第4章 意識的・無意識的に人間に害を及ぼしているスピリット
第1節 ●人間に憑依されたと思い込んだ憑依霊
憑依霊というのは大体において、自分が人間に害を及ぼしていることに気づかず、何か変だが・・・といった気持ちを抱きながら、心理的な暗がりの中で悶々とした時を過ごしているものであるが、なかには、人間の方が自分の行動を邪魔していると思い込んで、現実とは逆に自分の方が憑依されている(しつこくつきまとわれている)と思い込んで――仕返しのつもりで、あるいは懲らしめるつもりで、その人間の身体を痛めつけていることがある。その場合、スピリットの側は痛みを感じないから厄介である。
L・W夫人は、夫の死のあと、鬱病になり、やがて『幻聴』の症状が出て、髪をかきむしりながら叫び声を上げて、家を飛び出すという行動が頻繁になった。
そんな時に、背後に何人かの霊姿がつきまとっていることを実の娘が霊視していた。その中に気味の悪い目つきをした男性がいて、それが見える時の母親が『またあの恐ろしい男が来た! 』と言って逃げ出すことも分かった。
その後、転地療養のつもりでセントルイスからロサンゼルスに連れて来られたが、症状は悪化する一方で、自分の手や腕に噛み付いたり、スリッパで自分の頬をぶったり、衣服を引きちぎったりすることを始めた。手に負えなくなって、ついに精神病院に入れられ、サナトリウムで治療を続けたが好転せず、一年後に我々のところに連れて来られた。二、三ヶ月で憑依霊がすべて取り除かれ、すっかり正常に戻って、今では娘さんの家で家事を手伝いながら平穏に暮らしておられる。
次に紹介する実験は、例の『怖い男』の招霊に成功した時のもので、我々のところへ連れてこられてわずか二、三日後のことだった。
1918年1月13日 患者=L・W夫人 スピリット=ジョン・サリバン
霊媒が乗り移ってからすぐ激しく暴れるので、何人かで取り押さえておく必要があった。
スピリット「なんで俺をそんなに押さえ込むんだ! お前達と何の関係があるんだ? 俺は何も悪いことはしてないぞ! あとで覚えてろ!」
博士「あなたは、私達にとってはまったく見知らぬ方なのです。その方にいきなり暴れられては、こうして押さえ込むしかないでしょう?」
スピリット「そんなに強く押さえつけんでくれよ」
博士「あなたはどなたですか」
スピリット「なんでお前からそんなことを聞かれる必要があるんだ? 俺はお前らの誰一人として知らんのだ。誰であろうと、大きなお世話だ。ほっとしてくれ! 」
博士「さ、お名前をおっしゃってください。どうやら『剛力の女』とお見受けしますが・・・」
スピリット「女だと? もう一度よく見ろ」
博士「どちらから、何の御用で来られたか、おっしゃってください」
スピリット「何のためにそんなことを知りたがるんだ?」
博士「今のあなたを、そのお気の毒な状態から救ってさしあげられるかもしれないと思ってのことです」
スピリット「話すから、そんなに強く押さえつけんでくれ」
博士「さ、おっしゃりたいことを全部吐き出してください」
スピリット「まず第一に、あの火の針はご免だ。そのあとしばらく捕虜みたいにされていたが(患者から離されて霊媒に移されるまでの間、マーシーバンドによって金縛りにされていた)、やっと自由になったから暴れたくなったのさ。一体何の為に、あんな火の針を刺すんだ? もう家に帰る!」
博士「家はどこにあるのですか」
スピリット「今、来たところさ」
博士「その『火の針』というのはどんなものか知りたいですね」
スピリット「まるで全身が燃えるみたいな感じさ。もういいだろう、帰らせてくれよ。こんなところに腰掛けたまま押さえつけられているのはご免だ」
博士「『針』の恩恵を受けられたいきさつが知りたいのですがね? ぜひ教えてくださいよ」
スピリット「俺にも分からん。が、とにかくやられたんだ」
博士「ここへはどうやって来られました?」
スピリット「知らん」
博士「誰かにくっついたまま来られたのではありませんか」
スピリット「俺は俺にくっついてるだけだ」
博士「最近はどんなところにおられましたか」
スピリット「ずっと暗がりの中だ。家から出たら何も見えなくなった。まるで目が潰れたみたいだった」
博士「あなたの言う『家』の中にいると妙な感じがしませんでしたか」
スピリット「本当の俺の家じゃないよ。が、似たようなところさ」
博士「そこにいると不愉快になってきて、それで酷いことをしたのでしょう?」
スピリット「時々、自分がどこにいるのかも分からなくなって、ヤケになって暴れまわったのさ。時には、数人を相手に大喧嘩もやったよ。今は見当たらんが、いつかやっつけてやる」
博士「その人達は、どこの誰だったのですか」
スピリット「ええっと・・・知らんね。いろんな奴がいたよ」
博士「女性もいましたか」
スピリット「大勢いたよ。ゆっくり休む場所もなかったほどさ。女め! いつか全部ひっつかまえて、痛い目に遭わせてやる」
博士「なぜ、そんなに人を痛めつけたいのでしょうね?」
スピリット「あっちから一人、こっちから一人と、次から次に女の姿を見せられるので、ついカッとなってしまうのさ。こんなに沢山の女を、どうしようもないよ」(患者のオーラにひっかかっているスピリットのこと)
博士「今、どこにいると思いますか」
スピリット「どこに? そんなことどうでもいい」
博士「どこに住んでおられますか」
スピリット「いろんなとこにいたよ。転々としていて、そのうち何もかもまったくうんざりしちゃった。いつも逃げ出したくなってね。それで誰も俺の居場所を知らないってわけよ」
博士「でも、自分自身からは逃げられませんでしたね?」
スピリット「まわりには女、女で、もう反吐が出そうだよ。そのうちの一人(L・W夫人)を蹴ったり噛みついたりしてやったが、それでもしがみついてきやがった。俺につきまとうことはないんだが・・・。いつか殺してやろうと思ってる」
博士「あなたは、ご自分のなさっていることが分かってないようですね」
スピリット「何をしようと構わんさ。あの女の手首を食いちぎってやったことがある。それでもしがみついてくるんだ。それで、今度は髪の毛を思い切り引っ張ってやった。それでもまだ、しがみついてきやがった。どうしても振り切れんのだ」
博士「ですから、本当のことをお教えしようと思ってるんです。いかかですか」
スピリット「知りたいとは思わんね。ただ、あれだけは頭にくるな。あの火の針だよ。あれを食らうと力が抜けてしまった感じになるよ」
博士「今、その女の人はどこにいますか」
スピリット「ここしばらく見かけんね」
博士「一体、その人があなたにどんな危害を加えたというのですか」
スピリット「この俺につきまとう筋合いはないと言ってるんだよ」
博士「立場を逆転して、もしもあなたの方が彼女につきまとっているとしたら、どうしますか」
スピリット「こんなに女みたいに着飾ってくれて、おまけに女の髪を頭にのっけるとは、余計なことをしやがったもんだよ」
博士「死んでどのくらいになりますか」
スピリット「死んで!? よし、死んでなんかいないところを見せてやろう。腕ずくじゃ負けないことも思い知らせてやろう。この俺が死んでるんだとよ!」(荒々しく笑う)
博士「しばらく妙な感じになったことはありませんか」
スピリット「妙どころじゃないよ、地獄だよ。その手を離してくれないか。まるで火のように熱くてしょうがないよ」
博士「女が男のあなたにおめかしをすることが出来るものでしょうかね? ご自分が少し身勝手過ぎるとは思いませんか」
スピリット「身勝手だと? 俺が身勝手なら、あの女の方こそもって身勝手だ」
博士「もしもあなたが、あの方につきまとっている、何も知らないスピリットだとしたらどうしますか」
スピリット「この俺があの女につきまとってるだと? 俺じゃないぞ。馬鹿言っちゃ困るよ、ダンナ」
博士「そういうことが、事実よくあるのです。バイブルをお読みになったことがありますか。昔は悪霊を追い出すということを、よくやったものなのです。あなたは今は、もうスピリットになっている――しかも、その、追い出さないといけないスピリットになってしまわれたのです」
スピリット「悪魔というのは本当にいたらしいよ。だが、俺は悪魔じゃないからな」
博士「でも、あなたは一人の女性を苦しめてきた。それで私が電気で追い出したのです」
スピリット「この野郎! (掴み掛かろうとする)牢へ閉じ込めたのはお前だな? あの女もひっつかまえて八つ裂きにしてやる! しょっちゅう、つきまといやがって! 」
博士「あなたこそ、彼女につきまとっていたのですよ。今やっと彼女から引き離したのです。さ、そろそろ自分がスピリットであることを悟って、まともになってくださいよ。私は本当のことを言ってるのです」
スピリット「あの女さえいなくなってくれたら・・・もう一度思い切ってぶん殴ってやる」
博士「なぜそんなに、あの方をやっつけたがるのですか。あの方はちっともあなたに迷惑はかけていないのに」
スピリット「お前も一度こらしめんといかん!」
博士「言うことを聞かないと、もっと電気をかけますよ」
スピリット「それは困る。このままの方が、まだマシだ。が、その手を少し緩めてくれないか。きつ過ぎるよ」
博士「あなたは男だとおっしゃるけど、私達にはあなたの姿は見えていないのですよ。見えているのは女性の姿だけなのです」
スピリット「その目は節穴か。俺が男だということが見て分からんのかね」
博士「でも、女性の服を着ておられますよ」
スピリット「だから、俺はそれを引きちぎって捨てるのさ。すると、あの女がまた女の服を着せやがる。それをまた引きちぎるんだ」
博士「あなたはもう、その女の人から離れて、今は別の女性の身体を使っているのです」
スピリット「それはどういう意味だ?」
博士「あなたは、何も知らずに地上をうろついている『スピリット』なのです。これまで一人の女性に取り憑いていたのですが、今は私の妻の身体を使っておられるのです」
スピリット「俺は自分の身体しか使っていない。あの女は何故、この俺につきまとうんだ?」
博士「あなたこそ、彼女につきまとっていたのです。あなたを引き離したので、彼女は今、とてもすっきりした気分になっておられます」
スピリット「牢へぶち込んだのはお前だな?」
博士「私じゃありません。高級霊の方達です。あなたは、あまりにも身勝手でした。手のつけようがないほどでした。今、あなたがどういう状態にあるかを理解なさらないといけません。仮に今、これまでにあなたがやってきたことを記録にまとめたとしたら、あなたはそれを人に見せる勇気がありますか」
スピリット「そんなことはどうでもいい。とにかく、女につきまとわれて、女の服を着せられていることが気に食わんのだ。女は大嫌いだ! 」
博士「あの方は、大勢のスピリットに悩まされていたので、治療の為にここへ連れてこられたのです。間違いなく憑依されていることが分かったので、電気療法で追い出したのです。あなたは、実はその一人なのです。そのことを分かって頂きたくて、こうしてお話をしているのです」
スピリット「あの女をひっつかまえて、八つ裂きにしてやる! 腕を食いちぎってやる! 」
博士「もう少し冷静になってください。事情が分かってきて幸せになりますよ」
スピリット「幸せなんてあるもんか! 」
博士「神とは何か、とか、人生とは何か、といったことを考えてみたことはありますか」
スピリット「神なんていないよ。幸福も不幸もあるもんか」
博士「もしも超越的な存在がいないとしたら、あなたという存在はどこから生じたのでしょうか。なぜ、あなたは存在しているのでしょうか。私の妻の身体を使って、こうして話が出来るという現実を、どう説明しますか」
スピリット「さては、俺につきまとっていたのは、お前の奥さんだったのだな?」
博士「ここへ治療に来られた婦人に、あなたがつきまとっておられたのです。そのあなたを私が電気で追い出し、高級霊の方達があなたを一時、牢に閉じ込めたのです(霊的に金縛りの状態にする)。そして今、一時的に私の妻の身体に入って話をしておられるのです」
スピリット「女が嫌いな俺が、なんで女につきまとうんだ? 女を片っ端から、叩きのめしてやりたいくらいだ! 」
博士「あなたはもう肉体をなくされたのです。そして、地上をうろつきながら、次々と人間に憑依していたのです。わがままなスピリットは、よくそういうことになるのです。精神病棟には、そういうスピリットに憑依された人が一杯います。あなたは、この方を三年から四年もの間、地上の人間を苦しめてこられたのです」
スピリット「一体、この俺があの女に取り憑くわけがあるのかね。俺は女が嫌いなんだ。色恋や金で女を追っかけやしないよ。女という女を全部殴り殺してやりたいくらいなんだ。女は平気で男を欺きやがる。神様も、女なんか造らなきゃ良かったんだ。自分の気に入ったとおりにしてもらっているうちは機嫌がいいが、背中を向けられると刺し殺すからね。俺は女に報復を誓ったんだ。怨みを晴らすというのは気分がいいもんさ。だから、やるんだ」
博士「もうそろそろそんなことは止めて、人生というものをもっと真剣に考えないといけません。ご自分では間違ったことをしたという気持ちはないのですか。過去をよく振り返って、完全だったかどうか、考えてみては?」
スピリット「完全な人間なんていないよ」
博士「いけなかったことが沢山あるとは思いませんか」
スピリット「完全な人間はいないよ。俺はいたって普通の人間だと思ってる」
博士「生命の不思議について考えてごらんなさい。あなたは死んでもう何年にもなるはずです。高級界のスピリットがあなたをここへお連れして、色々と素晴らしいことをお教えしようとしておられるのです。私の妻の脳と身体を使って、私達と話を交わすことを許してくださったのです」
スピリット「奥さんも馬鹿だね、そんなことに使われて」
博士「あなたのような気の毒な方への慈悲心から、身体を犠牲にしているのです。女性をみんな悪者と思ってはいけません」
スピリット「俺のおふくろは、立派な女性だったよ。おふくろが女でなかったら、女を皆殺しにするところだ。が、あのおふくろも死んで四、五十年にもなるかな」
博士「あなたも、肉体はとっくに死んでいるのです。あなたも今はスピリットになっておられるのです。まわりを見てごらんなさい。目に映るものを正直に言ってごらんなさい」
スピリット「おふくろの姿が見えるよ。だが、おっかないね」
博士「私達はスピリットであるあなたを、少しも怖がってませんよ」
スピリット「おふくろは幽霊になっちゃったんだ」
博士「あなたと同じスピリットなのです。お母さんは何とおっしゃってますか」
スピリット「『ジョン、永い間、お前を探してきたよ』だってさ。でも、おっかないよ」
博士「幽霊みたいに見えるのですか」
スピリット「そんなことはないが、でも、おっかなくて・・・オヤ、親父もいる。それに、リジーだ! お前なんかに来てほしくないな。俺に近づくんじゃない、リジー! マムシ野郎め!」
博士「多分、リジーは、自分のしたことを許してもらいたくて来られたのだと思います」
スピリット「絶対に許すわけにはいかんね」
博士「人間、行き違いということがあるものです。お二人の間に、何か誤解があったんじゃないですか。あなたは、猜疑心から間違ったことを思い込んでいるのかも知れませんよ」
スピリット「あいつが憎い! 近づいてくれるな! 」
博士「憎しみを捨てて、少し冷静に考えてみては?」
スピリット「リジー、お前はあっちへ行くんだ! さもないと殺すぞ! お前の言うことなんか聞きたくない。いくら弁解しても聞く耳はもたんぞ。大嘘つきめが! 」
博士「彼女は何と言ってますか」
スピリット「あいつだ。あの女が俺の人生をめちゃめちゃにしちまったんだ!」
博士「何て言ってるか、聞いてみてください」
スピリット「(聞いている様子)へぇ、結構な話だよな。(一人言のように)俺達は結婚することになっていた。あの頃はあいつもいい娘だった・・・。(リジーの言ってることを聞いて)へえ、俺が嫉妬心から変な勘ぐりをしたのだとさ」
博士「あなたが、よほど頑固で、怒りっぽかったのでしょう」
スピリット「(リジーに向かって)お前は大嘘つきだ。俺を捨てて、奴のところへ行きやがった。(独り言のように)あの晩、家に帰る途中で、電車の中である男と会って、ホンの少し一緒に歩いただけだと言ってやがる。俺はその現場を見て、家に帰って自分で自分を刺したんだ」
博士「自殺したわけですね?」
スピリット「そのまま死んでしまいたかったんだが、死ねなかった。あのまま行ってれば、こんな惨めな思いをせずに済んだのに・・・」
博士「なぜ、彼女を許してあげないのですか」
スピリット「オイ、お前はあの女の味方をする気か? 俺は自分を刺した傷で、どれほど苦しんだことか。いっそのこと死んでしまいたかったのに・・・。リジーが歩き回ってる。泣きじゃくってるよ」
博士「ご自分の良心の声に耳を傾けなさいよ」
スピリット「彼女を愛していたさ。だが、彼女から何を得たというのか・・・」
博士「子供の頃、よほどお母さんに甘やかされたのではありませんか」
スピリット「おふくろは、それはそれは大事にしてくれたよ。欲しいものは何でも与えてくれた。だから、楽しい思いばかりしていたよ。
リジーが言ってる――俺に対する態度をもう少し考えてれば良かった、とよ。ダメだ、母さん、近づかないで! 僕はもう、どうしようもない人間なんだ」
博士「あなたにとって、今、一番大切なのは、自分を抑えるということです。イエスが言ってるじゃありませんか――『童子のごとくならなければ、神の王国へは入れない』と。あなたには、その意味がよく分からないだろうけど、あなたは何でも自分中心に考えていましたね。お母さんが甘やかし過ぎたのです」
スピリット「おふくろが、今、それを後悔してると言ってるよ。またリジーが来やがった。あいつのことなんか信じるもんか! あんな男と行っちまいやがって」
博士「仮にそれが事実だったとしても、それがどうしたと言うのですか。よほど嫉妬心が強かったとみえますね」
スピリット「俺の誤解だと、リジーが言ってるよ。本当のことを話したはずだと言ってる」
博士「リジーは、もう死んでるんですよ」
スピリット「死んでなんかいないよ。もし死んでるとしたら、あれは幽霊というわけかね?」
博士「そこに立ってると言ったじゃないですか。幽霊のように見えますか」
スピリット「イヤ、そうは見えない。おふくろが言ってる――『ジョン、分別を働かせなさい。お前は自分の良心に責められてるのだよ』とね。辛いものだぜ、愛したはずの女が、他の男とくっついてるのを見るのは。その現場を見てから俺は、彼女への当てつけに自分を刺したんだ。戻ってきてくれるだろうと思ったのさ」
博士「あなたは自殺して死んじゃったのです。そして今はスピリットになっていることが悟れずに、女の人に憑依して、その方に大迷惑をかけている。それから逃れようとして、私達のところへやってきたのです」
スピリット「あの女のことなんか構うもんか。俺は女は嫌いなんだ。なのに、あいつはつきまといやがる。俺は、女に仕返しをすることだけが生き甲斐だった。そして、たっぷり仕返しをしてやったよ」
博士「あなたのお陰で、あの方が大暴れして困ったのです」
スピリット「おふくろとリジーがそこに立って、一緒に泣いてるよ。俺のことなんか誰もかまってくれない。知るもんか! 」
博士「姓は何とおっしゃいますか?」
スピリット「ジョン・サリバン」
博士「あの方に迷惑をかけたことを恥ずかしく思わないといけませんね」
スピリット「あんたが自分を恥ずかしく思わんのと同じで、俺は少しも恥ずかしく思ってないね」
博士「あなたは、心からリジーを愛していたのでしょうか。一人よがりに過ぎなかったのではありませんか。つまり、彼女を自分のものにしたかっただけで・・・」
スピリット「俺のものになるべきだったんだよ、彼女は。それが、あのことで、愛が憎しみに変わったのさ。
泣いても無駄だよ、リジー。いくら泣いても、俺は許さんからな。百回、頭を下げても許さんぞ」
博士「子供の時に、お母さんが二、三度でいいからお仕置きをしていたら、こんなことにはならなかったでしょうにね、リジーを許してやりなさいよ。そうすることで、あなたも救われるのです」
スピリット「絶対に許さないね。女達は俺に夢中になったものよ。かっこ良かったからな」
博士「それがいけなかったんです。平凡だった方が、もっと物わかりのいい人間になったでしょうよ。今こそ、分別を働かせるチャンスです。私の妻の身体を使わせてあげてるのですから」
スピリット「じゃ、奥さんを返すよ。俺には用はないんだ。ねえ、母さん、そこでリジーと一緒に泣いても何にもならんよ。俺は絶対に許さないんだから」
博士「このチャンスに人を許すことが出来なかったら、この後、またあの暗い牢の中に閉じ込めて、反省するまではほうっときますからね。間違いは自分にあることを知らないといけませんね」
スピリット「許さないね。母は好きだった。金もたっぷりあったしね」
博士「どこに住んでました?」
スピリット「セントルイスだ」
博士「ここはカリフォルニアですよ」
スピリット「その手は食わんよ。ここはセントルイスで、今、冬だ」
博士「何年だと思いますか」
スピリット「1910年」
博士「今日は、1918年1月13日です」
スピリット「俺は、女が泣くのを見るのが大嫌いなんだ。母さん、泣くのは止めてくれよ。女に泣かれるとムシャクシャするんだ」
博士「良心が痛むようなことはないのですか」
スピリット「他人のことで心を痛めて、どうなるっていうのかね」
博士「お母さんの言ってることをよく聞いてごらんなさい」
スピリット「母さん、言っとくけどね。子供の頃にボクにもっとお仕置きをしてくれて、わがままを許さないでくれたら、もう少しはマシな人間になっていたと思うよ。でも、もう遅いよ。この年齢になって心を入れ替えるなんて、出来ないよ。それに、心を入れ替えたからといって、どうなるというものでもないよ」
博士「人を許すという気持ちにならなかったら、これから先、もっともっと酷い目に遭いますよ」
スピリット「土牢に入れると言っていたが、構わんよ。母さん、ご覧の通り、ボクは立派な人間になったろう? さぞかし自慢だろうね? 母さんの作品というわけさ」
博士「お母さんには、いかにも愛情ある人間のような口をきいてるけど、慈悲とか同情とかはカケラもないのですね、あなたには?」
スピリット「同情なんて言葉は嫌いだね。親父が言ってる――心を入れ替えないといけないとさ。もうこの年齢になっては手遅れだよ。(急に驚いて、何かに尻込みしている様子。多分土牢のビジョンを見せられているのであろう)どこかへ連れてってくれ! そいつだけはイヤだ! もう、うんざりだ! 」
博士「もっと素直にならないといけません」
スピリット「おふくろが言ってる――この俺の育て方が間違っていたとよ。(また土牢のビジョンを見せられて)あの土牢には入れないでくれ! リジーを許すから・・・何でもするよ! もう生きてるのが嫌になったよ。何もかもうんざりだ」
博士「霊の世界へ行ったら、人のためになることをしないといけませんよ。人の迷惑になってはいけません。このご婦人に取り憑いて犯した数々の過ちの償いをするのです」
スピリット「あの女がこの俺をいじめたんだ。だから仕返しをしたまでさ。スリッパで顔をぶん殴ってやった。女どもに対する報復だよ。俺は女が憎いんだ」
この調子で、この男はどうしても悟らせることが出来ないので、再び『土牢』へ連れて行かれた。自我に目覚め、人類に対する憎しみが晴れるまで、そこに閉じ込められることになるであろう。
第2節 ●『逆上癖』の女性を救済したケース
R・F嬢は、突然逆上して走り出すという行動を、断続的に繰り返していた。が、その憑依霊を招霊し、説得し、離れてもらうことで、きれいに収まった。
1920年9月15日
スピリット=エドワード・スターリング 患者=R・F嬢
霊媒に乗り移ると同時に、椅子から立ち上がって走り出そうとしたので、押さえ込もうとすると逆上した。
博士「座ってください」
スピリット「いやだ!」
博士「どこへ行きたいのです?」
スピリット「家だ」
博士「家? あなたの家はどこですか」
スピリット「探しに行くんだ」(我々の手を振り切ろうとして激しく暴れる)
博士「おしとやかなレディですね」
スピリット「レディ? レディ? 俺はレディじゃない、男だ!」
博士「どちらから来られました?」
スピリット「どこだっていい。これから家に帰るところだ」
博士「家はどこにあるのですか」
スピリット「見つかりさえしたら、どこだっていい。とにかく、こんなところに座っているわけにはいかんのだ。帰るんだ。言ってることが分からんのか! 」
博士「なぜ髪を切ったのですか」(患者は衝動的に髪の毛を切っている)
スピリット「女みたいな長い髪をしていて平気でいられると思うか。イヤだね。冗談じゃない! さ、帰らせてくれよ。頼むから」
博士「どこへ帰るのです? あなたには家はないのです」
スピリット「ここにいたくないのだ。帰りたいのだ」
博士「死んでどれくらいになりますか」
スピリット「死んでなんかいない。帰してくれよ! 身体中にあんな恐ろしいものを浴びせやがって・・・トゲみたいな、何か先のとんがったものを刺されたみたいだ」
博士「私が患者さんに流した電流をそのように感じられたのです」
スピリット「二度も逃げ出そうとしたが、連れ戻された」
博士「なぜあの方(R・F嬢)に髪を切らせたのですか」
スピリット「誰にも切らせてなんかいないよ。俺の身体なんだから、切りたい時に切るさ。眠り込んで、目が覚めたら髪がひどく伸びていて、どうしようかと思った。女みたいだったので、自分で切ったんだ。散髪に行くわけにもいかんだろう? 恥ずかしくて通りを歩けないよ」
博士「あなたが切ったのは、あなた自身の髪ではなくて、今まで乗り移っていた女性の髪だったのですよ」
スピリット「俺は俺の髪を切ったんだ。なんでこんなところに引き止めておくんだ? あんたをはじめ、他の誰にも、俺は何も悪いことはしていないじゃないか」
博士「あなたは、一人のご婦人に大変いけないことをして、その方を困らせてきたのです。あなたは男だとおっしゃるけど、女性の服装をしてらっしゃいますね。どうなってるんでしょうね?」
スピリット「男性用の服が手に入らなかっただけのことさ」
博士「この事実を知って目を覚ましてくださいよ。何か身の上に異変が起きているに違いないのですけどね?」
スピリット「座らせてくれよ」
博士「いいでしょう、おとなしくしていればね。いかがです? 一体どうなってるのか、知りたいとは思いませんか」
スピリット「こんなところにいたくない。早く帰らせてくれよ」
博士「大人しく腰掛けて、私の言うことを聞いてくれれば、今あなたがどういう状態にあるかを説明してあげましょう。あなたは、いわゆる『死者』となっておられるのです」
スピリット「死んでなんかいないよ。そんなに抱きしめんでくれ!」
博士「あなたを抱きしめているのではありません。私の妻を抱きしめているのです。今あなたはまったく普通と違う状態にあるのです。もう肉体から脱け出ているのに、それがあなたには理解できていないのです」
スピリット「行かせてくれよ。ここから出たいのだ。なんで俺の手を押さえるのだ?」
博士「あなたの手を押さえているのではありません。私の妻の手を押さえているのです」
スピリット「あんたの奥さんの手だと!? 俺はあんたに会うのは今日が初めてじゃないか。あんたの奥さんなんかじゃないよ。第一、男が男と結婚するのかね? そんな話、聞いたことがないよ」
博士「私の言ってることに間違いはありません。あなたは何も知らずにいるスピリットで、今までの自分の状態が分かっていらっしゃらないのです」
スピリット「俺のことは構わんでくれよ。とにかく帰りたいのだ」
博士「死んだらどうなるのか考えてみたことがありますか」
スピリット「俺は死んではいないよ。ただ眠り込んだだけだ」
博士「それが死の眠りなのです」
スピリット「永いこと眠っていて、目が覚めたら髪の毛がひどく伸びていたんだ」
博士「髪が伸びていただけでなく、衣服まで女性のものを着ていた・・・どうやって手に入れたのですか」
スピリット「でも、やっぱり俺は死んではいない」
博士「物質で出来た身体を失ったのですと申し上げているのです。身体をなくしてしまうと死んだことになるのです」
スピリット「ほんとに死んだのなら、墓へ行って最後の審判の日まで待ってるよ。ガブリエルがラッパを吹くまでな・・・」
博士「それは愚かしい信仰なのです。あなたは生命の神秘を勉強なさらなかったようですね?」
スピリット「死んだら、神とキリストを信じていれば天国へ行くんだと教わったよ。キリストが我々の罪を背負って十字架で死んだのだとね」
博士「じゃ、なぜあなたは天国へ行ってないのでしょうね? あなたは地上の人間としては死んだのです。あなたは今ここにいらっしゃるけど、あなたの姿は私達には見えていないのです。見えているのは、私の妻の身体だけなのです」
スピリット「あんたの奥さんには会ったことがないから、どんな方か知りません」
博士「霊媒というものについて聞いたことがありますか」
スピリット「あるよ。でも、信じない」
博士「あなたは今、その霊媒の身体を使って喋っているのです。男だとおっしゃるけど、女性の身体で喋ってるじゃないですか」
スピリット「嘘だ! 大嘘だ! 」
博士「でも事実ですよ。女性の服を着てるでしょ? これで、あなたの身の上に何か変わったことがあったことがお分かりでしょう。おそらく、ここがカリフォルニアのロサンゼルスであることはご存知ないのでしょうね?」
スピリット「ロサンゼルスなんかじゃない」
博士「では、どこですか?」
スピリット「あちらこちらを転々と動いていたので・・・」
博士「その手をごらんなさい。あなたのものではないでしょう?」
スピリット「あんたのことは、あの電気治療をしてくれるまでは知らなかった。あれがどんなに痛いか、あんたは知るまい。ずいぶん我慢したが、たまらなくなって飛び出したら、図体のでかいインディアン(霊媒の背後霊の一人)が俺を捕まえて牢へ入れてしまった。しばらくして出してくれたと思ったら、ここへ連れてこられていた」
博士「あなたはそれまでずっと、一人の女性を苦しめておられて、あの電気治療でやっとその方から離れたのです」
スピリット「一体どうなってるのかな? ここへ来てから、何だか窮屈に感じられるんだが・・・」
博士「多分あなたは、大柄な方だったのでしょうね。それが今、それより小さい身体の中に入っておられるから、そう感じるのでしょう。それよりも、早く心を開いて、今あなたが置かれている実情を学ばなくては・・・」
スピリット「学ぶことなんか何もないよ」
博士「ご自分の身体をなくされたのは、かなり前のようですね。今年は何年だと思われますか」
スピリット「永い間ぐっすり寝ていたので、知らんね」
博士「今の状態を体験されていて、何か疑問に思うことはありませんか。私達の目には、あなたの姿は見えていないのですよ。お話になる声が聞こえるだけなのですよ」
スピリット「目に見えない者と話をしてどうするんだ?」
博士「この婦人は霊媒なのです。あなたはその霊媒の身体を使って喋っているスピリットなのです」
スピリット「そんなこと、信じないね」
博士「それは私の妻の身体です。となると、あなたは私の妻だとおっしゃるのですか」
スピリット「あんたの奥さんなんかじゃない! 俺は男だぞ! 」
博士「あなたが憑依していた女性の身体から、私が引き離したのです。あなたがその方に気狂いじみた行為をさせていたからです。どうやってここへ来られましたか」
スピリット「こっちが聞きたいよ」
博士「あなたは人間の目には見えないスピリットになっているのです。その辺の事情が分かっておられない。あなたが憑依していた女性は、その頃たまたま神経過敏になっておられ、それであなたが憑依したのです。その女性が気狂いじみた行動をしたのは、皆、あなたのせいだったのです。ご自分はどう思われますか」
スピリット「自慢にするほどのことでもないが、とにかく俺はその女性のことは何も知らんね」
博士「その方の髪を切って逃げ出したのは、あなたのせいですよ」
スピリット「なぜこの俺に長い髪がいるのだ? 眠りから覚めてみたら髪が伸び過ぎていたから切った――それだけのことさ」
博士「あなたが切ったのは、その女性の髪だったのです」
スピリット「長過ぎたから切ったんだ」
博士「その女性の身になってごらんなさい。もしもあなたが自分の髪を誰かに勝手に切られたら、どうします? 平気ですか」
スピリット「そりゃ、イヤだよ」
博士「少し勝手すぎるとは思いませんか」
スピリット「訳が分からん。じゃあ聞くが、もしも俺があんたの言う通り、死んでるとしたら、なぜ天国か地獄に行ってないのかね?」
博士「そんな場所は存在しないからです」
スピリット「神様もキリストも悪魔も見かけないのに、あんたは俺のことを死んでると言う」
博士「あなたが死んでると言ってるのではありません」
スピリット「今さっき『死んだ』と言ったじゃないか」
博士「地上世界の人間から見ると、死んだことになるという意味です」
スピリット「『あなたは死んだのです』と言ったよ」
博士「いわゆる『死んだ人間』になった、つまり物的身体をなくされたという意味です」
スピリット「でも『死んだ』と言ったぞ! 」
博士「もう少し分別を働かせなさい。そうしないと隣の部屋へ連れて行って、例の電気治療をしますよ」
スピリット「あれは止めてくれ! あれをやられると、まるで身体に火をつけられたみたいな感じになる」
博士「女性の身体から離れて頂くためにやったことです。それがうまくいったのです」
スピリット「あのままあそこにいて、何が悪いのだ?」
博士「あの方から取り除く必要があったのです」
スピリット「勝手に連れ出す権利があんたにあるのかね?」
博士「あなたこそ、他人の身体に取り憑いて、その人の生活をメチャクチャにする権利があると思いますか」
スピリット「誰だって生活する場所がないといけないだろう?」
博士「仮にその女性というのが、あなたのお母さんだったとして、そのお母さんにわがままなスピリットが憑依して気狂いじみた行動をさせたとしてみましょう。あなたはほうっとけますか」
スピリット「俺は気狂いじゃない。他人に気狂いじみた行動をさせた覚えもない」
博士「その女性が、自分の髪を切って、家を飛び出すというのは気狂いじみています」
スピリット「男が髪を長くしていて、平気でいられるわけがないじゃないか」
博士「あれは女性の身体で、切ったのは女性の髪で、あなたのものではないのです。あなたはもうその女性の身体から離れたのですから、考えを改めないといけません。言うことを聞かないと、土牢に閉じ込めますよ。さっきあなたは『インディアンが俺を捕まえて』とおっしゃいましたが、素直にしないと、別のインディアンが捕まえに来ますよ」
スピリット「来たら、今度こそ負けんぞ! 」
博士「よく聞きなさい。私の妻は霊媒なのです。あなたのような方に身体を貸してあげて、気づかずにいる現実を知って頂くチャンスを与えてあげているのです。このチャンスを有り難いと思わないといけません。今でも、あなたの他に何千というスピリットが順番を待っているのです。
辺りに誰か親戚の方が見えていませんか。その方達がスピリットの世界へ案内してくれますから、おとなしく分別を働かせて、理解しようという心構えにならないといけません」
スピリット「どうしたらいいのかね」
博士「スピリットの世界があるということをまず理解して、そこへ行けるように、心がけを改めないといけません」
スピリット「天国のことですか」
博士「神の国は、あなたの心の中にあるのです」
スピリット「キリストが、あなたの罪を背負って死んでくれたことを信じないのですか」
博士「私は、キリストが私の罪を背負って死んでくれたとは思っていません。そんな信仰には何かが欠けていることが分かりませんか。イエスは、人生とは何かを教えてくれたのです。誰の罪も背負ってくれてはいません。キリストが自分の罪を背負って死んでくれたと信じるような人は、イエスの教えを本当に理解していない人です。
そもそも、そんな教義は、全知全能の神の概念に反しております。もしもその教義が真実だとしたら、神はうっかり間違いを犯し、それを償うために仲介役を用意せざるを得なかったことになります。
さあ、そろそろあなたも、私の妻の身体から離れて頂かないといけません。そして、二度とあのご婦人に迷惑をかけないようにしてください」
スピリット「何を言う! 私はあんたの奥さんは一度も見かけたことないよ」
博士「今あなたは、一時的に私の妻の身体を使っておられるのです。あなたの姿は私達には見えていないのです。いい加減に目を覚まさないと、強制的に引っ張り出して、バイブルにある『外なる暗黒』の中に連れて行ってもらいますよ」
スピリット「俺をこんな目に遭わせる神様が間違っているんだ。俺は祈って祈って祈り続けたもんさ。真面目に教会へ通って、ずいぶん献金もしたもんさ。金を出さないと、死んだらまっすぐ地獄へ行くなんて脅すからさ。出しただけのお返しはあると信じてたよ」
博士「イエスは何と言ったのでしょう?『神は霊的存在であり、神を崇める者は霊性と真理の中に崇めないといけない』と言ってます。神は霊的存在なのです。一個の霊ではありませんよ。バイブルにはこうもあるでしょう――『神は愛であり、愛の中に生きる者は神の中に生きる者である』と。
そういう存在が自分の心の中以外のどこに見出せるのでしょうか。『あなたは神の神殿であり、神の霊性はあなたの中にある』とも言っています。では天国とは何か? それは、各自の心の状態を言っているのであり、人生の目的を理解した時に成就されるのです」
スピリット「天国はどこかの場所ではないのですか。バイブルでは場所のように言ってるよ。天国の通りは黄金で舗装されてると言ってます。違うんですか」
博士「それは、他の言葉と同じように、真理を象徴的に言っているのです」
スピリット「さっき、あんたはイエスは我々の罪を背負って死んだんじゃないと言ってたが、じゃ、あんたの信仰はどうなのかね?」
博士「我々地上の人間は、物質の身体に宿った霊的存在だというのが私の考えです。その身体から出た後、理解のできた者は霊的な目が開いて、『外なる暗黒』へは行きません。そこへ高級界の方が案内に来てくれます。今も、あなたの知ってる方が何人か助けに来ているかも知れませんよ。あなたの身の上に何か異変が起きていることに気づきませんか」
スピリット「そういえば、前よりは、よく喋れるみたいだ。あんたの話だと、あんたの奥さんを通して喋ってるそうだけど、どうしてそんなことが出来るのかね?」
博士「私の妻は霊能者で、スピリットがその口を借りて喋る機能が発達しているのです。高級霊の方が、あなたにもこうして話をすることを許してくださったのです。ただし、あまり長時間はダメですよ」
スピリット「出来ることなら、このままこうしていたいものです。前より気分がいいです。かなりスッキリしています」
博士「スピリットの世界の事情を理解なさったら、もっと気分が良くなりますよ。幼い子のように素直になることです。そうすると『神の国』へ入れます。信じるだけではいけません。理解しないといけません。お名前は何とおっしゃいました?」
スピリット「エドワードです」
博士「姓は?」
スピリット「知りません」
博士「どこにお住まいでしたか。ここがカリフォルニアのロサンゼルスであることをご存知ですか」
スピリット「いえ、知りません」
博士「なぜご存知ないのでしょうね?」
スピリット「記憶がありません。考えるということが出来ないのです。これ以上のことは何も分かりません」(精神病患者によくある健忘症は、憑依したスピリットの精神的混乱から生じていることを暗示している)
博士「それは『外なる暗黒』の中にいたからですよ。そして、フラフラしているうちに、あのご婦人のオーラに入り込んじゃったのです。それが彼女に気狂いじみた行動をさせることになったのです」
スピリット「気持ちのいい、静かな家が欲しかったのです」
博士「あなたのなさったことがいけないことだということは、お分かりですね?」
スピリット「暗闇の中を歩き続けていて、ふと明かりが見えたら、誰だって入りたいと思いませんか」
博士「明かりは明かりでも、それはあなたに必要な明かりではありません。あなたに必要なのは理解という明かりなのです」
スピリット「では、教会へ行って賛美歌を歌い、神に祈り、バイブルを読めとおっしゃるのでしょうか」
博士「バイブルは本当は誰が書いたものか、勉強なさったことがありますか」
スピリット「バイブルは神の啓示の書です」
博士「バイブルは神が書いたものではりあません。人間が書いたのです。常識ある人間社会に通用しないような内容のものを、神がお書きになると思いますか」
スピリット「では、誰が書いたのですか」
博士「いろんな時代にいろんな資料を集めて、主に想像上の悪魔と地獄を恐怖のネタにして、人心を抑える目的で編纂されたものなのです。詩・歴史・寓話・思想の寄せ集めであり、その中に矛盾と真理とがごちゃ混ぜになっております。
それを人間は、一字一句にいたるまで神の言葉であると信じ、筋の通らないものまで、言葉どおりに解釈しようとします。バイブルにも『儀文は殺す、されど霊は生かす』とあり、また『霊的なものは霊的に見極めないといけない』とも言っております。つまり、宗教とは知的な見極めのプロセスを言うのです。
キリストの教えの中には素晴らしい真理が含まれています。ところが教会は、ただの寓話を事実であるかのように説き、ドグマと教義と信条とが、その奥に秘められた霊的な意味を曖昧なものにしてしまったのです」
スピリット「神は六日間で地球をこしらえて、七日目に休まれたという話を信じますか」
博士「信じません。それも、ただの寓話です。七日というのは大自然の七つの基本的原理のことです。『神は創造者であると同時に創造物でもある』と言われます。もしも神が働くことを止めたら、すべての活動が止まってしまいます。生命というものを有るがままに理解することです。教えられたままを信じてはいけません。
さ、もうだいぶ時間が経ちました。これ以上、その身体に留まることは出来ません。よくごらんなさい。どなたか知った方の姿が見えませんか」
スピリット「あっ! 母さんだ! もうずいぶん会ってないなあ・・・でも、待てよ。母は俺がちっちゃい頃に死んだはずだ」
博士「お母さんのおっしゃる通りになさい。力になってくださいますよ」
スピリット「ああ、母さん! ボクを連れてってくれるかい? お願いだ、連れてってよ。ボクはもう疲れたよ」
博士「勿論、お母さんは連れていってくださいますよ。でも、さっきのような愚かな信仰を捨てて、理解ということを心掛けないといけませんよ」
スピリット「行かせてください」(と言って立ち上がる)
博士「お母さんと一緒になったつもりになってください。その身体は私の妻のものですから、そのまま行くわけにはいかないのです。一緒になったつもりになるだけで、お母さんのところへ行けます」
スピリット「疲れてしまって、うんざりです。ほんとに疲れました。母と行かせてください。母がやって来ます。別れてずいぶんになるなぁ・・・」
博士「さあ、一緒に行きなさい。神は考える為の知性を与えてくださっております。お母さんをはじめ、人の言うことをよく聞くのですよ」
スピリット「母が、あなたへの無礼のお詫びを言いなさいと言ってます。迷惑をかけたあのご婦人にも許してくださるよう、ちゃんとお詫びを言うようにとのことです」
博士「どちらから来られたか、教えて頂けませんか」
スピリット「思い出せません」
博士「今年は、何年だと思いますか」
スピリット「たしか1901年です」
博士「それは19年前ですね。大統領の名は?」
スピリット「マッキンレー」
博士「彼は、1901年9月6日に撃たれて、14日に死亡しています。今年は、1920年です」
スピリット「その間私はどこにいたのでしょう? 眠っていたのでしょうか。私は1901年の冬にひどい病気にかかり、その後のことはよく覚えていないのです。クリスマスの頃のことで、風邪をひいて、それが悪化したのです」
博士「病気になった時はどこにいましたか」
スピリット「山で材木の伐り出し作業をしていました。何かが頭に当たったのを覚えていますが、思い出せるのはそれだけです。母が言ってます・・・私の姓はスターリングだそうです。そうだった、そうだった!」
博士「木材業をする前はどこにいたか、お母さんはご存知ないでしょうね?」
スピリット「生まれたのはアイオワ州だと言ってます。ウィスコンシン州の森林地帯で仕事をしている時に、事故に遭ったのだそうです。昔はアイオワに住んでいました」
博士「住んでいた町の名前は思い出せますか」
スピリット「いえ、思い出せません」
博士「ま、いいでしょう。これからは生命の実相についての理解を得て、人の迷惑でなく人の為になるように心掛けないといけません。あなたはこれまで、一人の女性に迷惑をかけてきて、その方は未だに完全には良くなっておられないのです」
スピリット「迷惑をかけていたのは私一人ではなく、他に二人、私と同じようなことをしていたのがいます」
博士「すっかり元気になったら、今度はそのご婦人が完全に良くなるための手助けをしてあげないといけません。残りの二人のスピリットを取り除いてあげるのです」
スピリット「やってみます。有り難うございました。さようなら」