商売繁盛

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チェンナイ(旧マドラス)のエグモール駅前。中央の通りがホテルの集中するkennet lane

パート1

 はじめは下町に相当するジョージタウンに宿をとったのですが、かつて長期旅行者のたまり場だったマレーシアロッジが全面改装中というか取り壊した更地になっていて、外人旅行者は皆無。それはそれで悪くなかったのですが、チェンナイの別の顔も見たいということで、旅の終わりは、カルカッタで言えばサダル・ストリートに相当するkennet laneにしてみました。高級ホテルもなければ、極端な安宿もなく、チェンナイに着いたらここへ直行すれば安泰といったところ。
(インドセクションの扉にある夜景は通りの反対の端を抜けたあたりになります)

 中央にVasantaの文字が読めると思いますが、ここは定食がなかなか美味で、何度か通ってしまったバサンタ・バーバン食堂です。おまけに安くて、ボリュームはあるし、店内は清潔だし、サービスだけはちょっと遅いですけど……
 私、うまいと思ったらその場で率直に伝えるようにしているので、すぐに従業員に顔を覚えられてしまいました。うまくてもまずくても表情変えないで、黙って帰るというのはいやですね。もちろん、従業員の態度がなっていない時にも文句は言います。そのほうが精神衛生上よろしいですし、頑張っているところはきちんと評価してあげないとね。ちょっとしたことですが、行けばマネージャーが挨拶してくれるようになりますし、散歩していると休憩中の従業員が裏口から「今日も来るんだろ」と脅しを……じゃなかった、誘いをかけてきたりするので、チェンナイの生活も少し楽しくなります。

 ま、それはともかく、バサンタ・バーバンに入って、左手の階段を2階へ上がろうとするといきなり飛び込んでくるのが

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何じゃこりゃ!

 アジアを旅した方なら見覚えがあるかもしれません。どう見ても、中国の商売繁盛オジサンですわな。せめてもの幸いは「金玉満堂」と書かれたオブジェを差し上げていなかったことです。(笑)

 何というミスマッチでしょう。東南アジアならともかく、南インドのチェンナイなんですから。これがカルカッタなら少しは納得できます。あの町にはごくわずかながら華僑が暮らしていますからね。でも、ドラヴィダ民族のタミールナードゥのチェンナイでっせ。
 どこで手に入れたのか知りませんが、おそらく店主が物好きなのでしょう。ただ、何となく顔つきが気にはなりました。

パート2

 で、後日、ジョージタウンを散歩していた時のことです。タミールもモンスーンの季節に入り、梅雨のような冷たい雨が降っていました。それまで40度を超す猛暑にバテ気味だった私は喜んで駆け回り……とはいきません。石畳と泥が混在した道に牛糞のおまけ付き。水たまりを避けつつ、ベチャベチャの泥の層を避けつつ、ハネをあげないように気を遣って歩くのは3倍疲れます。

 さらに私の心中は若干複雑でした。前述のように最初にマドラス(現チェンナイ)を訪れた時に泊まったのはマレーシアロッジ。体調は崩していましたが、当時は有り余る体力があったので、かなり精力的に歩き回りました。その時の印象は「マドラスの顔が見えない」あるいは「へそのない町」もしくは「こんなはずじゃないんだけどなぁ」
……、ま、芳しいものではなかったのです。

 その理由がわかりました。当時はまともなガイドブックがなかったので勘だけを頼りに適当に歩いていたのですが、要するにその「勘」がことごとく外れていた!
[教訓]体調を崩している時の勘は頼りにならない。
 右に曲がっていたところを左に曲がれば秋葉原のような電気街。素通りしていたところの脇道をちょっと入っただけで文房具街。その先には玩具問屋街。ああ、何てジョージタウンは、そしてチェンナイはおもしろいんだ。何であの時は気がつかなかったんだ。嬉しさと悔しさと半々に加えて雨とベチャベチャの足元。

 町に吸い込まれるように、通りから通りへ、路地から路地へと歩き回りました。今回は勘を頼りにできます。それでもさすがの3倍疲労で足が棒になってきた頃
……私の目は1軒の店の中に引きつけられました。

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ぬわんじゃこりゃ!


 思わずふらふらと店内へ。そして、思わず「おっちゃん、何やこれ。えろー、ええやんか」と口走っていました。思ったことをすぐに言葉にするのは食堂と同じです。ちなみに、実際に発音を聞いていただければわかるでしょうが、Rを強く発音するインド訛りの英語を日本語にするとニュアンスは関西弁みたいになります。

 で、おっちゃんは大喜び。そりゃそうでしょう、カウンターの真ん中に置いているのですから、おっちゃんお気に入りの逸品のはずです。挨拶もしないでカメラをもってズカズカと入ってきた旅行者に対して「ええやろ、ええやろ」てな感じでカシャッ!

 ところが、これがとんでもない逸品だったのです。人形の顔をよく見ると、どことなくおっちゃんに似て
……ということじゃなくて、額のマークです。これはヒンドゥーの坊さんが額につけているのと同じもの。つまり、メイド・イン・インディア!
(余談ながら、チェンナイで一番の書店といわれるHigginbothams(確かに上質の本がどっさり)へ行ってみたら、コンピュータを使って支払いチェックをしている大番頭さんの額に同じマーク。それも額全部に灰を塗った上に朱色のマークという本格派。これも今回のミスマッチ大賞に入るかも)
 つまり、バサンタ・バーバンの木像も中国からの輸入品ではないのかも。いや、どう考えてもインド製のはず。

 人工衛星や原爆から、インダス時代から続く牛車や水瓶。ないものはない、何でもありますチープな百貨店というのが私がインドにつけたキャッチフレーズですけど、まさか中華テイストの商売繁盛まであるとは。しかも、地図を見てください。何でまた、南の端のチェンナイなの。中途をとばして、ど〜してタミールなの。

 またまたインドに対する謎がひとつ増えました。