秋尾敏の俳句


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第5句集『ふりみだす』
第4句集『悪の種』 第3句集 「ア・ラ・カルト」
第2句集 「納まらぬ」  第1句集 「私の行方」

秋尾 敏の俳句 2025年


軸九月号 秋茄子のパスタ
いつまでの暑さ糸杉雲に反る
お酢を三滴秋茄子のパスタ
人は動物深海のように月
         駒ヶ根・伊那四句
抉って氷河一条の緑を峰に
山稜のガスからポール・デスモンド
天台の蓮華升麻や秋に入る
稔田や井月に自由律いかに
彦星に罰点ストローとマドラー
星座は秋文脈の錯綜は本音

軸八月号 水瓶座
雨雲がふくらんでくる祭笛
沖縄忌八十年を積み残す
半夏生雲の摂理に息を継ぐ
扇風機冥王星は水瓶座
炎天の影がチェーンを嵌め直す
梅雨明けや心得顔の雲に顎
投手定岡入道雲となって消ゆ
教室の窓に椰子の葉夏休み
 義父、安原包夫氏の一〇四歳を祝す
万緑や百四歳の手が若い

軸七月号 蒼あらし
白湯甘し遠近法のあるプール
青あらし重機の角が雲を刺す
まっすぐを探るプロペラ麦の秋
空爆に四時間半の時差 炎暑
時の記念日脈拍に祈る
緑蔭のパスタに沁みる出汁スープ
土を練りあげ涼しげな三姉妹
梅雨深し耳に派遣の爪が触れ
風死す人も死す遥かに雲
軸6月号 対旋律に
緑風や小学生が眉を剃る
捩り花世界を巻き込んでいく
夏近し長女でありし母と祖母
年輪の対旋律に夏の風
年中さんらし首曲げて裸足で歌う
    詠み鉄・北陸鉄道浅野川線
整理券折り曲げまいぞ麦の秋
    詠み鉄・立席「はやぶさ」
連結が鳴る夏雲がちぎれ飛ぶ
    詠み鉄・釜石線
油っぽい眼鏡に遠い白躑躅
    詠み鉄・北上線
薫風の遠心力や柳町

軸5月号 殉難いかに
一本は遠く離れて散る桜
朧夜の句集に付箋五十枚
チューリップ夕べの傷を隠し合う
歩けなくなった電柱春の風
予備役の殉難いかに菊の苗
春の雨傷のタイヤの山崩る
行く春の洋画に尖るシガレット
天空の夢を抱えに昇り藤
山桜三万立米打設せり

軸4月号 重機病む
而今の一投春光の遥かに煙
傾ぐ電柱遠く春雪の雲は満ちて
三月を三月として重機病む
朧の夜紙ストローの後味は
春眠はあぶくとなって海の底
     守谷吟行会 
春寒の仁王草鞋をかき抱く
     宮坂静生句集『鑑真』に
春陰の鑑真像が夢を告ぐ
     世田谷吟行二句
戸袋に捌(は)けてゆきたる春障子
選択になき大学や初桜

軸3月号 乱気流
海が泡立つ菜の花の乱気流
春北風夢が大人になっている
見守りぬ俳句は薄氷のようで
舟歌を半音下げて朧の夜
峡谷の蛙はじめて人に遇う
つみまし草出汁に沈めるふと無言
風向は自分で変える八重椿
ドローンは去り戦場の草青む
水底を歌う少女はつむじ風

軸2月号 針落とす
幸せの涙だろうか日向ぼこ
冬ぬくし雲は悟りの髭垂らす
冬の川無実の罪という翳り
冬ざれのものさし少し縮んだか
寒雷やベートーヴェンに針落とす
木枯に削りだされて妙義山
冬の月昔の鉄は音がよい
落葉みな黒ずんでおり総選挙
進路は消防音楽隊春を待つ

軸1月号 博多独楽
天保の長屋が見えて初明り
博多独楽思いの糸を昇りゆく
吉祥天か風花と名付けしは
肩書きのない空缶や木枯来
括られて古着は霜を吸い始む
冬の陽炎黒塗りのベンツから
複写機が喉を詰まらせ年の暮
縦横に揃うバンドの白い息
王国は崩れ民意の空っ風
聖人を待つ歳晩の譜面台

角川書店「俳句」1月号 切字論
元朝や四半世紀の薄埃
後期高齢初東雲に染まりゆく
嫁が君影の長きは遠目にて
読初に巻き付いてくる切字論
鶏日の占卦は混沌の微光
初富士や異国は何を見て畏る
初薺電子ドラムのパラディドル
初霞かなデイヴィッド・サンボーン
押込を封じていたり鳥総松
松過の一句が古び雨催