和歌入門附録 和歌のための文語文法

活用表 動詞についての留意点 助動詞の種類と機能 助詞の種類と機能 仮名遣

助詞の種類と機能 5

引用歌の作者名をクリックすると、当該歌の通釈にリンクします。

助詞一覧表

連体助詞 格助詞 副助詞 係助詞 終助詞
間投助詞 接続助詞

終助詞 か(かも・かな・かは) や(やも・やは)   かし    ものを  ろ(ろかも) (希望)  なむ(なも) ばや こそ もが もがな しか(しがな) (禁止)  

終助詞は、文や句の終りに用いて、疑問・詠嘆・禁止・願望などの意をあらわす助詞である。「か」「や」「ぞ」「は」「も」は係助詞として一括する学説もあるが、ここでは、文末・句末に置かれて文の成立を助けるはたらきをする場合、終助詞として区別した。

か(かも・かな・かは) 終助詞 詠嘆・疑問・反語

【主な機能】
    「か」は疑問・反語・詠嘆などの意をあらわすとされるが、実際にはこれらのいずれとも区別し難い場合が多い。「叙情的表現の和歌においては、純粹に相手に對して疑問を提出することは、稀であつて、多くの場合に、詠嘆か自問自答の反語的表現となる」(時枝誠記『日本文法 文語篇』)。体言または活用語の連体形を承ける。
    (こと)()しは誰が言なる小山田の苗代水の中淀にして(万葉集、紀女郎)
    浅緑いとよりかけて白露を珠にもぬける春の(古今集、遍昭
    吹く風の涼しくもあるおのづから山の蝉鳴きて秋は来にけり(金槐和歌集、源実朝
【助詞との結合例】
【助動詞との結合例】
【他の機能】

係助詞としてもはたらく。

【補足】

や(やも・やは) 終助詞 詠嘆・疑問・反語

【主な機能】

    「や」は元来は掛け声に由来する感動詞で、間投助詞としてはたらき、さらに叙述の終りに用いられるようにもなった。疑問(質問)・反語・詠嘆などの意をあらわす。用言の終止形命令形、また体言に付き、反語の場合は已然形に付く。

  1. 終止形に付き、質問・疑問をあらわす。相手に対し呼びかけ、問いかける気持を伴うことが多い。
    聞きと妹が問はせる雁が音はまことも遠く雲隠るなり(万葉集、大伴家持
    道の辺の草深百合の花笑みに笑まししからに妻と言ふべし(万葉集、作者未詳
    もろともに山めぐりする時雨かなふるにかひなき身とは知ら(詞花集、藤原道雅
  2. 「思ひき」のように、終止形に付く場合でも反語的な疑問の意をあらわすことがある。
    思ひ鄙のわかれにおとろへて海人のなはたきいさりせんとは(古今集、小野篁
  3. 終止形に付いて詠嘆の意をあらわす。「めづらしや」「わりなしや」「はなかしや」など、形容詞終止形に付く例が多く見られる。

    はかなし枕さだめぬ転た寝にほのかにまよふ夢の通ひ路(千載集、式子内親王
  4. 已然形に付き、反語「〜だろうか、いやそんなことはない」の意をあらわす。

    越の海の信濃の浜をゆき暮らし長き春日も忘れて思へ(万葉集、大伴家持
    思ひ河絶えず流るる水の泡のうたかた人に逢はで消え(後撰集、伊勢
  5. 已然形に付き、自らに問いかける疑問をあらわす。直後に述べる事実の根拠について推測する時に用いられる、特殊な語法である。下に引用した高市黒人詠のように連体形で結ぶのが通常で、本来は係助詞であろう。しかし赤人詠(万葉歌の改変)・西行詠のように係り結びをとらない例も見られ、これらの場合は終助詞とみとめられる(係助詞「や」参照)。

    〔いにしへの人に我あれささなみの古き都を見れば悲しき〕(万葉集、高市黒人
    ももしきの大宮人はいとまあれ桜かざしてけふもくらしつ(新古今集、山辺赤人
    津の国の難波の春は夢なれ葦の枯葉に風わたるなり(新古今集、西行
  6. 命令形に付いて命令文を強めるはたらきをする。

    声たえず鳴け鴬ひととせにふたたびとだに来べき春かは(古今集、藤原興風
    もろともに影を並ぶる人もあれ月のもりくる笹の庵に(山家集、西行
  7. 体言に付き、詠嘆を添えて文を終える。「〜であるよ」。

    逢ふと見てことぞともなく明けぬなりはかなの夢の忘れがたみ(新古今集、藤原家隆
    暮れはつる尾花がもとの思ひ草はかなの野辺の露のよすが(俊成卿女集、俊成卿女
【助詞との結合例】
【助動詞との結合例】
【他の機能】

係助詞間投助詞としてもはたらく。

 終助詞 指定

【主な機能】
【他の機能】

係助詞としてもはたらく。

 終助詞 強調

【主な機能】

    「や」と同じく元来は掛け声に由来する語であろうか。のち間投助詞としてはたらくようになり、文末にも用いられるようになった。意を強めるはたらきをする。

  1. 聞き手に対し、同意を求めたり念を押したりする気持をあらわす。のち、詠嘆的な用法にも使われる。現代口語で「〜だよ」などと言う時の「よ」、女言葉の「〜よ」に繋がっている。
    今は吾は死なむ我が背生けりとも我に依るべしと言ふと言はなくに(万葉集、坂上郎女
    やよや待て山ほととぎす言伝てむ我世の中に住み侘びぬと(古今集、三国町
    けふ暮れぬ花の散りしもかくぞありしふたたび春は物を思ふ(千載集、河内
  2. 命令・勧誘・願望・禁止の表現と結び付き、その意を強める。動詞「す」の命令形「せよ」の「よ」、「見る」の命令形「見よ」の「よ」なども、元来は同じものである。
    身はとめつ心はおくる山ざくら風のたよりに思ひおこせ(新古今集、安法法師
    よしさらば忘るとならばひたぶるに逢ひ見きとだに思ひ出づな(続後撰集、殷富門院大輔
    たのめおかんたださばかりを契りにて憂き世の中を夢になして(新古今集、藤原定家母
【他の機能】

間投助詞としても用いられた。

かし 終助詞 強調

【主な機能】

 終助詞 詠嘆

【主な機能】
【他の機能】

係助詞としてもはたらく。

 終助詞 詠嘆

【主な機能】
【助詞との結合例】
【他の機能】

係助詞としてもはたらく。

 終助詞 詠嘆

【主な機能】
【他の機能】

「を」は格助詞間投助詞接続助詞としてもはたらく。

ものを 終助詞 詠嘆

【主な機能】
【他の機能】

接続助詞としてもはたらく。

 終助詞

【主な機能】

ろ(ろかも) 終助詞 詠嘆

【主な機能】
【助詞との結合例】

 終助詞 希望・決意

【主な機能】

    活用語の未然形に接続し、決意や希望をあらわす。1の用法は助動詞「む」とほぼ同じ意味になる。平安時代以後の和歌ではほとんど見られなくなるが、現代口語で「早くしな」などと言う時の「な」と同じ語であろうか(現代口語では連用形接続である)。

  1. 話し手自身の行為について言う場合、「〜しよう」「〜したい」との自分の決意・希望をあらわす。
    すべもなく苦しくあれば出で走り去なと思へど子等にさやりぬ(万葉集、山上憶良
    秋の田の穂向きのよれる片寄りに君により言痛(こちた)かりとも(万葉集、但馬皇女
  2. 他者に対しては、「〜してほしい」「〜しなさいな」といった希望・勧誘・慫慂などの意をあらわす。
    熟田津に船乗りせむと月待てば潮もかなひぬ今は漕ぎ出で(万葉集、額田王
    道の中国つ御神は旅ゆきもし知らぬ君を恵みたまは(万葉集、坂上郎女
【補足】

連体助詞「な」禁止の終助詞「な」、軽い詠嘆の間投助詞「な」と同音であるが、別の語である。

 終助詞 希望

【主な機能】
  1. 活用語の未然形に接続し、 話しかける相手に対し「〜してほしい」という希望の意をあらわす。前項の助詞「な」の2とほぼ同じ意味になるが、「ね」は親愛・尊敬の助動詞「す」あるいは尊敬の助動詞「たまふ」と共に用いられることが多い点に特徴がある。平安時代以降はほとんど用例を見ないが、近世の万葉調歌人が復活させた。

    天飛ぶ鳥も使ひぞ(たづ)が音の聞こえむ時は我が名問は(古事記、木梨軽皇子
    我が主の御霊(みたま)賜ひて春さらば奈良の都に召上げ賜は(万葉集、山上憶良
    今朝いたく雨乞鳥(あまごひとり)の鳴けりしぞ早乙女まけて早苗とら(悠然院様御詠草、田安宗武
  2. 禁止をあらわす助詞「な」「そ」と共に「な〜そね」の形で用い、話しかける相手に対して「〜してくれるな」と願う意をあらわす。

    奥山の菅の葉しのぎ降る雪の()なば惜しけむ雨な降りそ(万葉集、大伴安麻呂
【補足】

    完了の助動詞「ぬ」の命令形「ね」と紛らわしいが、助詞の「ね」は未然形接続、助動詞の「ね」は連用形接続である。

    帰ら 「ね」は助詞。「帰りなさいな」の意。
    帰り 「ね」は助動詞。「帰ってしまえ」の意。

なむ(なも) 終助詞 希望

【主な機能】

    活用語の未然形に接続し、 話しかける相手に対し「〜してほしい」という希望の意をあらわす。前項の助詞「な」に助詞「も」が添わった「なも」が古形で、転じて「なむ」となった。「な」とだけ言うのに比べ、より詠嘆的なニュアンスが伴う。

    三輪山をしかも隠すか雲だにも心あらなも隠さふべしや(万葉集、額田王
    霍公鳥なほも鳴かなむ本つ人かけつつもとな我を音し泣くも(万葉集、元正天皇
    飽かなくにまだきも月の隠るるか山の端にげて入れずもあらなむ(古今集、在原業平

    複合助動詞「なむ」(完了の助動詞「ぬ」の未然形+推量の助動詞「む」)と紛らわしいが、助詞「なむ」は未然形接続、複合助動詞「なむ」は連用形接続である。

    あらなむ 「あってほしい」の意。「なむ」は希望の助詞。
    ありなむ 「きっとあるだろう」の意。「なむ」は複合助動詞。
【助動詞との結合例】

ばや 終助詞 希望

【主な機能】

こそ 終助詞 希望

【主な機能】
【他の機能】

終助詞「こそ」は係助詞「こそ」の文末用法とする説があるが、異説もある。

もが 終助詞 願望

【主な機能】
【助詞との結合例】

もがな 終助詞 願望

【主な機能】

しか(しがな) 終助詞 願望

【主な機能】
【助詞との結合例】

 終助詞 禁止

【主な機能】

 終助詞 禁止

【主な機能】

助詞一覧表

連体助詞 格助詞 副助詞 係助詞 終助詞
間投助詞 接続助詞


公開日:平成19年4月22日
最終更新日:平成23年05月10日