第2部 アラン・カルデック自伝
──孤独と休みなき戦いの日々(『遺稿集』第四章「自伝的ノート」から抄訳)

第3章 私の指導霊について
一八五六年三月二十五日、ボダン家にて、霊媒はボダン嬢。

私はその頃、マルティール街八番地に住んでいた。中庭の奥のアパルトマンの三階だった。

ある日、仕事部屋で原稿を書いていると、隣の部屋との仕切り壁から、繰り返し、小さな物音が聞こえた。最初は何の注意も払わなかったが、それが治まらずに、しかも、場所を変えつつ、段々大きくなってきたので、その仕切り壁を両側から詳細に調べてみた。他の階の音が響いてくるのかと思ったのである。しかし、原因を解明することは出来なかった。不思議なのは、私が調べようとする度に、その音が止まり、仕事を再開すると同時にまた鳴り始めることだった。

やがて十時頃に妻が部屋に入ってきた。その音を聞いて、「これは何なの?」と聞いた。私は、「分からない。もう一時間以上も続いているんだ」と答えた。我々は一緒に調べたが、どうしても原因は分からなかった。それは真夜中まで、つまり私が寝るまで続いていた。

翌日は、ボダン家でのセッションの日だったので、私はそのことに関して説明を求めた。

――多分、そのことについてはお聞き及びかと思います。どうして、あれほどしつこく音が続いたのか、その原因を説明して頂けますか?

「あなたの指導霊団の内の一人がやったのです」

――どんな目的があって、あんなふうに音を立てたのですか?
「あなたに何か言いたかったのでしょう」

――その霊は誰で、私に何が言いたかったのでしょうか?
「今ここにいますから、直接聞いてみたらどうですか?」

この時期には、まだ指導霊が沢山いるということさえ分からずにいた。全員を一律に「親しい霊」と呼んで混同していたのである。

――あなたが誰であれ、とにかく、来てくださったことに対して感謝申し上げます。あなたは一体どなたですか? どうぞ教えてください。

「私のことは[真実の霊]と呼んでください。これから暫く間、月に一度、毎回十五分位、あなたと対話することにしましょう」

――昨日、私が仕事をしている間、音を出していましたが、何か仰りたいことがあったのですか?

「仕事に関して言いたいことがあったのです。あなたが書いている内容がよくないものだったので、仕事を止めさせようとしたわけです」

私は、その時、霊に関する研究について、そして霊の顕現について書いていたのだった。

――それは、昨日書いていた章に関してですか? それとも書物全体に関してですか?

「昨日書いていた章に関してです。判断はあなたにお任せしましょう。今晩読み返してみて、おかしいと思ったら、そこを直してください」

――私自身も、あの部分には満足していませんでした。実は今日書き直したのですよ。多少はよくなっているでしょうか?

「よくなってはいます。しかし、まだ充分とは言えません。三行目から三十行目まで、注意深く読み返してご覧なさい。重大な過ちが見つかるはずです」

――昨日書いた部分は破棄したのですが。

「破棄したとしても、間違い自体は残っているのです。もう一度読み返してごらんなさい。そうすれば間違いが分かるはずです

――[真実の霊]というお名前は、私が探究している真実と関係があるのですか?

「そうかもしれません。少なくとも、私は、あなたを守り、あなたを助ける指導霊です」

――自宅であなたを招霊することも可能ですか?

「可能です。内なる声を通じてコンタクトをとり、あなたを助けましょう。しかし、自動書記による交流は、まだしばらくは無理でしょう」

確かに、この後一年位の間、自宅では自動書記は全く出来なかった。霊媒がやってきて、自動書記による情報を得ようとすると、何か不都合なことが起きて、それが出来なくなるのだった。自宅以外の場所でしか、自動書記は可能とならなかった。

―― 一月に一度といわず、もっと頻繁に来てくださいませんか?
「そうしたいところですが、新たな体制が組まれるまではこのままです」

――他に、地上で知られている人を誰か指導していますか?

「あなたにとっての真実の霊だと言ったはずです。この言い方から察してください」

夕方、自宅に戻ってから、急いで、ゴミ箱に捨ててあった原稿と、新たに書いた原稿を読み返してみた。すると、三十行目に重大な過ちが見つかったのである。どうしてこんな過ちを見逃したのか、不思議なくらいであった。
これ以降、その種の霊現象は全く起こらなかった。私と指導霊との関係が確立したので、そうした霊現象に頼る必要がなくなった為であろう。

一八五六年四月九日、ボダン家にて、霊媒はボダン嬢。

――([真実の霊]に対して)先日、執筆中の一節について、間違っていると言われましたが、確かにその通りでした。読み返したところ、三十行目に間違いが見つかりました。それに対して、ラップ音を立てて警告してくださったのですね。他の間違いも、いくつか見つかり、それらを書き直しました。これでよろしいでしょうか?

「前よりはよくなったと思います。でも、原稿に日の目を見させるのは一ヶ月後にしてください」

――「原稿に日の目を見させる」とは、一体どのような意味ですか? まだ出版するつもりはありませんが。

「部外者に見せる、ということです。『原稿を読みたい』と言ってくる人に対しては、何らかの口実を見つけて断るとよいでしょう。まだ改稿する余地があります。あなたが批判を避けることが出来るように、このようなことを言っているのです。また、慢心しないように気をつけてください」

――私を指導し、支援し、守ってくださるということでした。こうした保護は、ある限度内においてであると理解していたのですが。もしかすると、それは物質生活のレベルにまで及ぶのですか?

「地上においては、物質面も大切なのですよ。もし、その面で援助しないとしたら、あなたを愛していないことになります」

この霊の保護が――当時はまだ、それがどれほど凄いものかということが分かっていなかった――途切れるということは、決してなかった。

この霊の私に対する思いやり、そして、この霊の命令を受けた他の霊人達の私に対する思いやりは、私の人生のあらゆる局面にまで及んだ。
ある時は、物質面での様々な困難を解決してくれ、ある時は、仕事が容易に進むように援助してくれた。また、ある時は、反対者達の力を殺(そ)ぎ、私に害が及ばないようにしてくれた。

私が果たそうとしていた使命に付きまとう苦難が完全にはなくならないとしても、それらは必ず和らげられたし、また、使命遂行に伴う精神的な満足によって、大いに補われたのである。