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読み切り小説
「願わくは」
チェリー&ローランド
(作者:むーむー)
●目次
〇チェリー・素直なエルフ
〇難民キャンプ
〇ひと時の休息
〇気づかぬ想
〇ライトネス邸襲撃
〇静養
〇ローランド・神の奇跡
〇抗う勇気
〇懺悔
〇夢
〇千年の想い
〇気づかぬ想い
それから数日間、チェリーは言いつけ通りに、きちんと毎日3、4時間ほど寝るようにしてみた。
元々、気が向いたら寝る程度だったのだ。きちんと毎日寝る、などということはしていなかった。
それでも体が辛いなどということは一切無かったのだ。
やってみると、起きた後、爽快な気分になり、仕事が捗るということが分かってきた。
疲れも確かに少ない。
なるほど…、ローランド様の言うことは正しかったんだなと、チェリーは考えを改めた。
エルフは寝ないでも良いだけであって、寝た方がより良いのが分かったのだ。
言われた通り素直に寝て良かったと思った。
それからというもの、チェリーはちょくちょくとローランドと会話をするようになっていった。
ローランドは堅苦しいというか、自分の考えをぐいぐいと押し付けてくるところはあったものの、
チェリーとしてはそういう人を相手にする方が楽だと思うタイプだったので、むしろ好ましく思っていた。
素直に言うことを聞く娘なのだ。ぐいぐいと押されると、ついつい聞き入れたくなってしまうのだ。
難民キャンプ地で見かけると、お互い、必ず声を掛け合うようになっていた。
チェリーは炊き出し用の食事の鍋の用意をあらかた終え、ちょっと休憩しようかと思っていた。
あとは、ここにいる住民たちでやれるはずだ。
ローランドを見かけたので、ついでに一緒に食事でもどうかと誘ってみる。
最近では、ローランドのことは「ローランドさん」と呼ぶようになっていた。
だいぶ仲良くなったのだ。
「ローランドさん、お食事はお済みですか?」
「…いや、今来たところです故、まだですね」
「一緒に如何ですか?」
「おう、それはありがたい、ではご相伴にあずかりまして…」
「ふふ…w お召し上がりください…w」
チェリーとローランドは食事を摂るため仲良く座る。たわいもない話をする。
お互い口数は多い方では無かったが、それでも会話が弾む。
ローランドは体もそこそこ大きくそれなりの量を食べる男だったので、
チェリーは鍋から食事を盛るなどして甲斐甲斐しく世話をした。
自分が作ったものを美味しそうに食べてもらい「お代わり」と言われるのが嬉しかった。
初めの頃は、チェリーも一緒に食べ始めていたのだが、
それだと量をたくさん食べないチェリーはあっという間に食べ終わってしまう。
食べ終わってしまうと、なんとなく居づらくなってしまい、会話が少ししか出来なかった。
そのうちチェリーはローランドがある程度の量食べるまでは、軽くお茶などを飲みながら話に付き合い、
頃合いを見てから、自分の食事を器に盛る様になっていた。
ローランドと、もっと話したかったのだ。
ローランドは、初めのうちは、この娘はいつになったら食べ始めるのだろうと
不思議に思っていたが、そのうち、自分と話す時間を作ってくれているのだ
ということに思い至り、嬉しくなってしまっていた。
ローランドも、もっと話したかったのだ。
ローランドは食事を盛られたばかりのチェリーの器をまじまじと見る。
「チェリー殿…?」
「…なんですか?」
「その、器に盛られた、数口で終わってしまいそうな量は、何なのですか?」
「…え? いつもこんなものでしたよね…?」
「いやいやいや。それは少な過ぎるでしょう…」
「…え? でも…これで足りてるし…」
「でもも、何も、無いですね。もっとお食べなさい」
「…はい…w」
ローランドがこう言い始めると、チェリーは結構言うなりに聞いてしまうようになっていた。
元々素直に言うことを聞く娘ではあった。
輪をかけて、嬉しくて言うことを聞くような感じになっていた。
思えば、この時くらいから、既にお互いに男女として好ましく想っていたのかもしれない。
チェリーはお腹いっぱいでしょうがなかったが、頑張ってもぐもぐと食べていた。
ローランドは小動物が一生懸命物を食べてるかのようなその仕草が可愛くてじっと見つめてしまっていた。
「あの…」
「はい?」
「そんなに見られると、ちょっと恥ずかしいです…」
「し、失礼しました…」
ローランドはあらぬ方向を見る。
2人とも微妙な時間を過ごす。
何を話したら良いか、分からなくなってしまったチェリーは、つい、変なことを話し始めていた。
「私は、食べる量が少ないから、お金がかからなくていい、なんて言われてたんですよ…?w」
「…え? 一体誰に…」
「奴隷商人にです…。前にちょっとだけお話したかもしれないですけど…。
私は奴隷だったのです。カノンのカドノアという町で、売られていました」
「…そう言えば、そのようなお話でしたね…。許されぬことですね…非道な…」
「そこでは、寝泊まりの時は牢屋に入れられていましたが、日中は外にもお使いに出たりしていて…。
割と普通の生活をしていたんです…」
チェリーはその時の生活のことをかいつまんで話していた。
ローランドは辛そうな顔をしていた。
「…その間に、酷い目には合わなかったのですか…?」
「そうですね…幸いにも。
叩かれたり、酷い目に合ったり、乱暴をされたりなどは、全く有りませんでした。
元々臆病だったので、怒られる前に大抵何でも言うことを聞くような、そんな子供時代だったんです」
「…」
「なので、相手が怒りそうだと思うと、すぐに言うことを聞いてしまっていました…。
相手の言うことをちゃんと聞いてれば、叩かれることもなくて。
言うほど酷いことをされた訳でも無いんです。
それは良くないのでしょうけども、そのおかげで、酷い目には合わずに済んできたのです…」
「…」
「たまたま、だということは、分かっているんです…。
でも、素直に言うことを聞いてたら、酷い目に合わないなら、それで良いかなぁ…と…」
諦めたようなチェリーの顔をみながら、ローランドはゆっくりと諭すように語り掛ける。
「…チェリー殿…差し出がましいことを言うようですが…それはダメですよ?」
「…」
「その…お気を悪くされることは承知で、敢えて言いますが…。
全てが全て、それが悪いとは言いません。
ただ一つだけ、申し上げたいことが有ります。
…生きるか死ぬかの所では、素直に言うことを聞いては絶対になりません…」
「生きるか、死ぬか…?」
「…はい。生殺与奪の権利を、他人に明け渡してはならぬのです。
痛いのが嫌で言うことを聞くことは有るやもしれません。
酷い目に合いたくなくて、言うことも聞いてしまうことも有るやもしれない。
ですが、それを聞きすぎて、最後の最後、殺されてしまうところまで認めてはならぬのです…」
「最後の、最後…」
「その境目は分かるものではありません…それは突然来るものなのです…。
言うことを聞いていれば大丈夫などどいうことは、絶対に無いのです…」
チェリーは怖くなってきた。
何かとてつもない間違いを犯したまま、生きているのではないかと、漠然と思ってしまった。
でも、どうしたら良いのか、分からない…。
「突然、それが、来たら…どうしたら…」
「殺されそうと思うなら、逃げる…。
逃げられぬなら、せめて抗う…。
抗って、隙が出来たらすぐに逃げる。
抵抗せねば、ただ素直に殺されてしまいます…」
「…でも」
「でも、と言いたくもなりましょう…。
戦いに身を置かぬ者に、酷なことを言っているのは分かっています…。
ですが、心の片隅に、置いておいて欲しいのです…。
あなたには…、あなたにだけは、死を簡単に受け入れて欲しくない…」
チェリーは黙ってしまう。
ローランドも分かっている。これはそんなに簡単なことでは無い。
ただでさえ、自分のことを臆病と言っているチェリーなのだ。
そこで勇気を奮い立たせて頑張れなどと言っても、辛い思いをさせるのは明らかだった。
「チェリー殿…。難しいことを言ったのなら謝ります。
戦うのが務めでないあなたが、無理してそれを考えなくても良いのかもしれません。
それを守るのが、我々、戦う者の務めです。
…なので、お願いです。
もし、危ういと思えば、私の名を叫んでください…。必ずや現れてお救いします。
不埒な者共など、木っ端微塵に吹き飛ばして見せます。
私がもし居ないと分かっても大きな声で叫んでください。
誰かが気付いて助けてくれるやもしれない。
それだけで良い…。
もしそんなことがあった日には…心に留めておいて欲しいのです…」
チェリーはローランドを見つめる。
臆病な自分のために、この人は、真っ直ぐに、真剣に言ってくれている。
それが分かる。
何と答えたら良いのか、言いたいことを上手く表現出来ない。
胸が締め付けられるような苦しい感じがした。生まれて初めての感覚だった。
何かを言わなくてはならないのに、何を言って良いのか分からなかった。
本当に言いたいこととは違っているのだが上手く言えなかったので、とりあえずこう答えるしか無かった…。
「はい…頑張ります…」
この時、チェリーは、ローランドを愛してしまったのだ。
だが、まだ彼女は若すぎた。
この気持ちを何と言えば良いのか、自分の気持ちが自分で分からなかったのだ。
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