秋尾敏の俳句


2014年の作品 2013年の作品
2012年の作品 2011年の作品
2010年の作品 2009年の作品
2008年の作品 2007年の作品
2006年の作品 2005の作品
2002〜2004年の作品 2001年以前の作品
 
第4句集『悪の種』 第3句集 「ア・ラ・カルト」
第2句集 「納まらぬ」  第1句集 「私の行方」

世界俳句紀行「地球の季節」


秋尾 敏の俳句 2015年


軸12月号 振り返るように

家元が寒さを言えり煎茶道
セーターに守られている帰還兵
牛丼のチンにて熱し冬初め
白鳥のくちばし尾の裏に届く
振り向いたように微笑む捨案山子
国道の老いて紅葉を走らせる
      慈光寺法華経一品経二句
冬黙す一品経の絢爛に
法華経の金銀砂子枯浄土
          義母帰天
別れても傍にいる人暮の秋


軸11月号 古関幾たび

三人が触れてレモンの傷浅く
歌いだすこれから道になる花野
つくつくぼうし私に入りきらない
         美濃三句
湧く水の光となって冬隣
秋光の路地に幾筋宿場町
古関幾たび晩稲を刈り残す
      「沖」四五周年祝賀三句
沖涼し無辺の夢を奏でては
秋冷の沖に沖あり小島あり
網統べて長身の臑爽やかに


軸10月号 泥のコスモス

掬われて人間となる秋の水
女声合唱金木犀の息を吐く
手頃なドングリ雲は怒りに膨れ
種孕み屈す泥のコスモス

       「ウエップ通信」掲載「小鳥狩」16句より4句
運河澄むまでの屈託雨蛙
新涼や駐在さんの窓が開く
秋風を吹く男岳女岳
幼年の金木犀に溺れいる
           森ふみさん追悼
日を雨を留めて強し草の花


軸9月号 青い秒針

海神の矛は目覚めて星の秋
ディズニーの青い秒針星契る
蜩の午後に紛れる風の罠
どの雨も斜めに急ぐ八月よ
         南会津大内宿二句
谺して炎天の茅切り揃う
水音の十歩に遠く夏の果て
         利根運河二句
草の香に運河の余力雨の鷺
荻に葛空を愛するものたちよ
       薄井智介さん追悼
青葉木菟森の光を見届けて


ウエップ通信88号 小鳥狩

運河澄むまでの屈託雨蛙
合流に起伏くちなわ渡りきる
石に顔あり稲妻を遠ざけて
銘水の街に溢れて厄日なり
新涼や駐在さんの窓が開く
ベイゴマを回せぬ午後の粉ジュース
ゴム跳びに誘われている醉芙蓉
右四つで負けて颱風呼んでいる
いつ終るはないちもんめそぞろ寒
詰め込んで箱のふくらむ小鳥狩
膝ついて虫を殺めるかくれんぼ
秋冷の雑魚に紛れている真珠
蕭々と雲に荒れたる天の川
雑草の秩序に霧の降り注ぐ
秋風を吹く男岳女岳
幼年の金木犀に溺れいる


軸8月号 黒い川

追う力のみ炎天の黒い川
五月雨の荷縄明日を病んでいる
向日葵の夜には人と手をつなぐ
報知器は蛇の誤作動ティータイム
箱釣の千円札が濡れている
七夕に胡座をかいている少女
川も昼寝か自転車が渡る
          故凱夫主宰・真雲院照道由範居士十七回忌追念二句
永遠の空に近づく蝸牛
香煙のうしろ神輿の声うねる


軸7月号 図工室

黒ゴスの俯きかげん桐の花
流されぬように目高のツイッター
竹林に羽ばたく雲が来て入梅(ついり)
橋桁の高さに紛れヨットの帆
つばめとも呼ばれかもめの自由席
谷を挟んで紫陽花は水の精
なべて本物六月の図工室
            家庭菜園二句
枝振りに添わす誘引ミニトマト
根切虫コンパニオンを狼藉す


軸6月号 雲の糸

矢車のいつまで紡ぐ雲の糸
夕焼けが過去にならぬと爪を切る
博多駅三句
惜春の夜を堆く河豚の骨
虚飾なき夜の愛憎薔薇の駅
青春の分岐点より藤の花
      
      大利根町二句 
苦学しており大利根の源五郎
息止める絵馬や台風一過なり
五月雨に降る白胡椒黒胡椒
夏の雲黙っていればよく育つ


軸5月号 花の冷え
花の冷え人の言葉を包み込む
どの足も許して長い春の道
逃水が逃水を追う古戦場
夕暮は石を冷やしている桜
レジで待つ軍手の値段黄砂降る
内向きにパンプスを脱ぐ蝶の昼
花衣花のバイクに連れ去らる
引用の一文字こぼれ花の冷え
蛍烏賊パスタにからまれて膨る


軸4月号 春の雨
コンビニを怖じる少年春の雨
椿なら角の店にも岬にも
甘いコーヒー春の雲など太らせる
煙みな春の湿りとなり梵鐘
春眠に他人のような背骨がある
雪来るか女雛に翳りある夜は
足腰が楽を覚えて冴え返る
人生に椿落つとは一般論
防護壁過去ある海に沿うて春


軸三月号 靴凍てる
企みはゴディバの小箱雪女
一日の闇を満たして靴凍てる
ジーンズのシュートは外れ春の雪
春陰の涙を恐る老教師
梅ふふむ旅の名残という甘味
売血は戦後の夕陽多喜二の忌
海猫渡る林檎は囓り捨てられて
求人あり北の港の料峭に
薬莢の裂けて余寒の浜に雪


軸二月号 句兄弟
メール来る新年号の句兄弟
小正月燃え余りたる藁ほぐす
罪科のしばらく軽しどんどの火
雪吊のぐらりと風を押し戻す
甍より高き裸木飼い馴らす
         
福島三句
淑気あり除染の袋小路にも
寒林の汚染を視野に破壊神
除染待つ神木があり凍つのる
     菊名美津子さんを偲ぶ
田仕舞の一句あるべし夢にても


西日本新聞元旦 羊雲
翳りなきソーラーパネル明の春
羊雲丘の初日を食みに来る
母の掌(て)の幾度も咲いて毛糸玉


軸一月号 羊雲
翳りなきソーラーパネル明の春
羊雲丘の初日を食みに来る
初夢の最終章に砂丘の羽
七十(ななそじ)を成人と決め鳥総松
母の掌の幾度も咲いて毛糸玉
木枯が来て東京を青く塗る
巻く髪の指に絡める冬の雲
遠ざかる野性生牡蠣啜っても
暦売夏の女を見せている