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中古車輸出

まとまった両数を安価で

日本から海外への中古車輸出が増えているということで、「新車が売れなくなるのではないか」と聞かれたことがありました。世の中的に誤解されている点をまとめておこうと思います。

最近の輸出先は以下のようなものですが、これらは中古車両ですので、日本の鉄道事業者さんが、ほぼ簿価(100万円以下〜数百万円の金属としての価格)で販売しております(実質譲渡の場合もありました)。

国内及び海上輸送費用もかかりますし、関税もかかるのですが、この負担を誰が行うかもケース・バイ・ケースです。

    最近の中古車両の譲渡

  • [2018年度]JR東日本さん     →KRLコミューターラインインドネシアさん(武蔵野線等205系336両(42編成))
  • [2017年度]JR東日本さん     →KRLコミューターラインインドネシアさん(南武線205系120両(20編成))
  • [2016年度]JR東海さん      →ミャンマー鉄道省さん(高山本線等キハ40系12両、キハ11形16両)
  • [2014年〜2016年]東京メトロさん →KRLコミューターラインインドネシアさん(千代田線6000系130両)
  • [2013年、2014年]JR東日本さん  →KRLコミューターラインインドネシアさん(埼京線及び横浜線205系356両)
  • [2005年〜2009年]東京メトロさん →KRLコミューターラインインドネシアさん(8000系10両)

・・上の表中の、千代田線の6000系が輸出されていた2015年度について、国内で廃車となった600両弱の廃車車両について、廃車時点の車齢を調べたものが以下の図1です。図中の点の1つ1つが、国内で廃車となった車両です。
 この図1では、インドネシアに輸出されている車両はまとまった数があり、かつ、車齢は、全体的には1980年ごろ製の35歳くらいですのでちょっと古めの車両だとわかります。

【図1】2016年に廃車された鉄道車両の車齢

新車販売の圧迫?

輸出先であるインドネシアの相手先鉄道事業者さんは狭軌(1,067mm)で、ジャカルタ首都圏の輸送を担う8〜12両編成の車両を必要とする会社さんです。これだけのまとまった両数が、比較的古いとはいえ簿価(〜数百万円/1両)で継続的・計画的に手に入る(逆にいうと、JR東さん、東京メトロさんは、計画的に新車を調達しているので、数年後にどのくらいの車両が不要となるかも予想できる)グッドタイミングだったわけです。

もし新車を製造するとなると1億円/両を超えてしまいますので、中古車両とは価格帯がまったく異なります。

私が思うに、古くても、長い編成で、車両改造が少なくて済むまとまった両数が欲しいKRLさんと、リユースを進めつつ海外の同業者同士で助け合いたい鉄道事業者さんの気持ちがマッチしたという感じですので、「新車販売の機会を逃した」と心配されるほどの「ビジネス」感は無いと思います。
 中古車に限らず、会議の席で鉄道事業者さん同士がすぐ打ち解けあっている姿はしばしばお見掛けしており、私からみるとうらやましい限りです。

契約には入っていなくても修理・点検の仕方等をお教えしたり、冊子とする技術協力もされているそうです。鉄道事業者さん同士のこうした互助の気持ちを契機として、将来、本当の「ビジネス」に成長していくこともあり得るのではないかと思います。鉄道事業者さんはいい財産をお持ちです。

中古車両の残存寿命は短いため、言葉は悪いですが鉄道業界でカニバリズムと呼ぶ故障車両から使える部品を外して使いまわすことが行われ、またブレーキシューのような減耗する部品は類似形状品を当てがわれながら、徐々に稼働両数は減っていきます。ジャカルタ首都圏地域ではせいぜい10年程度でしょうから、このとき、日系メーカーの新造車両の置き換わる・・などということが起きるのか、元の車両に戻るのかは現状では不明です。ですが、ライバル企業ひしめく中、日系メーカー側から相当意欲的に取り組まないと難しいのは間違いありません。