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読み切り小説
「願わくは」
チェリー&ローランド
(作者:むーむー)

●目次

〇チェリー・素直なエルフ
〇難民キャンプ
〇ひと時の休息
〇気づかぬ想い
〇ライトネス邸襲撃
〇静養
〇ローランド・神の奇跡
〇抗う勇気
〇懺悔
〇夢
>〇千年の想い

〇千年の想い

長い年月が過ぎていた。

ブラスは大きく発展した。
チェリーは何10世代にも渡り、ブラスの代表の屋敷のメイドをし続けた。

ライトネスやシャーロットが築き上げた仕組みは、その後も長い間、機能した。
経済と仕事を中心として結束するシステムは、他の封建社会の仕組みと違い、
経済の合理性によって成り立つため、共同体としての存在維持の強固な基盤となったのだ。
いつでも状況に応じて形を変えることができ、既存の政治体制に捕らわれない柔軟性が有ったのだ。

だが、全てが幸せな時期とも言えなかった。

そもそもの原因は、ロードス全体の発展が古すぎ、遅すぎたのだ。
周りの国々は、いつまでたっても、古い体制にしがみつき、国盗りや、内部分裂や、
権力争いなどをひたすらに続けていたのだ。
覇権を持つことを夢見る戦火の歴史ばかりだった。
ロードス全土を争いに巻き込んで戦いをしていた時期もある。
当然のことながら、ブラスも無事では済まなかった。
その都度戦火に巻き込まれ、体制を危うくされた。

初期の頃は伝説級の英雄ライトネスやヤトリシノ、トゥ・ナ、マーコット、ルーシア、
アンスリュームなどがいたおかげで、周りを圧倒する戦力だったが、長い年月を経るうちに、
英雄は失われ、結束は乱れる時期もあった。焼け野原にされたこともある。
その都度、長寿種族であるチェリーやアンスリューム、タンジェリン、
マーコットなどのエルフの血を持つものが、辛抱強くブラスを復活させていった。

マーコットやタンジェリンが亡きあとも、チェリーとアンスリュームはブラスの発展に寄与し続けた。
チェリーとアンスリュームは最初の頃は、さほど仲が良い訳では無かった。
仲間というよりは知り合い程度だったのだ。
だが、長い年月をかけて話していくうちに、親友といえる存在になっていった。
チェリーは相変わらず能力を持たないエルフではあったが、たまにアンスリュームの森に遊びに行っては、
長い時間、語らいの時をもったりして親交を深めていった。

チェリーはローランドの言いつけをずっと守り続けた。
危なくなったらすぐに逃げた。自分の命を最優先にした。
生き延びさえすれば、後で何かやりようがあるのだ。
逃げるうちにこれが実に重要なことなのだと分かったのだ。
逃げ切れなかった時はなんとか隙をついたり、頑張って抗ってみた。
恥も外聞もなく大声で助けを呼んで逃げ回り、追手が追い辛くなるようにしたことなど数え切れない。
どうにもならなかったら命乞いも躊躇しなかった。
痛い目にあったことは多少あったが、何故か、清い体は守ることが出来た。
納得いかないなどということは無かった。無いに決まっている。
捧げる相手は決めていたのだ。それを奪われるくらいなら死ぬ気だった。

なんだかんだで、だいぶ長いことを生きた。
生涯の親友ともいえるアンスリュームも、少し前に円環へと戻っていった。安らかな死に顔だった。
彼女が作り上げたブラスの森は何度焼かれても復活した。生命力の強力な森だった。
彼女の強力な精霊力があれば、ブラスの世界樹の森はさらに大きく、深くなるだろう。
彼女は一本の木となり、林となり、また森となって、多くの命を育むことになるだろう。
チェリーにはそれが羨ましかった。
チェリーは力を持たないエルフだ。
森で死ぬならば円環には組み込まれるとは思う。だが木になれるかどうかすら怪しかった。
せめて一輪の花か、雑草くらいにはなりたいな、と思っていたくらいだった。
力を多く持たない者は、円環においても影響力が少ないのだ。
そこは、諦めが付いていた。

そろそろ、死期も近いだろう。もう1,000年以上、生きているのだ。
ブラスももうちょっとすればミレニアムといわれる都市になろう。
そのくらいの長い期間、何10世代に渡る歴史の生き証人にチェリーはなっていたのだ。
森に住まず、都市に住むエルフとしては異例の存在と言える。
最近は体を動かすのが億劫になっていた。
全く動けなくなる前にやるべきことをやらなくてはならないと思っていた。
だいぶ前に仕事は免除してもらっていた。
元気に働けるほど、体が動かないのだ。働くなど無理だった。
今までに仕えた分の財産は貯まっていたので、生活には何も苦労は無かった。
元々慎ましい生活をしていたのだ。むしろ使い道が無いくらいだった。
自分が死んだら、救貧所や施療院や託児施設やボランティア関連の施設に寄付をするよう手配を済ませていた。
他に財産など持っていなかった。

後は、時期を見極めるだけだった。

―――

ある日、一人の老婆が、おぼつかない足取りで、セントローランド像に向かっていた。
手には老婆が持つにはふさわしくない、丸型の盾を持っていた。
なんとかそれを持っている、という感じだった。

時間は夜になっていた。満月が照らす明るい夜だった。
像の周りには老婆以外、誰もいなかった。

老婆はやっとの思いで、セントローランド像の前に辿り着くと、その盾を像の足元の台座の下に捧げた。
老婆は背が低かったし、その盾を台座の上に持ち上げるほどの力も残っていなかったのだ。
これをここに持ってくるまでに、相当な体力を使ってしまった。もう、歩くことも出来まい。

「この盾は、お返しします。あなたが持つのが、最もふさわしいと思うから……」

老婆は像を見上げる。純白だった像は、長い年月によって風化し、茶色く変色していた。
元々左腕の無い像ではあったが、それが意図的なのか、崩れてしまったのかが分からないくらい、
像全体がひび割れたり、欠けたりしていた。
彫りの深かった顔も、のっぺりした物になってしまっている。良い男が台無しだと老婆は思った。

老婆はエルフだった。1,000年の時を生き、もうじき命の灯火が尽き果てるところだったのだ。
今日、自分はここで死ぬ。恐らく間違いないはずだ。ようやく、この時が来たのだ。
老婆は静かに歓喜していた。長い命だった……。ずっとこの時を待ち望んでいたのだ。

エルフは円環に組み込まれることを望む種族だ。普通は森を死に場所に選ぶ。
だが、この老婆は、ここを死に場所に選ぶことにした。
最愛の者が天に召されたというこの場所で、どうしても、死にたかったのだ。
明日になれば、ここに死体があることを発見されるだろう。迷惑な奴だと思われるだろう。
だが、それでも構わなかった。
今まで生きてきた中で、我が儘など言わなかった。
一度くらいは……、せめて死ぬ時くらいは……、我が儘を赦してもらおうと思ったのだ。

像の台座を背もたれにして、捧げるために置いた盾の横に、老婆は座り込んだ。

心は穏やかだった。今日は、死ぬのにもってこいの日だな、と思えた。
今まで生きてきた中で、関わった者たちを思い出す。
その一人一人に、感謝の気持ちを、心の中で述べた。
全員分言えるだろうか…。それまで私の命はもつだろうか。
それが心配だった。

体に、眠気のようなものが出てきた。もう時間が無さそうだった。

最期に、どうしても、これだけは、しなくてはならない。
このための体力だけは残しておいたのだ。
死力を、まさに、最期の命の灯火を使って、言葉を振り絞る。

「ローランド!!! 願わくは……、願わくは、お側に……!」

その言葉を最期に、老婆は死んでいった。

ほどなくして、満月の輝く空に、どこからともなく、暗雲が立ち込めた。
そこだけに雲が出ていた。
そこに稲光が走る。
地上に落ちることは無い、空の上だけで微かに光る稲光だった。
弱々しく儚げな光。
稲光はしばらくすると無くなり、暗雲も消えていった。

しばらくすると、空から、蛍のような、白い淡い光が、ふわふわと、1つ舞い降りてきた。
ゆっくりとセントローランド像を目指して降りてくる。

光は何かを探しているようだった。
像の近くまで舞い降りてきて、ふわふわと漂ったあと、
そこに捧げられていた盾と老婆の遺体の近くまで寄ってくる。

するとどうだろう。
老婆の遺体だったはずの物が、光り輝き始めたのだ。
それは、光の粒子のようになり、つむじ風に舞う花びらのように美しく色付き渦を巻く。
しばらくそこで渦を巻いていたかと思うと、その光はセントローランド像全体を包み込むかのように纏わり付き、
やがて輝きを失い、消えていった。

渦巻いていた粒子が消えた後、ピンク色の光の粒子がぽつんと1つ、ふわふわと浮いていた。
その粒子は先ほど空から降ってきた白い粒子にゆっくりと寄り添うかのように近づいていく。
2つの光は、輪舞を踊るかのようにくるくると回り始める。

ようやく会えたかのように。
待ち望んでいたかのように。
恋焦がれ、待ち焦がれ、想いを遮るものが無くなったかのように。

2つの光はしばらくそこで踊り続けた。

天上には満月でもなく、暗雲でもなく、七色に輝くオーロラが広がる。
神の地へと開かれた門であるかのようなオーロラから、天上への階段が下りてくる。
2つの光は、オーロラへと続く階段を駆けのぼる。

千年の時を経て、約束された幸せの地へ、2つの光は、導かれていった。

セントローランド像の周りは静けさに包まれた。
黄色くなり、ひび割れ、朽ちていたはずの像は白く輝き、千年前の姿を取り戻していた。
その足元には、白く輝く丸い盾が置かれていた。
そして傍らには、チェリーの花が一朶、小さく可憐に咲き誇っていた。

――願わくは 神のもとにて 咲き行かん 千年の果て 桜桃の花

もうじき、ブラスには、千年目の春が訪れようとしていた。

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●本コンテンツについて

・本コンテンツは同好者の間で楽しむために作られた非公式リプレイ内のショートストーリーです。
・個人の趣味で行っておりますので、のんびり製作しております。気長にお待ちいただきながらお楽しみください。

・原作の設定とは無関係の設定が出て来たりしております。あくまでこちらのコンテンツは別次元のお話と思ってください。
・本コンテンツの制作にあたり、原作者様、出版社様とは一切関係がございません。
・TRPGを行うにあたり、皆が一様に分かる世界観、共通認識を生んでくださった原作者様と、
 楽しいゲームシステムを販売してくださった関係者の方々に、深く感謝申し上げます。

●本コンテンツの著作権等について

・本コンテンツのリプレイ・ショートストーリーの著作権はむーむー/むーどす島戦記TRPG会にあります。
・本コンテンツのキャラクターイラスト、一部のモンスターイラスト、サイトイメージイラスト等の著作権は、
 むーむー/マーコットPさん/アールグレイさんにあります。
・その他、原作、世界観、製作用素材については以下の権利者のものとなります。

●使用素材について

・本コンテンツは以下の製作者、原作者、製作素材等の著作物を使用して製作されています。

【プレイヤー】

・トゥナ・P
・マーコットP
・ヤトリシノP
・むーむー(GM)

【挿絵・イラスト】

・マーコットP
・むーむー

【キャラクター(エモーション・表情差分)】

・マーコットP
・むーむー

【使用ルール・世界観】

・ロードス島戦記
 (C)KADOKAWA CORPORATION
 (C)水野良・グループSNE
・ロードス島戦記コンパニオン①~③
 原案:安田均、水野良、著者:高山浩とグループSNE
 出版社:角川書店

【Web製作ツール】

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【シナリオ・脚本】
【リプレイ製作】

・むーむー

【ショートストーリー・小説製作】

・トゥナ・P
・マーコットP
・ヤトリシノP
・むーむー
 (むーどす島戦記TRPG会)

【製作】

・むーむー/むーどす島戦記TRPG会

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