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●「Re-born はじまりの一歩」● ★★ |
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2010年12月
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こうした趣向の短篇集は手軽にいろいろな作家の味を楽しめる一方で、物足りなさが残るという面もあるので私は余り手を出さないのですが、これだけ私の好きな作家が揃うと手はついつい伸びてしまうという次第。 宮下奈都「よろこびの歌」と福田栄一「あの日の二十メートル」は、主人公の再出発を描く爽やかなストーリィ。とくに前者は合唱に関わる話で、ちょうど映画の「うた魂(たま)♪」とシンクロしたような観が私にはあって余韻が残ります。その続きを読みたいと思う典型的な一篇。 中島京子「コワリョーフの鼻」は、ゴーゴリの名作「鼻」をモチーフにした短篇。しかし、"鼻"と"始まり"がどう関係するのかまるで判りませんでしたけれど、そうかぁ、こう持ってくるか!という意外な面白さが魅力。 そして本書中、群を抜く印象を残したのが、豊島ミホ「瞬間、金色」。まさに短篇を超える圧倒感。 宮下奈都 「よろこびの歌」 |
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●「あのころの、」● ★★ |
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アンソロジーって、一冊で幾人もの人気作家の短篇を味わえる楽しみはあるのですが、一人一人の作家について言えばホンの少しだけで物足りない、という傾向があります。 ・窪美澄「リーメンビューゲル」 |
「エール!1」 ★★ | |
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“お仕事小説アンソロジー”第1弾。 およそ仕事となれば、辛いことや苦しいことがあって当たり前、責任ある仕事を果たすにおいて楽なことばかり、などということはまずありえないことでしょう。 本書6篇においても、それぞれの主人公は壁にぶつかり、これからどう進めばよいのかと悩みます。 それぞれの仕事への興味もありますが、仕事という共通項がある所為でしょうか、どのストーリィにも親近感が湧きます。 6篇の中で一番読み応えがあったのは、碧野圭「わずか4分間の輝き」。次いで大崎梢「ウェイク・アップ」、小路幸也「イッツ・ア・スモール・ワールド」。 上記3篇に共通するのは、これからどう自分は進めばよいのか、その覚悟を問われるような内容である、ということ。 それなりに楽しめたアンソロジー。このアンソロジーを目一杯楽しもうとするのなら、第2巻・第3巻と読み進んでいくべきなのでしょう。 適宜の機会に、読んでいこうと思います。 大崎 梢「ウェイク・アップ」−漫画家 平山瑞穂「六畳ひと間のLA」−通信講座講師 青井夏海「金環日食を見よう」−プラネタリウム解説員 小路幸也「イッツ・ア・スモール・ワールド」−ディスプレイデザイナー 碧野 圭「わずか四分間の輝き」−スポーツ・ライター 近藤史恵「終わった恋とジェット・ラグ」−ツアー・コンダクター |
「エール!2」 ★☆ | |
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気軽に楽しめるところが嬉しい、“お仕事小説アンソロジー”第2弾。 坂木司「ジャグジー・トーク」、スイミングインストラクターの苦労もいろいろですねー。長くプールに漬かっていると身体が冷えてしまう、というのは成る程と納得。 水生大海「五度目の春のヒヨコ」は、「ひよっこ社労士のヒナコ」収録の最初の篇。 拓未司「晴れのちバイトくん」は、若い女性の宅配ピザ店長が、仕事はできるが気遣いがなっていないというバイト青年に苦労させられる話。これはどこでも共通する悩み事だと思いますが、好転する契機となった事件が可笑しい。 垣谷美雨「心の隙間を灯で埋めて」は、垣谷さんらしい、短篇であってもぐっと心を掴まれる一篇。遺品整理と言いつつ過酷な仕事ですが、主人公の頑張りをちゃんと評価してもらえていたことが嬉しい。 光原百合「黄昏飛行」、光原さんはやはり好いなぁと唸らされる一篇。リスナーからの手紙から展開するやりとりに、ちょっとした謎解きの楽しみ。そして、新米女性パーソナリティーと局長との掛け合いにも絶妙の楽しさあり。 なお、舞台となる町は、<潮ノ道>です。 本書中、一番惹きつけられた篇です。 初野晴「ヘブンリーシンフォニー」、仕方がないからと頑張りすぎてしまう故の弊害。これも会社員には共通するネタですが、屋上のホームレスの正体には流石に驚かされました。 坂木 司「ジャグジー・トーク」−スイミングインストラクター 水生大海「五度目の春のヒヨコ」−社会保険労務士 拓未 司「晴れのちバイトくん」−宅配ピザ店店長 垣谷美雨「心の隙間を灯で埋めて」−遺品整理会社社員 光原百合「黄昏飛行」−コミュニティFMパーソナリティー 初野 晴「ヘブンリーシンフォニー」−OL |
「エール!3」 ★☆ | |
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各作家の持ち味が発揮して綴った、“お仕事小説アンソロジー”第3弾。 同期かつ親友が美術館学芸員のポストを見事に射止めたのと対照的に、穐山かれん・32歳は美術輸送会社の社員。2人を魅了したボッティチェッリ「ヴィーナスの誕生」が日本に到着したその現場で・・・。 消防士を目指す中村心晴が異動辞令を受けたその先は、東京23区の 119番通報を受け付ける受け付ける災害救急情報センター。何としてでも2年後に現場に戻ると決心しているのですが・・・。 冒頭「ヴィーナスの誕生」「心晴日和」の2篇は、如何にも原田マハさん、日明恩さんらしい、お二人ならではのお仕事小説。 これって一体、お仕事小説?と驚いたのが山本幸久「クール」。農業というお仕事小説というより、老人ばかりの過疎地を舞台にしたアクションエンターテインメントなのではないか。 なにしろ、お仕事小説というテーマがまるで頭から飛んでいましたから。 これこそ、山本幸久さんらしい、一歩飛び跳ねた面白さと言うべきか。 原田マハ「ヴィーナスの誕生」−美術品輸送・展示スタッフ 日明 恩「心晴(こはる)日和」−災害救急情報センター通信員 森谷明子「ラブ・ミー・テンダー」−ベビーシッター 山本幸久「クール」−農業 吉永南央「シンプル・マインド」−イベント会社契約社員 伊坂幸太郎「彗星さんたち」−新幹線清掃スタッフ |