秋尾敏の俳句


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第4句集『悪の種』 第3句集 「ア・ラ・カルト」
第2句集 「納まらぬ」  第1句集 「私の行方」

秋尾 敏の俳句 2022年


軸9月号 誰か繋がれ
残暑また残暑焙烙割れている
誰か繋がれ新涼の鳥滲む
野ぶどうの蔓の先なる帰還兵
ひぐらしが近くて明日が遠ざかる
冷蔵の桃が乾いた日の悲報
野分雲とどまる人に逢いに行く
滴りは人に尽くした浄水器
西日濃し五キロの米は袋のまま
山頂に児を立たせんと草払う

軸8月号
いつの間の深き呟き草蜻蛉
崩し字に馴染む少年月涼し
夾竹桃遠い戦を透かし見る
図書館に太き雨音夏の果
日陰から暴れ出す風街は死なず
明日を測ればアンテナに巣立鳥
冷奴どうでもいいことにはしない
冷房の風にひとりの台所
膝下に沈む決め球夏終わる

軸7月号
歳時記に撥ねる黒蜜梅雨晴間
乾いてはならぬ晩夏のビブラフォン
夏草に風の鈴生り遠い海
谺して真夏の鉄を柔らかく
ローラーボード風の西日に包まれて
冷製パスタ赤道行きの船が出る
調停を斜めに急ぐ梅雨の雲
戦争に差額があって麦を刈る
ぶ厚い梅雨雲負けたとは言わず

軸6月号 星座
夏風を鳴かせて青い瓶の口
冷やされて湖の深さとなる新茶
深煎に目覚め易きは夏の月
文字は声なり幼年の甘い麦秋
ペンつまむとき古傷は夏の星座に
喘ぐ気管支滝の暗さに撃たれてより
梅雨兆す甲社乙社を取り違え
量販店台車の音も夏めいて
ゴキブリが家庭を破壊して星座

軸5月号 春の鳥
昨日より翳る鶏卵花の冷
風船を泣かせて街が燃えている
春塵や兄は故国に残りしと
春泥や騎馬は川筋より引かず
どんよりときてくっきりと春の鳥
若干名募集燕の巣が深い
筍は宇宙のかたち眠り込む
返信の一つが暗む竹の秋
春宵や南無と阿弥陀の吐き出さる

軸4月号
雲ひとつ摑み損ねて欅の芽
春愁がふくらむ付点四分音符
雲に弾道いっせいに芽木翳る
春寒の洋館白き鉄格子
海峡に鉄の臭いの春の風
鉛筆の落ちたる音か赤彦忌
クロッカスわが青春に一途の根
司書老いて今朝春泥の路地に伏す
      菊地京子さん追悼
遍歴の運河記憶が暖かい

軸3月号 青い前衛
越境の雲に傾く桜の芽
青い前衛黒い後衛春塵に
百代の過客にまぎれ春の雲
囀のきいいと伸びて井戸の底
草青む重機は土手を戻りゆく
青空に何も足さない草団子
まず路地を灯して店の雛用意
料峭の誤字は手遅れ日の暮るる
永き日の雲が時間に溶けてゆく

「俳壇」2月号句 湾岸ホテル
冬の波ホテルは闇を吸いつくす
寒月へエントランスの靴音を
派遣のプロらし冬物の袋
冬将軍紺のパンツにピンヒール
バーに来て飲まず足組むとき序章
鍔深き男に海鼠炒めらる
冬の海拗ねて桜というワイン
浴室はスマホのジャズの冬景色
暖房の寝言にうねるセミダブル
寒凪のホテル小ぶりのお茶が濃い

現俳10句
文明の奥に水なきエンタシス
すぐ眠る星は寒さの破片となり
緊急出動帰り花には非ず
冬の星仮想の水を着重ねて
累々と深夜を喘ぐ石の枯れ
息短くて穭田の傷癒えず
LEDは黄昏のようポインセチア
愛犬教室おりこうになったのは木枯
低空飛行ていこうせいりょく低空飛行
紙ナフキンに収まるほどの冬木立

軸2月号
高波は空を忘れた鯨から
冬の陽に重さがあって黄昏れる
和声とは違う旋律冬の川
冬すみれ若い家族が越して来て
湯気見えている縦長の白い窓
俳席は舟のかたちに冬の雨
肩凝りの音が聞こえる雪催い
守りから崩れ六日のノーサイド
初空へ海の匂いのする扉

軸1月号
知るということの静けさ初だより
我が干支を襖に睨む三が日
月光が甍を滑る千葉笑
和声的短音階に息冴える
柊の花禁煙と繰り返す
黎明の空に皺寄る初氷
冬の雲魚となって反転す
三枚に下ろす雪雲募らせて
夢を語ろう水源は大枯野

西日本新聞 元旦
我が干支を襖に睨む三が日
竹林を抜けて今年の風太く
項からしぐれて青い処方箋