秋尾敏の俳句

Translated by Ai Wada, Kiyoko Aoyama, Bin Akio



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第3句集 「ア・ラ・カルト」
第2句集 「納まらぬ」  第1句集 「私の行方」

秋尾敏の俳句 2006年


 急ぐなよ
        
伊豆吟行三句
水源に水の温もり烏瓜
源流のその先を見る冬の鮎
プラタナス眠ったままでいて落葉
        
秋の婚二句
急ぐなよ葡萄は一粒ずつ青い
幸せの胡桃乾いたころに割る
        
江戸川散策三句 
まっすぐに雲を育てる冬の川
川砂の粗さに乾く鵙の声
渡るべき橋見えており年の暮れ
              
         軸12月号


   寡黙の嘴

詩人は猫カシミアの夢に喘いで
詩人は虎オンドルの愛を嘯く
詩人は馬天山を越える嘶き
詩人は鷹寡黙の嘴が天を刺す
詩人は蛇知恵のうろこを軋ませる
詩人は龍おのれの影にほくそえむ
詩人は猿冷めた文末をかきむしる
詩人は犬雪原に嗅覚薄れ
詩人は牛ただ枯草に口ごもる
                   
吟遊29号


 かまどうま

幼年の傷を唄って十三夜
裏町のネオンが霧に裏返る
酔いつぶれた葡萄が待っている深夜
中指にささくれ桃がなつかない
亀甲に五角もあって秋黴雨
敗荷の愛を虚構として語る
ベテランが芋喰っている門球場
かまどうま袋小路を世界とす
              
軸11月号


 鷹柱
いわし雲だれに呼ばれて集まった
その中の何を見ている赤とんぼ
面長の生き方もあり小鳥来る
      
「半島」十五周年を祝す五句
半島の要となりぬ鷹柱
下総を上総に連ね鳥渡る
渓谷の土潤えり稲雀
椋鳥を十五数えて海を見る
かりがねや明日の空にのこすもの
                               軸10月号
 
   伊豆稲取

生臭き野分のなごり岩哮る
岬の灯沖の野分を忘却す
野分波沖に納めて朝の雲
朝霧の波音白く匂いだす
唇の高さに出会う椿の実
初恋の風に崩れて秋の雲
遠雷やしぼりきれないマヨネーズ
      秋元大吉郎氏発起のつくばエクスプレス開通す
天高し筑波を海に引きよせて
                   軸9月号



 いつか必ず  
−ブルガリアにて−

バルカンに火渡りはあり夏の月
天道虫国のどこかに雨が降る
微笑の王よ小袋の土は湿っているか
夏草や都市のリフォーム間に合わぬ
世界バスが揺れる霧の山々に沿って
タンポポの夢きっと少しのお金
永遠の夕映えいつか必ず手を組む舞踏
おおバルカン向日葵は月に首伸ばす
マロニエの雨に日暮れて実が尖る
            
             吟遊28号 軸8月号

  眠らない
真夜中の祭始まるおもちゃ箱
木下闇一重まぶたは眠らない
駆引きはなし薫風の占い師
緑陰へ過去を捨てるという葉書
橋が足りない薫風がひしめいて
七夕を待たずに橋を渡るかな
はらからという危うさを夏椿
          
   松戸戸定邸
幕末を細身に生きて五月雨るる

                                軸7月号

 すくいだす

木下闇一重まぶたは眠らない
駆け引きはなし薫風の占師
橋が足りない薫風がひしめいて
切り株の思索万緑は敵か
青嵐自分を追い込んでしまう
索引に漏れたる句あり青葉寒
薄れゆく滝の時間をすくいだす
引き際を楽しんでいる蟇
緑陰へ過去を捨てるという葉書
                           吟遊27号


糸抜いておぼろの紙を解き放つ
ドリブルという啓蟄の敵味方
花冷の花の話が滞る
揚州に帰る人あり花杏
春の月どこにも行かせてもらえない
国籍のかげろうている砂被り
               
    現俳25周年

 ア・ラ・カルト

忘却に流れ着くもの鳥曇
川べりに生まれ桜に連なりぬ
軍歌来て芥寄り添う春の川
談合を叱る演説麦青む
桜背に置き合併の道普請
対岸を一気に咲かせ入学す
春潮や島の分断謀られて
あの人の春愁となり夜の汽笛
春暑しアヒルの尻が懐かない
神の世が告げられており花吹雪
百円のベルトが硬い花辛夷
危機も快楽も夜桜のア・ラ・カルト
                           角川「俳句」5月号

      放浪の

合併の風がふくらむ雪柳
閘門の落差を急ぐ春の水
春愁が闇の汽笛になっている
神の世を告げるミニバン花の昼
花の冷え生きている手が柔らかい
放浪の女が眠る桜蘂
菜の花の影に来し方うずくまる
        鈴木美千代さん追悼
西へ吹く風淋しくて梅の花
                             軸5月号

 敵味方

私には売るものがない苗木市
回天の言葉を怖れ黄砂降る
味方から敵が生まれて雪解川
寝返れば追いかけてくる朧月
春寒し死のある家に灯が点り
鉄打って闇を育てる目借時
春愁の視野から消えてチョモランマ
もう少し軽くなったら桜貝
春泥に抜ける指輪の一人旅
                            吟遊26号


 和紙の艶

和紙綴じており朧夜の抜衣紋
糸締めておぼろの紙を従わす
麗日に撓垂れている和紙の艶
料峭の水含ませて糊剥がす
装丁は棟方志功春の雪
味方から敵が生まれて雪解川
抜き打ちとなる春塵のラジオ局
黄砂降るメディアを攻めているメディア
                                  軸4月号
立ち上がらんと (tati agaranto) Trying to stand


動く水眠る水あり梅の花 ugoku mizu nemuru mizu ari ume no hana

Moving water
and sleeping waterー
plum blossoms blooming



スナップの隅に切られて梅薫る sunappu no sumi ni kirarete ume kaoru

The corner of the snapshot
cut off ー
plum blossoms smell sweet


水溜める石の自若や梅の庭 mizu tameru isi no jijaku ya ume no niwa

The stones to store water
calm and cool
in the plum garden


ぽんと開く茶筒に弾む雛用意 pon to aku tyazutu ni hazumu hinayoui

Encouraged by the tea canister
which open with a pop,
dolls arrangement begins


ひょうと朝東風モノレールより雫 hyou to asakoti monoreiru yori sizuku

With the sound of hyo
morning wind from the east ー
drops from the mono-rail


倒木の立ち上がらんと朧の夜 touboku no tati agarannto oboro no yo

The fallen tree
trying to stand
at the hazy night


料峭や硝子の鴛鴦の瞳がくもる ryousyou ya garasu no osi no me ga kumoru

In the lingering cold
the eyes of glass mandarin ducks
get fogged


東塔が少し高かり桜の芽 toutou ga sukosi takakari sakura no me

East tower
a little higherー
cherry trees in bud


トラピスト

銀翼の降下に光る冬の濤
着陸に雪の静けさ海見えて
恩顔のロビーに立たる雪催い
雪道に雪の戒律修道士
雪の道未だ慣れずと励まさる
風花の海峡にありトラピスト
半日を神父と語る雪つもる
図書館に知恵の静けさ冬灯
軒氷柱シリアの文字に誘わる
ラテン語に母音の力冬の夜
聖堂に隣りて夢の雪祭
罪業の火かも雪鬼の踊りかも
玄冬の鳥は鎖に捉えられ
裸木に罪育ちたり咆哮す
倒木や冬日密かに差し掛かる
雪雲の光に変わりたる目覚め
雪晴れのこの暖かき別れの掌
まどろみの風にならんと風花は
東方の理性にすがる雪の蜘蛛



寒の水  (kan no mizu) Water in cold season  2005年2月

飾り窓に年越しており稀覯本 kazarimado ni tosi kositeori kikoubon
 
In the show window
seeing the old year out and the New year in
rare books
 
 
手に掬うべきものあまた寒の水 te ni sukuu beki mono amata kan no mizu
 
Many things you have
to make a scoop with your hands ー
water in cold season
 
 
水仙や月の鏡のまだ暗く suisenya tuki no kagami no mada kuraku
 
Narcissuses blooming ー
the moon mirror
still dark
 
 
曇天の夜明けが凍る地震の星  donten no yoake ga kooru nai no hosi
 
The cloudy dawn
freezing
below the stars of the earthquake
 
 
風を噛む波のたてがみ冬銀河 kaze wo kamu nami no tategami fuyu ginga
 
Biting the wind
the maned waves ー
the winter Galaxy
 
 
海原や寒の北斗のヴィブラート unabara ya kan no hokuto no viburaato
 
The open sea playing
vibratoes of the Great Bear
in cold season
 
 
大寒の重さに曲がる傘の骨 daikan no omosa ni magaru kasa no hone
 
By the weight of the coldest season
bending
the bone of the umbrella
 
木枯らしの窓に十年後の私 kogarasi no mado ni juunengo no watasi
 
Reflected
in the window of wintery wind
me after 10 years

つばさ tsubasa  The wings  2005年1月


竹山の東さざめく大晦日 takeyama no higasi sazameku oomisoka

The east side of the bamboo wood
full of noise ー
New Year's Eve


灯台の沖を巡らす年の夜 toudai no oki wo megurasu tosi no yoru

The lighthouse
surrounded by the offing
on the last day of the year


追憶を波に返して初茜 tuioku wo nami ni kaesite hatuakane

Giving back reminiscences
to the waves ー
New Year's red sky


元朝の浮標瞬いて鳥招く ganchou no fuhyou matataite tori maneku

New Year's morning ー
the buoys flickering
and inviting birds


流れきし砂の年輪初明かり nagarekisi suna no nenrin hatuakari

The growth of the sand
washed ashore ー
New Year's light of dawn


石蕗の花より朝が来て潮路 tuwa no hana yori asa ga kite sioji

From the flowers of Tsuwa
morning comes ー
the tide flowing


暖流の風をうなじに初御空 danryuu no kaze wo unaji ni hatumisora

The wind of the warm current
blowing against my neck ー
New Year's sky


大旦まだ影乗せているつばさ ooasita mada kage noseteiru tubasa

New Year's day ー

still following the wings
their shadow


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