秋尾 敏の俳句 2025年
軸4月号 重機病む 而今の一投春光の遥かに煙 傾ぐ電柱遠く春雪の雲は満ちて 三月を三月として重機病む 朧の夜紙ストローの後味は 春眠はあぶくとなって海の底 守谷吟行会 春寒の仁王草鞋をかき抱く 宮坂静生句集『鑑真』に 春陰の鑑真像が夢を告ぐ 世田谷吟行二句 戸袋に捌(は)けてゆきたる春障子 選択になき大学や初桜 軸3月号 乱気流 海が泡立つ菜の花の乱気流 春北風夢が大人になっている 見守りぬ俳句は薄氷のようで 舟歌を半音下げて朧の夜 峡谷の蛙はじめて人に遇う つみまし草出汁に沈めるふと無言 風向は自分で変える八重椿 ドローンは去り戦場の草青む 水底を歌う少女はつむじ風 軸2月号 針落とす 幸せの涙だろうか日向ぼこ 冬ぬくし雲は悟りの髭垂らす 冬の川無実の罪という翳り 冬ざれのものさし少し縮んだか 寒雷やベートーヴェンに針落とす 木枯に削りだされて妙義山 冬の月昔の鉄は音がよい 落葉みな黒ずんでおり総選挙 進路は消防音楽隊春を待つ 軸1月号 博多独楽 天保の長屋が見えて初明り 博多独楽思いの糸を昇りゆく 吉祥天か風花と名付けしは 肩書きのない空缶や木枯来 括られて古着は霜を吸い始む 冬の陽炎黒塗りのベンツから 複写機が喉を詰まらせ年の暮 縦横に揃うバンドの白い息 王国は崩れ民意の空っ風 聖人を待つ歳晩の譜面台 角川書店「俳句」1月号 切字論 元朝や四半世紀の薄埃 後期高齢初東雲に染まりゆく 嫁が君影の長きは遠目にて 読初に巻き付いてくる切字論 鶏日の占卦は混沌の微光 初富士や異国は何を見て畏る 初薺電子ドラムのパラディドル 初霞かなデイヴィッド・サンボーン 押込を封じていたり鳥総松 松過の一句が古び雨催 |