活用表 動詞についての留意点 助動詞の種類と機能 助詞の種類と機能 仮名遣
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過去・完了 推量 打消 自発・可能・受身・尊敬
使役・尊敬 その他(指定・比況・希求)
未然形 |
連用形 |
終止形 | 連体形 |
已然形 |
命令形 | 接続 | |
ず | ― | ず (に) |
ず | ぬ | ね | ― | 未然形 |
咲か-ず 恋ひ-ず 燃え-ず 見-られ-ず 行か-しめ-ず 知ら-に せ-ね-ども
悲しからず(悲しく―あら―ず)
見るべからず(見る―べく―あら―ず)
咲かざらむ(咲か―ず―あら―む) 見ざりけり(見―ず―あり―けり)但し古今集の頃までは「ず」をそのまま「けり」や「き」に続ける用法が見られる。この語法はその後捨てられたが、万葉調歌人が復活させ、近代に入っても用いられた。
思はずき 思はずけり
夕されば小倉の山に鳴く鹿は今宵は鳴かず寝ねにけらしも(万葉集、舒明天皇)
鴨山の磐根し枕ける我をかも知らにと妹が待ちつつあるらむ(万葉集、柿本人麻呂)
人言を繁み言痛み生ける世に未だ渡らぬ朝川渡る(万葉集、但馬皇女)
秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる(古今集、藤原敏行)
古くは「な・に・○・ぬ・ね・○」とナ行に活用した語があり、これと活用変化のない「ず」が合体して、「○・ず・ず・ぬ・ね・○」と活用する助動詞としてはたらくようになった。
未然形 |
連用形 |
終止形 | 連体形 |
已然形 |
命令形 | |
ず | (ず) (な) |
ず (に) |
ず ○ |
○ ぬ |
○ ね |
○ ○ |
現代口語では助動詞「ない」に取って代わられるが、「ず」と「ぬ」は今もよく使われる。「知らず知らず」「知らぬ話」など。また、「知らん」などと遣う現代口語の打消の助動詞「ん」は文語助動詞「ず」の連体形「ぬ」からの転である。
心ゆも吾は思はずき山川も隔たらなくにかく恋ひむとは(万葉集、笠女郎)
もだ居りて賢しらするは酒飲みて酔泣するになほ及かずけり(万葉集、大伴旅人)
たまどりの八尋(やひろ)の垂尾(たりを)ひらきたてめぐる姿は見れどあかずけり(悠然院様御詠草、田安宗武)
我が命も常にあらぬか昔見し象の小川を行きて見むため(万葉集、大伴旅人)
青みづら依網の原に人も逢はぬかもいはばしる淡海県の物語せむ(万葉集、柿本人麻呂)
み熊野の浦の浜木綿百重なす心は思へどただに逢はぬかも(万葉集、柿本人麻呂)
眉のごと雲居に見ゆる阿波の山懸けて榜ぐ舟泊り知らずも(万葉集、船王)
(1)験なき物を思はずは一坏の濁れる酒を飲むべくあるらし(万葉集、大伴旅人)
(2)いつまでか野辺に心のあくがれむ花し散らずは千世も経ぬべし(古今集、素性法師)
なお、(1)の用法の場合、「ず」を連用形、「は」を係助詞と見る説もある。
(1)世の中を憂しとやさしと思へども飛び立ちかねつ鳥にしあらねば(万葉集、山上憶良)
(2)筑紫船いまだも来ねばあらかじめ荒ぶる君を見るが悲しさ(万葉集、賀茂女王)
なお、(1)の意味では「ずあれば」「ざれば」とも言う。
いなと言へど強ふる志斐のが強ひ語りこのころ聞かずて我恋ひにけり(万葉集、持統天皇)
もろともに苔の下には朽ちずして埋もれぬ名を見るぞかなしき(和泉式部集、和泉式部)
思ひ川絶えず流るる水の泡のうたかた人に逢はで消えめや(後撰集、伊勢)
安積山影さへ見ゆる山の井の浅き心を吾が思はなくに(万葉集、陸奥国前采女)
未然形 |
連用形 |
終止形 | 連体形 |
已然形 |
命令形 | 接続 | |
ざり | ざら | ざり | (ざり) | ざる | ざれ | ざれ | 未然形 |
咲かざる花 燃えざりけり 見ざれども
悲しからざる(悲しく―あら―ざる)
見るべからざる(見る―べく―あら―ざる)
逢ひみてののちの心にくらぶれば昔は物を思はざりけり(拾遺集、藤原敦忠)
天つ風ふけひの浦にゐるたづのなどか雲居に帰らざるべき(新古今集、藤原清正)
あらざらむこの世のほかの思ひ出に今ひとたびの逢ふこともがな(後拾遺集、和泉式部)
悪し良しを思ひわくこそ苦しけれただあらざればあられける身を(山家集、西行)
助動詞「ず」に動詞「あり」が付いたもの。現代口語でも「言わざるを得ない」などといった形で残っている。
玉の緒を沫緒に搓りて結べらば在りて後にも逢はざらめやも(万葉集、紀女郎)
恋しさは同じ心にあらずとも今宵の月を君見ざらめや(拾遺集、源信明)
今日そゑに暮れざらめやはと思へどもたへぬは人の心なりけり(後撰集、藤原敦忠)
書よみて智慧売る子とは生れざり蛇 のうすぎぬ価ある世よ(恋衣、山川登美子)
はたらけど/はたらけど猶 わが生活 楽にならざり/ぢつと手を見る(一握の砂、石川啄木)
未然形 |
連用形 |
終止形 | 連体形 |
已然形 |
命令形 | 接続 | |
じ | ― | ― | じ | じ | じ | ― | 未然形 |
咲かじ 恋ひじ 燃えじ 忘られじ 行かしめじ
悲しからじ(悲しく―あら―じ)
「そうなることはあるまい」という話し手の推量判断をあらわす。推量の助動詞「む」の否定にあたる。
我が行きは久にはあらじ夢のわだ瀬とは成らずて淵にありこそ(万葉集、大伴旅人)
夜をこめて鳥のそら音ははかるともよに逢坂の関はゆるさじ(後拾遺集、清少納言)
玉藻刈る沖へは榜がじしきたへの枕のほとり忘れかねつも(万葉集、藤原宇合)
おほかたは月をもめでじこれぞこのつもれば人の老いとなるもの(古今集、在原業平)
語源は不明。中世になると次第に口語では用いられなくなり、代って「まじ」が発達する。
未然形 |
連用形 |
終止形 | 連体形 |
已然形 |
命令形 | 接続 | |
まじ | ― | まじく | まじ | まじき | まじけれ | ― | 終止形(ラ変は連体形) |
咲くまじ 恋ふまじ 消ゆまじ あるまじ 忘らるまじ
悲しかるまじ(悲しく―ある―まじ)
まじかりけり(まじく―あり―けり)
この世には又もあふまじ梅の花ちりぢりならんことぞかなしき(詞花集、行尊)
何とかく置きどころなく歎くらんあり果つまじき露の命を(玉葉集、宜秋門院丹後)
奈良時代の「ましじ」が平安時代に「まじ」に変わった。主として散文に用いられた語である。室町時代に「まい」「まじい」が生じ、現代口語の「まい」に続いている。
未然形 |
連用形 |
終止形 | 連体形 |
已然形 |
命令形 | 接続 | |
ましじ | ― | ― | ましじ | ましじき | ― | ― | 終止形 |
咲くましじ 恋ふましじ 消ゆましじ 忘らゆましじ
悲しかるましじ(悲しく―ある―ましじ)
山越えて海渡るともおもしろき今城の中は忘らゆましじ(日本書紀、斉明天皇)
玉櫛笥みむろの山のさな葛さ寝ずはつひに有りかつましじ(万葉集、藤原鎌足)
仮想の助動詞「まし」に打消推量の助動詞「じ」が付いたもの。「まじ」の古形で、奈良時代以前に用いられた。
未然形 |
連用形 |
終止形 | 連体形 |
已然形 |
命令形 | 接続 | |
まじかり | まじから | まじかり | ― | まじかる | ― | ― | 終止形(ラ変は連体形) |
咲くまじからむ花 恋ふまじかりけり 消ゆまじかるべし あるまじかること
公開日:平成19年3月15日
最終更新日:平成21年11月19日