三国町 みくにのまち 生没年未詳

継体天皇の母系氏族(異説もある)三国氏出身の女性。本名は不明。『日本三代実録』貞観八年三月二日条によれば、仁明天皇の更衣で、天皇との間に子(貞登さだののぼる)をなしたが、密通の罪によりその子は出家させられて深寂を称したという。
但し『古今和歌集目録』は三国町を紀名虎の娘で仁明天皇の更衣とし、これによって三国町を紀種子とする説もある。種子は紀有常の妹で、常康親王の母(尊卑分脉)。惟喬親王の母静子(三条町)とも姉妹にあたる。
古今集に一首のみ。

題しらず

やよや待て山時鳥(やまほととぎす)ことつてむわれ世の中に住みわびぬとよ(古今152)

【通釈】ねえちょっと待ちなさい、山ほととぎす。ことづてしたいことがある。私はもう、この世がつらくて住んでいられないと。あなたのように私も山へ入ってしまいたいよ。

【語釈】◇山時鳥 ほととぎすは通常山に住むのでこうも呼ばれた。

【補記】「山に入てすむ人に、我も入なむずる也と、事付やらんといふ心なるべし」(顕注密勘)。世を捨てて山に入った知合いに言伝をしようと、山へ帰る時鳥を呼び止めている。伝えたいのは、自分も出家したいとの心である。

【他出】小町集、古今和歌六帖、奥義抄、袖中抄、六百番陳状、和歌色葉、定家八代抄、僻案抄、色葉和難集、歌林良材

【主な派生歌】
ことづてむ人はなけれど時鳥やよやしばしといはれぬるかな(俊恵)
やよや待てかたぶく月にことづてむ我も西にはいそぐ心あり(顕昭[玉葉])
わたのはらかへる波にもことづてむ都恋しみ我しほれぬと(伏見院)
うき世には我住みわびぬ郭公出でけむ山のおくををしへよ(正親町公蔭[新千載])
やよやまて人にもつげむ時鳥ひとりはきくも惜しき初音を(後崇光院)
時鳥かへる山べにことづてむ先づすむこころ待ちもわぶると(木下長嘯子)


更新日:平成15年03月21日
最終更新日:平成22年03月09日