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弁護士の法律相談/遺言・相続・遺言執行

相談者の傾向相続のページ
本年も沢山の相続の相談がありました。
相続、特に、遺言状、長男ではないが遺産を全部相続したい、相続放棄などが多いです。
賃借権の相続、婚姻届出のない夫婦(内縁)間での問題、相続税に関する問題もありました。
人の死亡により、相続が発生します。遺産は、遺言のある場合は、遺言に従い承継され、遺言がない場合は、民法の規定に従い、法定相続人に承継されます。

遺言
遺言は、遺言者の最終の意思で自己の財産を処分するものですが、一定の要件が必要な要式行為です。相続人間の争いを予防する機能もあります。遺言により認知 することもできます。
遺言には、大きく分けて、自筆証書遺言と公正証書遺言があります。

自筆証書遺言
自筆証書遺言 の場合には、遺言者は自分で@全文を手書きし、A日付を書き、B署名・捺印することの3つが要件です。

全文自書
従って、タイプライターやワープロを使用した場合、あるいは自筆だが、それを機械でコピーしたもの、テープに録音されたものは、遺言としては無効です。筆跡によって本人が書いたことを後で確認することが難しいからです。
カーボン複写の方法 で書いた場合は、有効です(最高裁判所平成5年10月19日判決)。
問題は、一部が自筆で、他の部分を他人が書いたような場合です。他人が書いた部分を除いても一つの統一した遺言書となっており、他人が書いた部分は附随的、添付的な意味しか持たない場合には有効ですが、それ以外の場合には遺言としては無効です。

日付の自書
年、月の記載があっても、日の記載がなければ、無効です(印大審院判決:大7・4・18民録24・722)。日付は必ずしも、暦日を書かなくても、その日が確定できればよいです。「古希の日」、「第○○回誕生日」、「昭和○○年春分の日」などの記載でも有効です。しかし、「昭和四拾壱七月吉日」と自書された自筆遺言書は、日を確定できないので、日附の記載のないものとして無効です(東京高等裁判所昭和53年10月19日判決、判例タイムズ374号102頁)。
なお、全文自書との関係で、日付も自筆でなければならず、ゴム印などで日付印が押してあるだけでは無効です。

氏名の自書
氏名の自署が必要なのは、遺言が遺言者の真意に出たものであることを確かめるためです。
氏および名を書く必要がありますが、氏または名だけでも遺言者が誰であるかが明確であるならば有効です。
遺言者の氏名は「吉川治郎兵衛」であるところ、遺言書には「親治郎兵衛」と自書されていたが、これは、「吉川治郎兵衛」を指すことは明確であるから遺言としては有効とした判決があります(大審院判決、大4.7.3民録21.1176)。戸籍上の氏名でなくとも、芸名、ペンネーム、通称でもよいです。

押印
押印は認印でも、拇印でもよいです。押印は遺言者の依頼によって他人がなした場合でもよいです(大審院判決、昭6.7.10民集10.736)。花押は、捺印とは認められません(平成28年6月3日判決)。
署名と押印は通常同一箇所にある。しかし、封筒に年月日および遺言者の署名、押印があるが、内容物である文書にはない場合でも両者は一体の書面であるから有効な遺言とした判決があります(静岡地裁浜松支部昭25.4.27判時10.24)。
帰化した白系ロシア人が書いた署名があるのみで、押印のない遺言を有効とした判決があります(最判昭49.12.24下民集28.10.2152)が、民法968条は明文をもって押印を要求しているので、これを一般化するのは無理です。
押印が欠けると遺言は、無効です。押印が書けた場合は、死因贈与(相続人がいる場合)、特別縁故者に対する財産分与の申立(相続人がいない場合)を考えると良いでしょう。
自筆証書遺言は、要件が欠けると無効になる危険がありますので、作成した後、弁護士に見せて、チェックしてもらうとよいでしょう。自筆証書遺言は、遺言者のみで作成できるため、完全に秘密にできるメリットがあります。
なお、共同遺言 はできません。

遺言の訂正
遺言の訂正 にも一定の要式が必要です。

検認
公正証書遺言 以外の遺言は 検認 が必要です(民法1004条)。
遺言者が亡くなった場合、遺言を保管していた者は、 家庭裁判所 に対し、遺言を提出して検認を請求しなければなりません。家庭裁判所は相続人など利害関係人を呼び出し、遺言書の現状を確認し、証拠を保全します。検認手続が終了したときは、家庭裁判所は検認に立会わなかった申立人、相続人、受遺者その他利害関係人に通知します。
自筆証書遺言は、後で、遺言無効 を主張されるおそれがあります。実際、要件が欠けているとか、本人の筆跡ではないとの理由で自筆証書遺言を無効とした判決は多くあります。さらに、意思能力がないので自筆証書遺言を無効とした判決もあります。自筆証書遺言は、書いた後、弁護士にチェクしてもらうとよいでしょう。

公正証書遺言
公正証書 は、公証役場で作ります。公正証書遺言は2人の証人( 欠格事由 あり)を立会わせて作成する遺言です。 手続が厳格であるから、偽造のおそれはないので、後になって遺言の無効を主張されるおそれが少ないです。
公正証書遺言があると、検認手続が不要なので、関係者を関与させることなく、遺言者の死亡後即座に遺言の執行に移行できるメリットがあります。不動産などは、できるだけ早く登記すべきでしょう。
なぜならば、遺言が自己に不利なことを知った法定相続人が、遺言執行を妨害する目的で、単独で法定相続に基づく不動産の相続登記を申請するケースが多いのです。
希なケースですが、東京地裁平成9年10月24日判決では、94歳の遺言者が遺言の当時老人性痴呆により意思無能力であったとして公正証書遺言を無効としています(判例タイムズ979-202)。
公正証書遺言と長谷川式テストの関係は、認知症の母の公正証書遺言の効力を参考にしてください。
実務に携わっていると、公正証書遺言での口授について理解に欠ける公証人、弁護士を、時々見かけます。気を付ける必要があります。口授がないことを理由に公正証書遺言を無効とした判決もあります。

遺言の取消
遺言はいつでも取消すことができます。取消しは遺言で します(民法1022条)。複数の遺言 があって、内容が抵触する場合は、後の遺言が有効です。

遺言の執行
遺言の内容によっては、遺言が効力を発生すると同時にその内容が実現され、執行を要しないものがあります。例えば後見人の指定、相続分の指定、遺産分割の禁止などは、執行の必要がありません。
他方、執行を必要とするものもあります。認知遺言についてはその届出が必要ですし、特定物の遺贈の場合には、その引渡、登記手続が必要です。
遺言執行は、通常は、遺言執行者あるいは相続人がします。しかし、相続人が多数いる場合、あるいは相続人に不利な内容の遺言の場合には、遺言の執行がスムーズになされない場合があります。

遺言執行者
そこで、 遺言執行者 が必要となります。遺言執行者は遺言で指定されるか、あるいは、家庭裁判所で選任されます。スムーズに遺言内容が執行されるために遺言書の中で遺言執行者を指定しておくと非常に便利です。遺言執行者に、相続人の1人を指定してもよいです。遺言執行者に、弁護士が指定されることは多いです。
不動産を特定の人に遺贈の登記をするためには、通常は相続人全員の印鑑および印鑑証明が必要です。しかし、遺言に不服のある法定相続人が捺印するはずがありません。遺言執行者がいれば、遺言執行者の印鑑と印鑑証明で足ります。

遺言執行者は、相続人の代理人です(民法1015条)。しかし、金融機関、法務局などの対応は、必ずしもその地位を認めてくれません。改めて相続人の委任状を要求する場合がありますので、気をつけましょう。

遺産争いが発生することが予想されるときには、遺言、特に公正証書遺言(自筆証書遺言の場合には検認手続が必要で、不服のある相続人が関与する)を作成し、遺言執行者を指定しておけば、相続人に何の関係もなく、遺言通りの法律効果を取得できます。
遺言状を書いても遺言執行者の指定がないと、遺言の執行に時間がかかります。前述のように、その間に遺言に不満のある 法定相続人 が、法定相続分による不動産登記をする例があるのです。結局、遺言執行を妨害するのです。法定相続分による相続登記は、相続人の一人から、単独で(しかも他の相続人の印鑑がなくても)登記できるので、このような事態が発生します。
この場合に、遺言状に従った登記に直すには、家庭裁判所における調停・審判あるいは地方裁判所における訴訟が必要で、大変な時間と手間がかかります。これが、遺贈を受けた者にとって、遺言状中に遺言執行者の指定が必要な理由です。

遺言は、簡単な手続で死亡時に自己の財産を処分できる制度です。しかも、複数の矛盾した遺言があった場合には、日付の新しいものが有効となりますから、気が変っても、何回も書き直しができるので、これは非常に便利です。

遺留分
遺言により自己の全ての財産を処分しても、相続人の 遺留分 を害することはできません。相続、遺贈は、一応有効なのですが、後から、相続人から 遺留分減殺 を受けることを覚悟する必要があります。
遺留分減殺請求に対しては 目的物の価額を弁償 して目的物を確保することができます(民法1041条)。

相続の承認・放棄
亡くなった方(被相続人)の資産、負債を相続人は引き継ぎます。被相続人の法律上の地位を引き継ぐのです。引き継ぎ方(相続の方法)には、単純承認、限定承認、相続放棄の3つがあります。
単純承認は、相続財産を、債務を含めて一切承継すること。
限定承認は、相続財産のうち、債務、遺贈を相続によって得た財産の限度で承継することを留保して、承継する手続です。中々、便利な制度に見えますが、被相続人から相続人に対し、相続財産の譲渡があったと看做されます(所得税法59条1号)。相続人は、準確定の申告をする義務があります。
相続財産が債務超過の疑いがある場合には限定承認をすればよいが、相続人全員が共同でしないと(相続放棄者がいてもよい ---- 通説)、この手続はとれません。一人でも反対者がいる場合には次の相続放棄をします。
相続放棄は、文字通り、相続しない旨を家庭裁判所に申述する手続です。この場合には、資産だけでなく、債務も引継ぎません。
相続放棄により、相続財産を他の相続人に相続させることができます。相続は、債務も承継します ので、債務を相続したくないとき、あるいは、相続財産は債務超過であることが予想される場合に、相続放棄をするとよいでしょう。

相続放棄の申述
は、相続開始(通常は被相続人の死亡)時から3か月以内にする必要があります。この期間は 申立により伸長 できます。
家庭裁判所に放棄の申述すると、その後、家庭裁判所は本人に真実相続放棄の意思があるかにつき審査します。
裁判所は、本人を呼び出したり、調査官を出向かせ調査したり、あるいは郵便にて本人宛に照会書を出します。通常はこの照会書が来るだけなので、回答書を記入して返送すれば手続は終りです。
相続財産が債務超過である疑いがあるときは、家庭裁判所から相続放棄申述の受理証明書を取っておけば、後日、債権者からの請求に対して防御できます。
債権者は、相続放棄を詐害行為として取消すことはできません
相続放棄の意思の調査が郵便による照会書でなされるのを悪用した例がありました。弟が姉の名前をかたり相続放棄の申述書を提出し、その後、頃を見計らって姉の家のポストから照会書を抜き取り、回答書を書いて返送し、不動産を単独相続し、20年以上経過して、発覚した例がありました。
この不動産を取戻すには、相続回復請求権 があります。しかし、20年の時効(民法884条)が完成しており、文書偽造、公正証書原本不実記載罪などの刑事事件としても(公訴時効)が完成しており、法的には救済ができない例でした。
他に相続人がいても、放棄は単独で可能です。

承認・放棄の期間
相続放棄ができる3か月の期間は、自己のために相続の開始があったことを知ったときから起算します。相続開始前にした放棄は無効です。何らの手続しないで3か月の期間が経過すると、単純に相続を承認したものとされます(民法921条2号)。
3か月の起算日については、次の2つの解釈があります。
@自己を相続人とする相続開始があったこと、すなわち、被相続人の死亡の事実を知ったときとする解釈と、
Aその相続によって自己が相続人であることを知ったときとする解釈
古い判例は前説@でしたが、その後は後説Aの判例(大決大15・8・3民集5・679)が多くなりました。
従って、被相続人の死亡については認識していたが、法規についての錯誤、先順位の相続人がいるので自己が相続人とは思っていないなどの錯誤があるの場合には、3か月の期間は進行しません。
相続人である、生存している子全部が放棄をし、相続開始前に死亡した子の親権者たる母が、自分の子が代襲相続していることを知らず、4年後に放棄の申述した場合、代襲相続人であることを知ったときまで期間は進行しないとの決定(大阪高決昭和27・6・28家栽月報5・4・105)があります。

内縁と相続
内縁は事実上の夫婦関係ですが、届出がないものです。内縁の夫、妻には相続権がありません。従って、内縁の場合には特に遺言が必要です。
従前、相続人がいない場合には相続財産は国庫に帰属しました。
昭和37年の民法改正により、「相続人がいない場合には、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の 縁故があった者の請求により相続財産の全部または一部を与えることができる」 となりました(民法958の3)。
生計を同じくしていた者とは、内縁の夫、妻、事実上の養子、同居人の継子、子の嫁などです。
療養看護に努めた者とは、生計は同じくしていないが、被相続人の療養看護をした者を指します。
これはあくまで、他に相続人がいない場合の規定です。被相続人に一人でも親、兄弟あるいは子がいた場合は、内縁の妻にはこの規定が適用されません。この 特別縁故者 は家庭裁判所に分与の申立をする必要があります。
退職手当 については、遺産(相続財産)ではないとの理由で、内縁の遺族に支給されることが多いです。

賃借権の相続
賃借権 の相続
使用貸借は借主の死亡によりて効力を失う(民法599条)ので、使用借権は相続されません。ところが、民法616条は、599条を準用していないので、賃借権は借主が死亡しても効力はあり、相続されます。
建物あるいは土地の借主が死亡した場合、その賃借権は相続されます。これは当然に承継されるので、いわゆる、地主や家主の承諾は必要なく、名義書換料も支払う必要はありません。
相続人なくして建物の賃借人が死亡した場合、同居していた内縁の妻などは、賃借権を相続しないわけですが、従前の住居に住むことを認めないと、生活に支障があります。そこで、方法としては、民法958条の3により特別縁故者への賃借権の分与があります。しかし、これでは手続が面倒です。さらに、建物賃借権は、実際に居住している人が通常は最も必要としています。
そこで、借地借家法36条(借家法7条2)が新設され、居住のための建物賃借人が相続人なくして死亡した場合に、従前、同居していた(婚姻届あるいは養子縁組届をしていないが)事実上の夫、又は妻(内縁)あるいは事実上の養子が借家権を承継することになりました。ここで「相続人なくして」とは、相続人全員が既に死亡していたり、相続人全員が相続放棄した場合です。
なお、建物賃借人が相続人がいる状態で死亡した場合には、相続人が賃借権を相続し、従前同居していた内縁の妻などは相続人の賃借権を援用して建物に居住することが可能です。

相続登記・権利証
不動産の所有者がなくなると、亡くなった方名義の登記済証(権利証)は効力がなくなります。基本的に、相続登記は権利証がなくともできます。 ただし、法務局に登記されている住所と死亡した時の住所が異なっており、住民票等で同一人物であることを証明できない場合は、登記済証を提出した方がよい場合などがあります。
相続登記をしたときの(作成された)登記済権利証(または登記識別情報)が、新しい権利証(または登記識別情報)となります。

相続税
相続税は、基礎控除が次のようになっており、相続財産の相続税法上の評価がこれに満たなければ、課税されません。相続税は、基礎控除が引下げられ、増税されました。

*実子がある場合は養子は1人まで、実子がない場合は養子は2人まで法定相続人の数に入れることができます。

相続税法上の評価は、建物は、いわゆる、市役所あるいは税務事務所が固定資産税を賦課する際に基礎とするの評価額ですから、時価より非常に低く、土地については時価(これは毎年8月中旬に発表される路線価です)に近い金額です。
配偶者は優遇されており、配偶者の法定相続分相当額(又は1億6000万円)までの取得分は相続税は課税されません。
平成8年1月1日以降は相続税の申告期限は、相続開始(通常は被相続人の死亡)を知った日の翌日から10か月です。

*2009年中に亡くなった方は114万1865人、相続税の課税対象財産を残した人は4万6439人(1人当たり1億1230万円)、相続税総額は1兆1632億円(1人当たり2507万7千円)でした(2011年は、1兆4230億円の相続税総額でした)。
2013年中に死亡した方のうち、相続税が課税された方は、4.3%でした。基礎控除が引き下げられた2015年に、相続税が課税された方は、8.0%でした。相続は、税法上は、非常に優遇されています。基礎控除引き下げにより、相続税課税件数は大幅に増えました

相続税法大改正による相続税の実績

平成26年分平成27年分
@ 被相続人数(死亡者数)1,273,004人1,290,444人
A 相続税申告に係る 被相続人数 56,239人103,043人
課税割合(A/@)4.4%8.0%
 税額13,908億円18,116億円
 相続人1人あたり2,473万円1,758万円

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