弁護士河原崎弘質問:相続人がいない場合、遺産は
私が面倒を看ている方(92歳)は、子供はいません。兄弟もいません。この方は家(土地、建物)を持っています。
相続人がいない場合、この家はどうなるのですか。
相談者は、デパート内で弁護士会が開いていた法律相談所を訪ね、弁護士に相談しました。回答:相続財産管理人の選任、特別縁故者に分与
被相続人が死亡して相続が開始したが、相続人がいないときや、誰が法定相続人が明らかでない場合は、相続財産は法人とされ、特別の手続きがとられます(民法951条)。相続人が全員相続放棄をしている場合や、相続人となるべき者が相続欠格事由に該当していたり、相続人の廃除をされている場合も同様です(遺言により包括受遺者がいる場合は、別です)。療養看護に献身的に尽くした場合は、特別縁故者に当たるという審判例がいくつかあります。あなたも特別縁故者として認められる可能性がありますので、分与の請求をしてください。
- 利害関係人又は検察官が、家庭裁判所に対し、相続財産管理人を選任するよう申立ます。
申立ての際、予納金が必要です。予納金の額は、事件内容、裁判所により違います。普通は、50万円〜100万円くらいです。遺産の中に、その程度の預金があれば、予納金は不要です。- 家庭裁判所は、相続財産管理人を選任し、公告します。
- 前項の公告後2か月以内に相続人が現れない場合は、財産管理人は、相続債権者や受遺者に対して、2か月以上の期間を定め、請求するよう公告します。
- この清算のあと、まだ財産が残っていれば、家庭裁判所は、もう一度、6か月以上の期間を定めて公告し、相続人の出現を待ちます。この期間が経過すると、相続人、受遺者の権利は失効します。
- 前項の期間満了後3か月以内に、「 特別縁故者 」からの請求によって、家庭裁判所は、その者に対して相続財産の全部または一部を与えることができます(民法958条の3)。
特別縁故者とは、次の者を言います。内縁の妻や夫、事実上の養子がその例です。
- 被相続人と生計を同じくしていた者
- 被相続人の療養看護に努めた者
- その他被相続人と特別の縁故があった者
特別縁故者もいない、あるいは特別縁故者に与えられなかった相続財産は、最終的には国庫に帰属することになります。
祭祀承継人に指定された人や、(押印のない遺言は無効ですが)無効な遺言で遺産を与えられた人は、この特別縁故者の分与の申立をしてください。その場合、全額は無理ですが、遺産の一部(多くは、10%〜20%)の分与が認められます。
1審で裁判所から、(一部の分与をする旨の)和解を勧められますから、これに応じることもよいでしょう。
1審で却下された 場合は、即時抗告を申立て、2審の判断を求めてください。分与が認められるでしょう。判決
民法
- 神戸家庭裁判所尼崎支部平成25年11月22日審判
(1) 本件は,被相続人の妻および長男である申立人らが債務超過を理由に相続放棄し,被相続人のきょうだいらも相続放棄したことで相続人不存在となり相続財 産管理人が選任されたが,被相続人の負っていた会社の連帯保証債務がその後免除されたことにより相続財産が残存する状態となり,これについて申立人らが特別縁故者 による相続財産分与を求めた事案である。
(2) 申立人らは,相続開始後に被相続人が巨額の連帯保証債務を負っていたことを知って申立人代理人弁護士に相談のうえ相続放棄申述をしたものであり,当時 の状況においてこの相続放棄申述はやむを得ない選択であったといえる。
(3) 特別縁故の実情について,申立人X1は妻として長年被相続人と生計を共にし,かつ被相続人の肝炎が判明しさらに肝ガンを発症してからは入通院の付き添 い,自宅療養中の介助など被相続人の全面的な看護を担ったといえる。申立人X2も,同居の家族として被相続人の療養看護に協力したことが認められる。
(4) 被相続人は申立人X1に自宅の土地建物を贈与しており,家族である申立人らが生活に困らないように財産を分与したいと考えていたことが推認できる。
(5) 以上のとおり,相続放棄は当時の状況からやむを得ない選択であったといえ,申立人らは家族として被相続人と生計を共にし,被相続人の療養看護にも努め たことが認められる。これによれば,申立人らはいずれも,民法958条の3第1項の特別縁故者にあたるといえる。
分与すべき財産は,前記縁故の内容に加え,被相続人の負債が現在までになくなっていること,申立人らに財産を分与する被相続人の意思が推認できることを考 慮し,現在相続財産管理人が管理する相続財産から相続財産管理人に対する報酬その他管理費用を控除した財産全部を申立人らに分与することが相当である。具体的な分 与内容として,申立人X1が自宅土地建物を贈与されていることを考慮し,別紙物件目録記載の不動産すべてを申立人X1に分与し,相続財産管理人管理の現金から相続 財産管理人の報酬その他管理費用を控除した残額を法定相続分に従い2分の1ずつ各申立人に分与することとする。- さいたま家庭裁判所川越支部平成21年3月24日審判(出典:家庭裁判所月報62巻3号53頁)
以上検討したところによれば,上記1で認定したとおり,Aが被相続人の預金通帳や印鑑を預かり,預金を管理していたところ,これを恣に領得したことは明らか というベきである。
3 1で認定した事実により検討するに,Aについては,被相続人に対する4年半以上の療養看護(完全看護の病院に入院中の被相続人を時折見舞い,入院費用等を管 理するといったこと)や葬儀の主宰の事実が認められるのであるが,他方で,療養看護の期間中において,被相続人の資産を1256万5722円もの多額に不当利得し ていることに照らすと,このように被相続人の療養看護の過程において被相続人の巨額の資産を不当に利得した者につき被相続人と特別な縁故がある者と認めるのは相当 ではないというべきである。- 大阪高等裁判所平成20年10月24日決定
被相続人が平成11年に老人ホームに入所してからは,Bが,入所時の身元保証人や成年後見人となったほか,AとBは,多数回にわたって,遠距離の旅 程をものともせず,老人ホームや入院先を訪れて,親身になって被相続人の療養看護や財産管理に尽くした上,相当額の費用を負担して,被相続人の葬儀を主宰したり, その供養も行っているものである。
このような関係をみると,AとBは,被相続人と通常の親族としての交際ないし成年後見人の一般的職務の程度を超える親しい関係にあり,被相続人からも信頼を 寄せられていたものと評価することができるから,民法958条の3所定の,いわゆる特別縁故者に該当するものと認めるのが相当である。
4 そこで,被相続人の相続財産からどの程度の財産をAとBに分与すべきかについてみるに,上記のA及びBと被相続人の特別の縁故関係,相続財産管理人保管に係 る相続財産が,本件遺産動産のほか預金約6283万円であること,その他,本件に表れた一切の事情を考慮すると,原審の定めた金額はやや低額とみることができ,被 相続人の相続財産からAに対し本件遺産動産及び500万円を,Bに対し500万円を,それぞれ分与するのが相当というべきである。
5 なお,A及びBは,更に上記のとおり,同人らに相続財産の全部を分与するのが相当であると主張するが,採用できない。すなわち,
(1) 被相続人が老人ホームに入所するまでのA及びBと被相続人との関係は,上記のとおりにみることが相当であるけれども,特別縁故とみるに至らない点では 原審と同旨であるから,原審の認定に重大な事実誤認があるということはできない。
(2) また,A及びBの療養看護上及び財産管理上の貢献並びに被相続人の死後の供養については,これらを十分斟酌した上で,上記のとおり分与額を定めるのが 相当というべきであり,これを更に増額すベき事情があると認めることはできない。
6 以上の次第で,本件抗告は,上記説示に沿う限度で理由があるから,家事審判規則19条2項に従い,これと異なる原審判を変更することとし,主文のとおり決定 する。- 鳥取家庭裁判所平成20年10月20日審判
(2) 以上の事実によれば,平成14年×月以降,申立人の夫が又従兄弟の関係にある被相続人の老人ホーム入所につき身元引受 人となったもので,その間申立人も妻として相応の協力をしたものと推定されるし,夫が死亡した後は,短期間ではあるが,自ら身元 引受人となり,衣類を届けるなど身辺の世話をしていたものであること,さらに,被相続人の依頼により,任意後見契約を結んでおり, 被相続人から厚い信頼を得ており,同人の精神的支えとなっていたことが窺われること,被相続人の死亡後は,葬儀等や退寮手続を行 い,身辺整理をするなどしたこと,また,かねて,C家の墓守をしており,死亡後もその墓守を続けるとともに,納骨した○×寺への 墓参りも行っていること,そして,被相続人は,申立人に相続財産を包括遺贈する旨の本件メモ書きを残しており,有効な遺言の方式 を備えていないものの,相続財産を遺贈する意向を明確に表示していることなどを考慮すると,被相続人と特別の縁故があったものと 認めるのが相当である。
(3) そこで分与額につき検討すると,申立人は,一定期間被相続人の身辺監護を支援するなどし,被相続人は申立人に相続財産 を包括遺贈する旨の本件メモ書きを残しているなどの事情が認められるが,他方,本件メモ書きは遺言書としての方式を備えず不完全 なものであるところ,公証人から遺言書の作成につき示唆を受けたのに,かかる書面を作成するに止まった具体的な事情は明らかでな いが,客観的,外形的に見て,被相続人の申立人に対する包括遺贈の意思が未だ確定的なものとなっていなかったといわざるを得ない こと,また,申立人は,被相続人の相続財産の形成,維持に寄与したものではないこと,その他前記認定説示の諸事情を総合考慮し, 相続財産管理人の意見を聴いた上,申立人に対し,別紙財産目録記載の財産(*約2500万円)のうち600万円を分与するのを相当と認めて,主文のと おり審判する。- 東京高等裁判所平成20年8月19日決定
これにつき原審は,特別な縁故関係が認められるとして,抗告人らに対しそれぞれ330万円を分与することとし,これにつ いては,不当利得返還金額を相殺した上で,相続財産管理人から抗告人らに支払うこととするのが相当であると判断している。
しかしながら,Aについては,被相続人に対する4年半以上の療養看護や葬儀の主宰の事実が認められるとしても,他方で, 療養看護の期間中において,被相続人の資産を多額に(少なくとも556万5722円)不当利得していることがうかがわれるのであ り,更に約700万円の使途不明金があることに照らすと,そもそもこのように被相続人の療養看護の過程において被相続人の巨額の 資産を不当に利得した者につき被相続人と特別な縁故がある者と認めるのが相当であるか,仮に特別な縁故がある者と認められたとし ても遺産を分与するのが相当であるかについて検討の余地があるというべきである。
また,仮に抗告人らに対し分与をするのが相当であるとしても,具体的な分与額については相続財産の種類,数額等一切の事 情を考慮して決定すベきであるから(高松高裁昭和48年12月18日決定家裁月報26巻5号88頁),抗告人らへの分与額を決定 するに当たっては,不当利得返還金額を確定する必要があるというべきところ,原審判は不当利得返還金額を確定することは本件手続 の目的とするものではないとし,また,Aの死亡により不当利得返還金額に関しての真相究明が困難となっていることは認められるも のの,不当利得返還金額及びその回収可能性について更に調査をした上で,抗告人らに対する具体的な分与額について検討する余地が あるというべきである。
さらに,原審判主文は抗告人らに対しそれぞれ330万円を分与するというものであって,理由中でこれから不当利得返還金 額を相殺した上で支払うものと判断しているものの,原審判主文の金額は債務名義足り得ること,不当利得返還金額が確定しておらず, また,その余の使途不明金の取扱いも明らかにされていないことから,相殺が適正にされるかの問題も生じ得,さらに,相続財産の国 庫引継ぎの際に不当利得返還金額の処理に問題が生じるおそれを残しかねない点から,むしろ本来分与すべき金額から確定した不当利 得返還金額を相殺した後の残額を主文における分与額とすることについても検討する余地があるというべきである。
そうすると,いずれにしても更に事実の調査等を尽くし,事実関係を明らかにした上,Aに対する不当利得返還請求の金額を 確定するなどした上で,仮に分与するとしても,民法958条の3の趣旨に照らし,遺産についてどのような分与をするのが相当であ るかにつき更に審理を尽くす必要があり,これらの事実及び事情について審理することなく分与を相当と判断することはできないとい うべきであって,原審判は審理不尽というほかはない。
4 以上のとおりであるから,原審判は相当でなく,本件を原審裁判所に差し戻すのが相当であるから,主文のとおり決定する。- 大阪高等裁判所平成5年3月15日決定
上記認定事実によれば,被相続人は,その生前に抗告人と極めて親しく親戚付き合いをして,抗告人に何かと相談事等を持ち掛 けて世話して貰い,殊にその夫死亡後は唯一の頼りになる身内として抗告人を頼って,諸々の相談事等を持ち掛け,その死亡後は抗告 人にあとを託していたところ,抗告人は,これに誠意を持って応じて上記のとおり尽力し,被相続人の葬儀や同人及びその親族の法要 等の祭祀を行って,墓守もし,今後もそれを怠りなく続けて行く意向であること,被相続人の上記相続財産を抗告人に分与することは 被相続人の生前の意思にもそうものであることが充分推測できること等を考慮すると,抗告人は被相続人の特別縁故者に当たると認め るのが相当であり,上記認定の相続財産の内容,その他の諸般の事情を斟酌すると,被相続人の清算(相続財産管理人に対する報酬金 の支払等)後残存すべき相続財産の全部を抗告人に分与すべきであるといわねばならない。- 大阪高等裁判所平成4年3月19日決定
抗告人道子は被相続人及びきよみのいずれとも血縁関 係はないが,中学卒業後『○○○○○』の住込店貝として被相続人に雇用されて以来,好き嫌いが強く偏屈な被相続人とその妻き よみに親しく仕え,被相続人から受ける給料が通常より低額であるにもかかわらず,きよみの病気入院後は店員の仕事のほか被相 続人の家事,雑用に従事し,きよみの死亡後独り暮らしとなつた高齢の被相続人に対し8年以上にわたり
住居の世話はもとより炊 事,洗濯,食事等の身辺の世話,病気の看護に当たり,被相続人の信頼を受けてその精神的な支えになつたほか,被相続人の死後 は喪主になつて葬儀及び法要を執り行い,原審申立人らから遺骨を要求されて渡した後も自分なりに供養していく態度を示してい ることに照らすと,抗告人道子の被相続人に対する貢献度は非常に高いというべきであつて,民法958条の3第1項のいわゆる 特別縁故者に該当する。- 那覇家裁石垣支部平成2年5月30日 審判
(3)被相続人は,昭和46年4月申立人である○○園に入所措置がとられ,その後死亡するに至るまで,○○園で生活をしていた。
昭和52年ころから衰弱が激しくなり,歩行,入浴,排便等においても介助を必要とするようになり,同園の職員がその世話をし,死 亡に際しては,同園の職員が葬儀を行い,その後も同園の納骨堂に遺骨を安置し,その後の供養も行っている。
(4)申立人は,沖縄県の委託を受けた社会福祉法人沖縄県社会福祉事業団が管理する県立の養護老人ホーム及び特別養護老人ホーム であり,法人格を有しないが,独立した施設として,寄付や贈与を受けており,これについて理事長の承認を要するとされているもの の,実質的には事後の届出に近い形で運用されており,申立人がその当事者となっている。
3 以上の事実によれば,身寄りのない被相続人としては,その機会があれば,世話を受けた申立人に対し,贈与もしくは遺贈をした であろうと推認され,申立人に所属する職員も施設としてその療養看護に当たってきたものと認められ,申立人には,民法958条の 3第1項に規定する特別の縁故があると認めるのが相当である。- 神戸家裁昭和51年4月24日審判
被相続人から報酬を得て稼働していた添付看護婦らを特別縁故者と認め、相続財産を分与した。- 京都家庭裁判所昭和42年8月18日審判
次に申立人○○ハマは、被相続人が京都市○○高校入学の際同人を自宅に引取つて同居させ、それ以来被相続人の死亡した昭 和38年8月5日まで11年余の間、すなわち被相続人の高校在学中及びその卒業後京都市内の建材店に通勤中、その起居につい て、実子4人をかかえて苦しい生活にもかかわらず、わが子同様万端の世話をなし、かつ申立人村山より上記家賃を受取り、これ を管理使用して被相続人の監護養育にあたつたのみならず、被相続人が罹病し、京都大学附属病院等に入院中も、これが療養看護に努め、さらに被相続人の葬儀を申立人村山とともに執行するな、と、申立人村山同様の寄与をなしているから、同申立人またい わゆる特別縁故者ということができる。
第958条の3(特別縁故者に対する相続財産の分与) 1 前条の場合において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。 2 前項の請求は、第958条の期間の満了後3箇月以内にしなければならない。