第3章 地球圏の低階層と人間の磁気オーラから抜け出せないでいるスピリット
第1節 ●死後なお生前の商売を続けるスピリット
シカゴにおける交霊会で、死後なおその事実に気づかないまま、生前と同じ商売を続けているスピリットが憑依してきた。
「なぜ、こんな暗いところへ集まっているのですか。私は、名前をヘセルロスといい、ドラッグストア(薬局の他に日用雑貨も売っている店で、喫茶室まで付いているところもある)を経営している者です」――開口一番、スラスラとそう言うのだった。その時は部屋を暗くしていた。
このスピリットは前の年に病院で死亡したスウェーデン人で、シカゴでドラッグストアを経営していた。サークルの常連は、彼について何一つ知識はなかったが、その夜は彼の生前の友人の一人であるエクホルム氏が出席していたので、その身元がすぐに確認できた。まだ自分の死の自覚がなく、今でもドラッグストアを経営しているつもりでいるようだった。
しかし実は、その店は当時の店員が買い取ったと聞いている、と出席していた友人が告げると、それをきっぱり否定して「彼は私が雇っているのです」と言った。
面白いことに、そのスピリットはその頃に実際に起きた強盗事件の話をした。三人組が押し入ったので度肝を抜かれたが、勇気を奮い起こしてピストルを取りに行った。ところが、ピストルを手に取ろうとして握りしめるのだが、どうしても掴めない。やむを得ず、素手で向かって行って、三人のうちの一人をぶん殴った。しかし、なぜか『そいつの体を突き抜けて』空を切るばかりだった。どうしてだろう、と不思議でならなかったという。
そこで、我々が彼の現在の身の上について語って聞かせているうちに、意識に変化が生じたらしく、自分より先に他界している大勢の友達の姿が見えるようになり、その友達に引き取られて、霊界での新しい生活へと入っていった。
ドラッグストアの持ち主が替わっていること、三人の強盗が押し入ったことは、その後の調べで事実であることが確認されている。
この場合、霊媒の潜在意識説もテレパシー説も通用しない。なぜなら、そのサークルの中でヘセルロスを知っていたのは、友人のエクホルム氏だけで、その友人も、ドラッグストアが他人の手に渡っている事実は噂で知っていたが、その買い主は当時の店員ではなかったことが判明しているからである。
その後何年かして、再びヘセルロスが出現した。その時のやりとりを紹介する。
1920年9月29日 スピリット=ヘセルロス
霊媒=ウィックランド夫人 質問者=ウィックランド博士
スピリット「一言、お礼を申し上げたくてやってまいりました。暗闇の中から救い出して頂き、今では、このマーシーバンドのお手伝いをさせて頂いております」
博士「どなたでしょうか」
スピリット「あなたのお仕事のヘルパーの一人です。時折この交霊会に出席しておりますが、この度は一言、お礼を申し上げたくてまいりました。かつてはとても暗い状態の中で暮らしておりましたが、今ではあなたの霊団の一人となっております。あなたにとっても喜ばしい話ではないかと思います。
もしもあなたという存在がなかったら、私は多分、今でも暗い闇の中にいたことでしょう。あれから何年も経っております。その間あなたを通じて、またマーシーバンドの方を通じて、生命についての理解が深まりました。私が初めてお世話になったのは、ここではありません。シカゴでした。
今夜は、皆さんと一緒に集えて、とても嬉しく存じます。地上時代の名前を申し上げたいのですが、もうすっかり忘れてしまったようでして。何しろ何年も人から名前を呼ばれたことがないものですから。そのうち思い出すでしょう。その時申し上げます。
例の老紳士を覚えていらっしゃるでしょう? エクホルムといいましたかね? 『老』をつけるほどでもなかったですが・・・。彼は地上時代の親友でして、彼との縁で皆さんとの縁も出来たのです」
博士「シカゴでの交霊会でしたね?」
スピリット「そうです。私はシカゴでドラッグストアを経営しておりました。そうそう、思い出しました。私の名は、ヘセルロスでした! つい忘れてしまいまして・・・。今ではあなたの霊団のヘルパーの一人です。エクホルムもそうです。彼もよくやっております。喜んで、あなたのお仕事を手伝っております。地上時代でも、霊の救済のことで一生懸命でしたからね、彼は。
私は今こそ、一生懸命お手伝いすべきだという気持ちです。何しろ、あの時、皆さんに救って頂かなかったら、今頃は相変わらずあの店で薬を売ってるつもりで過ごしていたことでしょうね。
あの頃は、死後丸一年くらいまでは、あの店を経営しているつもりでいました。地上時代と変わったところといえば、病気が治ったつもりでいたことくらいでして、死んだとは思っていなかったのです。店にいて病気になり、病院へ運ばれ、その病院で死にました。遺体は葬儀屋が引き取り、自宅には運ばれませんでした。
ご承知のように、バイブルには『汝の財産のあるところに汝の心もあるべし』(マタイ伝6・21)とあります。眠りから覚めた時に、私が真っ先に思ったのは店のことでした。それで、その店に来ていたのです。経営状態はいたって順調にいっているように思えたのですが、一つだけ妙なことがありました。私がお客さんに挨拶しても、まったく反応がないことです。私はてっきり入院中に言語障害にでもなって、言葉が出ていないのだろうくらいに考えて、それ以上あまり深く考えませんでした。
そのまま私は、ずっと店を経営しているつもりでいて、店員にも意念でもって指示を与えておりました。経営者はずっと私で、店番は店員に任せているつもりでした。そしてある夜、この方(博士)のところへ来て初めて、自分がもう死んでいることに気づいたのです。
例の強盗が押し入った時は、いつも引き出しに仕舞ってあるピストルのことを思い出して、そこへすっ飛んで行って握りしめようとするのですが、するっと手が抜け出てしまうのです。何かおかしいなと思ったのはその時です。その時から物事を注意して見るようになりました。
そのうち、父と母に出会いました。とっさに私は、頭が変になったのだろうと思ったくらいです。そこで、エクホルムに会ってみようと思いました。彼はスピリチュアリズムに関心があり、私はそんな彼こそ、少し頭がおかしいのではないかと考えていたのです。それで、幽霊というのは本当にいるものかを尋ねてみたかったのですが、なんと、自分が立派な幽霊になっていたというわけです。
その後、このサークルに来たわけです。皆さんと話をしているうちに、心のドアが開かれて、美しいスピリットの世界が眼前に開けたのです。その時の歓迎のされ方は、ぜひお見せしたいくらいでした。親戚の者や知人が両手を大きく広げて『ようこそ』と大歓迎をしてくれました。その素晴らしさは、実際にこちらへ来て体験なさらないことには、お分かり頂けないと思います。これぞ幸せというものだと実感なさいます。まさに『天国』です。
そろそろ失礼しなくてはなりません。今夜はこうしてお話ができて、嬉しいです。あれから十五年ぶりですからね。エクホルムも誇りをもってお手伝いしております。皆さんによろしくとのことです。
では、おやすみなさい」
第2節 ●地縛霊による憑依
地縛霊による憑依が大きな悲劇と悲哀を生むことがよくある。次の招霊実験の患者は、激しい頭痛を訴えながら、繰り返し悲しげに泣く症状を見せていたが、憑依霊が取り除かれると、それがケロッと治っている。
1918年1月5日 スピリット=ミニー・デイ 患者=L・W夫人
スピリット「(悲しげに泣きながら)ああ、頭が痛い! あの火の針は嫌! 頭が痛い! ここがどこだか分からない。針の雨だったわ。どうしても悲鳴になってしまう」
博士「どこに住んでるの?」
スピリット「知りません」
博士「両親はどこに住んでいましたか」
スピリット「知りません」
博士「あなた、子供じゃないの?」
スピリット「子供よ。ミニー・デイといいます」
博士「どこに住んでたの? 年齢はいくつ?」
スピリット「知らない。ママに聞いて」
博士「住んでいた都市の名は?」
スピリット「セントルイス。ああ、またお父さんがやってくる! あたしの頭をぶったの! それに、ウィリーもいる」
博士「ウィリーって誰?」
スピリット「あたしのお兄さんよ。父さんがやってくる! 怖い! 一緒においで、って言ってる。あ、ママだ。ママ、あたし、頭が痛いの! ママも、一緒においで、って言ってる。あたしのウィリーの為に新しい家を用意してあるから、と言ってる」
博士「霊界のお母さんの家のことですよ」
スピリット「霊界って何? それ何のこと?」
博士「地球の周りにある、目に見えない世界のことです。自分が死んだことを知ってるの?」
スピリット「それ、どういうこと?」
博士「物質で出来た身体はもうなくなったということです。最近は何してたの?」
スピリット「誰かいないかと思って、走り回ってたの。ママはとっくの昔、あたしがちっちゃい時に死んでるし・・・。ママが死んだ後、パパはあたしとウィリーに、辛く当たるようになって、すぐに殴るようになったの。いつも嫌な思いをしてたものだから、こんなに頭痛がするようになっちゃって・・・。色んな所へ行ってみたけど、ママは死んじゃってるし、もう、どこへ行ったらいいのか分からない」
博士「あんまり苦しい思いをしたものだから、事情が理解できなかったのね。ミニーちゃんは、もう、物質で出来た身体はなくしちゃったんです。お友達はあなたのことを『死んだ』と思ってるはずですよ」
スピリット「あたしが死んだ? 時々何か箱のようなものに入ってるみたいな感じがすることはあります。そこに大勢の人達(憑依霊)がいて、みんな押しっこするの。その中の一人だけ大嫌いな人がいて、その人がみんなに意地悪するの。あの人、この人と、追っかけまわしていたけど、そのうちいなくなっちゃった(二日前に除霊されたジョン・サリバン)。良かった、これで静かになると思ったら、今度は火の針が降り出して・・・」
博士「あなたは一人のご婦人を苦しめていたのですよ。あなたが泣きわめくものだから、そのご婦人も泣きわめいていたのです」
スピリット「それ、どういうこと?」
博士「あなたはもうスピリットになっていて、そのご婦人のオーラの中に入り込んでいたのです。その方に電気治療を施したら、あなたがその身体から離れて、今度は私の奥さんの身体を使って喋っているのです。手をご覧なさい。それ、ミニーちゃんの手だと思いますか?」
スピリット「わぁ、見て! 指輪してる! でも、あたしのじゃないわ。あたし、盗んでなんかいない! (興奮している様子)これ、もっていってちょうだい! あたし、盗みなんかしてないわ! 」
博士「これはあなたの身体ではありません。だから、あなたの指輪ではありません。きっと、あなたは頭をぶたれた後に死んだんだね。スピリットは身体が死んだ後も生きているのです」
スピリット「でも、あたし、今も生きてるわ」
博士「生きてますとも。でも、身体はもうありません。死んだ後一人の婦人と一緒になっちゃったのです。その方は今、別の部屋にいます。あなたがすることと同じことをするようになり、あなたが痛いと思うところを、その人も痛がっているのです。狂ったような振る舞いをしているように見えるのですが、それはあなたのせいなのです」
スピリット「意地の悪い男の人がいたのですが、今はいなくなって、ホッとしているところです。みんなその人を怖がっていたのに、逃げ出せなかったのです。とっても意地の悪い人で、噛み付いたり、ひっかいたり、喧嘩ばかりしていました」
博士「とても頑固な人でしたね。つい二、三日前に、今のあなたと同じように、その身体を使って喋りましたよ。このサークルは、色々なスピリットが救いを求めてやってくるところなのです」
スピリット「スピリット? あたしは何も知りません。頭が痛いわ」
博士「あなたが使っている身体は、私の奥さんのものですが、本人は少しも痛がってませんよ」
スピリット「あの火の針が痛がらせるの」
博士「今日、その婦人に電気治療を施したおかげで、あなたはその婦人の身体から離れて、今、そうやって私の奥さんの身体を使って喋ることが出来ているのです。これであなたも救われますよ。ところで、さっきお父さんとお母さんが見えると言ってたけど、今どこにいるの?」
スピリット「あなたにはママが見えない? ここに立ってるわ」
博士「そのお母さんと一緒に行きたくないの?」
スピリット「でも、ママは死んじゃってるもの」
博士「あなたも死んじゃったのです。本当は『死』はないのです。物質の身体を失うだけなのです。スピリットは人間の目には見えないのです」
スピリット「あっ! あたしをどこかへ連れてって! お願い、連れてって! 父さんがやってくるの! あたし怖い! またぶたれるわ! どこかへ連れてって! 」
博士「お父さんは、あなたにお詫びを言いに来ているのですよ。あなたに許してもらえるまでは、スピリットの世界の高いところへ行けないのです。分かるでしょ? お父さんが言いたがってることを聞いてあげたら?」
スピリット「何も言わずに、ただ泣いてるだけなの。今、ママのところへ近づいたわ」
博士「お父さんは申し訳無さそうにしていない?」
スピリット「悪かったと言ってる」
ここでミニー、除霊されて、代わって父親が乗り移った。苦悩のあまり泣き叫びながら、ひざまずいて、両手を差しのべて言う――
スピリット「お許しを! お許しを! 私は自分のしていることが分かっていなかった。ミニー、父さんは殺すつもりじゃなかった。気持ちがイライラして、子供の声がうるさかった。家内が死んで、私は寂しかった。どうか、もう一度だけチャンスを与えてください! 私も苦しかった。ずっと暗がりの中にいて、誰も救いの手を差しのべてくれず、子供のそばにも近づけない。私を怖がって・・・。許しを請う為に何度か近づいてみたんですが、私を怖がって、近づくと遠ざかってしまう。
皆さん、子供を殴るのだけはお止めなさい。あとで何年も何年も苦しい思いをさせられます。ミニーを傷つけるつもりはなかった。可愛かった。なのに殺してしまった。もしも神がいらっしゃるのなら、どうかこの苦しみと悲しみを取り除いてください! ほんの少しで結構ですから光と慰めをください。心の安まる時がないのです。安らぎがないのです。見えるのは怒り狂ってやった自分の行為ばかりです。
皆さん、どんなに腹が立っても、自分を見失ってはいけません。さもないと、私のように苦しい思いをさせられます。神よ、お助けください。ああ、神様! 一度だけ――もう一度だけチャンスをお与えください!」
博士「あなたがもう死んだ人間であることは、お気づきですか」
スピリット「いえ、知りません。あの子を殺してしまってから、私は逃げました。が、誰かが追いかけて来て、何かで首のところを殴られて倒れました。(この時死んでいる)が、すぐに起き上がって、また逃げました。逃げて逃げて、もう何年になることか・・・。何度か妻の姿が見えました。子供を殺したことを責め立てるのです。確かに殺したのです。神様、お助けください! ほんの少しでいいから、安らぎと光を見出したいと思ってきたのですが、見出せません」
博士「ご自分の現在の身の上を悟るまでは、光は見出せませんよ」
スピリット「神よ、光と悟りをお与えください! 目に映るのはあの子の頭だけです。かわいそうに、私の一打で割れてしまったのです。許してもらいたいと思って近づいても、ミニーは私を怖がって逃げるのです。そして、妻がひっきりなしに責めるのです」
博士「もう、責めたりなんかしませんよ」
スピリット「勿論。お名前は何とおっしゃいますか」
スピリット「ウィリアム・デイ」
博士「今年が何年か、お分かりですか」
スピリット「頭が混乱していて・・・もう何年も逃げて逃げて逃げ回っているものですから・・・。大勢の人間が追いかけてくるのです。私の目に入った人間は、みんな子殺しを責めるような気がして、すぐに逃げてしまうのです。夜になると、妻が枕元に立って責めます。そこにはミニーも一緒にいます。頭が割れて、血が噴き出しているのです。もう、地獄です。こんなにむごい地獄はありません。なんとか救われる道はないものでしょうか。一生懸命祈るのですが、何の効果もありません」
博士「ここがカリフォルニアであることはご存知ですか」
スピリット「カリフォルニア? いつからそんなところに? セントルイスからカリフォルニアまで走ってきたのですか?」
博士「今、あなたは生身の人間の身体を借りているスピリットであることが理解できますか」
スピリット「この私が死んでるとおっしゃりたいのですか」
博士「物質で出来た身体は、もうなくしておられるということです」
スピリット「すると、死者が復活する日まで墓場にいなくてはならないのでしょうか」(キリスト教では、死者は『最後の審判』の日まで墓場で休むということになっている)
博士「あなたは今ここにいらっしゃるじゃないですか。どうやって墓から脱け出てきたのですか」
スピリット「もう思い出せないくらい永い間、一時も休んだことがないのです」
博士「『死』などというものはないのです。肉体から脱け出ると、五感を全部失ってしまいます。ですらか、次のスピリットとしての生活についての悟りがないと、暗闇の中で暮らすことになります。そこで、こうして生身の人間の身体を借りないことには現実が見えないのです」
スピリット「でも、あの人達がしつこく追いかけてきます。もう、疲れ果てました」
博士「ですから、もうこの辺で奥さんやお子さんと和解なさったら?」
スピリット「この私を許してくれると思われますか、あの二人が・・・。なあ、お前、この俺を許してくれ! 俺は夫として落第だった。お前は天使で、俺は野獣だった。許してくれないか。もう一度だけチャンスを与えてくれれば、今度こそ本気で頑張ってみる。苦しみはもう沢山だ。
キャリー、キャリー、この俺を本当に許してくれるかい? 本当かい? お前は我慢強くて、一生懸命頑張ってくれたが、俺はろくでなしだった。子供を愛してはいたが、すぐに腹を立てた。家計を補うために、お前は身を粉にして縫い物をした。そして、その過労で死んだ。俺が殺したようなものだ。俺は、金は稼いでも、悪い仲間と一緒に、それをすぐに使い果たしていた。家に帰った時はまるで鬼になっていた」
博士「何もかもあなたが悪かったわけでもありませんよ。あなたはスピリットにそそのかされていたのです。これから奥さんについていけば、素敵なスピリットの世界が待ってますよ」
スピリット「私には妻と一緒に行く資格はありません。償いの為に善行を心掛けます。キャリー、頼むから私から逃げないでくれ(泣き出す)。ミニー、パパを許してくれるかい? 可愛い我が子を殺してしまったけど、殺そうと思ってやったことではないのだよ。このパパを許しておくれ。
私は眠っているのでしょうか。夢を見ているのではないでしょうか。目が覚めても、まだ闇の中にいるのでしょうか。
ミニー、パパから逃げないでおくれ! どうか許しておくれ!」
博士「あなたは夢を見ているのでも、眠っているのでもありません。少しずつ現在の身の上が分かってこられましたね」
スピリット「首のあたりを殴られた時に死んだのでしょうか。ピストルで撃たれたのでしょうか」
博士「はっきりしたことは言えませんが、多分そうでしょう」
スピリット「もう一度だけチャンスを与えてくれたら、今度こそ家族を大切にするよう最善を尽くすつもりです」
博士「もっと他に、あなたにおできになることがありますよ。生身の人間に取り憑いている哀れなスピリットを救ってあげることです。人間に地獄の苦しみを与えているのです。あなたも何人かのスピリットに取り憑かれていたのですよ」
スピリット「私はもともと、アルコール類は好きじゃなかった。においを嗅ぐだけでムカつくほどだった。なのに、ほんの一口飲んだだけで、何かに取り憑かれたような気持ちになり、暴れたくなった。それがどうしても抑え切れなかった。自分ではどうしようもなかったのです。神よ、どうか、ホンの少しで結構です、慰めをお与えください」
博士「ここをお出になったら、家族の方達と再会できますよ」
スピリット「本当ですか」
博士「本当ですとも。でも、霊格の高い方の指示に素直に従わないといけませんよ」
スピリット「この私に出来ることがありましたら、是非やらせてください。家族と再会させてくださったのですから。
私は、毎晩のように酔っぱらって家に帰ってきました。ある晩、帰ってみたら妻が死にかかっていました。その時は酔っていてどう考えたか知りませんが、翌朝目を覚ましてみたら死んでいたのです! わけが分からなかった。どうしたらいいのだ! 子供達はどうなる! 妻が死んでしまった! その妻とミニーが、この私を許してくれると言ってます。これで妻と二人の子供と一緒になれます。一からやり直します。色々と私や家族のためご厄介をおかけしました。礼を言います」
第3節 ●死後、良心の呵責に苦しむ牧師
地上で熱心な牧師だった人が、死後、精神的混乱と良心の呵責に苦しむ例が多い。次はその一例である。
1921年3月9日 スピリット=マローリー氏 霊媒=ウィックランド夫人
賛美歌[かの美わしき彼岸]を出席者全員で歌っているうちに誰かが乗り移って来て、いきなり大声で笑い出した。
博士「そちらへ行かれて[美わしき彼岸]を見出されましたか。どんなところか、お教え頂けませんか」
スピリット「大デタラメさ」
博士「そうでしょうか」
スピリット「そうだよ(愉快そうに笑う)。あんなことを信じるのは間抜けな野郎だけさ」
博士「あなたはその『彼岸』へ行かれたわけですが、どんなところか、少しお教え頂けますか。何もないのでしょうかね? 死後の生命を信じないというのなら、そのわけをお聞かせください。懐疑論者であるのなら、あなたなりの信仰をお聞かせください」
スピリット「信仰? そんなもの!」(また笑い出す)
博士「何がおかしいのですか」
スピリット「泣いても笑っても同じだから笑うのさ。さっきは[かの美わしき彼岸]を歌っておられたが、あれじゃあ、大嘘を言ってることになりますぞ」
博士「霊的生命に何の意味もないということでしょうか」
スピリット「ないね。何もないね。あれは嘘。全部嘘っぱち。霊的生命も宗教も、それに関連したもの全部がたわごと・・・」
博士「ご自分の生命を悟ろうとはなさらなかったのですか――その謎を?」
スピリット「私自身の生命? それもたわごと、ただのたわごと!」(笑う)
博士「たわごとであることがどうして分かるのでしょうか。あなたは自分で、自分の無知を笑ってるだけではないのでしょうか」
スピリット「泣こうが笑おうが、同じこと。どっちが良くも、どっちが悪くもない。全部嘘っぱち――大嘘! 私も悩んだものさ」
博士「どちらでのことですか――この世でですか、そちらへ行ってからですか」
スピリット「どっちだっていいさ! 」(また笑う)
博士「今お幸せですか」
スピリット「幸せ? バカバカしい。そんなものはこの世にはありません。過去にもありませんでしたし、これからも絶対にありません」
博士「本当にご存知ないのですか。ご自分の身体をお持ちだった頃に真理というものを求められましたか」
スピリット「一生懸命に祈ったが、すべてはナンセンスだった・・・。へっ! クソ食らえだ、まったくもう・・・」
博士「すべてがたわごとだったということですか・・・。それと現実の生活とどう結びつけましたか」
スピリット「立派な人間になろうと心掛けたことはありました。が、そのうち、すべてはたわごと、ナンセンス、ペテン以外の何ものでもないのだという考えになりました。あなたも一人前の人間として、私の言ってることが分かるでしょう? 私も一人前の人間のつもりです。あなたは分かってくれると思いますが・・・」
博士「私にはあなたの姿が見えていないのです。霊的存在を見かけたことはありますか?」
スピリット「何の話ですか、それは? もうこれ以上のナンセンスは願い下げにして頂きたいですな。信じるのは勝手ですよ。水の上を歩いて渡れると信じたければ、信じたらいいのです。が、実際に歩いたら、ずぶずぶと沈みます。それと同じですよ。私も、信ずれば水の上を歩けるのです、などと説いたことがあります。ですが、見事に沈みましたな」
博士「それは理性をおろそかにしたからですよ」
スピリット「理性? 理性では水の上は歩けませんよ」
博士「水の上が歩けるという意味ではありません。水は飲むことと水浴びに使うだけでよろしい」
スピリット「なぜ私の手を握るのですか」
博士「私は私の妻の手を握っているのです」
スピリット「正気でおっしゃってるのでしょうな? 本気ですか」
博士「間違いなく私の妻の手です」
スピリット「私もかつては、そういう信仰をもったことがあります」
博士「その信仰をなぜ失われたのでしょうか」
スピリット「デタラメだということが分かったからです」
博士「地上生活は、知識を得る旅のスタートですよ」
スピリット「まだ、何の知識も得ておりません」
博士「ここを去っていかれるまでに得られますよ」
スピリット「かつては私も信仰をもち、熱心に信じました。ところがです・・・」
博士「それからどうなりました?」
スピリット「そうです、それからですよ、問題は。私は『神の代理人』として、まるで奴隷のように仕事をしました。今は神のために働くことはしません。もう昔のことになりました。私の方から手を引いたわけです。神は私にとって呪いのようなもので、気苦労と悩みが多すぎました。それで私は、神をこう罵ったのです――『こんなことをするのが、あんたの代理人というなら、神なんか存在しない!』とね。それ以来、信仰は捨てました」
博士「しかし、そのことが生命の実相と死後の生命とにどう関わりがあるのでしょうか」
スピリット「死んでしまえば、死人となるだけです」
博士「じゃ、なぜあなたは、死んでから死人になり切っていないのです?」
スピリット「死人になり切る? 私は死んでませんよ」
博士「肉体に関するかぎり、あなたは『死んだ』のです」
スピリット「私は、あの偽善者達から逃れたいと真剣に考えていました。彼らは私の有り金全部を搾り取ったのです。もしも神が存在するのであれば、なぜ神はそんなに金を欲しがるのでしょう? まず信じなさいという。信じて、財産を教会に寄付しなさい、そして教会の為に働きなさい、と。私は、それはそれは、よく働きました。朝六時から夜遅くまで――すべて神の為にね。神の為に働きながら、食うにも事欠くほど生活費に困ったことがありました」
博士「どちらから来られましたか」
スピリット「私が今欲しいのは自由だけです」
博士「どちらからおいでになったか、教えて頂けませんか」
スピリット「あそこにいる連中(スピリット)をご覧なさい! 私を罵り、あざ笑っている声が聞こえるでしょう。『お前のこと知ってるぞ! 忘れはせんぞ! 』と口々に言ってる。みんなで私をあざ笑っているのが聞こえますか。ちゃんと責任を取ってもらうつもりだと、あなたに言えよと叫んでいます。薄汚いところにいるのは、この私の責任だと言うのです」
博士「あの人達にも真実を知って頂きたいと思ってお呼びしてあるのです」
スピリット「聞こえますか、あの呪いの言葉が?」
博士「彼らにも思いやりの心を見せてあげないといけません。あなたは慈悲心がどういうものかを理解なさろうとしませんね」
スピリット「わっ、あれを見てください! みんな一斉に『慈悲なんかいらん』と言ってます」
博士「お金のことを言ってるのではありませんよ。自分の意識を改めていく手がかりを与えてあげなさいと言っているのです。
ところで、今年は何年だと思いますか」
スピリット「そんなことはどうでもいい。百年前でも百年後でもいい。とにかく私は、神も人類も、その他何もかも信じられなくなったのです。かつては信仰厚き人間でした。ところが、『神の召使い』という仕事が、妻と子供を私から奪い去ったのです。それでも、私は朝六時から真夜中の十二時まで働きました」
博士「ただ、あなたはその信仰に『理解』を加えることをなさらなかったのです」
スピリット「聖霊と神への信仰はありました」
博士「なぜそれに『理解』を加えなかったのでしょうか」
スピリット「かつては、山をも動かす信仰をもっておりました。ひたすら聖霊への信仰を教え込まれましたから・・・。
見てください、あの者達を・・・。座ってるでしょう。あいつらを見てください。
おい、カランゴ!
あいつとはよく口論をするのです。が、いつも私が勝ちます。永い間、説教をしていました・・・。今はその頃より上手になりましたからね。
おい、カランゴ、そんなところに間抜けなツラをして、しゃがみ込みやがって! あの連中が行こう行こうと言うものだから、私も来たのですよ。初め、あなたは私のことを怖がってましたな。でも、ちゃんと来ましたよ」
博士「どうやってお入りになりましたか」
スピリット「ここにですか? どうやって? それは知りません」
博士「こんな手をどこで仕入れたのですか」(と言って霊媒の手を触る)
スピリット「こんな手? 私のものだと思うが・・・。他人のものじゃないよ。カランゴが来たな。そんなところにしゃがみ込みやがって! さあ、みんなよく聞け!」
博士「これ、おしゃべりは止めなさい」
スピリット「あなたは、ここのボスのつもりですか」
博士「そうです」
スピリット「でも、あんたの言うことは信じないからね。他の誰も信じません」
博士「あなたは、もう、物質で出来た身体をなくしたということを理解してほしいのです。今あなたは、私の妻の身体を使っておられるのです。あなたの姿は私達には見えていないのです。その辺に男達がしゃがみ込んでるとおっしゃいますが、私達には見えないのです。私達は物質の身体に宿っていますが、あなたには、もうそれはないのです」
スピリット「この私が見えていないのですか」
博士「私達にはスピリットの姿は見えないのです。あなたは、私の妻の身体を使って喋っておられるのです。高級霊の方達が、ここへお連れしたのです」
スピリット「あんたが来いというから来たのです。あの薄暗いところにいる連中も、私と一緒にやってきたのです。あんた達が招いたからです」(サークルによる地縛霊への祈りが通じたことを意味している)
博士「高級霊の方達がお連れしたのです。その方達の言う通りにしてください。あなた達は今、薄暗い闇の中にいらっしゃいます」
スピリット「たしかにその通りだ。が、あんたが招いたから来たのです。言っときますが、もし邪魔なら、何も喋りませんよ」
博士「ここへお連れしたのは高級霊の方達です。私の妻の身体を使って頂いて、あなたにはもう肉体がなくなっていることを理解して頂くためです。キリスト教は神について正しく理解しておりません。その教会の説くところがデタラメだからといって、あなたは何もかもがデタラメだと決めつけておられる。
あなたが肉体を失ったのは、多分かなり前のことでしょう。私の妻は霊的能力があり、その身体を一時的にあなたにお貸しして、今こうして喋って頂いているところです。見回してご覧なさい。どなたか、ご存知の方がいらっしゃるはずですよ」
スピリット「カランゴだよ、見えてるのは」
博士「人生にはちゃんとした意味があることを理解しないといけません」
スピリット「そう信じてましたよ。十分過ぎるほど信じてましたよ。ところが、財産も、そして妻子までも失ってしまった。そして、今はこのザマだ」
博士「それが生命の実相と何の関係があるのでしょう? 大自然の不思議に心を打たれたことはないのでしょうか」
スピリット「神などというものは信じません。そういうものは存在しません」
博士「神は、あなたの言うデタラメとは何の関わりもありません。バイブルを理解なさったのでしょうか。『神は愛なり』と述べているではありませんか。あなたがデタラメと思っていることは、宇宙の生命とは何の関わりもありません。私達は、あなたにもっとマシなものを知って頂きたいのです」
スピリット「誰一人頼りになる者はいません」
博士「今あなたは、カリフォルニアのロサンゼルスにいらっしゃるのをご存知ですか」
スピリット「知りません」
博士「さ、本当の生命とは何かを、よく理解しないといけません。あなたの思いも寄らなかったものなのです。あなたは花をこしらえたことがありますか。草を生えさせ、この生命を永らえさせたことがありますか。植物の生長について勉強なさったことがありますか」
スピリット「それは神の領分です」
博士「無知のままでは知性は芽生えません。神の脅威のわざを勉強なさったことがありますか。卵を割ってごらんなさい。そこには生命は見当たりません。ところが、それを21日間温めてごらんなさい。ヒヨコが出てくるのですよ」
スピリット「それは当たり前のことです」
博士「一体そのヒヨコをこしらえたのは何なのでしょう? 我々は信仰に知識を加えないといけないのです。バイブルには『神は霊なり。神を崇める者は、霊と真理の中に神を崇めるべし』とあります。あなたは、それを教会の中に見出そうとしたから、見出せなかったのです。教会は盲目の信仰しか教えません」
スピリット「信仰はもっていたつもりです」
博士「バイブルには『真理を悟るべし。その真理が汝を自由にすればなり』とあります。バイブルはけっして『聖なる書』ではないのですが、いくつか素晴らしい真理が含まれています」
スピリット「(笑いながら)私は信じない」
博士「あなたはご自分の無知を笑っているようなものですよ。私の妻は自分の身体をこうして、無知のまま迷っておられるスピリットにお貸しして、現実の身の上を悟って頂く仕事をしているのです。死後にも生命があることを知って頂きたいのです。あなたがどちらのご出身かは知りませんが、そうやって生身の肉体にもう一度宿って頂いて、事情をお聞きしているのです。お家はどこにありましたか」
スピリット「私の家? カナダです。モントリオールの近くです」
博士「私も、1881年に、カナダにいたことがあります。あなたはフランス系カナダ人ですか」
スピリット「曾祖父がそうでした」
博士「ご自分の名前を覚えていらっしゃいますか」
スピリット「物事が思い出せなくてね・・・」
博士「では、物事を理解なさる方向へお手伝いしましょう」
スピリット「私は奴隷のようなものでして・・・」
博士「それはもう、すべて過去のことです」
スピリット「過去しか見えないのです。そして、それが私を狂わせるのです。普通の人は泣きわめきたくなるところでしょうが、私は何でも笑ってやろうと思ったわけです。気が狂いそうになり、どうしようもなくなると笑い始めるわけです。泣きわめくよりは笑う方が少しはましだと思って・・・。
私には心痛のタネがあるのです。その悲しみが妻を追い出し、家庭を崩壊させ、子供達を追い出したのです。可愛い女房でした。ある日、くたくたに疲れ果てて家に帰ってみると、妻も子供もいなくなっていたのです。
しかし『神の代理人』であるはずの私に、その妻はもう必要でなくなっていたことに気がつきました。妻の方は神を求めていたようですが、私は反対の方向へ進んでいたのです。教会は私の味方になってくれないし、『神の代理人』の家庭を破壊し、妻も子供も奪うような世界に神は存在しない――そう考えたのです。その神を求めて地獄へ降りてみました。下へ下へと降りてみて、最下層の世界にも友情があることを知りました。
あなたも降りてみられるといいですよ。それが分かります。みんなお互いを外道だと思っていますが、ここへ連れて来た連中は、私の本当の友人です。何かと手を貸してくれるし、何でもみんなで分け合うことをします。どんなに落ちぶれて、たとえ一文無しになっても、何とかしてくれますよ。
そうしたある日のことです。忘れもしません――これだけは永久に忘れません―― 一体神は何を酔狂にこんなことを許すのでしょうか。ある日、妻クララに出会ったのです。どこにいたと思いますか。妻もその貧民窟に身を落としていたのです。そこの売春宿で見つけたのです。神は、無用になった妻をそこへ蹴落としたのです。私の目と妻の目とが合いました。
『こんなところに!』私は、呆れて言いました。
『あなたこそ、こんなところへ!』と妻も言いました。
『なぜ、またこんなところに?』と私が尋ねると、妻も、『あなたこそ、何をしにこんなところへ?』と尋ねます。
『多分、私の自由意志がここへ連れて来たのだろう』と言いました。
すると妻は、『さだめし、あの栄光の神の代理人の仕事が、その名を辱めないようにと、私をこんなところへ押し込めたのでしょう』と言います。
つまり、神の汚らわしい仕事を隠し、身の上を尋ねられることのないようにと、売春宿に閉じ込めたというわけです。妻はもうすべての羞恥心を失っておりました。二人とも落ちるところまで落ちてしまったのです。あの悪魔(神)のためにね。
それ以来、私は教会へ近づいたことはありません。敬虔な宗教家をすべて呪うようになりました。妻は私には一切関わろうとしませんでしたし、私も妻のことは救えませんでした。病に冒された身体のまま、あの貧民窟にほうってあります。女が身をもち崩すと、動物にも劣ることをするようになるものです。何の罪も咎めもない私の妻をあんな目に遭わせる神なんて、信じられる人がいますか? あのような現実があっていいのでしょうか」
博士「なぜあなたは、神の与えてくださった理性というものを使用なさらなかったのでしょうか」
スピリット「あのような境遇に落ちた人間が無数にいるのです。もうどうなっても構わなくなった人間ばかりなのです」
博士「今あなたは、その『もうどうなっても構わない』という気持ちから脱け出ようとなさっている。さ、今度は私の話を聞いて頂けませんか。あなたはキリスト教へ入信して盲目的信仰を受け入れた――そのことは認めますね?」
スピリット「立派な人間になりたいと思ったのです」
博士「もう少し高いものを求める気持ちは出なかったのでしょうか。ただ盲目の信仰を受け入れただけで、それに理解というものを加えなかった。神は判断力というものを与えてくださっています。理知的に考える能力です。ところが、あなたはその反対の盲目的信仰を受け入れて、それに執着した。それは神が悪いのではありません。信仰に知識を加えないといけません。その時初めて自由になるのです。バイブルは神がお書きになったものではないのですよ」
スピリット「聖なる書です。そう言われています」
博士「あれは人間が書いたものなのです。それよりも、人間の心の不思議ということを考えたことがありますか。私は今『事実』の話をしているのです。人体の不思議に関心をもったことがおありですか。つまり、目に見えない精神が、物的身体をコントロールしている、その不思議です。大自然の驚異に心を奪われたことはないのですか」
スピリット「それは今の私の惨めな状態とは何の関係もありません」
博士「それが大ありなのですよ。色々なものに触れて心が開かれていれば、今あなたは、目に見えない愛とか精神といったものの不思議がお分かりになるはずなのです」
スピリット「あの悪魔のような神が、私の妻を愛したとでもおっしゃりたいのですか」
博士「それは愛の問題ではありません。獣性の問題ですよ。人間にもそういうものが潜んでいるということです。あなたが人間精神に宿されている素晴らしい能力を駆使しなかったところに、そうなる原因があったのです。理性を使用せずに教会を盲信したのがいけなかったのです。
今のあなたの姿は、私達には見えていないのですよ。あなたは今、私の妻の身体を一時的に使用しているのです。このサークルの者は、肉体の死後もそのことに気づかずに迷っている人達をここにお連れして、スピリットになっていることをお教えする仕事を続けているのです。あなたも高級霊の方達によって、ここへ連れて来られたのです。真実の身の上を知って頂く為です。
あなたにも、これからスピリットの世界へ行って向上するチャンスが待ち受けております。が、そのためにはまず、その『憎しみ』の情を捨てて頂かねばなりません。もう肉体を失ってしまったのです。
ところで、今年が何年だかお分かりですか。1921年で、今あなたはカリフォルニアにしらっしゃるのですよ」
スピリット「どうやってここへ来たのでしょう? 私はカリフォルニアに来たことは一度もありませんが・・・」
博士「スピリットの動きは速いでしょう? さっきあなたは仲間も一緒に来ているとおっしゃってましたね。その方達も、私達には姿が見えないのです。あなたの姿も見えません。そのあなたが今、私の妻の身体を使っておられる。生命がいかに素晴らしいものであるかがお分かりになりませんか」
スピリット「そういうことをなぜ、教会は教えてくれないのでしょうか」
博士「それはですね、真理は人間がこしらえるものではないからです。教会は勝手なことを教えています。が、一方には生命の実相というものが厳として存在します。そのどちらを取るかは、あなたの自主選択に任されているのです。
教会は、人間がこしらえたものです。神は霊的存在であり、従って霊と真理の中にこそ、神を崇めるべきなのです。霊と真理の中に、です。誰しも死後の生命に憧れます。しかし、憧れるだけでは知識は授かりません。神は霊であり、目に見えない知的存在です。それが宇宙のあらゆる驚異的現象となって顕現しているのです」
スピリット「ここに来ている仲間達も、私と同じく挫折感を味わった者達ですが、それぞれに事情は異なります。時折、お互いに過去の体験を持ち出して語り合うことがあります。それぞれに悩みがあるのです」
博士「それを神のせいにするのは間違いです。宇宙は神の聖殿です。我々の魂は、その顕現です。宇宙の不思議さに目を向けないといけません。あなたの仲間もここへ来ていらっしゃるそうですが、私達にはその姿は見えていないのです。不思議だとは思いませんか」
スピリット「みんな、本当に悩みから救ってもらえるのかと言っています」
博士「お救いしますとも。生命は素晴らしいものであることを、彼らに言ってあげてください。見回してごらんなさい。救いに来てくださっている高級霊の方達の姿が見えるはずですよ」
スピリット「私を入れて仲間は六人です。みんな悩みと挫折感を抱いています。が、そうなるまでの経緯は、それぞれに違います」
博士「皆さんに伝えてあげてください――そんな惨めな状態のままでいる必要なんかどこにもないのです、と」
スピリット「我々の仲間には『笑い馬鹿』と呼んでいるグループ、『呪い馬鹿』と呼んでいるグループ、『罵り馬鹿』と呼んでいるグループ、それに『歌い馬鹿』と呼んでいるグループなどがあるんです。『歌い馬鹿』のグループは、朝から晩まで歌と祈りの連続です。もう、それはそれは、聞いていてうんざりですよ」
博士「バイブルに『人は心に思う通りの人間になる』とあります。狂信家は始末に負えません。盲信に理解が添えられないのです。才能は授かっているのです。それを使用していないだけのことです。それでも神のせいになさいますか」
スピリット「ここしばらく何も仕事をしておりません。みんな何も食べないことがります。永いこと食べずにいると、必要でなくなるみたいですね」
博士「スピリットに食事は必要がないのです」
スピリット「でも、飢えは感じます。すごく感じます」
博士「それは霊的に飢えているのです」
スピリット「何かに飢えているのです。が、何に飢えているのかが、自分で分からないのです。みんなそれを知りたがっているのです。魂が叫び求めているものがあるのです。が、それが何なのかが分からないのです。祈るのは、みんなもうご免なのです。私にいたっては、祈れなくなっています。かつて信仰をもち、毎日祈りました。ところが、このザマです」
博士「神は、皆さんの一人一人に理性的能力を授けてくださっております」
スピリット「我々の力になって頂けますか。みんな安らぎに飢えているのです。見えるのは、過去の嫌なことばかりです。みんなもう少しマシなものを求めております。私の目に映るのは、あの身を持ち崩した妻の姿だけです」
博士「奥さんは身体が病んでいただけです。魂まで病んではおられません」
スピリット「久しぶりで会った時は、互いに泣きましたよ」
博士「真理を悟られた暁には、皆さんは人助けで大変な仕事をなさいますよ。まわりに集まっている霊界のお知り合いの方の言うことを素直に聞いてください。
皆さん、しばらくの間、静かに瞑想してください。思いも寄らないものが見えてきますよ」
スピリット「妻は、どうでしょうか。ユリの花のように純粋な女だったのですが・・・。今も愛しております」
博士「愛はまだまだ続いてますとも。我々は自分で自分を見出していかねばならないのです。無知から脱け出るごとに、この世とスピリットの世界について、より高度なものが見えるようになるのです。もしも完全であれば、その有り難さは分かりません。
あなた方は『地獄』を見てこられた。だから『天国』の素晴らしさが分かるのです。そこで、不幸な人を救ってあげなくては、という気持ちが強烈となるのです。皆さんは、より高いものへ向けて心を開かないといけません」
スピリット「妻への愛は消えておりません。(仲間に向かって)こら、みんな、まだ行っちゃダメだ! もう少し待ちなさい」
博士「バイブルにもあるじゃないですか――『求めよ、さらば与えられん。尋ねよ、さらば見出さん。叩けよ、さらば開かれん』と」
スピリット「(深く感じ入り、敬虔な口調で)もしも神様がましますならば、なにとぞ救い給え! 哀れな私の妻を救い給え! 私達は互いに愛し合っておりました。ああ、神よ! 我々のすべてを救い給え! みんな魂が飢えております」
博士「神の使いの方が救ってくださいます。喜んで救いの手を差しのべてくださる高級霊の姿が、もうすぐ見えるようになります」
スピリット「神よ、なにとぞ我らを救い給え! 」
博士「まわりをよくご覧になってください。スピリットの姿が見えるはずですよ」
スピリット「あれは、息子のチャーリーだ。チャーリー! お前じゃないか! ずいぶん前に死んだはずだが、間違いなくチャーリーだ。父さんを助けに来てくれたのかい? 父さんは地獄の苦しみを味わってきたよ。が、父さんよりも母さんの方を救ってやってくれ! かわいそうだよ、母さんは! (息子が現在の本当の姿を見せたのに驚いて)おや、チャーリーだろう? すっかり大人になって! このつまらん父さんを許してくれるかい? 父さんも立派な人間になろうと、一生懸命努力したつもりなんだよ。
神よ、どうか私の目を開かせ給え! 神よ、なにとぞ救い給え! (霊界の美しい映像を見せられたらしく、息を呑んだ声で)おお、神の栄光だ! みんな、チャーリーについて行こう! (さらに驚いた様子で)お前は! クララじゃないか! 君もいたのか? クララ、おいで。昔のことはもういい。許すよ。君が悪いんじゃない! 悪魔のせいだ。悪魔がお前を私から奪ったんだ! 今も愛してる。ずっと忘れていないよ。おいで、クララ、一緒に行こう。チャーリーと一緒に行こう。あの子も許してくれるよ」
博士「チャーリーは何と言ってますか」
スピリット「『僕の霊界の家においで。すべてが素晴らしくて、父さんも幸せになれるよ。父さんが人生を呪ったのも、悲しみと苦しみが大きすぎたからだよ』と言ってくれています」
博士「目の前に素晴らしいものが待ち構えているのが、お分かりになりましたか」
スピリット「あれが天国なのでしょうか。おや、あれをご覧よ、母と妹のエマだ! こんなところにいたんですか、二人は? 私とクララのことは許して頂けますか、母さん? 母さんはきっと天国に召されたと思ってましたよ。優しかったもの」
博士「これまでのあなたの人生より、はるかに素晴らしいものがあることが分かったでしょう?」
スピリット「分かりました。神はましますのですねえ。今やっと本当に神の存在が信じられます。神の栄光を見せて頂きました。この目で見て、この身体で実感しました」
博士「すっかり悟られた後は、仲間の方達を救ってあげないといけませんね」
スピリット「みんな私について来ますよ。来てほしいです。ほっとくわけにはいきませから。お世話になりました。
さ、みんな、ついて来るんだ! それぞれにあだ名があるんですよ。本当の名前じゃないんです。神を憎み、何もかも笑い飛ばすものですから『笑い馬鹿』なんて呼ばれています。過ぎた日のことばかり喋ってました。
これでやっと神を見出すことが出来ました。神の栄光と、幸せと、スピリットの世界を見出しました。もう、信じるなんてものではありません。身に沁みて、その存在を悟りました。父も、母も、妹も、みんな来てくれています。さ、みんな、行くんだ。この方のおっしゃったことを、みんな聞いたろ?
あなたこそ、我々の救い主です。暗闇の中から救い出してくださり、光輝を見せてくださったのですから。私一人でなく、仲間全員が目を開かれて、神の栄光を見せて頂いたのです。憎しみと怨みの神ではございません」
博士「私の妻にも感謝しないといけませんね。妻が身体を犠牲にしてくれたからこそ救われたのですから」
スピリット「ご恩は決して忘れません。永い間、本当に永い間味わったことのない幸福感を味わわせてくださいました。1921年だとおっしゃってましたが、本当ですか。私は1882年のつもりでいました」
博士「お名前を言って頂けませんか」
スピリット「名前ですか? いいですよ。マローリーと申します。みんな『笑い馬鹿』などと呼んでくれてますけどね。
それにしても、こんなわがままな私を、よくぞ辛抱してくださいました。ここへ来たばかりの時は、憎しみの気持ちで一杯でしたが、今はもうすっかり消えました。あなたは私の本当の救い主です。あの暗い境涯からこんなに美しい場所へと連れ出してくださったのですから。クララ、あなたも来なさい、もう大丈夫だよ」
博士「これであなたも、存在価値のある霊となられましたね。過去を忘れて、神を見出すのです」
スピリット「前回会った時は、クララは病に冒され、モルヒネを打ち続けておりました・・・。クララ、おいで、もうあの時のことは忘れてるよ。ほら、チャーリーも一緒だよ。
クララは大丈夫ですかね? まだ目まいがするようです」
博士「アヘンの後遺症が残ってるのでしょう。あなたの愛ひとつにかかってますよ」
スピリット「妻だけは憎めなかった。純粋な心の持ち主でしたからね。クララ、目を覚ますんだ! 君はもう死んでるのだよ。過去を忘れて、新しい生活を始めなきゃ!
あなたにはお礼の言いようもございません。幸せをもたらしてくださり、私の心の中に神を見出させてくださいました。たしかに私は、本当の神を知りませんでした。あなたは、大自然の中にも神を見出させてくださいました。ごらんなさい、あの美しい花々・・・。あそこが天国なのでしょうか」
博士「霊界ですよ」
スピリット「これで、愛する人達といつも一緒にいられます。では、まいります。さようなら」
第4節 ●英国王も愛した人気女優
地上時代は、英国王エドワード七世もファンだったという人気女優のリリアン・Rが、ある日の交霊会でウィックランド夫人に乗り移った。死後のもうろうとした睡眠状態から抜け出られず、それを親戚や知人、友人などが入れ替わり立ち替わり、声をかけて目覚めさせようとしている様子を彷彿させる内容である。
1922年7月7日 スピリット=リリアン・R
博士「ようこそおいでくださいました。どちらから来られましたか」
スピリット「ここへ来るように言われてまいりましたが、何が何だか分かりません。自分の状態がとても変で、わけが分かりません。どこにいるのかも分かりません」
博士「今あなたはカリフォルニアのロサンゼルスにいらっしゃるんですよ」
スピリット「まさか! 大勢の人からここへ来るように言われたのですが、なぜだか知りません。ここにいらっしゃる皆さんの中に私の知ってる方は見当たりません」
博士「私達が、お役に立てればと思いまして・・・」
スピリット「何もして頂くことはございません。ただ、頭の中が混乱してまして・・・」
博士「それは、あなたが今置かれている状態を理解なさっていないからですよ。今、どこにいらっしゃるつもりですか」
スピリット「それは、もちろん私の家ですよ」
博士「州はどちらだったのでしょうか」
スピリット「もちろん大半はニューヨークでしたよ。でも、時にはロンドン、その他の国々も訪れましたけど・・・」
博士「どなたかお知り合いの方の姿は見えませんか。ここへお連れした方でもいいのですが・・・」
スピリット「おお、痛い!」(手足が痛むような仕草をする)
博士「何か事故にでも遭われましたか。旅行中のことでしょうか。最後に覚えてらっしゃることはどんなことでしょうか」
スピリット「とても病んでおりました。痛みがひどくて・・・」
博士「多分その病気が最後だったのでしょうね。急に良くなったのではないですか」
スピリット「いえ、永い間寝てたような感じがして、それが今なんとなく目が覚めていきつつあるような感じです。何もかも変なのです」
博士「ご自分が置かれている事情が理解できていないからですよ。その痛みは、今はもう感じる必要はないのです。『もう痛くはない!』と自分に言い聞かせてごらんなさい。さっと消えますよ。さ、おっしゃってごらんなさい」
スピリット「ええ、でも、なんだか言いにくくて・・・。あなたはクリスチャン・サイエンスの方ですね? 私も勉強してみましたが、痛みが心の影だなんて、とても信じられません」(クリスチャン・サイエンスは、信念で病気を治すことを説く宗教)
博士「今は地上とは事情が違うのです。まわりにどなたか知った方は見えませんか」
スピリット「見えます。とっくに亡くなったはずの親友の姿が、たくさん見えることがあります。それで、あたしの頭がどうかしてるんだと思うわけです。まわりに集まって、誰かが『目を覚ましなさい!』と言うんですが、はっきり見えないのです。見たいとも思いません」
博士「はっきりとしないのは、理解しようとしないその心構えが邪魔するからですよ。地上で一緒に仕事をしていた頃は、その方達が怖かったのでしょうか」
スピリット「そんなことはありません」
博士「じゃ、なぜ怖がるのですか。お互いに肉体を棄てただけじゃないですか」
スピリット「怖いのです。びくっとするのです。そばに来て欲しくないのです。なぜ、一番の仲良しが来てくれないのでしょうか」
博士「地上時代のお友達から見れば、あなたは死んだ人間なのです。そして、既に死んだお友達から見れば、あなたは死んでいないのです」
スピリット「私は病気になっておりました。でも、死んだという記憶はありません。眠りについたのは知ってますが、そのまま目覚めることが出来なかったという記憶はありません。お友達が何人かやってきて、一緒においでと声をかけてくれました」
博士「なぜ、みんなが『目を覚ましなさい』と言うのか、分かりますか。霊界のお友達にとっては、あなたはまだ居眠りをしている状態だからです」
スピリット「なぜ呼んでくれるのでしょうか」
博士「悟らせてあげようとしているのですよ」
スピリット「あなたはどなたですか。私は存じ上げませんが・・・」
博士「私は、ドクター・ウィックランドと申します。あなたをここへお連れしたのはどなたですか」
スピリット「アンナ・Hがいらっしゃいと言うものですから・・・」(地上時代の女優仲間)
博士「その方も今のあなたと同じように、ここでお話をしてくださいましたよ」
スピリット「彼女も私のところへ来てくれましたが、あの方はもう死んでしまったはずです」
博士「死んでなんかいません。いいですか、私達には今あなたの姿は見えていないのですよ。あなたの喋っている言葉が聞こえてるだけなのです。そして、あなたも実は、本当の私を見ておられるのではなく、私の身体を見ているだけなのです。精神体は見えないものなのです。その精神体は決して死なないのです」
スピリット「大勢の人がやってきて、しっかり目を覚まして、また一緒に仕事をしましょうよと言ってくれます」
博士「よろしかったら、お名前をおっしゃってください」
スピリット「私をご存知でなかったのですか。私は女優でした。リリアン・Rの名で知られておりました。死んでなんかいません。ウィリアム・ステッドが会いに来てくれました。エドワード七世もおいでになられました。私のファンでしたの。私がなぜこんなところに来たのか分かりません。あなたが私を目覚めさせてくださると、みんなが言ってますけど・・・」
――ウィリアム・ステッドは、生前から霊魂説を信じてスピリチュアリズムの普及に貢献し、死後も霊界通信を送ってきている。
博士「ここに集まっている者は、人生の悩み事に関心をもっていて、特に『死者はどうなるのか』という問題と取り組んでいるのです」
スピリット「私も少しは勉強しました。でも、心霊現象はよく分かりませんでした。そんなことを勉強するよりも女優としての仕事の方が忙しくて・・・でも、私なりに信じた生き方をしていました。とても疲れました。眠いです」
博士「病気は何だったのですか」
スピリット「それが、みんな色々と言ってくれるものですから、自分でも分からなくなりました。ここから下がひどく痛みました(膝から下をさする)。しばらく意識を失っていたようです。はっきり思い出せないのです。記憶を失ったようでもあります。昔のことになると、まったく思い出せません。人間が変わってしまったみたいです。将来に何の楽しみもなくなったみたいです。といって、不幸というのではありません。幸福でもありませんけどね・・・」
博士「私が事情を説明してあげましょう。少しも心配なさることはないのですよ」
スピリット「お友達がやってきてくれるのですが、関わり合わないようにしています。『おいでよ』と言ってくれるのですが、『ダメ、ダメ! あたしはまだ死ぬわけにはいかないわ。死にたくないの』と言い返しています」
博士「あなたはもう死んじゃってるんですよ。そのことが分かっていらっしゃらないから、お友達が教えに来てくれてるのに、あなたはそれが理解できない。
今、ご自分がどこにいるのかご存知ですか。今、あなたが使っておられる身体は、私の妻のものなのです。妻は眠っています。あなたは、ご自分の身体で喋っているのではないのですよ」
スピリット「(既に他界している友達に気づいて)ジョン・J・Aが来ました」
博士「この婦人は、霊媒なのです。私の妻でして、スピリットに身体をお貸しして話をして頂き、事情を理解して頂いております。ジョンもステッド氏もアンナも、あなたに理解させてあげることが出来なかったみたいですね」
スピリット「あの方達が怖かったのです」
博士「ここはあなたのような状況に置かれている方に実情を知って頂くところです。あなたはスピリットになっておられて、今、他人の身体を使っておられるのです。私達は自分の身体をもっていますから、こうしてあなたと話が出来るわけです。あなたはご自分の身体をなくしてしまい、今は霊的身体をおもちです。死後はいったん眠りの状態に入り、今、そこから目覚めつつあるところです」
スピリット「確かに電気ショックのようなものを与えられて目が覚めたのですが、まだボンヤリしています。人の顔がいっぱい見えます。知っている人ばかりですが、みんな、もう死んでいるはずです。周りに来て話しかけてくれるのですが、耳を貸さないようにしています」
博士「それがいけないのですよ」
スピリット「スピリットというのは生きているのでしょうか」
博士「生きてますとも! ここにいる私達は生身の人間ですが、あなたに見えている方達は、みなスピリットなのです」
スピリット「でも、あなた達と同じように現実味がありますけど・・・」
博士「私達よりもっと現実味があるくらいですよ。肉体の束縛がないのですから・・・。私達こそ、夢うつつの状態にあると言ってもいいのです」
スピリット「今こうして体調がいいのは夢を見ているからで、目が覚めたらまた痛くなるのではないかと不安なのです」
博士「ここを出て行く時は、大勢のお友達と一緒ですよ」
スピリット「私もご一緒できるということでしょうか」
博士「あなたのその『怖がる』気持ちさえ取り除けば、いつでも行けます」
スピリット「誰かが来ました。また一人来ました。私においでと言ってます」
博士「ロングフェローの詩をご存知でしょう?
生命こそ実在! 生命こそ厳粛! 墓場は終着点にあらず。
塵なれば塵に帰るべしとは、魂について言いしにあらず。」
スビリット「とても美しいものが見えてきました! なんて美しいのでしょう! 夢としか思えません」
博士「スピリットの世界の美しさを、ちょっぴり見せてくださってるのですよ」
スピリット「あの丘の上の美しい家を見てください!」あの素敵な歩道、美しい湖や丘、一面に咲いているあの素敵な花々。美しいじゃありませんか。私もあそこへ行けるのでしょうか 」
博士「あなたの心にある拒絶心や、反抗心さえなくなれば行けますよ」
スピリット「私は女優でしたが、心の中では神を信じていましたし、今でも信じています。教会は女優という職業を軽蔑しますが、私は私なりに世のために尽くしてきたつもりです。世の中を楽しくするために、私達なりに出来ることをお見せしたいと思っていました」
博士「新しい世界でも同じことが出来ますよ」
スピリット「クリスチャンではないと言われれば、それはそうかも知れません。でも、私なりに立派な人間でありたい、人のために良いことをしたい、と願ってきました。それが私の信念でした。時たま教会に出席したことはあります。でも、あの雰囲気には、なぜか溶け込めませんでした」
博士「それは、教会には霊性がないからですよ」
スピリット「あのたくさんの光を見て! 美しいじゃありませんか! 光が合唱しています。いろんな色合いに変化しながらビブラートしています。色彩が奇麗です。
あそこへ行ったら、これまでに出来なかったことをするつもりです。人さまに楽しい思いをさせてあげるだけではダメだと、何度も思ったものです。人生にはもっと大きな目的がなくてはならないと信じてました。でも、自分の心にだけは忠実に生きてきたつもりです。
まあ、素敵! なんて美しいのでしょう! あそこが天国なのでしょうか」
博士「そうです。でも、キリスト教で言う『天国』とは違いますよ。地球を取り巻いているスピリットの世界です。イエスも『スピリット』と『スピリットの世界』の存在を説いているでしょう? パウロも『物的身体と霊的身体とがある』と言っています」
スピリット「アンナが言っています――今の彼女は、私が知っているかつての彼女とは違う人ですって。今の本当の彼女を、私は知らないそうです。今は不幸な人達を救う仕事をしているのだそうです。何度もこの私を目覚めさせようとしてくれたそうです。皆さん方は、ここでどういうことをなさっておられるのですか」
博士「ここはですね、人間が死んだ後どうなるかについての知識を得るために、色々と調査をするところなのです。同時に、死んだあと迷っておられる人達に、霊的な悟りを得て頂くところでもあります。
今あなたが使っておられるのは、私の妻の身体なのです。妻は霊媒と言いまして、身体と脳をスピリットにお貸しすることが出来るのです。それで、こうして私と直接お話をして、今あなたがどういう状態にあるのかを得心して頂くことが出来るわけです。あなたは今、ご自分の身体を使っているのではないのですよ。(霊媒の手を持ち上げて)これはあなたの手ではないでしょ?」
スピリット「違います。妙ですね」
博士「そうした事実について人間が知らなさ過ぎることの方が、もっと妙ですよ」
スピリット「教会はそういうことを教えていませんね」
博士「教会は信仰を押し付けるだけで、死後の生命についての知識を付け加えてくれません。本当はそれが一番必要なのです。
バイブルも、信仰に知識を加えなさい、と言っております。イエスは『真理を知りなさい。そうすれば、その真理があなたを自由にしてくれるでしょう』と説いています。もしもあなたが、こうした霊的な事実を知っていたら、目覚めた時に迎えに来てくれたスピリットのお友達の言うことを、素直に聞いていたはずです」
スピリット「あんなに美しいところなら、ぜひ行ってみたいです。すっかり元気になったら、地上でやりたかったことが、こちらでも出来るんだそうですね。お友達がそう言ってます。でも、私をどう看病するつもりでしょうね? こんなに衰弱しているのに・・・」
博士「その身体を離れた時は、今思っておられるほど衰弱はしてませんよ。『人間は心で思っている通りの人間になる』ということわざがあります。ここを去ったら、大勢の人達に温かく迎えられて、素敵なお家に案内されます。何もかも新しい霊界の事情にわくわくして、弱々しくしている暇なんかありませんよ」
スピリット「もう一度眠りに入るのでしょうか」
博士「あなたは、病気で痛みに苦しんでおられた時に、おそらく麻酔薬を投与されていたはずです。その後遺症で意識がはっきりしなかったのかも知れません。でも、もう大丈夫です」
スピリット「ありがとうございます。あ、みんなが呼んでいます。行ってみたい気持ちになってきました。いろいろお世話になりました。これで事情が分かってきました。お友達のところへ行けることにもなりました。あのままでしたら、またドアを閉めて、一人、暗がりの中で暮らすところでした。あんな奇麗なところに行けるなんて、本当にありがとうございました。私は、結局、自分の意識の暗闇の中にいたわけですね。
みんながしきりに私を呼んでいます。霊界の私の家に案内してくれるのだそうです。何か、ぜひ伝えてほしいことがあるそうです。元気が出なくて、全部お伝えできるかどうか分かりませんが、ある紳士の方がこう言っておられます――
『自分は地上ではエドワード王だったが、今はただの人になった。母は女王(ビクトリア)だったが、今はもう女王ではなく、地上にいた時よりも人のために役立つことをさせられている。母は生前から心霊現象に興味があり、スピリットが地上に帰ってくることも知っていた(バッキンガム宮殿に霊媒を呼んで、交霊会を催したこともある)。が、人間としての義務を怠り、生涯、何もかも人に世話をさせた。好きなことも出来なかったが、責任を取るということもしなかった。今、母は人のための仕事で奔走している。私も同じで、生命の実相を知るまでは、人の為に働かされます』
以上が、その紳士からのメッセージです。多分、地上の人達が自分のことを今でも王と思っているだろうと思い、そう言いに来たようです。こちらでは、ただの一人間にすぎません。他の人達と同じように、仕事がしたいのだそうです。もう、貴族でも王家の血筋でもありません。
わぁ、友達が大勢やってきて、握手を求めています。一つの大きな家族みたいです。
では、そろそろお別れしたいのですが、どうやってこの身体を離れたらいいのでしょうか」
博士「『思いこそ自然界の問題の解決者なり』と申します。お友達のところへ行ったつもりになってごらんなさい。それだけで行けます。思念の焦点を、こちらからあちらへと移すのです。『自分は実際にあそこにいる』と念じてごらんなさい」
スピリット「ここへ来て、魂に目覚める機会をお与えくださって、心からお礼を申し上げたいと思います。これで、あの方達のところへ行けます」
第5節 ●最後の憑依霊
人体から放射されている磁気性オーラと電気性オーラは、暗闇の中に閉じ込められている地縛霊には灯火のように見える。自我意識がしっかりしていないために、無意識のうちにそれに近づくのであるが、その際に、灯火と見られている人間が霊的感受性が特別に強いと、そのオーラに引っかかってしまう。
本来なら拒絶反応(一種の防御本能)が働いてすぐに離れるのであるが、両者の間に何らかの因縁がある場合には、憑依現象がエスカレートして、スピリットの意識の働きがその人間の脳の働きにまで響くようになる。二重人格と言われているのはそういう状態をさす。これが一個のスピリットでなく、複数のスピリットが一人の人間のオーラに引っかかっている時が多重人格と言われている症状になる。
次の例は、初めのうち手に負えないほど酷かった症状が、除霊が進むにつれて軽くなり、ついには最後の一人となった、そのスピリットを招霊した時のものである。
患者=L・W夫人
スピリット=ジュリア・スティーブ
博士「お名前をおっしゃってください。私達は、暗い闇の中にいる方々をお招きして、悩みをお聞きしている者です。亡くなられてからどのくらいになりますか」
スピリット「何かが起きたようには感じております」
博士「ご自分の身体から脱け出てしまっていることはお気づきですか」
スピリット「手を握らないでください。あたくしは資産家のレディでございますの(L・W夫人はこのセリフをよく口にしていた )。レディに対する礼儀をお忘れなく・・・」
博士「『ミセス』と呼ばれてましたか、それとも『ミス』でしたか」
スピリット「あたくしは資産家のレディでございます。そのような下衆の質問には慣れておりませんので・・・。あたくしからあなたさまに申し上げたいことがございますの」
博士「どのようなことで?」
スピリット「あなたは、あたくしの背中に妙なものを浴びせる悪い癖がおありのようで(静電気治療のこと)。なぜ、あのようなマネをなさるのか、分かりませんの。あなたはまた、このあたくしを牢の中に閉じ込めましたね? (オーラの中で身動きが出来なくなった状態のこと)あなたに相違ございません。どこのどなたさまでいらっしゃいますか」
博士「あなたのためを思ってお話をうかがっている者です」
スピリット「第一、あたくしはあなたさまを存じ上げておりません。第二に、あなたさまにご相談申し上げることは何もございません。どなたさまですか。お名前をおっしゃってください」
博士「ドクター・ウィックランドと申します」
スピリット「ほんとはお名前をうかがっても仕方ないのですけどもね・・・。何の興味もございませんもの」
博士「スピリットの世界へ行きたいとは思いませんか」
スピリット「そんな話、聞いたこともございません。あたくしは、スピリットではございません」
博士「その手をごらんになってみてください。あなたのものでしょうか」
スピリット「あなたという方は、このあたくしを永いこと牢に閉じ込めておいて、今度はニセモノを見せようというのですか。聞く耳はございません」
博士「ここへは、どうやって来られたのでしょうか」
スピリット「あたくし自身には身に覚えがございません。とても奇妙な感じがするのは確かです。牢の中にいて、ふと気がつくと、ここに来ておりました。どうやって来たのか、分かりません。以前はお友達(他の憑依霊)が沢山いたのですが、いつの間にか一人ぽっちにされてしまいました。牢に入れられているのですが、どんな悪いことをしたのか、自分でも分かりません」
博士「そのお友達とは、どこで一緒だったのですか。どこに立ち寄っておられたのですか」
スピリット「立ち寄っただなんて・・・。ちゃんとした自分達の家にいましたよ。仲間が大勢いました――男性も女性も。ただ、なぜだかそこから出られなくて・・・。温かいところにいたり、一人ぽっちになったり、暗いところにいたり・・・。今は一人っきりになりました。あたくしを焼くのは止めてくださいよ」
博士「あの電気療法は、地縛霊にはよく効くのです。無知な霊にね」
スピリット「無知ですって! よくもそんな失礼な言葉が使えるわね。生意気な! 」
博士「あなたはもう物的身体から脱け出てしまったことをご存知ないのですか。肉体を失ってしまわれたのです」
スピリット「どうしてそんなことが分かるのよ?」
博士「それは、今あなたが話しておられる身体は、あなたのものではないからです。それは、私の妻のものなのです」
スピリット「あの針のようなものを浴びせる前は、あなたを一度も見かけたことはございませんよ」
博士「あの時のあなたは、それとは別の身体を使っておられたのです」
スピリット「一体、それはどういう意味ですか」
博士「別の人間の身体に乗り移っておられたということです」
スピリット「なるほど、そういえば思い当たるフシがあるわね。なんとなく自分が自分でないような気がしたかと思うと、また自分に戻った感じになったりしてました。一人、図体のでかいのがいて、少し間抜けなところがあるんですけど、その人の言う通りにさせられていました(もう一人の憑依霊で、この女性の前に除霊された、ジョン・サリバンのこと)。
ほんとは言いなりにはなりたくなかったのです。だって、あたくしは欲しいだけお金があるし、なんであんなゴロツキに悩まされる必要がありますか。そこはあたくしの自宅ではありませんでしたが、そこにいないといけなかったのです。なぜ逃げ出せなかったかが分かりません。その男は、あたくしを入れて数人ばかりを牛耳ってました」
博士「例の電気が、逃げ出すのに役立ったわけでしょう?」
スピリット「そうね。でも、その時の痛さったら、ありませんでしたよ。命がなくなるかと思いましたよ」
博士「何はともあれ、その電気のお陰で自由になれたじゃありませんか」
スピリット「あの男からはどうしても逃げられませんでした。言われた通りにしないと大変なの。彼がやたらに走りたがるものだから、あたくしたちも走るしかなかったのです(患者はよく逃げ出すことがあった)。
一人、小さい女の子がいて、その子は泣き通しでした。時々自由になったかと思うと、すぐまた、そういう悲劇に巻き込まれるのです。時にはフワフワ漂いながら、あちらこちらへ行くような感じもましした」
博士「そんな時は一個の自由なスピリットとなっておられたのですよ」
スピリット「スピリットという言葉を口にしないでください! 大嫌いです。そういう類いのものには縁はございません」
博士「あなたは、まだ、ご自分が肉体から脱け出てしまったことが悟れないのですね。死んだと言っているのではありません。ちゃんと生きていらっしゃいます。ただ、今はスピリットとして生きているということです」
スピリット「あたくしは死んでなんかいませんよ。今こうして、あなたと話をしているじゃありませんか。手も腕も、これ、ちゃんと動かせるじゃありませんか」
博士「いいですか。あなたが私に向かって話をなさっていても、私達にはあなたの姿は見えていないのです。見えているのは、私の妻の身体です。あなたは私の妻の身体を使って喋っておられるのです。ミセス・ウィックランドの身体です。あなたのお名前は?」
スピリット「エミリー・ジュリア・スティーブです。結婚してましたが、夫は数年前に他界しました」
博士「ここがカリフォルニアであることはご存知ですか」
スピリット「そんなところへ行ったことはありません。最初シカゴへ行き、そこからセントルイスへ行きました」(患者もセントルイスに住んだことがあり、そこで異常行動が出始めている)
博士「セントルイスのどちらでしたか」
スピリット「あたくしは旅行していたのです。住んでいたのではありません」
博士「病気になった記憶はありますか」
スピリット「何も思い出せません。(急に興奮状態になる)イヤ、イヤよ! あたし、どうかしてるわ!気でも狂ったのかしら? 見て! ホラ、見て! 夫がいるわ。幽霊だわ。見て! 」
博士「こうしてあなたと話をしている時は、私は実は幽霊と話をしているのと同じなのです。でも、ちっとも怖くはありませんよ」
スピリット「あたしの子供もいる! 赤ちゃんだったのよ! リリー! リリー! 夫のヒューゴーよ。あたし、頭が変になりそう。まあ、母さんまでいる! みんな、あたしの方へやってくる! ヒューゴー、ほんとにあなたなの? リリー! 会いたかったわ! でも、怖い! 」
博士「あなたはもう生身の人間ではないのです。スピリットになっておられるのです。そのことを早く悟りなさい」
スピリット「夫やリリーがなぜ私のまわりにやって来たのか教えてください。天国では幸せではなかったのでしょうか。なぜ天国に留まっていないのでしょうか」
博士「天国とはどんなとこだか、ご存知ですか」
スピリット「天空の高いところにあって、キリストと神がいらっしゃるところです」
博士「イエスは『神の王国はあなたの心の中にある』と言いました。『あなたは神の神殿であり、神の霊はあなたの中におわします』とも言ってます。さらにまた、『神は愛です。愛の中に住める者は神の中に住むのと同じです』とも言っています。神は上にも、下にも、いたるところにましますのです」
スピリット「人間の姿をした神は、存在しないのでしょうか」
博士「神は大霊なのです。一つの場所にのみ存在するものではありません」
スピリット「なんだか疲れてしまって、おっしゃることが理解できません。どこか休む場所があれば喜んでまいります。これまであたくしがどんな苦しい目にあってきたか、とても口では申せません。帰る家はなく、疲れた頭を休める場所もなく、あちらこちらと歩き回っても、家も安らぎも見つかりません。どうか安らぎを、と祈ろうとすると必ず邪魔が入るのです。
大勢がひしめき合っておりました。あたくしがいじわるな態度をとったこともあります。仕方なかったのです。けだものに取り憑かれたみたいに、大喧嘩もしました。それが終わると、何日もの間、ぐったりとなるのです。
酷い目に遭いました。あのゴロツキがいつもあたくしの後をつけまわし、小さい女の子は泣き通しでした。今はもうその男もいなくなりました。ここしばらく見かけなくなりました。泣いてばかりいた女の子もいなくなりました」
博士「ご主人やお母さんや、お子さん達と一緒に行かれてはいかがですか。皆さんが介抱してくれて、休むことも出来るでしょう。何はさておき、肉体はもうなくなったのだということを、しっかりと自覚してください」
スピリット「いつからなくなったのでしょう?」
博士「それは私達には分かりません」
スピリット「大柄な女性になって誰とでも喧嘩ができそうな気分になったかと思うと、今度は小柄な女性になったみたいに感じたりして、とても変でした」
博士「それは多分いろんな人間に乗り移ってたのですよ。もう、これでそういう状態からすっかり脱け出られますよ」
スピリット「そうしたら休むことが出来ますね? 目が覚めてみたら、これは全部夢で、またあのゴロツキと泣き虫と一緒の生活になるのではないでしょうね? あの男はもうご免です。まるで悪魔でした。女の子をいじめるものだから、それで女の子は泣き通しだったのです」
博士「さ、そういう過去のことはすべて忘れて、これから先のことを考えましょうよ。ご主人と一緒に行ってください。スピリットの世界のすばらしさを説明してくれますよ」
スピリット「夫のヒューゴーが見えます。夫が死んでからのあたくしの人生は、まったく生き甲斐がなくなりました。それからわずか一ヶ月後に子供も死にました。三歳の幼児でした。夫があたくしの生き甲斐でした。夫が死んでからは、自分はもうどうなってもいいと思いました。よく一緒に旅をしたものです。アラスカに行った時に夫が風邪を引き、肺炎を併発し、子供も重病になりました。もう一度やり直すのは、とても無理です」
博士「もう一度やり直してみられてはいかがですか。そのために、皆さんが迎えに来られたのですよ」
スピリット「一緒に行きたいのは山々ですが、怖いのです。だって、みんな死んだ人達ばかりですもの。夫が言ってます――あたくしをずいぶん探したのだそうです。夫と子供が死んでから、あたくしも病気になりました。医者の診断では、神経耗弱だと言われました。それがさらに悪化して、エルギン(多分、精神病院の名前)と呼ばれる場所へ移されたのを覚えています。うっすらと思い出すだけです。そのうち急に良くなったので(この時死亡)、妹のいるセントルイスへ行きました。が、妹に話しかけても、何の反応もなくて、何か変でした。
では、みんなと一緒にまいります。あの美しいベッドをごらんなさい。これであたくしもゆっくり休めます。夫と一緒になれば、もう面倒なことにはならないでしょう。
夫が、あたくしをついに見つけることができて喜んでいることを、あなたに伝えてほしいと言っております。もう二度と別れないようにすると言ってます。では皆さん、さようなら」