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読み切り小説
「願わくは」
チェリー&ローランド
(作者:むーむー)

●目次

〇チェリー・素直なエルフ
〇難民キャンプ
〇ひと時の休息
〇気づかぬ想い
〇ライトネス邸襲撃
〇静養
〇ローランド・神の奇跡
〇抗う勇気
〇懺悔
〇夢
〇千年の想い

〇懺悔

チェリーは2週間ほど目覚めなかった。
ルーシアに真実を告げられた後、立ったまま意識を失い、その場でゆっくりと崩れ落ちたのだ。
慌てたルーシアは急いでベッドに寝かしつけた。
そのまま起きることなく2週間ほど眠り続けたままなのだ。
口から重湯を飲ませたりして、何とかして生きている状態だった。

ルーシアは何が起こったか、チェリーが倒れた直後は理解出来ていなかった。
寝かしつけて、落ち着いた後、片づけをしてる際に、床に落ちていた盾を見て、それがローランドの物だったと思い至る。
チェリーはこれをずっと抱きしめていた。

ルーシアの背中に冷たい何かが走った。

助けてもらえたと言っていた時の、チェリーのあの穏やかな笑顔。
その後、話している間中ずっと盾を抱きしめていた、チェリーのあの嬉しそうな笑顔。
ふと気付いたように、真っ先にその人の名を呼んで安否を気遣った、チェリーのあのあどけない笑顔。

何で自分は気付けなかったのだろう……。
チェリーさんは、ローランドさんを好きだったに違いない……。
それなのに、それなのに…自分は……。

ルーシアは、残酷な現実を、チェリーにそのまま、伝えてしまっていた。
その後、チェリーは目覚めない状態になってしまった。
ルーシアは、自分の浅はかさを深く後悔した。

もっと、言い方が有ったはずだ。
いや、言うべきでは無かったのだ。
いや、いつかは誰かが言ってしまっただろう。
いや、ならば自分が言い方を考えて伝えなければいけなかったはずだ……。
ずっと頭の中でこれを繰り返していた。

ルーシアは寝る間も惜しんで、可能な限りチェリーの側にいた。
謝りたかった。何かを尽くして償いたかったのだ。
周りで見ている者が不安になるくらい、ルーシアはチェリーの側から離れなかった。

そうして、2週間が過ぎた頃、チェリーは1回目覚めた。
虚ろというか生気を感じられない表情だった。
ルーシアは声を掛ける。
ゆっくりとチェリーが目だけを動かしてルーシアを見る。
何か恐ろしい物を見るかのような顔で、チェリーは目を見開いて、また気を失ってしまった。

その後、数回、そのようなことがあった。
ルーシアは、もしかすると、自分が近くに居ない方が良いのではないかと思い始めていた。
自分の顔を見る度に、チェリーは同じ表情をしてまた眠りについてしまう。
側に居たいのは自分の我が儘であって、チェリーの為に何もなっていない気がし始めていた。

もうじきひと月になろうとしている。
このままではいけないとずっと思っている。
でも、側に居て面倒を見たかったのだ。
ルーシアはすっかり憔悴しきっていた。

カルスとセラフィから、ルーシアとチェリーの話をライトネスは聞いていた。
このひと月の間、忙しい時間の間をぬって、2人の様子を遠巻きに見に来ていた。
ルーシアが献身的に世話をしているようだった。
だが、様子がおかしいとも思っていたのだ。

それでもひと月、黙って見ていた。
だが、そろそろ限界だった。
ルーシアの状態が限界なのでは無かった。
見ている自分の我慢の限界だったのだ。

チェリーの世話をしているルーシアの近くまでライトネスはつかつかと歩いていく。
ルーシアはチェリーの側から離れようとしない。
ライトネスが来たことが分かり、ルーシアは挨拶をしようとした。
が、突然ライトネスから首根っこを掴まれて、ぐいぐい部屋の外に引っ張られていく。
その乱暴な扱いに驚きながら、ルーシアは成すがままに連れて行かれる。
チェリーから引き剥がされて、隣の部屋に放り込まれる。

「あ、あの、これは一体…」

ルーシアが、ライトネスに問おうとした途端、ライトネスがルーシアに思い切り平手打ちをした。
ルーシアはびっくりして固まる。ライトネスに叩かれたことなど、一度も無いのだ。

「また、隠し事か?」
「え……あの……」
「そんなに……私が信じられないのか?」

ライトネスは目に涙を溜めていた。
ルーシアは言葉を失う。

「このひと月、ずっと、言ってくれるのを待っていた……」
「……」
「ルーシアが何かに悩んでいることなど、見ていれば分かる。だけど、ずっと、待ってたんだ……」
「……あの……」
「ルーシアの中にいる悪魔のことだってそうだった。
 私は、ずっと、ずっと……話してくれるのを待っていたのに……」
「……すみませんでした」
「謝って欲しいんじゃない……。
 それとも、約束をしないと、教えてもくれないのか……?」

ライトネスはじっとルーシアを見つめている。
真剣な目だった。

ルーシアはまた、己が過ちを繰り返していることに気が付いた。
自分1人で抱え込んでしまっていた。
本当に信じられる仲間がいるのに相談することさえしていなかった。
自分の中のやましい気持ちをずっと人に言えないまま、相手が気遣って見守ってくれていることも知らず、ただ1人、自分だけが苦しいかのように振舞ってしまっていた。
ルーシアは涙を流していた。

「懺悔を……させてください……」

ライトネスは懺悔の意味を知っていた。
懺悔とは、罪を明らかにし、それを恥じ、二度と罪を繰り返さないという、決意の証。
懺悔は、最後まで聞かねばならない。
罪の深さを受け止め、その罪に赦しを与え、その罪は消えていくのだ。

ルーシアは跪き、己の罪を告白する。
チェリーがこのような状態になってしまったのは、自分のせいであること。
ローランドの死を不用意に伝えてしまったことで、チェリーは目覚めないのだということ。
チェリーはローランドを恐らくは愛していただろうということ。
それを知った後、そのことを誰にも言えず、1人で抱え込んでしまったこと。
周りの人が心配してくれていることも気付かずに、迷惑をかけてしまっていたこと。
それは、誰のためにもならない、己の我が儘であったこと。
もう二度と、そんな過ちは犯さない。

ルーシアはそう懺悔をし、ライトネスに赦しを請うた。

「分かった、ルーシア。……赦すよ」

ライトネスはルーシアに赦しを与えた。
何の権利がある訳でもない。
だが、懺悔とは、赦さなくてはならないものなのだ。
その懺悔を聞いたのだ。
自分も赦しを与えた存在として、同じ過ちを起こさぬよう一緒に前に進んでいこう。
ライトネスは、そう決意した。
彼女は、真なる聖女だったのだ。

ライトネスは跪いているルーシアを立たせ抱きしめる。

「殴って、悪かった……。ごめん……」
「いえ……ああでもしてもらわなければ、私は間違いに気付けなかったはずです。
 むしろしてもらって、良かったです……」
「ありがとう……。
 あと、話を聞いていて思ったんだ。
 ルーシアはそんなに悪くない……。
 誰も、チェリーがローランドを好きだったなんて、分からなかったはずだ……。
 気付けという方が無理だったんだよ……。
 でも、なってしまったことは仕方が無い……。
 みんなでチェリーが回復するのを待とう?」
「はい……。ありがとうございます……」
「しばらく、チェリーから離れよう。
 ちょうど、パストールの森に行く話が出てきているじゃないか。
 一旦、冷静になろう。
 その間に色々みんなに相談しよう? な?」
「はい……」

ルーシアは頷いた。
自分には仲間がいる。皆にちゃんと頼ろう。
そして自分もちゃんと皆のよすがとなるような存在になろう。
そう心に決めたのだった。

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●本コンテンツについて

・本コンテンツは同好者の間で楽しむために作られた非公式リプレイ内のショートストーリーです。
・個人の趣味で行っておりますので、のんびり製作しております。気長にお待ちいただきながらお楽しみください。

・原作の設定とは無関係の設定が出て来たりしております。あくまでこちらのコンテンツは別次元のお話と思ってください。
・本コンテンツの制作にあたり、原作者様、出版社様とは一切関係がございません。
・TRPGを行うにあたり、皆が一様に分かる世界観、共通認識を生んでくださった原作者様と、
 楽しいゲームシステムを販売してくださった関係者の方々に、深く感謝申し上げます。

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・本コンテンツは以下の製作者、原作者、製作素材等の著作物を使用して製作されています。

【プレイヤー】

・トゥナ・P
・マーコットP
・ヤトリシノP
・むーむー(GM)

【挿絵・イラスト】

・マーコットP
・むーむー

【キャラクター(エモーション・表情差分)】

・マーコットP
・むーむー

【使用ルール・世界観】

・ロードス島戦記
 (C)KADOKAWA CORPORATION
 (C)水野良・グループSNE
・ロードス島戦記コンパニオン①~③
 原案:安田均、水野良、著者:高山浩とグループSNE
 出版社:角川書店

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【リプレイ製作】

・むーむー

【ショートストーリー・小説製作】

・トゥナ・P
・マーコットP
・ヤトリシノP
・むーむー
 (むーどす島戦記TRPG会)

【製作】

・むーむー/むーどす島戦記TRPG会

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