物理地学の基礎:演習問題と解説

7-1 プレートテクトニクスの幾何学:イントロダクション

大西洋の中央に位置する海底山脈は, 1900 年前後に実施された海底ケーブル敷設の調査で発見されたそうです. 1950 年代に海洋底の地球物理学的観測が始まると,この海底山脈が世界の全大洋に延々と繋がっていることが判明しました.さらに,地震・重力・地殻熱流量・地磁気などのデータの蓄積とともに,海洋底拡大説が登場したことは前章で記しました.

下図に GMT (Generic Mapping tools, Wessel et al. 2019) のデータベースによる世界の地形を示します.この図で特徴的な点は,海嶺(ridge)とよばれる長大な海底山脈と主に太平洋の縁に位置する深い海溝(trench)です.前者は大規模なものを中央海嶺と呼ぶことも多いですが,ここでは海嶺に統一します.また,海嶺が所々で横方向にずれるトランスフォーム断層(transform fault)やその断層の延長のような破砕帯(fracture zone)という地形も特徴的です.これらは,海嶺で生成された海底が両側に拡大し,海溝でマントルへと沈み込むという海洋底拡大説で説明されました.また,ハワイ島から直線上に並ぶ海山列については,ハワイ島の地下深くに固定されたマントル物質の上昇流があり,その上を海洋底が移動したとする,ホットスポット(hotspot)という概念も登場しました.さらに海洋底拡大説は,地球は何枚かのプレートで覆われており,多くの地学現象はそれらの境界で生じるというプレートテクトニクスへと発展しました.

世界の地形図(GMTデータベース)
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以下,プレートテクトニクスの証拠となる代表的なデータ分布を表わす図を幾つか概観します.なお,データ点をプロットした地形図は全て緯度経度 15 分格子の図を用いましたが,その元となる地形データは NCEI (National Centers for Environmental Information) で公開されている1分格子の全球地形データベース ETOPO1 Global Relief Model です.

地震の分布: 世界の地震の震央分布を, \(M\)5.3 以上で 2000~2019 年の 20 年間について下図に示します.データは USGS Search Earthquake Catalog(アメリカ地質調査所 地震検索カタログ)から取得しました.震央の丸印は \(M\) が大きいほど連続的に大きいサイズとし,小さい地震から順にプロットしてあります.また,震源の深さで3通りに色分けしてあります.

世界の地震の震央分布(M>=5.3, 2000-2019, USGS Earthquake Catalog)
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この図から地震の発生する場所は, (1) 日本,南米,南アジア,などの海溝に沿った地域, (2) 海嶺とトランスフォーム断層, (3) 地中海-中東-ヒマラヤと続く山岳地域,であることが分かります.また,海嶺では大きい地震は発生しないこと,日本列島付近では西に向かって震源が深くなり南米では逆の傾向となることも分かります.これらのことから,震央が線状に分布する地帯をプレート境界と考えるのが妥当と思われます.プレートが沈み込む海溝や大陸が衝突するヒマラヤ付近では大地震が発生するが,マグマから海洋底が作られる海嶺では小さな地震しか発生しないことは容易に理解できます.また,日本付近と南米で震源の深さ分布が違うことも,プレートがそれぞれ西と東に傾いて沈み込むと考えれば説明できます.

火山の分布: 下図は完新世(およそ過去1万年間)の世界の火山分布を示します.これらは噴火の記録があるか,アンレストという一定レベル以上の火山活動の痕跡がある火山で,スミソニアン国立自然史博物館の全球火山プログラム(Global Volcanism Program)によるデータセットです.

火山は地震の震央分布とよく似ていて,海溝に沿って陸側に並んでいます.プレートが沈み込む海溝付近で火山が発生する理由は単純ではありません.火山は海溝から一定距離だけ離れた,火山前線(火山フロント)とよばれるラインより陸側に分布します.沈み込むプレートをスラブといい,スラブ上方のマントルをくさび型マントルといいます.そのくさび型マントル内の対流と,スラブが持ち込んだ含水鉱物の水の作用で,深さ 100~150 km の領域でマグマが発生すると言われています.また,海溝から離れた大洋にも所々火山が分布しています.これらはマントル物質が深部から上昇してマグマを発生している場所で,ホットスポットといいます.ハワイ島,アイスランド,2021年9月に噴火したカナリア諸島のラ・パルマ島など,多数知られています.

完新世(過去1万年間)に噴火記録のある世界の火山分布
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一方,大陸内部にも火山があり,イタリアからトルコを経てカスピ海に至る山岳地帯に分布しています.この付近はプレートの衝突による造山帯で,火山も伴うようです.但し,地中海の一部は海溝が存在する沈み込み帯のようです.また,東アフリカ地溝帯に沿って火山が分布しますが,この地溝帯からアフリカ大陸の分裂が始まりつつあるようです.そのため,これらの火山もホットスポットと考えられています.紅海とアデン湾にはインド洋中央海嶺から続く海嶺があるので,アラビア半島とアフリカは分裂し,海洋底拡大は既に始まっています.そのため,付近の火山もホットスポットと考えられます.

以上,通常の火山の分布について記しました.しかし,最も火山活動が盛んな場所は海嶺で,長大な火山山脈と表現できます.海嶺におけるマグマの年間総噴出量はおよそ 5 km3 で,通常の火山による噴出量を合わせた全体の約 70% を占めます(杉村 1987, 表6-1).

地磁気縞状異常による等年代線: 1960 年代に提出されたヴァイン-マシューズ仮説は,海上地磁気縞状異常を地磁気逆転を記録した海洋底の磁化で説明し,海洋底拡大の強い証拠になったことは前章で記しました.一つの地磁気極性が続く期間をクロンといいます(短い期間はサブクロン).この縞状の磁気異常にはクロン番号が付けられ,等年代線(アイソクロン)として主要な大洋で比較研究され,1億6千万年前までの地磁気極性タイムスケールが作成されました.これらの等年代線の決定には高度なデータ解析が必要です.船などによる測線沿いの磁気異常記録を,北極の値に変換するなどして,地磁気極性が反転する地点の緯度・経度を決定します.極性反転の年代は極性タイムスケールを参照し,同年代の地点を線で結ぶと等年代線となります.これらの等年代線がクロン番号とともに描かれた地図は教科書に載っています(例えば,上田 1989, p.56-57; Fowler 2005, p.68-69, p.72-73, p.80, p.84-85).

最近では,地磁気縞状異常による等年代線のデータがデータベースに構築され,今後も新しい観測結果が報告されるとアップデートされるようです(Seton et al., 2014).データは極性反転が観測された地点の緯度・経度,磁気異常の年代とクロン番号,研究グループや論文の情報などで, GSFML Data Base Project のホームページからダウンロードできます.このデータを年代で色分けした点としてプロットした図を下に示します.データ点は線で結ばず,クロン番号も示していませんが,同じ色の点を結ぶと地磁気縞状異常による等年代線となります.なお,南北大西洋でおよそ 80~120 Ma (薄緑~濃緑) にデータがないのは,この時期が約4千万年続いた正磁極期の白亜紀スーパークロン(Cretaceous Normal Superchron)のため等年代線が同定できないためです.

海上地磁気縞状異常による等年代線
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この図から,地磁気縞状異常による等年代線が海嶺の両側に対称に分布していて,海洋底が海嶺から拡大していることがよく分かります.また,両側の同年代の磁気異常間の距離が大きいほど拡大速度が大きいことを示します.この地図(ミラー図法)では縮尺が緯度により異なるので,同じ緯度帯で大雑把に比較すると,海洋底の拡大速度は北大西洋より南大西洋が大きいこと,太平洋は更に大きいことが分かります.この対称な位置にある磁気異常を若いクロン番号から順に海嶺に戻す作業を行えば,海洋底の過去の運動,即ちプレート運動の再構築が可能です.但し,例えば北太平洋では海嶺が北米大陸の下に沈み込んでしまい,東側の磁気異常が欠けているなどの困難もありますが,プレート運動の再構築はジュラ紀後期以降についてはほぼ完成しました.ジュラ紀後期より古い時代については,海上磁気異常が約 160 Ma 以前には存在しないため,陸上の古地磁気学や地質学のデータから研究することになります.これは磁気異常による方法に比べて誤差は大きく,古い時代ほどプレートの配置などの不確定性が大きくなります.

主要なプレートの分布: 以上,プレートテクトニクスの証拠となる代表的なデータ分布を概観しましたが,地球の表層部を幾つかのプレートに分ける場合,プレート境界としては次の3つとなります.

  1. 発散型境界(海嶺,中央海嶺)
  2. 収束型境界(島弧-海溝系の沈み込み帯,褶曲山脈などの衝突帯)
  3. 平行移動型境界(トランスフォーム断層)

プレートテクトニクス理論の初期には,プレートはこの分類に従って,ユーラシア,太平洋,インド(オーストラリアを含む),アメリカ,アフリカ,南極の6枚とされました.これは上に見てきた種々のデータ分布からは分かり易いです.しかし,各種の観測データが蓄積すると,より小規模のプレートが多く提案され,プレートの数は時代とともに増えてきました.例えば,プレート理論初期には日本列島はユーラシアプレートに属するとされましたが, 70 年代には北海道の日高山脈から東半分はカムチャッカ半島から続く北米プレートの一部となりました. 80 年代には,北米プレートとの境界を糸魚川-静岡構造線とし東北日本と北海道は北米プレートの端とされました. 90 年代になると,日本の東半分とカムチャッカ半島などを含むオホーツクプレートが定義され,さらに東北日本マイクロプレートも提案されています.

主要なプレートの分布
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上図は現在一般的に認められている主要な 14 のプレートを示します.但し,研究者によってはインドとオーストラリアを分けずにインド・オーストラリアプレートとしたり,前述のオホーツクプレートを主要プレートに含めるなど,多少の違いはあります.各プレートの境界は Bird (2003) により公開されているデジタルデータをダウンロードして描きました.なお,この論文ではプレートの数は主要なものが 14,小規模なものが 38 の合計 52 となっています.

プレートテクトニクスの登場以前は,地学の種々の分野で観測される現象をそれぞれの分野の流儀で解釈していました.しかし,プレートテクトニクスは多くの地学現象を統一的な立場から説明できることとなり,地学分野の学際的な研究が発展しました.プレートテクトニクスは一般の人にも分かり易い理論ですが,専門レベルとしては地学のそれぞれの分野の深い知識が必要です.このホームページでは,基礎レベルとしてのプレートの幾何学に限って次ページ以降で演習問題を解いていきます.

参考文献: