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読み切り小説
「願わくは」
チェリー&ローランド
(作者:むーむー)
●目次
〇チェリー・素直なエルフ
〇難民キャンプ
〇ひと時の休息
〇気づかぬ想い
〇ライトネス邸襲撃
〇静養
〇ローランド・神の奇跡
〇抗う勇気
〇懺悔
〇夢
〇千年の想い
明け方から始まった巨悪との戦いは熾烈を極めていた。
巨悪のみならず、敵勢力の地上部隊との戦いも圧倒的に不利な状況だった。
聖女ライトネスから全軍に戦闘指示が出ている。みな、死力を尽くして戦ってはいた。
が、数の上でも不利。装備に於いても不利。魔法兵力に至っては完全に劣勢だった。
ローランドは片腕を失ったまま戦闘に参加している。
傷は癒えており、この後1週間もすれば手が生えてくるという。だが、今は片腕のままだった。
片腕になったことで、盾でタイミングよく防御して相手の体制を崩しメイスで頭蓋を叩き割るという、
ローランドの得意の戦法が全く使えない状況になってしまった。
さらに言えば、腕が無いことによって、体のバランスのとり方が上手くいかず、
攻撃を当てる確率が格段に下がっている。
正直、足手まといになっていた。防御が出来ず、かなり深手も負っていた。
戦場の状況を把握するため、一旦戦闘の激化している場所から離脱する。
回復魔法を使って回復をする。それと同時に戦場を見回す。
カノン自由軍とオークの混成軍は、数ではマーモ軍と魔法結社残党兵力と互角のようだったが、
魔法に対する備えがなく、かなり苦戦を強いられているようだった。
指揮を執っているザップという名の将の能力が高いから持ち堪えているだけに見えた。
ハーピー、ドワーフ、ジャイアント達は、魔法生物部隊に善戦はしているものの、数では不利に見えた。
何やら人間の親子が混じって戦っているように見えたが、大丈夫なのかと心配になった。
神官戦士たちが相手にしているアイアンゴーレムとヴァンパイアに至っては、攻撃がほとんど通らなかった。
今は補助魔法が得意なものが魔法付与を与えている。
魔法の武器として強化をしなければダメージが通らないのだ。
だが、その強化すら、全員に行き渡っていない。
その上、強化をしていても決定的なダメージを与えられていない。
魔法強化には時間制限がある。無尽蔵に打てるわけでもない。
いずれ、ジリ貧になることは確実だった。
マーモの移住部隊である暗黒騎士、暗黒魔術師、暗黒神官たちは、悪魔と氷の精霊王を相手に戦っている。
この部隊が一番まっとうに戦っていた。
だが敵はそれ以上に強烈な攻撃を繰り出していた。予断を許さない状況だった。
青い鎧を着た男が率いる冒険者たちと数人のマーモの人間の混成パーティは、エフリートとトロールに苦戦していた。
特にエフリートは魔法武器攻撃か魔法でしか攻撃が効かない。
武装がまっとうでなければ傷すら付けられない。
さらにトロールは自己回復をしてしまう。ダメージを与えても与えても、すぐに再生してしまう。
火力が圧倒的に足りていないようだった。
一番酷いのは巨悪本体を相手にしている聖女ライトネスのパーティだった。
あの実力をもってしても、まるで攻撃が効いていないようだった。
盗賊のトゥ・ナが変則的な攻撃や素早い攻撃を繰り返しているが、
巨悪の固い装甲では通らなさそうだった。
炎の剣で強烈な攻撃を繰り出す戦士ヤトリシノの攻撃ですら、致命傷を与えていない。
巨悪の攻撃を受けて、むしろ相当な傷を受けている。
癒し手であるルーシアの強力な回復がすかさず飛んでいるが、それもいつまで続くか分からない。
魔術師マーコット、ダークエルフアンスリュームの想像を絶する強力な魔法攻撃にも巨悪はまるで怯まない。
大きな地震、巨大な竜巻、空からの隕石が雨あられのように降る、この世のものとは思えないほどの強力な攻撃。
それをもってすら、致命傷を与えないのだ。
聖女ライトネスは光り輝きながら、無類のダメージを誇るランスチャージを巨悪に対して繰り返している。
戦乙女のように見えた。だが、それすらも致命傷を与えていない。
絶望的だった。
その絶望的なさなか、ローランドはあることに気付く。
空から何か、光が見えるのだ。
雲間から太陽が差しているかと最初は思った。
だがおかしい。今は早朝だ。上から光が差す訳が無いのだ。
一条の光が、地面を照らそうとしている。何か、探しているかのような光だった。
その光の先を見ると、聖女ライトネスが光り輝いていた。その光を受けて白い鎧が光っていたのだ。
これが、聖女の力か、と思った。
さすが聖女。この人になら従っていける、と。
だが、何かがおかしい。もやもやとしたものを感じた。
再度、空を見上げる。
何か、大きな力が、手を伸ばして、そこに行こうとしているかのような、そんな錯覚。
神が、御業を、起こそうとしている…。そんな予感。
本来ならば、それを望んでも叶えられない、圧倒的な幸福、選ばれし者の特権、神の力の直接的な具現化。
――神が、降臨なさろうとしている!
ローランドは直感的に理解した。
今、神は、自らの力を知らしめるべく、聖女の元に降りようとしている!
そう思い、歓喜する。
聖女はやはり本物の聖女!
こんな御業を目の前で見れるのだ!
その目で再度ライトネスを仰ぎ見る。
だが、聖女ライトネスはひたすらにランスによる攻撃を止めていない。
渾身の力を籠め、信念の一撃を、何度も何度も、繰り返している。
何かを祈っている感じがまるでしない。
必死に巨悪に抗い、戦う姿勢を一切崩していないのだ。
――聖女ライトネスは、神の降臨を望んでいない!?
このままではいけない。神が降りねば、この戦は勝てる見込みが無い!
神が降臨すれば、この争いは終わるやもしれない。
だが、望んでいない者に神は、降りはしない!
このままでは、神は降りない!
ローランドは、その光景を、もどかしく見ていた。
あの巨悪を止めることが出来ねば、何が起こる……。
あの巨体は全てを踏み潰し、戦場を突き進んで行くだろう。
その先を見やる。
ラーダ寺院が遠くに見えた。
ぞっとした。
そこには、その場所には……最愛の者が居るのだ。
いまだ、想いを伝えることは叶っていなかった。
戦うことしか能のない、こんな自分にも、親し気に声をかけてくれる、あの優しい娘。
小柄で、可愛く、頑張り過ぎる、素直なエルフ。
守ってやることも出来ず、多くの傷を付けさせてしまった。
あの者はまだ、癒えていない。
今攻められれば、逃げることも出来ない。
……決して、決して、殺させはしない!
……この命に代えてでも、決して、決して、傷付けさせはしない!
――神よ! 聖女に降りぬなら! 聖女が望まぬなら!! 力の無い者でも構わぬなら!!!
どうか、どうか、私に!!!!
「神よ!我に守るべきものを守るための力を与えたまえ!!!」
ローランドは神に願った。
そして、神はその声を聞き、その願いに応える。
ローランドは神の声を聞く。
そして、稲光がしたかと思うと、ローランドがその光に包み込まれる。
ローランドの祈りが天に届き、今まさに、ファリスが一瞬だけ、この地に降臨したのだ。
圧倒的な光の奔流。戦場に輝く光の粒子。神聖で強烈な力の誇示。
神ファリスが御業を使おうとする。
だが、その御業の途中で、神の体を構築する粒子が崩壊する。
ローランドの体が神聖なるファリスの力にまるで耐えられなかったのだ。
崩壊する粒子とともに、ローランドの体も弾け飛ぶ。その体も、光の粒子となる。
辺りに光の粒子が爆発的な勢いで広がっていく。
ローランドは、自分の力が足りなかったことを悟る。
最期に力を与えようとしてくださったファリスに感謝の祈りを捧げる。
「神よ!あなたのおそばに、とこしえに……!」
そして、最愛の者への想いを、口にしようとした。
――チェリー!!! 願わくは! 願わくは、健やかに……!
ローランドの最期の想いは、言葉にはならなかった。
光の粒子の奔流に音はかき消され、誰にも届かない。
神ファリスの行おうとしていた御業はこの世に顕現出来なかった。
だが、神は諦めなかった。
力無くも己が命を賭して祈った者への慈しみでもって、何かを叶えてやりたかったのだ。
まだこの世界へ関与できる間に、光の粒子をかき集める。
その光の粒子を巨悪に振り下ろす。分かちがたく結合した凶悪な魔物を、本来の姿に切り分けた。
あと少ししか、光の力を使える余地が無い。大きな業は使えまい……。
ならば、彼の乙女に従う者全てに、抗う力の息吹を与えよう……。
「邪悪なるものにあらがう力を授けよう」
その力は聖女ライトネスの名の元に巨悪を討つために集まった全ての者に与えられた。
聖なる神の力が、暗黒に汲みする者や、妖魔にすら、与えられたのだ。
神は再び天へと戻っていく。
光の粒子はそのまま、神と共に天上に昇っていった。
多くの光の粒子が空に昇っていく中、一つの粒子が、何かに気付いたかのように、その場に留まる。
その粒子は、遠くにあるラーダ寺院の方に、ゆっくりと飛んで行った。
神ファリスのこの奇跡により、戦況は一変した。
巨悪はドラゴンとヒュドラに分離し、それぞれが討ち取られた。
また他の戦況も好転していた。戦いは直に終わる。
ブラスを守る戦いは、聖女の名のもとに集まった者たちの勝利となったのだ。
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