窪 美澄
(くぼみすみ)作品のページ No.1


1965年東京都稲城市生、カリタス女子中学高等学校卒。短大中退後様々なアルバイトを経て広告制作会社勤務。出産後フリーの編集ライター。2009年「ミクマリ」にて第8回「女による女のためのR-18文学賞」大賞、2011年「ふがいない僕は空を見た」にて第24回山本周五郎賞、12年「晴天の迷いクジラ」にて山田風太郎賞、22年「夜に星を放つ」にて 第167回直木賞を受賞。


1.ふがいない僕は空を見た

2.晴天の迷いクジラ

3.クラウドクラスターを愛する方法

4.アニバーサリー

5.雨のなまえ

6.よるのふくらみ

7.水やりはいつも深夜だけど

8.さよなら、ニルヴァーナ

9.アカガミ

10.すみなれたからだで

やめるときもすこやかなるときも、じっと手を見る、トリニティ、いるいないみらい、たおやかに輪をえがいて、私は女になりたい、ははのれんあい、朔が満ちる、朱より赤く、夜に星を放つ

 → 窪美澄作品のページ No.2


夏日狂想、タイム・オブ・デス、デート・オブ・バース、夜空に浮かぶ欠けた月たち、ルミネッセンス、ぼくは青くて透明で

 → 窪美澄作品のページ No.3

 


   

1.

●「ふがいない僕は空を見た」● ★★☆  
            女による女のためのR-18文学賞・山本周五郎賞


ふがいない僕は空を見た画像

2010年07月
新潮社刊

(1400円+税)

2012年10月
新潮文庫化



2010/09/27



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R-18文学賞を受賞した「ミマクリ」は、高校生の主人公=斉藤卓巳が子供のいない主婦=あんずの元に通い、彼女が指定するままコスプレ衣装を纏い、セリフを言い、セックスに興じる、というストーリィ。
勿論不道徳極まる、とんでもない話なのですが、何処か明るくてユーモラス。豊島ミホ「青空チェリーを思い出させるような、まさしくR-18文学賞に相応しい一篇。
ことに「うすらぼんやりしたガキの典型的で健康的なセックスライフの道を大きく外れてしまったような気がする」という主人公の感慨ともいうべき一言、可笑しいのです。

それに続く他4篇は、主婦あんず、卓巳が好きで卓巳と初体験したいと望む女子高生=松永七菜、卓巳の親友=福田良太、助産婦をしながら女手一つで卓巳を育ててきた母親、を各々主人公にした「ミクマリ」の周辺記。
「ミクマリ」と同じようなストーリィかと思うと、これがもうとんでもない。それぞれ切実な時間を送っているのです。
あんずもそうですが、それ以上に福田良太、若くして過酷な日々を送っていると言って過言ではありません。
この2人を見ていると、生きることと自暴自棄になることはまさしく紙一重、と感じさせられるのです。
そんな日々を何とか凌いで生きている。その圧倒力たるや、新人作家とはとても思えない迫力、濃密さがあります。

セックスは出産に相通じ、産む苦しみは生きる苦しみに相通じるのかも。
助産婦である卓巳の母親、その助手のみっちゃんが扱う出産風景を見ていると、生きる上で苦しむのは当たり前、それこそ生きることと、という肯定的な気分になります。
新人作家故、見過ごされてしまいがちと思いますが、是非読んでみてほしい一冊。

ミクマリ/世界ヲ覆フ蜘蛛ノ糸/2035年のオーガズム/セイタカアワダチソウの空/花粉・受粉

             

2.

●「晴天の迷いクジラ」● ★★☆        山田風太郎賞


晴天の迷いクジラ画像

2012年02月
新潮社刊

(1500円+税)

2014年07月
新潮文庫化



2012/03/12



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ふがいない僕は空を見たも現代的と思いましたが、本書はそれ以上に、現代社会だからこそのストーリィ。
もう死んでしまった方が楽かもしれない、という状況に追い込まれた3人が、再び一歩踏み出そうとする迄のストーリィです。
 
昔だったら貧困が生きるうえでの苦しい理由だったのかもしれませんが、現代社会ではどうなのでしょう。
家庭環境、職場環境、人間関係といったところが大きな理由でしょうか。現代サラリーマンの精神的病の一つとしてよく聞くようになったうつ病もその一例かもしれません。
本書の主人公は3人。20代半ばの
田宮由人は零細デザイン会社に就職、過酷な勤務状況の中で恋人に浮気され捨てられ、今やうつ病の薬を手放せなくなっている。
その会社の社長である
中島野乃花は40代、不幸な結婚から逃れ出て都会でひとり奮闘してきたものの、今や倒産の危機。
10代少女の
篠田正子は、過剰な母親の干渉に耐えかねて引きこもり、ついに家を出てきたという状況。
そんな3人が偶然の出会いを経て、ニュースで報道されていたクジラを揃って見にいくというのが第4章。
湾に入り込んで出られなくなったクジラは象徴的な存在です。

学校や職場で孤独な状況に置かれるのも辛いでしょうが、もっと辛いのは家庭の中でそうした状況に置かれることではないか。何故なら、それはもう逃げ込む場所がないということだから。
本書主人公の3人、大なり小なりそうしたところがあります。
極限まで追い込まれたとき、どうしたら自分自身を救うことができるのか。本書においてそれは、由人が辿り着いた悟りであり、正子の決断であり、野乃花の原点復帰であろうと思います。

辛い状況の中でも一筋の希望を見い出せるストーリィ。ふと心の中が温くなり、勇気づけられる気がします。お薦め。

ソラナックスルボックス/表現型の可塑性/ソーダアイスの夏休み/迷いクジラのいる夕景

            

3.

●「クラウドクラスターを愛する方法」● ★★


クラウドクラスターを愛する方法画像

2012年10月
新潮社刊

(1200円+税)

2015年11月
朝日文庫化



2012/11/05



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崩壊する家族、その影響を受けざるを得ない子供たちの姿を描いた2篇。
表題作の主人公は、30歳を目前に控えた大晦日、3年も同棲関係にある相手=
向井君と喧嘩して出て行かれてしまう。ただし、元々その部屋は向井君の家で主人公の方が居候なのである。
12歳の時母親が家を出奔、専門学校を卒業してやっと自分も家を出たものの、才能がこれといってある訳でもないイラストレーター、住まいを他人に依存しながらずっとカツカツで食いつないできた。
そして正月の3日間、13歳年下の男性と再婚した母親の中古マンション、叔母が今も一人で住む母親の実家を、まるで放浪するかのようにして過ごす。
何故主人公はこんなにも自信なさげなのか、自虐的なのか。突き詰めていくと、その原因は自分の居場所を持てないでいる所為ではないか。家庭の崩壊、その傷は実母より主人公の方が余っ程深く負っているように思えます。家族の存在とは。改めて私自身にも問いかけたくなるストーリィ。
表題の
「クラウドクラスター」とは、積乱雲のかたまりのこと。
そんな主人公にあって、彼女を気にかけてくれる近しい人の存在が、どれだけ救いになることか。

「キャッチアンドリリース」も、両親の離婚等により崩壊した家庭、その子供たちの今を描いたストーリィ。の家は父親が出て行き、莉子の家は母親が出て行っている。自分たちを守ってくれる存在が欠いてしまった喪失感、その荒涼とした心象風景は余りに痛ましい。

クラウドクラスターを愛する方法/キャッチアンドリリース

         

4.

「アニバーサリー」 ★★☆


アニバーサリー画像

2013年03月
新潮社刊

(1500円+税)

2015年08月
新潮文庫化



2013/04/15



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03.11東日本大震災以来、作品の中で震災について描く作品が多くなりました。本書はまさに03.11その日から始まるストーリィ。

本作品には対照的な3人の女性が登場します。
昭和10年生まれで、主婦の傍らマタニティスイミングの指導員を続けてきた
晶子78歳。ごく普通の主婦だったのにマスコミに取り上げられ美人料理研究家として評判になった平原真希、その真希の娘で親に構われないまま育ち今はカメラマンとなった昭和55年生まれの平原真菜
ただし、平原真希は登場人物の一人に過ぎず、主人公となるのは晶子と真菜の2人。
本作品は3章構成。第一章は晶子の、第二章では真菜のこれまでが描かれ、第三章において2人の関わり合う姿が描かれます。

世代によって様々に異なりながら共通して感じるのは、女性たちの戦い。晶子は専業主婦として、真希はカリスマ女性として、そして真菜は足掻くように自分の生きる道を求めて。
そこに於いて男性の存在は希薄というより、むしろ仮想的敵であるかのように感じられます。
とくに男は外に出て、女が家を守るのが当然と言う時代を78年に亘って生き続けてきた晶子の人生を描く第一章は、重量感たっぷり。
その晶子が極めて母性本能の強い女性であるのに対し、家庭の愛情を知らぬまま何の意味もなくセックスを重ね、何の意思もないままに未婚の母となった真菜。そんな真菜が子を産むやいなや、その子を危険から守ろうと懸命になる姿は、一人の母親の姿として強く印象に残ります。女性たちのこうした姿によって生命は受け継がれてきたのかとつくづく感じる次第。
また、その真菜に対して晶子が、自分たちの所為だと詫びる処もまた忘れ難い場面。

厳しい時を乗り越えてごく普通に生きた、女性たちの強さを描いた物語。最後は胸の温かくなる思いです。

     

5.

「雨のなまえ」 ★★


雨のなまえ画像

2013年10月
光文社刊

(1400円+税)

2016年08月
光文社文庫化



2013/11/15



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本書収録の5篇において、主人公たちはいずれも望まない“今”を送っている。
さぞ不本意な生活なのでしょう。それも自分でどうにかできるものではない。様々なしがらみに縛られての今があり、人の思惑に左右されているところもある。
はっきり言ってしまえば、どの主人公も自らの力で道を切り拓こうというまでの気力も根性もない、という風です。だからこそ、どこまでも鬱屈した気分が全篇を覆っています。

しかし、結局は各人の心の持ちよう次第ではないのか。切り拓いていこうとする決意が固ければ明るい面を見ようとするでしょうし、どうにもならないと思い込んでいるからどこまでも暗いとしか感じられないのではないか。
現代社会に潜む一面を極端な視点に立って描いた短篇集、と言えそうです。これだけ陰鬱だとかえって心の底に居座り、忘れ難い印象を残したように感じます。

「雨のなまえ」の主人公は、妻の妊娠中に他の女との浮気を続ける若い男。ついには板挟みとなり・・・。
「記録的短時間大雨情報」の主人公はパート主婦。勤務先のスーパーで若い男子学生バイトに心惹かれます。
「雷放電」の主人公は、誰もが羨む美女と結婚した不細工なサラリーマン。さてその行き着いた先は・・・。
「ゆきひら」の主人公は、イジメにあっていた同級生の女子を見過ごし死なせてしまったという悔恨を今も引きずる教師。後悔を繰り返すまいと決意するのですがその結果は・・・。
「たたかい雨の降水過程」の主人公は、夫と離婚し息子を2人で生きて行こうと決意した女性。でもその結果は・・・。

雨のなまえ/記録的短時間大雨情報/雷放電/ゆきひら/あたたかい雨の降水過程

           

6.

「よるのふくらみ」 ★★


よるのふくらみ画像

2014年02月
新潮社刊

(1400円+税)

2016年10月
新潮文庫化



2014/03/21



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同じ商店街で育った3人=みひろ圭祐・裕太兄弟間の愛の行方を、交互にそれぞれ3人を主人公にして描いた連作風恋愛小説。

「なすすべもない」は、保育士をしているみひろが主人公。
現在、圭祐と同棲中。高校の時に圭祐から告白されて以来の仲で、親たちも認めて結婚も視野に入っている2人だが、目下のみひろの悩みはセックスレスの状況が長く続いていること。
毎月定期的に訪れる欲情を持て余すみひろだったが、かつて男と出奔して「いんらんおんな」と悪口を言われた母親のことがトラウマになっている。しかし、ついに欲情を抑えきれなくなったみひろが取った行動は・・・・。
「平熱セ氏三十六度二分」裕太が主人公。みひろをずっと想っていたが、タッチの差で圭祐にみひろを奪われたという経緯。地元不動産屋で働く中で、部屋を探しに来たバツイチ女性=小笠原とその息子ショウ母子といつしか関係を深めていく・・・・。
「星影さやかな」圭祐が主人公。何故今の圭祐に至ったのか、その原因と思える過去の出来事が描かれます。

後半の3章も、前半と同様に上記3人を順次主人公にして語られます。差し詰め、前半3章で3人それぞれが抱える問題を描いたとすれば、後半はその行き着いた先を描いた、という風。
群像小説とも、この3人だからこその恋愛小説とも言えない気がします。
つまりは、想いがあってもセックス抜きで2人の関係は成就しないし、セックスがあれば十分ということでもない。その一方、セックス抜きでも友だちとして繋がり合うことはできる、そうした姿が本書6篇から浮かび上がってきます。
足りないものを補い合える関係、その何が足りないかを探して人は逡巡する、とも言えるのではないか。その点において本ストーリィは普遍性を持っていると言って良い。
本作品において作者は、上から目線ではなく、あたかも3人に寄り添うよう。そしてそれは読み手に於いても同様です。
だからこそ最後、圭祐に対しても決して悪感情は残りません。そこが本作品の気持ち良く読み終えられる理由でしょう。

なすすべもない/平熱セ氏三十六度二分/星影さやかな/よるのふくらみ/真夏日の薄荷糖/瞬きせよ銀星

               

7.

「水やりはいつも深夜だけど」 ★★☆


水やりはいつも深夜だけど画像

2014年11月
角川書店刊

(1400円+税)



2014/12/09



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幼稚園に通う幼い子供をもつ、ごく普通の夫婦たちの、ささやかな家族ドラマを描いた短篇集。

夫婦となること、それはまだ恋人という関係の延長線上にある関係と言えるでしょう。でも初めて子供を持ち、母親となり、父親となることはそんな単純なことではない筈。今までとは全く違う状況をいきなり押し付けられること、と言って良いのではないでしょうか。
器用にそれを乗り切ってしまう人もいるのでしょう。でも私のように不器用な人間にとっては、そうすぐ適応できるものではないし、現にできなかったと言う他ありません。そして、それを乗り切れるかどうかで、人生は大きく変わってしまうもの、と思います。

本短篇集に登場するのは、子供を持った後にそうした壁にぶつかってしまった人たちであり、描かれるのはそうしたささやかな夫婦あるいは家族のドラマです。
ママ友たちに神経をすり減らす専業主婦(
ポーチュラカ)、子供を産んで以来妻が義父母の方ばかり向いていて夫である自分の気持ちを無視していると感じている夫(サボテン)、娘が知的障害児だった妹の様になるのではないかという怖れを捨てられないでいる妻(ゲンノショウコ)、妻が子供にかかりっきりで寂しさを感じている夫(テラリウム)。
そして最後の
「かそけきサンカヨウ」のみ、幼い頃に両親が離婚して父親と2人きりで暮らしてきたのに、父親が再婚して義母と新しく妹ができた女子高校生が主人公。

どれも切なく、どれも限りなく愛おしいストーリィ。作者の温かく包み込むような視線が、とても味わい深い。

好きだなぁ。その一言に尽きます。

ちらめくポーチュラカ/サボテンの咆哮/ゲンノショウコ/砂のないテラリウム/かそけきサンカヨウ

             

8.

「さよなら、ニルヴァーナ ★★


さよなら、ニルヴァーナ

2015年05月
文芸春秋刊

(1500円+税)

2018年05月
文春文庫化



2015/06/26



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14歳の時に見知らぬ7歳の少女を残酷に殺害した「少年A」
それから15年後、少年Aは医療少年院を出所して何処かで生きている筈。
その少年Aによって人生を変えられた、あるいは変えてしまった人々のドラマを交錯させて描く長編小説。

書けども書けども自作小説が認められず仕方なく実家へ戻った
今日子34歳は、少年Aを題材に小説を書こうと彼の存在を探り始めます。
孤独から少年Aに惹きつけられた女子高生の
は、いつしか「ハルノブ様の聖地巡礼」から抜け出せなくなってしまう。
少年Aに殺害された女の子の家族(両親と弟)は未だその衝撃と喪失感から抜け出せないでいる。母親の
なっちゃんは止むに止まれずある一歩を踏み出しますが・・・。
そして少年A自身、彼は当時どんな状況に置かれ、そして現在どんな思いでいるのか・・・。

被害者家族は別として今日子、莢、少年A共、どこか人と繋がる輪を欠落しているのではないかと感じられます。
そうであれば、少年Aの事件は決して特別なものではなく、再び繰り返される恐れの大きい事件と言うべきなのかもしれません。その時、彼らと何の関係もないごく平凡な家族が、人生を大きく変えられてしまうことになります。
現代は、そんな危うさを孕んだ社会なのでしょうか。

1.いつか王子様が/2.スイートリトルセブンティーン/3.あくまをあわれむうた/4.霧と炎/5.ボーイミーツガール/6.アバウト・ア・ガール/7.磁石の裏側/8.ただいま。/9.甘い運命/10.終曲

       

9.
「アカガミ ★☆


アカガミ

2016年04月
河出書房新社

(1400円+税)

2018年10月
河出文庫化



2016/05/07



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今回はちょっとかなァという気がしていたのですが、その予感が心ならずも当たった、と感じた次第。

本書の舞台設定は近未来の2030年。
若者たちは恋愛や男女交際、セックスにまるで興味を失い、街中にも出掛けず内に籠ったような暮らし方をしている。
将来への危機に対応して国が自ら立ち上げたのは、公的制度としての
お見合い制度「アカガミ」
勧められてアカガミに応募した
ミツキ25歳は、割り当てられた団地の部屋で番われた相手=やはり応募者の青年サツキと一緒に暮らし始め、やがてお互いに愛情を抱き、次いでまぐわい、妊娠・出産と新しい家族作りの行程を進んでいくのですが・・・・。

まぁ現在の延長上に近未来社会があると思えば、上記世相も絵空事とは思えませんし、国や自治体が結婚仲介に乗り出すのも否定するつもりはありません。
主人公のミツキとサツキが、自分に恋愛やセックスができるのだろうかと不安に立ち向かいながら前へと足を踏み出そうとするところ、2人の間に恋愛感情が芽生えていく辺りは新趣向のラブストーリィとも感じられて、それなりに読み応えがあります。
しかし、距離を置いて眺めると、まるで動物園で飼育している動物を番わせて子を産ませようとしているように感じざるを得ません。

最後は思いがけない結末と「アカガミ」という名称の意味が明らかにされますが、率直に言って尻切れトンボで終わってしまった観があります。その点が残念。

                   

10.

「すみなれたからだで ★★


すみなれたからだで

2016年10月
河出書房新社

(1400円+税)

2020年07月
河出文庫



2016/11/08



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自分ではどうしようもない人生の厳しさと、それでも生きていくという強さを感じさせられる短編集。

主人公たちの人生、総じて、決して順調な訳ではありません。でも、その中で出来るだけのことはして生きてきたのでしょう。
否応ない面があり、それは誰の所為ともいえないけれど、全て自分で引き受ける他ない。
だからといって人生が終わったわけではない、人生はまだ続いているんだ、という強さを感じます。
感動がある訳でも、歓迎したいストーリィでもありませんが、主人公たちのしたたかさと、作者の思いの強さが印象的です。

「父を山に棄てに行く」:山中にある介護施設に父親を入所させた子持ち女性が抱える思いを描く。
「インフルエンザの左岸から」:ろくでなしの父親の葬儀を全うした兄弟の今。
「猫降る曇天」:飲み屋で知り合った美人との束の間の関係。彼女の正体は・・・。ちょっと艶美。
「すみなれたからだで」:年頃になった娘をもつ専業主婦の、自らの夫婦関係に対する思い。
「バイタルサイン」:作家へと駆け上がっていく母親に取り残されたような、娘と義父との関係。
「銀紙色のアンタレス」:海辺に近い町に住む祖母の家を夏休みに訪れた高校生が知る、年上の女性への思慕。
 ※コレットの名作
青い麦を思い出しました。
「朧月夜のスーヴェニア」:孫娘にダメ扱いされる老女の、戦時中に経験した焦げ付くよう恋への回想。
「猫と春」:主人公と同棲相手、さらに拾った猫という3者関係を描く。私としては好きな篇。

父を山に棄てに行く/インフルエンザの左岸から/猫降る曇天/すみなれたからだで/バイタルサイン/銀紙色のアンタレス/朧月夜のスーヴェニア/猫と春

  

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