秋尾敏の俳句


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第4句集『悪の種』 第3句集 「ア・ラ・カルト」
第2句集 「納まらぬ」  第1句集 「私の行方」

秋尾 敏の俳句 2020年


軸12月号
水にさえ声を荒げて冬木立
冬服の衿からたましいが逃げる
夜を悼む冬木は瘤を太らせて
消毒の爪に微罪のある冬日
樹海から木枯次世代に託す
シャンプーの泡さらさらと残る虫
鵙高音作為の歌を悲しむか
七五三百年のちの平和など
冬隣なり隣国の開票日

軸11月号
鳩吹くは学びのはじめ星ふやす
壺は片耳コスモスが唄う
小鳥来る御霊は黄泉を離れしか
漆黒の海原榠樝の実が二つ
猫じゃらし一時停止を咎められ
弓張月橋は逆方向にある
ぽんぽん蒸気胡桃を忘れて行く
風はたましい老練な曼珠沙華
草原の一羽青ざめたまま冬へ

俳壇10月号 譲り合う
野分雲川は蛇行を許されず
懐かしき偽善者たちよ雁の列
囮籠錆びたペンチの刃を借りて
黄連雀緋連雀知らぬ児を連れ帰る
父親がひとりもいない文化祭
薬掘る明日も数字とならぬよう
椿の実投石は頭蓋に及び
魚たち鳥たち木の実を譲り合う
金塊を彷徨う人や月見船
雨冷のシャッター今朝は巻き上がる


軸10月号
ジャズに奥行き秋風は路地に紛れて
シンバルが頷き合って月昇る
秋冷の和音に歯磨のにおい
月光の魚たち影を譲りあう
従順な眼鏡の弦に秋の風
爽やかに鏡言葉を映さない
雲痩せて峰に寄り添う守武忌
皮を積む深夜の葡萄誰か病む
鶴頸のコスモス一本私がいる

俳句四季
○ギヤマンの鐘暗雲を打ち払う

俳句四季9月号  感染図
手の甲に唾液の重さ秋出水
マスク毛羽立つ雨冷の診療医
葡萄酒醸す深海の回復力いかに
敬老の日は少年のように妻
忘却は霧の重さの渡し守
茸狩湿った息に近づかず
蝙蝠は飛び出しかねて放生会
Y軸に恣意の伸縮感染図
雁渡し火を噴く島をふところに
小鳥来るま白き灯台には触れず

軸9月号
日に溶けて細くなる雲秋出水
アンテナを立てないテレビ鳥帰る
脆き川なり残暑の石を堆く
細やかなサイドメニューも魂祭
父親が不在のドラマ星祭
逼塞の旅愁を紡ぐ秋の蜘蛛
販促の幟が栗をはためかす
散策は鬼門に到り石叩
夏雲に少し遅れて乗るセスナ

軸8月号
迷宮の高原列車夏休み
ユンボ呻く徹底的に重い梅雨
五月蠅なす神振り向いて目鼻なし
棒銀を受けて冷夏の至近距離
棕櫚の花男の足で歩み出す
角川「俳句」五月号「常磐線全線再開」十六句より
土浦駅までは短編鳥雲に
紫木蓮視界は海に行き止まる
地図にない道桜まであと少し
沼深しいかなる春も拒みいる

軸7月号 難破船
うねりだす森の蛍は難破船
邂逅を光で泣いている蛍
雲早し南瓜の花が距離をとる
散髪の姿勢を正す大夕焼
打楽器の方が安全梅雨晴間
一枚の布で若葉が内向的
   「俳句展望」一八八号より
遁走の一片翳る夏の空
どす黒い流れに誤差がある炎暑
沙羅の花日暮の虚無を仰向けに

軸6月号 薔薇癒えよ
薔薇癒えよ根を奔放に深々と
緑陰に倒る最後のエタノール
万のカルミア雨雲は宇宙から
噴霧器の虹に星座が透き徹る
出口とはおのれ自身か夏の川
油揚に詰める挽肉夕薄暑
風入れの人差し指に糊乾く
性格は新玉葱の細い茎
夕闇のバレーボールに蚊喰鳥

角川「俳句」5月号 常磐線全線再開
土浦駅までは短編鳥雲に
春光を集め気動車膨るるか
春塵の少年もはやパスを出せ
海寄りの終着駅や暖かし
のどけしや午を狭間の待ち時間
撮り鉄の駅に昂ぶる木の芽時
単線は霞みてひたち十三号
隧道の度に号笛彼岸西風
紫木蓮視界は海に行き止まる
彼岸汐とや鉄塔は風に吠え
地図にない道桜まであと少し
トレセンの駅は細身に風の春
まぼろしの聖火よ丘の藪椿
沼深しいかなる春も拒みいる
全線開通これからという遅日の灯
詠み鉄の夢の窓辺の春の星

軸4月号 がらんどう
沈黙の大きさとなる夏蜜柑
けむりの木五月の雲を太らせる
眠たくて新玉葱のチーズ焼き
菜種梅雨稽古茶碗は志野もどき
深呼吸とは行く春のがらんどう
雲を孕んで麦秋のゆくりなく
技能実習生の槌音は金雀児へ
4Kを積むドローンや夏近し
ケニー・ドーハムひこばえを曇らせる

軸3月号
白髪は雲を目指せり風ぐるま
長針の影長針を追う二月
推敲を拒む手帖に寒戻る
蒼き春月混迷の洋上に
山焼いて山の免疫力頂点
チョコレート色の鳥来る二月の死
風炎の日の五円玉重くなる
翌日のチョコレートとは暖かし
探梅のような眼をして妻戻る

軸2月号
一月の水を溜めたる太轍
純白のコートに憂いなき初日
万病を抱く高楼や若菜粥
寒月光四つの膝が甦る
成人の日の帰郷なり海自の紺
冬麗の衿刈り上げて成人す
雨のぼろ市五球スーパー灯したる
温度差をマスクに受けて幹事会
粉雪の空に還るという野望

原爆忌句集
膨張に弁明のない夏の雲
線量を剝がれるように夏の蝶
いろいろな飛行機が来る夏の空
神仏に除染はならず油照
炎昼を音と化したるテイク・オフ
戦闘機また戦闘機八月へ
抽象は具象に八月のドーム
爆心地近し残暑とは詠まず
忘れないための消しゴム原爆忌
生身魂銃後の虹を語りだす

軸1月号 初手水
立ち昇る北斗も借りて初手水
改年のレールは空に捧げられ
いよよ5Gデデンネの初日記
裸木の背丈が揃う草野球
ふくろうカフェご主人様は枝で待つ
夕星を離れて寒し風のチャリ
ヒーローも最後は一人冬の星
永遠に細くなる道冬銀河