第9章 人間的思念と霊的思念
英国フリート街に立ち並ぶ新聞社の一つの主筆でスピリチュアリズムにも興味を持つジャーナリストが、ある日の交霊会で思念とインスピレーションの違いについて質問した。それについてシルバーバーチはこう答えた。

「物質の世界に住んでいるあなた方はきわめて創造性の乏しい存在です。よくよくの例外を除いて、まず何も創造していないと言ってよろしい。受信局であると同時に発信局のような存在です。まず外部から思念が送られて来る。

それがいったんあなたならあなたと言う受信局で受け止められ、それに何かが付加されて発信され、それを別の人が受信すると言う具合です。あなたに届いた時の思念と、あなたから発信される時の思念とはすでに同じではありません。

あなたの個性によって波長が高められることもあり低くなることもあり、豊かになっていることもあり貧弱になっていることもあり、美しくなっていることもあり醜くなっていることもあり、新たに生命力を付加されていることもあり衰弱していることもあります。

しかし、それとはまったく別に、霊的な波長の調整によってあなたと同じ波長をもつ霊からのインスピレーションを受けることもできます。人間が(あなた方の言い方で)死んで私たちの世界へきます。その時(肉体は捨てても)精神と魂に宿されているものは何一つ失われません。

それは霊的であり、無限であり、霊的にして無限なるものは絶対に無くならないからです。その魂と精神に宿された資質はその後も成長し、広がり、発達し、成熟していきます。そうした霊性を宿しているからこそ、こちらへ来てしばらくすると、地上の人間のために何か役立つことをしたいと思うようになるわけです。やがて自分と同質の人間を見出します。あるいは見出そうと努力し始めます。

地上で詩人だった人は詩人を探すでしょう。音楽家だった人は音楽家を探すでしょう。そして死後に身に付けたことの全てを惜しげもなく授けようとします。問題は波長の調整です。インスピレーションが一瞬の出来ごとでしかないのは、私たちの側が悪いのではありません。

二つの世界の関係を支配している法則が完全に理解されれば──別の言い方をすれば、地上の人間が両界の自由な交信の障害となる偏見や迷信を取り除いてくれれば、無限の世界の叡知が人間を通してふんだんに流れ込むことでしょう。

要は私たちの側から発信するものを受信する装置がなければならないこと、そしてその装置がどこまで高い波長の通信を受け取れるかという、性能の問題です。すべてのインスピレーション、すべての叡知、すべての真理、すべての知識は、人間側の受信能力に掛っております」

──それだけお聞きしてもまだ、なぜインスピレーションと言うものが一瞬のひらめきで伝わるかがよく理解できません。

「その瞬間あなたの波長が整って通信網に反応するからです」と答えたあと、そう言う思念が霊界からのものか地上の人間からのものかの区別の仕方について質問されて、こう述べた。

「両者をはっきりと選別することはとても困難です。思念には地上の人間が発したものが地上の他の人間によって受け取られることもありますが、霊界からのものもあります。思念は常に循環しております。その内のある種のものが同質の性格の人に引き寄せられます。

これはひっきりなしに行われていることです。しかしインスピレーションは霊界の者がある種の共通の性質、関心、あるいは衝動を覚えて、自分がすでに成就したものを地上の人間に伝えようとする、はっきりとした目的意識を持った行為です。地上の音楽、誌、小説、絵画の多くは実質的には霊界で創作されたものです」

──祈りは叶えられるものでしょうか。

「叶えられる時もあります。祈りの中身と動機次第です。人間はとかく、そんな要求を叶えてあげたら本人の進歩の妨げになる、あるいは人生観をぶち壊してしまいかねない祈りをします。そもそも祈りとは人間が何かを要求してそれをわれわれが聞き、会議を開いて検討してイエスとかノーとかの返事を出すのとは違います。

祈るということは、叶えられるべき要求が自動的に授かるような条件を整えるために自分自身の波長を高めて、少しでも高い界層との霊的な交わりを求める行為です」

──〝天才〟をどう説明されますか。

「まず理解していただきたいのは、大自然あるいは法則──どう呼ばれてもかまいませんが──は決して一本の真っすぐな線のように向上するようには出来ていないことです。さまざまなバリエーション(変異)サイクル(循環)あるいはスパイラル(螺旋)を画きながら進化しています。

全体から見ればアメーバから霊に至る段階的進化がはっきりしておりますが、その中にあって時に一足飛びに進化するものと後退するものとが出てきます。先駆けと後戻りが常にあります。天才はその〝先駆け〟に当たります。

これから何十世紀、何百世紀か後には地上の全人類が、程度の差こそあれ、今の天才と同じ段階まで進化します。天才は言わば人類の進化の前衛です」

──現在地上で行われている進化論とだいぶ違うようですが・・・。

「私の見解はどうしても地上の説とは違ってきます。霊の目をもって眺めるからです。地上的な視野で見ていないからです。皆さん方はどうしても物的観点から問題を考察せざるを得ません。物的世界に生活し、食料だの衣服だの住居だのと言った物的問題を抱えておられるからです。

そうした日々の生活の本質そのものが、その身を置いている物的世界へ関心を向けさせるようになっているのです。日常の問題を永遠の視点から考えろと言われても、それは容易にできることではありません。が、私達から見れば、あなた方も同じ霊的存在なのです。

いつ果てるともない進化の道を歩む巡礼者である点は同じです。今生活しておられるこの地上が永遠の住処でないことは明白です。これから先の永遠の道程を思えば、地上生活などはほんの一瞬のできごとでしかありません。私達の視界は焦点が広いのです。

皆さんから受ける質問も霊的真理に照らしてお答えしております。その真理が人間生活においてどんな価値をもつか、どうやって他の同胞へ役立てるべきか、どんな役に立つか、そう考えながらです。

これまで私は私の説く真理は単純素朴なものであること、唯一の宗教は人のために自分を役立てること、皆さんもいい加減うんざりなさるのではないかと思うほど繰り返し述べてきました。私たちの真理の捉え方が地上の常識と違う以上、そうせざるを得ないからです。

大半の人間は地上だけが人間の住む世界だと考えています。現在の生活が人間生活の全てであると思い込み、そこで物的なものを──いずれは残して死んでいかねばならないものなのに──せっせと蓄積しようとします。

戦争、流血、悲劇、病気の数々ももとはと言えば人間が今その時点において立派に霊的存在であること、つまり人間は肉体のみの存在ではないと言う生命の神秘を知らない人が多すぎるからです。

人間は肉体を通して自我を表現しているスピリット(霊魂)なのです。それが地上と言う物質の世界での生活を通して魂を成長させ発達させて、死後に始まる本来の霊の世界における生活に備えているのです」

このシルバーバーチの言葉がきっかけとなってサークルのメンバーの間で、〝進化〟についての議論にひとしきり花が咲いた。それを聞いたシルバーバーチは、やおら次のように述べた。

「人間はすべて、宇宙の大霊の一部である──言いかえれば無限の創造活動の一翼を担っていると言うことです。一人ひとりがその一分子として進化の法則の働きを決定づけているということです。霊としての真価を発揮して行く階梯の一部を構成しているのです。

霊は自我意識が発現しはじめた瞬間から存在し、その時点から霊的進化が始まったのです。身体的に見れば人類は、事実上、進化の頂点に達しました。が、霊的にはまだまだ先は延々と続きます」

別の交霊会に世界的に名の知れた小説家が出席した。(姓名は紹介されていない、手がかりになるものも出てこない-訳者)シルバーバーチが出る前に地上で世界的に有名だった人物で今ではシルバーバーチ霊団のメンバーとして活躍している複数の霊がバーバネルの口をかりて挨拶し、それに応えてサークルのメンバーが挨拶している様子を見つめていた。

(訳者注─シルバーバーチ霊団はシルバーバーチがそうであるように地上時代の氏名は─無名だった人物を除いて─いっさい明かしていない。余計な先入観となるからであろう)

その作家に対してシルバーバーチは「私にはあなたが今日初めての人とは思えません。実質的に霊力に無縁の方ではないからです」とまず述べてから、こう続けた。

「あなたの場合は意識的に霊力を使っておられるのではありません。あなたご自身の内部で表現を求める叫び、使って欲しがる単語、言語で包んで欲しがるアイディア、湧き出てあなたを包み込もうとする美、時として困惑させられる不思議な世界、そうしたものが存在することを知っている人間の持つ内的な天賦の才能です。違いますか」

──まったくおっしゃる通りです。

「しかし同時に、これは多くの方に申し上げていることですが、ふと思いに耽り、人生の背後でうごめいているものに思いを馳せ、いかにして、なぜ、いずこへ、といった避け難い人生の問題に対する解答をみずから問うた時、宿命的と言える経緯(イキサツ)によって道が開けてきました。幼少のころからそうであった筈ですが、いかがですか」

──その通りです。

「私たちは、方法は何であれ、自分の住む世の中を豊かにし、美と喜びで満たし、いかなる形にせよ慰めをもたらす人を誇りをもって歓迎いたします。しかし、あなたにはこれまでなさったことより、はるかに立派なことがお出来になります。お判りでしょうか」

──ぜひ知りたいものです。

「でも、何となくお感じになっておられるのではありませんか」

──(力強い口調で)感じています。

ここでシルバーバーチはサークルの一人に向かって「この方は霊能をお持ちです」と言うと、そのメンバーも「そうですね、心霊眼をお持ちです」と答えた。するとシルバーバーチは、

「しかし、この方の霊能はまだ鍛錬されておりません。純粋に生れつきのものです」と述べてから、その作家の方を向いて「あなたは陰から指導している(複数の)霊の存在をご存じではない。あなたが感じておられるよりはるかに多く援助してくれているのですよ」

すると別のメンバーが「この方がこれからなさることは何でしょう」と尋ねた。

「それは、これまでなさったことよりはるかに大きな仕事です。その内自然に発展してきます。が、すでにその雰囲気がこの方の存在に充満していますから、ご自分では気づいておられる筈です。じっとしていられないことがあるはずです。私の言わんとしていることはお判りでしょう」と言ってその作家の方を向いた。

──非常によく分かります。

「次のことをよく理解しておいてください。他の全ての人間と同じく、あなたにも小さな身体に大きな魂を宿しておられるということです。どうもぎこちない、大ざっぱな言い方をしましたが、あなたと言う存在は肉体と言う、魂の媒体として痛ましいほど不適当な身体を通して表現せざるを得ないということです。

あなたの真の自我、真の実在、不滅の存在であるところの魂に宿る全能力──芸術的素質、霊的能力、知的能力の全てを顕現させるにつれて、それだけ身体による束縛から逃れることになります。

魂そのものは本来は物質を超越した存在ですから、たとえ一時には物質の中に閉じ込められても、そのうち鍛錬や養成をしなくても、無意識のうちに物質を征服して優位を得ようとあらゆる手段を試みるようになります。それが今まさにあなたの身の上に起こりつつあるわけです。

インスピレーション、精神活動、目に見えない側面のすべてが一気に束縛を押し破り、あなたの存在に流入し、充満し、あなたはそれに抗しきれなくなっておられる。私の言っていることがお判りでしょうね」

──非常によく分かります。

「しかし、同時にあなたは私たちの世界の存在によって援助されております。すでに肉体の束縛から解放された人たちです。その人たちは情愛によってあなたと結ばれております。愛こそ宇宙最大の絆なのです。

愛は自然な成り行きで愛する者同士を結びつけ、いかなる者も、いかなる力も、いかなるエネルギーも、その愛を裂くことはできません。

愛がもたらすことのできる豊かさと温もりのすべてを携えてあなたを愛している人たちは、肉体に宿るあなた自身には理解できない範囲であなたのためにいろいろと援助しております。が、それとは別に、そうした情愛、血縁、家族の絆で結ばれた人々よりは霊性においてははるかに偉大な霊が、共通の興味と共通の目的意識ゆえに魅かれて、あなたの為に働いてくれております。

今ここでは簡単には説明できないほど援助してきており、この後も、もしその条件が整えば、存在をあなたにも知らしめることにもなるでしょう」

──ぜひ知らせてほしいものです。それと、こうした背後霊の皆さんに私から感謝の気持ちを伝えていただけますでしょうか。

「もう聞こえていますよ。今日私はあなたにぜひ残していきたいのは、あなたの周りに存在する霊力の身近さの認識です。私は古い霊です。私にも為し得る仕事があることを知り、僅かですが私が摂取した知識が地上の人々の役に立てばと思って、こうして戻ってまいりました。

すでに大勢の友──その知識を広める為に私の手足となってくれる同僚をたくさん見つけております。私の大の友人、パリッシュ(心霊治療家で、その日の交霊会にも出席していた)のように特殊な使命を帯び、犠牲と奉仕の記念碑を打ち立てている者もいます。

しかし、すべての友が自分が利用されていることを意識しているわけではありません。でも、そんな人たちでも時たま、ほんの瞬間に過ぎませんが、何とも言えない内的な高揚を覚え、何か崇高な目的の成就ために自分も一翼を担っていることを自覚することがあるものです」