第2部 アラン・カルデック自伝
──孤独と休みなき戦いの日々(『遺稿集』第四章「自伝的ノート」から抄訳)

第19章 後継者の問題
一八六一年十二月二十二日、自宅で個人的なセッションを行う。霊媒はA氏。
霊実在主義の運動における私の後継者について、次のような問答を行った。

――私の帰天後、後を継ぐのは誰なのかということを、多くのメンバーが気にしています。特に「この人だ」と目される人がいない為ですが。

それに対して、私は、「私一人が必要不可欠な人間なのではない。叡智に満ちた神が、人類を再生させる程の使命を持った霊実在主義の未来を、たった一人の人間に委ねることなど有り得ない」と答えるようにしています。さらに、「私の使命は教義の確立までであって、その為に必要な時間がまさに私に与えられているのだ」と付け加えます。

したがって、私の後継者の仕事はずっと楽なものになるでしょう。というのも、もう既に道は切り開かれており、後はその道を辿るだけでよいからです。
とはいえ、もし、指導霊団が、このことに関して、もっとはっきりしたことを仰るのであれば、私はそれを有り難く承るつもりでおります。

あなたの仰ったことは、まさしくその通りです。私達に許されている範囲内で言うとすれば、次のようになるでしょう。

あなた一人が必要不可欠な人間なのではない、ということは、確かにその通りです。とはいえ、メンバーの目には、あなたは必要不可欠な人間として映っています。というのも、運動が求心力を保つ為には、組織は一人の人間を中心として動く必要があるからです。しかし、神の目から見れば別のように見えます。あなたは神から選ばれたのです。だから、唯一の指導者なのです。

ただ、あなたにはよく分かっているように、その使命を満たすことが出来るのは、あなただけではありません。もし、何らかの理由であなたがその任を果たせなくなった場合には、神は直ちに、別な人間にその後を任せるでしょう。したがって、霊実在論の運動が失敗するということは有り得ません。

組織がしっかり確立されるまでは、あなたが指導者であり続けることが必要です。というのも、人々が集まる為には、中心人物がどうしても必要だからです。あなたの手によって生み出された事業が、現在、そして未来において権威を持つ為には、あなたが必要不可欠な存在であると見なされることが、どうしても必要なのです。さらに、あなたの帰天後の後継者が誰になるのか、メンバーが不安になるくらいでなければなりません。

もし、あなたの後継者が予め指名されたとすれば、この事業は頓挫する可能性さえあります。というのも、その後継者に対する嫉妬が渦巻くのは確実だからです。メンバー達は、その人が実力を証明する前に、あれこれと論戦を挑むことになるでしょうし、敵陣営は、その人が後継者に納まるのを阻止しようとして躍起になるでしょう。その結果、分裂騒ぎや分派活動が起こるに違いありません。

したがって、時期が来るまでは、後継者を明らかにしない方がいいのです。
その後継者の仕事は、それほど困難なものとはならないでしょう。というのも、あなたが言ったように、道は既に敷かれているからです。ただし、もし近道をしようとして、その道から逸れるなら、既に多くの者達がそうなったように、自ら道に迷うこととなるでしょう。

とはいえ、ある意味では、その仕事はさらに厳しいものとなると言えるかもしれません。というのも、戦いがもっと激しくなるからです。あなたは教義を確立したのに対し、後継者はそれを実行に移さなければならないからです。故に、後継者は、エネルギーと行動力に溢れた人間でなければなりません。

いかがですか? 神がその代理人を選ぶ際に、いかに叡智をもって行うかが分かったのではないでしょうか。

あなたは教義の確立の為に不可欠な能力を備えています。しかし、あなたの後継者に必要な特質は備えておりません。あなたに必要なのは、冷静さ、穏やかさであり、それがあればこそ、沈思黙考して思想を練り上げることが出来たのです。あなたの後継者に必要なのは、科学に基づいた方法論に従って戦艦を指揮する司令官と同じ力なのです。

あなたが受け取った、『教義の確立』という辛い仕事を免除されて、あなたの後継者は、より自由に能力を発揮し、組織の基礎固めと、より一層の発展に尽くすことになるでしょう」

――後継者選びは凍結すべきなのでしょうか?

「当然でしょう。また、人間には自由意志がありますから、ある人間が自主的に後継者として名乗りを上げたとしても、最後の最後になって、その使命を放り出すということだって有り得るのです。

さらに言っておかなければならないのは、後継者になる人間は、その能力、熱意、無私無欲、自己犠牲の覚悟を証明しなければなりません。野心や功名心の為に後継者になりたいと思っている人間は、排除しなくてはならないのです」

――「この運動を支援する為に、高級諸霊が地上に生まれ変わることになっている」と言われていますが。

「その通りです。何人かの高級霊が、使命を帯びて地上に生まれ変わります。しかし、それぞれ自分の専門領域を持っており、社会のそれぞれの持ち場で、地位に応じた働きをすることになっているのです。最終的には、『自ら為した仕事の質がどうであるか』ということが問題となります。自分を偉いと思っているだけでは、何の意味もありません。

敵陣営の攻撃があまりにも凄まじいので、あなた方は、時折唖然とすることがあるでしょう。彼らによれば、あなた方は夢想家であり狂信者なのです。あなた方は、空想を事実と見なし、中世の悪魔と迷信を甦らせた、とんでもない人間達だと思われているのです。

こうした攻撃にいくら応えようとしても無駄です。それは新たな論戦のきっかけになるだけだからです。こんな場合は、沈黙を守るのが一番です。言い返す機会がなくなれば、やがて彼らも黙るでしょう。

真に恐るべきことは、思いがけない形でやってくるかもしれません。というのも、カトリックが政権を取って、非寛容な政策を打ち出すことも有り得るからです。そうなれば、あなた方は、追い詰められ、攻撃され、打ち倒され、烙印を押され、国外追放になるかもしれません。

様々な事件が起こり、政局を嵐が襲おうとしています。嵐がやってきた時には、物陰に身を潜め、事態を客観視し、諸事に恬淡(てんたん)として強くありなさい。

侵略が起こり、国境が変更され、いくつかの国家が破滅するでしょう。ヨーロッパで、アジアで、アメリカで、大規模な破壊が為されるでしょう。それを生き抜くことが出来るのは、鍛えられた魂達、悟りの高い魂達だけなのです。正義、誠実、信義、連帯を重んずる魂達だけなのです。

あなた方の社会は健全に機能しているでしょうか? 何百万人もの人々が、社会的な除け者になっていませんか? 刑務所には犯罪者が溢れ、町には娼婦が溢れていませんか? ドイツからは、毎年、相変わらず、何十万という人が亡命していませんか?

教皇は、真実ではなく、過ちを世界中に発信していませんか?

あらゆる所に嫉妬が渦巻いています。人々は利益ばかりを追い求め、無知を追放しようとしません。エゴイズムに駆られた、それぞれの政府は、何世紀も前から潮のように満ちてきている人類としての良心を無視し、国家の権力を濫用するごく一部の人間達に味方するのです。

ロシアが恐るべき暗礁に乗り上げないとよいのですが。
フランスの政治家達よ、国土を広げさえすればよいというものではないのです。そのことを忘れないように。
国家も自由意志を持っています。国家も、個人と同様に、愛、協調、融和を目指すことが出来るのです。本当に避けようとすれば、嵐を避けることは可能なのです」