吉岡 実 よしおか・みのる(1919—1990)


 

本名=吉岡 実(よしおか・みのる)
大正8年4月15日—平成2年5月31日
享年71歳(永康院徳相実道居士)
東京都豊島区巣鴨3丁目21–21 真性寺(真言宗)



詩人。東京府生。向島商業学校(夜学)中退。昭和15年第一詩集『昏睡季節』、翌年『液体』を刊行。30年『静物』で詩壇に登場、続く『僧侶』はH氏賞を受賞。大反響を呼んだ。『サフラン摘み』で高見順賞。ほかに『静かな家』『神秘的な時代の詩』『薬玉』などがある。






  

夜の器の硬い面の内で
あざやかさを増してくる
秋のくだもの
りんごや梨やぶどうの類
それぞれは
かさなったままの姿勢で
眠りへ
ひとつの諧調へ
大いなる音楽へと沿うてゆく
めいめいの最も深いところへ至り
核はおもむろによこたわる
そのまわりを
めぐる豊かな腐爛の時間
いま死者の歯のまえで
石のように発しない
それらのくだものの類は
いよいよ重みを加える
深い器のなかで
この夜の仮象の裡で
ときに
大きくかたむく

(静物)



 

 戦後詩の辿りついたひとつの頂点として『僧侶』という九節からなる詩がある。最終節に〈四人の僧侶 固い胸当のとりでを出る 生涯収穫がないので 世界より一段高い所で 首をつり共に嗤う されば 四人の骨は冬の木の太さのまま 縄のきれる時代まで死んでいる〉と、おそろしく暗く、精気にあふれた死のざわめきや存在するものの幻、存在しないものの確かな領域を投げかける。
 平成2年5月31日午後9時4分、急性腎不全のため逝った吉岡実。死者の寓話詩を多く遺し、詩は特定の人のもの、疎外された人々に、自分を支えるために書くものだと明言した芸術至上主義詩人が抱いた死のイメージを捉えることは、今後も私にとって至難の業にちがいない。



 

 「おばあちゃんの原宿」として全国に勇名をはせている巣鴨のとげ抜き地蔵通りは、梅雨明け宣言の酷暑もなんのその、聞きしに勝る賑わいであった。通りの端緒にある真性寺は、江戸六地蔵尊として江戸名所図会にも描かれた混雑そのままに参詣客を集めていた。
 〈神も不在の時 いきているものの影もなく 死の臭いものぼらぬ 深い虚脱の夏の正午 密集した圏内から(中略)うまれたものがある ひとつの生を暗示したものがある 塵と光りにみがかれた 一個の卵が大地を占めている〉。本堂裏にある境内墓地、息苦しい熱気に押し込まれた喧噪は容赦なく襲ってくるのかと思ったが、この詩のように、小さな地蔵尊を胸に抱いた「吉岡実之墓」は目指す宙天のみ、遮るものなしの炎天下に断固として鎮座していた。



 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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