに、他にも迷惑をかけた人がいるはずですよ。お名前は何とおっしゃいますか」
スピリット「思い出せません」
博士「あなたはご自分の身体を失って、これまでずっとバイブルでいう『外の暗闇』の中を彷徨っておられるのです。信仰はお持ちでしたか」
スピリット「教会とは一切関わり合いたくないね。もう、うんざりだ。牧師は、かくかくしかじかのことをしないと、まっすぐ地獄へ行って、そこで永遠の火あぶりにされるのだと説教する・・・口を開くと地獄行きのことばかりだ。
そんな説教を聞かされたのは、まだ若い時だった。だが、私が言う通りにしないものだから、教会は私に来てほしがらなくなった。私はそんな話はちっとも信じなかった。地獄へ落とされるほど悪いことはしてなかったよ。その教会を出たあと別の教会へ行ってみたけど、そこでも地獄行きの話ばかりだ。嫌になっちゃった。
神様だの、聖なるものだの、そんな話ばっかりで、その神様にお金をあげなさいと言い出した。タバコも神様にあげてしまいなさいと言う。なんで神様がタバコを欲しがるのか、なんで僅かしかない私の金を神様にあげなきゃいけないのか、それが分からなかった。
どうしても納得がいかないので、その教会もやめた。そしてまた別の教会へ行ってみた。するとそこでもさんざん説教されたあげくに、私の後ろに悪魔がついていると言われた。私がその教会に寄付をしないからだ、なんて理屈をつける始末だ。
ある日、何人かの友達と飲みに行ったことがある。たいして飲んだわけじゃないが、気分良くなった。その時思った――よし、今度からは教会の最前列に座ってやろう、と。そして、その通りにやった。他の出席者達は、私の魂を救って神様のところへ行けるようにしているのですと言う。牧師は私のすぐ後ろに悪魔がいるなどと言うものだから、ちょっぴり怖くなった。『その悪魔があなたをとりこにしようとしていますぞ』などと言うものだから、後ろを向いて確かめてやろうかと思ったが、それはしなかった。牧師はいつも私に『さあ、前にいらっしゃい、前に。私達が、あなたの魂を地獄から救ってあげましょう。こちらへ来て救われなさい。前に来て改心なさい。生まれ変わるのです』と言った。
私はしばらく抵抗したが、思い切って前に出てみた。どんなことをしてくれるのだろうと思ったからだ。すると牧師が『ここにひざまずきなさい』と言う。言われた通りにすると、私の頭に手を置いて、みんなで賛美歌を歌い、私の為に祈ってくれた。『さあ、今こそ心を入れ替えるのです』と言う。
この私の為に、出席していたご婦人連中が入れかわり立ちかわり私の頭に手を置いて、祈ったり歌ったりで、えらく仰々しいなと思った。それから牧師がやって来て、『祈らないといけません。さもないと悪魔がついてまわりますぞ』と言う。私は偽善者にはなりたくないから、その牧師に言ってやったよ――『もしも私が罪人だというのなら、私はその罪人のままであり続けて結構』とね。さらに私が『悪魔がそんな人間みたいな存在だとは信じない』と言ってやったら、牧師が怒り出した。こいつは手に負えんと思ったらしい。それでも出席者達はなんとかして私を改心させようとしたが、無駄だったね。
私はその教会から出て行った。すると何人かの男が追いかけて来たものだから、必死で逃げた。が、そのうちの一人が追いついてきて私の頭を殴った。すごく痛かったね。いったん倒れたが、起き上がった。そこは丘の上で、私はそいつを突き落としてやろうと思ったら、逆にこっちが突き落とされて、ゴロゴロと転がり落ちてしまった。止まったところで気がついたら、大勢の人間がいて、その時から急に楽になった」
博士「多分その時、あなたは肉体から離れたのですよ。つまり死んだのです」
スピリット「死んでなんかいません」
博士「そこはどこでした、丘を転げ落ちたところは?」
スピリット「テキサスでした。歩いたり、走ったりしながらいろんな人に話しかけるんですが、誰一人として返事をしてくれない。まるで棒切れに話しかけるみたいで、こっちの頭がおかしくなった。私の家はどこかと尋ねたんだけど・・・。
そのうち例の痛みを感じるようになった。時折痛みが消えてしまうこともあった。そうしてるうちに、一人の婦人に出会ったら『ついておいで』と言うものだから、ついて行ったら、いつの間にか大勢の人に取り囲まれていて、その婦人もその中にいて、みんなが歌を歌っている(患者のバートン夫人は、しばしば大勢のスピリットの歌声に悩まされていた)。時々彼女に話しかけたけど、そのうち突然いなくなってしまった。その後で例の火の針を刺されるようになった。あれは応えたな(バートン夫人への憑依状態が一段と強くなって、その為に電気ショックをより強く感じるようになったことを暗示している)」
博士「あなたは、今はもうスピリットになっていて、私の妻の身体を使って喋っておられるのです」
スピリット「一体どうやって私があんたの奥さんの身体の中へ入ったというのかね? それじゃ、奥さんは取っ替え引っ替え、男に身体を任せていることになるが、それでいいのかね、あんたは?」
博士「結構です。そうやって迷っているスピリットに死後の世界の理解がいくまで貸してあげているのです」
スピリット「これは奥さんの衣服ってわけ? 少しの間借りているというわけ? 奥さんが私に着せてくれたというわけですか。男なのに女の格好を見せてしまって、情けないね。ここにおいでの皆さんは、私のことをどう思ってるのかな――気が狂ってる? (笑い声)笑い事じゃないよ」
博士「あなたは何も知らずに、暗闇の中にいたのです。そのことを教えてあげようとして、高い世界の方があなたをここへお連れして、一時的にその身体を使わせてあげているのです。バートン夫人から離れさせたのも、その方達です」
スピリット「バートンさんはまた、例の火の針を刺されるのですか」
博士「あなたがバートンさんを離れた時、他にもまだ誰かいましたか。それともあなたが最後でしたか」
スピリット「例の女性も、もう一人の男も出て行った。その後あんたが私に火の針を刺したんだ。必死で出ようとしたが出られなかった。どうしようにも為す術がなかった。地獄の話をしてくれた牧師のことが頭に浮かんだよ」
博士「それとも違いますよ。スピリットの世界へ行ってから、どうしたらいいかを教えてくださる高級界の方達が待っておられます。きっと救ってくれます。ところで、お父さんは生きておられるのですか」
スピリット「知りませんね。もう二十五年も三十年も父親とは会っていません。母親が死んだことは知っていますが、父親がどうなったか、知りません。親戚のことも誰一人知りません」
バートン夫人「昨年の十一月にお会いしましたね」
スピリット「会いましたね。それ以来ですよ、私の具合が悪くなったのは。あなたの一番近いところにいたのは私ではありませんよ。あれは若い女の人でした。ひどく頭痛がします」
博士「今年は何年だと思いますか」
スピリット「1888年か1891年だな」
博士「1920年ですよ」
スピリット「私の頭がどうかしてるんでしょう」
博士「暗闇の中にいらしたからですよ」
スピリット「私は、歩いて歩いて歩き回っていた。そのうち、あの女(バートン夫人)とひっついちゃった。離れたかったものだから、私が蹴ると彼女も蹴り返して、しょっちゅう蹴り合いっこをしていた。
あれ! あれをご覧よ! 私の母親だ! 母さん、許してください、母さんの願い通りの人間になれなくて。母さん、この私を連れてってくれないかな? もうくたびれたよ。母さんの世話と助けがほしいよ。連れてってくれますか。ああ、母さん!」
博士「お母さんは何とおっしゃってますか」
スピリット「私の名前を呼んでる。こう言ってる――『ええ、連れてってあげますとも、フランク。長い間お前を探してたんだよ』って。(母親に向かって)私は段々弱ってきました。くたびれ果てました。母が言ってます――『フランク、私達はお互い本当の人生の理解が出来ていなかったんだよ。教わるべきことを教わっていなかったからで、この素晴らしい神の宇宙について本当のことを何も知らなかった。
キリスト教の教えは真実の人生とは遠くかけ離れています。牧師は、信じれば救われると説いているけれど、とんでもない。そんな信仰は障害となるだけです。本当の神を知ることです。私達はそれを怠っていました。フランク、正しい理解さえ出来ていれば、こちらへ来てから、どんな素晴らしい世界が待ち受けているか、お前にも分かってもらえるように、母さんも力になりますよ。人生の黄金律(『すべて人にせられんと思うことは、人にもまたそのごとくせよ』――キリストの山上の垂訓のひとつ)を自分の努力で理解して、これからは人の為に力になり、奉仕しないとダメですよ。
ねえ、フランク、お前は随分人様に迷惑をかけてきましたね。少年の頃はいい子だったけど、少し元気がありすぎたのね。本当の人生について知らなかったものだから、あたしが死んだら家を飛び出しちゃったわね。家庭がバラバラになっちゃった。お前はあっちへ行くし、他の者はそっちへ行くし・・・。事情は知らないけど、真理を知ることが出来ていたら・・・と悔やまれるわね。
さ、母さんと一緒にスピリットの世界へまいりましょ。みんなが真理を理解している世界ですよ。愛と調和と平和と無上の喜びが味わえます。しかし、そこでは人のために生きなきゃダメなの。霊界でも学校へ通って勉強するのよ。これまでみたいに人様に迷惑をかけてはダメです。さ、フランク、行きましょう。霊界の奇麗な家へ行きましょう。』――そう言っています。ありがとうございました。さようなら」
第5項 バートン夫人の憑依霊5
それから数週間後に最後の憑依霊がバートン夫人から離れてウィックランド夫人に乗り移り、監禁されていたことを憤り、先に出て行った仲間達はどこへ行ったのかと尋ねるのだった。
スピリット=マギー・ウィルキンソン
患者=バートン夫人
博士「ようこそ。どなたでしょうか」(霊媒の手をとりながら)
スピリット「手を握らないで! 触らないでください!」
博士「名前は何とおっしゃいますか」
スピリット「マギーです」
博士「マギー・何とおっしゃいますか」
スピリット「マギー・ウィルキンソン」
博士「ここがロサンゼルスであることをご存知でしょうか。どちらからおいでになりましたか」
スピリット「テキサスのダラスです」
博士「ロサンゼルスまでどうやって来られたのですか」
スピリット「ここはロサンゼルスではりあません。テキサスです。ずっと蹴り通しでした」
博士「なぜ蹴るのです?」
スピリット「牢に入れられてるからです(バートン夫人のオーラのこと)。何人か一緒にいたけど、みんないなくなっちゃった。あたしだけ置いて、みんな出て行っちゃった。ずるいわ!」
博士「みんなが行ってるところへ、あなたも行ってみたいですか」
スピリット「別に・・・他の人のことなんか、どうでもいいわ。何もかもみんなで取りっこして、あたしはいつも除け者にされてたんだから」
博士「今の状態が少し変だとは思いませんか。死んでからどのくらいになりますか」
スピリット「死んでからですって! 一体あの婦人(バートン夫人)はなぜ、このあたしにつきまとうのですか。あの人はいつも火責めに遭ってるのよ。酷い代物なの。何かの上に乗っかって頭の上に何かを置くと、火の雨が降るの!」(バートン夫人が静電気装置の横の台の上に乗ると、電気ショックの効果を増す為に頭から毛布を被せられた)
博士「こんなところにいて、いいのですか」
スピリット「どこへ行けばいいのですか」
博士「霊界です」
スピリット「何です、それは?」
博士「身体から脱け出た人が行くところです。ただし、自分の身の上のことをよく理解した人に限ってのことですけどね。あなたも何か変わったことが身の上に起きてることに気づきませんでしたか」
スピリット「私は、例の毛布を頭から被せられて火責めに遭うことさえ止めて頂けたら、それでいいのです。まるでバラバラに叩きのめされたみたいな気分になります。あんな仕打ちに耐えられる人がこの世にいるのですかね」
博士「あれは、あなたを追い出すためにやったことです。今は楽な気分じゃありませんか。あの、『発砲』を受けてから後は何をなさっていたのですか」
スピリット「追い出されて良かったですよ。これまでよりは気分がいいですから」
博士「あなたが今使っておられる身体は、私の妻のものであることはお分かりですか」
スピリット「冗談じゃないわ! 」
博士「今使っておられるのは私の妻の身体なのです」
スピリット「あなたの奥さんの? バカバカしい!」
博士「着ていらっしゃる衣服に見覚えがありますか」
スピリット「そんなことはどうでもいいことです」
博士「どこで手に入れられました?」
スピリット「泥棒扱いしないでください! 警察を呼びますよ。警察署を見つけ次第、逮捕状を出してもらいますからね」
博士「では、マギー、あなたの髪は何色ですか」
スピリット「ブラウン――ダークブラウンです」
博士「(霊媒の髪に触りながら)これはブラウンじゃありませんね。この衣服も全部私の妻のものですよ」
スピリット「私のものであろうがなかろうが、私は構いません。私から頼んだわけではありませんから」
博士「死んでからどのくらいになりますか」
スピリット「私は死んではおりません。あの話をするかと思うと、この話になる・・・」
博士「私がお聞きしているのは、あなたが身体を失ったのはいつだったかということです」
スピリット「私はまだ身体はなくしておりません。墓に埋められてはいません」
博士「病気になって、そのうち急に良くなったというようなことはありませんでしたか」
スピリット「病気が酷くなり、そのうち急に楽になったと思ったら、牢に入れられていました。私はウロウロしていましたが、そのうちある女性が私を何かと邪魔立てするようになりました。私の他にも何人かいましたが、例の火責めにあって、みんな出て行ってしまいました」
博士「ロサンゼルスに来られたのはいつですか」
スピリット「ここはロサンゼルスではありません。テキサスのダラスです。もしもここがロサンゼルスだとしたら、私は一体どうやって来たのですか」
博士「赤い髪をした女性と一緒に来られたに相違ありません」(バートン夫人がすぐ側に腰掛けている)
スピリット「彼女には私をここへ連れてくる権利はありません」
博士「彼女もテキサスから来たのです」
スピリット「他の人達はどうなったのですか」
博士「自分の身の上についての理解がいって、無事、霊界へ旅立たれました。あなたもそこへ行くべきなのです。なぜこちらの女性につきまとうのですか」
スピリット「つきまとう? とんでもない! 私はずっと牢の中にいるのです。身動きが取れないのです。出ようとして、色々やってみたのです。私を見かけた人達は、私を救い出してやるなどと言っていながら、結局誰も出してくれなかった。私があんまり騒ぐものだから、私から逃げ出したのよ」
博士「多分、その方達が、あなたをここへお連れしたのですよ」
スピリット「私に見えているのは、ここに腰掛けている人達だけです」
バートン夫人「あなたは私についてここへ来たのですね? 私を苦しめてどうしようというのです?」
スピリット「私はあなたとは何の関係もございません。あれ! あなただわ、この私を牢に閉じ込めたのは」
バートン夫人「あなたと一緒だった女友達は何という名前でしたかね(同じくバートン夫人を悩ませていた別の霊のこと)?」
スピリット「どこでの話ですか。テキサスでのことですか」
バートン夫人「そうです」
スピリット「あの人はメアリーといいました。もう一人、キャリーというのがいましたけど・・・」
バートン夫人「キャリーも一緒に来てますか」
スピリット「勿論よ。ねえ、あなたはなぜこの私を閉じ込めといたのよ? なぜ出してくれなかったのよ?」
バートン夫人「私は出て行けと言い続けたじゃないですか」
スピリット「それは知ってたわ。だけど、あなたはドアを開けてくれなかったじゃないですか」
博士「自分の心の中で、この人の身体から離れるのだと思い込めば、それで離れられたのですよ」
スピリット「思い込んで離れるなんて、私には出来っこありません」
博士「スピリットの世界のことが分かってくると、出来るようになるのです。出来ないのはその原理を知らないからです」
スピリット「(バートン夫人に向かって)ねえ、あなたは何のために私をあなたの側から離れられないようにしたのよ?」
博士「あなたは『招かれざる客』だったのですよ」
バートン夫人「あなたがいなくなってくれて、さっぱりしているところですよ」
スピリット「私の方こそよ。あんな牢から出られて、せいせいしてるわ。なぜおとなしく出してくれなかったのよ?」さんざんノックしたのに、出してくれなかったじゃない。(博士に向かって)あなたがあの火の贈り物をくださったお陰で出られたのね。有り難く思ってるわ」
博士「この前の治療の後、出たのですね?」
スピリット「あれを『治療』とおっしゃるのね」
博士「これで夫人の身体から離れられたのなら、立派な治療ですよ」
スピリット「あれで私がどれほど苦しい思いをしたか、ご存知ないのね。特に、あの針で突き刺すやつ――あれをやったのは、あなただったのね? 大嫌いよ、あんたなんか!」
博士「あなたを出すために、あの夫人にあのような手荒い治療を施さなければならなかったのです」
スピリット「あなたは、あの悪魔の機械を小さな神様みたいに思ってるんだわ。あなたは私にどこかへ行ってほしいと言ったわね。どこでしたか」
博士「スピリットの世界です」
スピリット「それはどこにあるのです?」
博士「肉体を捨てた者が行くところです。ただし、それには理解が必要です。あなたの肉体はなくなりましたが、まだ理解が出来ていらっしゃらない。それであのご婦人に迷惑をかけてきたのです」
バートン夫人「あなたや他の人達に出て頂いた後は、ドアをきっちり閉めて、あなた達の誰一人として、二度と入れないようにしますからね」
博士「自由になったつもりになれば、それで牢に閉じ込められた気分にはならなくなります。肉体をもった人間は思っただけではどこへも行けませんが、スピリットにはそれが出来るのです。あなたは私達には姿が見えません。あなたはスピリットとなっており、一時的に地上の人間の身体を使っているのです。それが私の妻というわけです」
スピリット「前にもそんなことををおっしゃったわね」
博士「どこか変だとは思いませんか」
バートン夫人「マギーマッキンをご存知でしょう?」(もう一人の憑依霊で、バートン夫人は霊視で確認していた)
スピリット「知ってます。メアリーも知ってます」
博士「肉体から出た時はおいくつでしたか。昔のことを何か思い出しませんか」
スピリット「馬に乗って出かけていた時に、いきなりその馬が走り出して、それから何もかも真っ暗になりました。それからのことはあまり覚えていません」
博士「今年は何年だかお分かりですか」
スピリット「そんな質問に答える必要はないでしょう。一体あなたは弁護士? それとも裁判官? 一体何なの?」
博士「私は『火夫(ファイアマン)』です。今年が1920年であることをご存知ですか」
スピリット「そんなこと、どうでもいいことです(指を鳴らす)。私の知ったことではありません」
博士「さぞ苦しみから逃れたいだろうと思っていたのですがね」
スピリット「私はただ、あの牢から出たいだけだったのです。今はとても楽で、ここしばらく味わったことがないほどです」
バートン夫人「牢から出して頂いたことを、先生に感謝しなくてはいけませんよ」
スピリット「冗談じゃありません。私に火を放射した罪で逮捕されるべきですよ。まるで頭が狂いそうでしたよ」
博士「お知り合いの方が見えているのが分かりませんか」
スピリット「二人のインディアンの姿が見えます。一人は大柄な方で、もう一人は少女です。カールした髪と青い目をした婦人も見えています」
博士「『シルバー・スター』と呼んでみてください。少女の名前ですよ」(ウィックランド夫人の背後霊の一人)
スピリット「頷いています」
博士「その方達が、霊の世界での向上に力になってくれますよ」
スピリット「私は自信があります。きっと天国に行けます。教会へも通ったし、真面目な女でしたからね」
博士「今見える人達もみんな、あなたと同じスピリットなのです。私達には見えていないのです」
スピリット「でも、同じようにそこにいますよ。その人について行けば、素敵な家に案内してくださるんですって。嬉しいわ! しばらく家をもっていないんですもの。もうあの火責めには遭わないのでしょうね。あの赤い髪の婦人のところへは行きませんからね。神様に感謝します」
博士「さあ、もう自由なんだと心に思って、その方達と一緒に行きなさい」
スピリット「分かりました。行きます。さようなら」
バートン夫人が初めて我々のところへ来た時は、どんな仕事も出来なかったが、今では大きな商店の事務員をしている。