秋尾 敏の俳句 2026年
| 軸5月号 窓を拭く 濃い雲が来て有終のライラック 春光のバイクに新たなる羽音 入学を跳ね三つ編みを大空へ 行く春のブルース懐を深く 漣や浅蜊の愛の変拍子 うねる蛇口よ春光を鏤めて 鳥ぐもり瀕死の街の窓を拭く 花冷の項にマネキンの殺気 金色の蛇の門出を雲が病む 「円虹」五句「笛太鼓」 春なれや利根の中洲の角取れて 類型のほむらとなって若木の芽 春寒し雨滴は窓を労える 認識が存在となる春の山 笛太鼓男雛はすでに戦場へ 俳句四季5月号 地球の棘 海峡の春の寒さを鉄の処女 空爆やこんなに暖かい星を 何方も移民の国ぞはだれ雪 戦乱の浜に寄り合う桜貝 八十年前の掃海雛飾る 霞濃くなる人類は地球の棘 身に潜むつらみいかほど桜の芽 戦争の世紀に出くわした花よ 源五郎虫援軍が来ない 花茨うしろに立たれるのは嫌い 軸4月号 オープンリール 青春のオープンリール竹の秋 幸福の信管として桜の芽 病室は山の底なり氷解く 雌しべから始まる神話春の山 草萌に自分が見えるまでの距離 下京の水音低き菜飯粥 縄文の深鉢春光が重い 千葉現俳総会句会 海峡狭し囀は昨日を語り 千葉県俳句作家協会稲毛海浜公園吟行 防風の松を斜めに春の波 軸3月号 諭せば雪 陽を呑んでおり紅梅の地平線 春浅し筑波の底が光りだす 山稜の輪郭として春の雲 空にたましい芽吹く木がそよぐ 残されたVのアンテナ春の雪 春塵へ銀のリボンが紛れ込む 直線となり曲線となり水温む 人生一度と詐欺の電話を諭せば雪 軸2月号 鬼も来ている 閉鉱や連絡船に裂く氷下魚 冬山のうなじに雲が蹲る 難民の咳き谺とはならず 青の倒壊暖冬の氷壁は 鬼も来ている寒芹を湯にほぐす 排他的自己実現や厚氷 大寒の乾燥機にんにんと呻く 空っ風何の力もなく集う 角川書店「俳句」1月号 同じ高さに シリコンの基板まばゆき初日の出 去年今年同じ高さに空が澄む 諍いは国の尊厳氷の様(ためし) 外交という混沌の四方拝 初夢に角川書店勤め上ぐ 真言は思考にあらず初暦 隣国へ動画で送る福笑い マイセンの皿に田づくり睨みあう 鳥追の声ジーンズをほつれさせ 傀儡師を操る傀儡オンライン 軸1月号 夢の濃淡 老いらくの夢の濃淡福寿草 天空の網目に戻る星仏 一月や銀河に揺らぐ神の指 ほうじ茶は琥珀を眠り雪の雲 冬の霧小学校に隠れ棲む 細波にランプが滲む冬至風呂 世は浮き難し歳晩の雲が病む 隠れ棲む冬将軍の段ボール さらさらになって木枯山に消ゆ 角川書店「俳句」12月号 君をポップに 行くいかぬ止まるとまらぬ秋の蝶 Cのブルース野分の雲をちりぢりに 冷ややかに宇多田ヒカルの足占かな 鍵盤の影はみな過去神の旅 稲妻に撃たれて逝くわ藤井風 夜寒のキヨスク哲学がポップ カラオケがなかったころの青木の実 濡れた寒月五度を♯にしてサビへ 枯蓮の老いて軽みという虚飾 詩に飢えた踵を熊が咥えにくる 咳きにホルン嘶く純喫茶 君をポップに石炭を焼べる 寒星の夢から曲がりだす隘路 枯れ芒靡くではなくなびかせる 歯の疼き齲蝕にあらず開戦日 コンバイン雪を見つめて痩せ細る |