物理地学の基礎:演習問題と解説

2 放射性元素と絶対年代

放射性崩壊と年代決定: 放射性元素(親元素)が崩壊して別な元素(子元素)が生成される放射性崩壊では熱エネルギーが発生し,固体地球の熱的現象として重要です.しかし,ここでは放射性元素が時間とともに減少することを利用して年代を決定する絶対年代決定の原理について学びます.

ある時刻における親元素の数を \(P\) とし,単位時間に崩壊する元素の割合(崩壊定数)を \(\lambda\) とすると, \(dt\) 時間内に崩壊する親元素の数 \(dP\) は,その時刻における親元素の数 \(P\) と時間 \(dt\) に比例するので, \[ dP = -\lambda P dt, \] で与えられます.これを微分方程式, \[ \frac{1}{P} dP = -\lambda dt, \] のように表し, \(C\) を積分定数として両辺を積分すると, \[ \log_e P = -\lambda t + C, \] となりますが,新たな定数, \(K = e^C\) ,を用いて変形すると, \[ P = K e^{-\lambda t}, \] となります.ここで, \(t=0\) における \(P\) を \(P_0\) とすると, \(P_0 = K\) ですので,一般に親元素の崩壊は次の指数関数で表されることになります. \begin{equation} P = P_0 e^{-\lambda t}. \label{eq01} \end{equation} また,親元素の数が最初の半分になる時間が半減期 \(T_{1/2}\) で, 次式で与えられます. \begin{equation} T_{1/2} = \frac{\log_e 2}{\lambda}. \label{eq02} \end{equation} 一方,子元素は親元素が減るのと全く同じ割合で増えることを利用して,時刻 \(t\) における子元素の数 \(D\) は, \(t = 0\) における子元素の数を \(D_0\) として,次式となることが分かります. \begin{equation} D = D_0 + P(e^{\lambda t} - 1). \label{eq03} \end{equation}

C-14 法: 自然に存在する炭素元素は 12C が 99%, 13C が 1% ですが,放射性元素の 14C が極微量だが一定の割合で CO2 として存在します. 14C は宇宙線により生成された中性子 n が大気中の安定な窒素元素 14N に衝突することで生成されます.生成された 14C は電子線のベータ線 β を放出して,半減期 5730 年で崩壊し元の 14N に戻ります.これらの反応は次式で表されます(p は陽子).

14N + n \(\rightarrow\) 14C + p    \(\Longrightarrow\)    14C \(\rightarrow\) 14N + β

大気中の 14C は放射性崩壊で減少する割合と宇宙線により生成される割合がバランスされ,常に一定であると仮定します.生物に含まれる 14C の存在比は呼吸活動により大気中と同じです.しかし,生物が死んだ時点で体内の 14C は外界との接触が断たれ,これを閉鎖系になったといいます.すると, 14C は時間の経過とともに減少するので,動植物の遺骸に含まれる 14C の量を測定すれば,死後の時間を求めることができます.即ち, C-14 法は親元素がどのくらい減っているかを測定することで年代を決定します.半減期が短いので,この方法は過去数万年程度の年代範囲に適用されます.但し, 1950 年以降の 14C 存在度が原水爆実験のために増加したので,AD 1950 年の値を初期値とします.年代は 3000 BP などと, AD 1950 から 3000 年前(Before Present)として表します.また,実際の測定では地磁気強度や太陽活動の変動の影響で 14C の存在度は変動するので,それらの効果の補正が必要となります.

K-Ar 法: 自然に存在するカリウム元素は 39K が 93%, 41K が 7% ですが,放射性元素の 40K が約 0.01% 存在します. 40K は半減期が約 12.5 億年で, 89% がベータ線 β を放出して 40Ca へ, 11% が電子 e を捕獲して 40Ar へと壊変します.

40K \(\rightarrow\) 40Ca + β
40K + e \(\rightarrow\) 40Ar

前者の 40K → 40Ca の系列は年代決定には使用されません.それは自然の 40Ca が多量に存在するため,放射性崩壊により生じた分を正確に測定できないからです.後者の 40K → 40Ar の系列は,数万年前から数億年前の広い年代範囲で主に火成岩に適用されます.火成岩は固化した時点以降は外界と元素のやりとりがない閉鎖系ですので,一般に放射性年代決定は火成岩に適用されます.特にこの K-Ar 法では,火成岩形成時のマグマ中では,気体の 40Ar の量はゼロですので式 (3) の \(D_0\) はゼロとなり,時刻 \(t\) における 40Ar の量は式 (3) に係数 \(\lambda_\mathsf{e}/\lambda\) を掛けた次式となります(括弧は元素の量を表わします). \[ (^{40}\mathsf{Ar}) = (\lambda_\mathsf{e}/\lambda)(^{40}\mathsf{K})(e^{\lambda t} - 1). \] ここに, \(\lambda_\mathsf{e}\) は 40K → 40Ar の壊変定数で, \(\lambda\) は 40K 全体としての壊変定数です.結局, K-Ar 法は,現在における親元素と子元素の量を測定することで年代を決定します.

Rb-Sr法: その他の主な放射性年代決定法には U-Pb 法や Rb-Sr 法があり,ここでは後者を取り上げてアイソクロンという考え方を学びます. 87Rb は 488 億年の半減期で放射性崩壊し, 87Sr を生成します.半減期が長いので,一千万年前より古い年代に適用されます.時刻 \(t\) において式 (3) は, \[ (^{87}\mathsf{Sr}) = (^{87}\mathsf{Sr})_0 + (^{87}\mathsf{Rb})(e^{\lambda t} - 1), \] となりますが,通常は安定同位体 86Sr の量で割って次の形の式を利用します. \begin{equation} \left(\frac{^{87}\mathsf{Sr}}{^{86}\mathsf{Sr}}\right) = \left(\frac{^{87}\mathsf{Sr}}{^{86}\mathsf{Sr}}\right)_0 + \left(\frac{^{87}\mathsf{Rb}}{^{86}\mathsf{Sr}}\right)(e^{\lambda t} - 1). \end{equation}

Rb-Sr法におけるアイソクロンの原理

現在における, 87Sr/86Sr や 87Rb/86Sr の量を測定しても火山岩が生成された当時の (87Sr/86Sr)0 がわからないと式 (4) は利用できません.しかし, (87Sr/86Sr)0 が知られていなくても年代を決定できる方法があります.それは,同じ岩体の場所の異なる試料について測定し,横軸に 87Rb/86Sr を,縦軸に 87Sr/86Sr を取ってプロットすると,式 (4) が傾き \((e^{\lambda t}-1)\) の直線になることを利用します.この原理は,異なる元素の量比である 87Rb/86Sr は異なる岩体や鉱物では違った値を取り得るが,同じ元素である同位体の量比 87Sr/86Sr は同じ値となることです.よって図のように,時刻 \(t=0\) では水平な直線が時間の経過とともに傾きが増大することになります.この直線を等時代線(アイソクロン)といいます.

問題2-1

放射性元素による年代決定において, \(P_0\) と \(P\) をそれぞれ最初と現在の親元素の数, \(D_0\) と \(D\) をそれぞれ最初と現在の子元素の数,崩壊定数を \(\lambda\) とします.

問題2-2

40K の放射性崩壊は次の2系列あります.

40K \(\rightarrow\) 40Ca + β    (崩壊定数 \(\lambda_\beta\))
40K + e \(\rightarrow\) 40Ar    (崩壊定数 \(\lambda_\mathsf{e}\))

時刻 \(t\) における各元素の量を \((^{40}\mathsf{K})\) などと表すとき,微小時間 \(dt\) において,親元素や子元素の増減は次式で表されます. \begin{eqnarray*} -d(^{40}\mathsf{K}) & = & d(^{40}\mathsf{Ca}) + d(^{40}\mathsf{Ar}), \\ d(^{40}\mathsf{Ca}) & = & \lambda_\beta(^{40}\mathsf{K})dt, \\ d(^{40}\mathsf{Ar}) & = & \lambda_\mathsf{e}(^{40}\mathsf{K})dt. \end{eqnarray*} これらの式を用い, \((^{40}\mathsf{Ar})\) の初期値がゼロであることを考慮して, \((^{40}\mathsf{K})\) と \((^{40}\mathsf{Ar})\) の測定値から年代 \(T\) を求める次式を導きなさい.但し, \(\lambda=\lambda_\beta + \lambda_\mathsf{e}\) とします. \[ T = \frac{1}{\lambda}\log_e\left(1 + \frac{\lambda}{\lambda_\mathsf{e}}\frac{(^{40}\mathsf{Ar})}{(^{40}\mathsf{K})}\right). \]

問題2-3

SNC隕石と呼ばれる火星起源の隕石を Rb-Sr 法で測定した結果の一部を次表に示します.

87Rb/86Sr87Sr/86Sr
0.6570.7136
0.4920.7107
0.2270.7066
0.1480.7050

データをプロットし,アイソクロンを描きなさい (→ グラフ用紙).また, \(\lambda t\) は小さいので直線の傾きが次式で近似できることを利用して年代を求めなさい. \[ e^{\lambda t}-1 \approx \lambda t. \] 崩壊定数は, \(\lambda\) = 1.42\(\times\)10-11 1/yr とします.

問題2-4

放射性崩壊において,放射性元素の平均寿命は崩壊定数の逆数 \(1/\lambda\) となることを導きなさい.