3 奥尻に行く
奥尻には土曜から月曜の3日間の予定で、父と行くことにした。父は若いころは渓流釣りをよくしていた。最近はゴルフ一辺倒。今回は、無理してつきあってもらった。
奥尻への交通手段は2つ。1つはエアー北海道の小型飛行機。もう1つはフェリー。フェリーは江差と瀬棚から出る。瀬棚航路は夏季のみで、普段は江差航路しかない。今回はせっかくなので、行きを江差航路のフェリー、帰りを飛行機にして、両方乗ることにした。
島内の交通手段はレンタカー。これが怪しい。いわゆるレンタカー屋が島にはないのだ。修理工場兼自転車屋兼レンタカー屋といった風情の店が港に1件あるだけだ。借りた車はカローラもどき。カローラのはずだが、ステアリングにホンダのロゴが入っていた。島ならではののどかさといえばそれまで。
宿はI。島の北端、稲穂地区にある。漁師でもあるMさんが営む民宿。いい部屋よりもウマイ飯だ!という父の希望でここにした。父のこの言葉が僕らの生死を分けた。それはあとに書く。
渓流はうわさ通りよく釣れた。また、島で獲れるイカとウニは絶品だった。なかでも朝から獲れたてのイカをどんぶりで食べるのには驚いた。民宿は盛況で、週末には僕らの他にも家族連れなど数組が泊まっていた。
僕らは、西北にある一軒家の秘湯「幌内温泉」に行ったり、青苗で地の魚の寿司を食べたりして、釣り以外にも島旅を楽しんだ。そして、明日には東京に帰るという日曜の晩を迎えた。
日曜の夜ともなると家族連れもなく、僕らの他には川崎に住む男性しか客はいなかった。僕らは、民宿の主人、Mさんといろいろ話し込んだ。Mさんは孫がいるほどの年齢だが、実際より20も若く見える。長身に浅黒い肌、割れた腹筋、黒い髪。
9時過ぎには話を切り上げ、部屋に戻った。しかし、今日に限って寝付けない。父はゆかたに着替えて寝入ったが、僕は普段着のままに布団に寝ころびマンガを見ていた。
1 プロローグ
2 奥尻との出会い 3 奥尻に行く
4 地震だ! 5 父がいない 6 父の生還
7 広がる被害 8 夜が明けた 9 奥尻港へ
10 上陸 11 エピローグ 12 教訓 EXIT!