三方沙弥 みかたのさみ 生没年未詳 

出自・伝未詳。万葉集に持統朝から文武朝頃の歌を残している。山田史三方と同一人かと言う(万葉集代匠記)。山田史三方は沙門として新羅で学問を修め、のち還俗。持統朝から聖武朝に至るまで学者官人として活躍し、東宮侍講等を勤めた。

三方沙弥、園臣生羽(そののおみいくは)(むすめ)(めと)りて、幾時(いくだ)も経ねば、病に臥して作る歌三首

たけばぬれたかねば長き妹が髪このころ見ぬに掻き入れつらむか(万2-123)

【通釈】束ねようとすれば解けて垂れ下がり、束ねなければ長過ぎるおまえの髪は、この頃見ないうちに、もう誰かが結い上げてしまっただろうか。

【補記】「夫が幼な妻の髪上げをする風習や、女は女で再び逢うまでは髪型を改めない風習などがあったことを踏まえる歌」(萬葉集釋注)。

 

人皆は今は長しとたけと言へど君が見し髪乱れたりとも  娘子

【通釈】人はみな、もう長くなったとか、結い上げろとか言いますが、あなたとお逢いした時の髪は、どんなに乱れていようと、そのままにしています。

橘の蔭踏む路の八衢(やちまた)に物をぞ思ふ妹に逢はずして(万2-125)

【通釈】橘の木蔭を踏んで行く道が八方に分かれているように、どうしたらいいのかと思い乱れている。おまえに逢うことができずに。

【補記】上二句には「八衢」を起こす序。「八衢に」は、思いが交錯して悩んでいる状態を言う。

 

大殿の この(もとほ)りの 雪な踏みそね しばしばも 降らぬ雪ぞ 山のみに 降りし雪ぞ ゆめ寄るな 人や な踏みそね 雪は(万19-4227)

【通釈】大殿の、この周りに降り積もった雪は、踏むでないぞ。めったには降らない雪であるぞ。山にばかり降った雪であるぞ。ゆめゆめ近寄るな。人よ、踏むでないぞ、雪は。

【語釈】◇大殿(おほとの) 貴人の邸宅。ここでは藤原房前邸。

【補記】貴人の屋敷の周囲に降り積もった雪を喜び、踏み荒らすなと人に呼びかけた歌。不定型の長歌で、記紀歌謡を思わせるところがある。左注によれば「贈左大臣藤原北卿」、すなわち藤原房前の語を承けて詠んだ歌という。房前が口頭で述べた語を、意はそのままに、歌詞として整えたものであろう。

反歌

ありつつも()したまはむぞ大殿のこのもとほりの雪な踏みそね(万19-4228)

【通釈】あるがままの様子をご覧になられようとするのだぞ。大殿の、この周りの雪は、踏むでないぞ。

【補記】長歌が「大殿」の主人の口吻を借りて思いを述べたのに対し、反歌は家臣としての立場を明らかにして同一の趣意を歌い直している。左注によれば、以上二首は越中国掾久米広縄が大伴家持に伝読し、万葉集巻十九に記録された。


更新日:平成15年03月21日
最終更新日:平成21年03月21日