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1.うさぎパン 2.白雪堂(文庫改題:白雪堂化粧部マーケティング部峰村幸子の仕事と恋) 3.失恋天国 4.乗りかかった船 6.虹にすわる 7.女神のサラダ 9.さよなら校長先生 |
●「うさぎパン」● ★★ ダ・ヴィンチ文学賞大賞 |
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2011年02月
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高校1年の優子が主人公。 それまでの私立女子校から一転して共学の高校に進学。そこから優子には様々な出会いが始まります。 まず家庭教師の美和ちゃん。1学期の成績が思いがけず悪かったことから、義母のミドリさんが今は亡き実母の聡子さんに申し訳ないと家庭教師をつけた次第。 ついで、自己紹介で「好きなものは、パン」と答えたことがきっかけとなって、毎週一緒にパン屋めぐりツアーをすることになった同級生の富田くん。 そして、なんと優子が3歳の頃亡くなった実母の聡子までが蘇って・・・・。 のんびりと優しく、温かい、ささやかな優子の成長物語です。 ただ、美和ちゃんと恋人・村上さんのこと、聡子の話によって初めて明らかになる父親と聡子、ミドリさんのこと。それら大人の部分について語り不足という物足りなさが残ります。 |
●「白雪堂」● ★☆ |
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2013年01月
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中堅化粧品会社「白雪堂」を舞台にした、お仕事小説。 主人公は、今年度入社の新入社員、マーケティング部に配属された峰村幸子。 白雪堂は「シラツユ」というロングセラー商品のおかげで安定した業績を維持してきているものの、顧客層が高齢化するに伴い売り上げは減少傾向。 お仕事小説といっても軽い感じに仕上がっています。 |
「失恋天国」 ★☆ | |
2018年06月
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8年間交際して来月には挙式という段階で突然別れを通告された雛子28歳が主人公。 会社にも退職願い済、マンションも期限到来を期に退去を通告済とあって、結婚も仕事も住む場所も一気に失って呆然という雛子に届いたのは、「失恋学校」の入学案内。 どうもこの種の学校が国家プロジェクトの一環になっているらしい。 年数は1年、美味しい食事もついた全寮制で、費用はというと驚く程安い。そのうえ16〜39歳の生徒は奨学金も可という具合。 失恋してショックを受けた女性のための1年間に亘る学校という着想が面白いと興味を持ったものの、ストーリィとしては特に奇抜なものになることはなし。 過去の恋愛に気持ちの上でもケリを付け、新たな恋愛に向かい合うための心構えと勇気を持って貰おうというストーリィ。 さて雛子、ショックから立ち直り、新たな恋愛を手に入れることができるのか・・・。 雛子の他に同室となった、産休ならぬ“失恋休職”中のキャリアウーマン=貴和子35歳、幼馴染の三角関係に敗れたのエミリ19歳等々、老若取り混ぜ様々な失恋女性たちの姿を織り合わせた群像ストーリィとなっているところが楽しい(と言っては不謹慎かもしれませんが)ところ。 どちらかというと女性向きストーリィと思いますが、鏡で写し返れば男性にも十分通じる話。 男性にしても女性にしても現代日本社会の様子を見る限り、結婚が中々成立しにくい世の中になっているように感じます。国家的プロジェクトが発動されるというのも、そう非現実的とは言えないかもしれません。 |
「乗りかかった船 as long as we have come this far」 ★★ |
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神奈川県に本社兼造船所をおく中堅造船会社“北斗造船”を舞台にした、群像劇スタイルによる連作風<お仕事小説>。 7篇とも人事異動絡みのストーリィです。 ・「海に出る」:理系学部出身だというのに入社して配属されたのは営業部。やっと遣り甲斐を感じるようになったのに、5年経ってこんどは人事部。これって・・・? でも、人事部長の一言が野村雄平の目を開きます。 ・「舵を切る」:社内不倫の末に人事部から建造部組立課に異動し、今は溶接現場で働く佐藤由美。彼女にとって異動はプラスだったのかどうか・・・。 ・「錨を上げる」:宮下一海、社内公募制度に応募しようかどうか迷っている。その心の内は・・・。 ・「櫂を漕ぐ」:一人で仕事に集中するのが好きな川瀬修。今回の異動で開発第三課長に昇格するのですが、胸中はいろいろと複雑・・・。 ・「波に挑む」:今回の異動で抜擢され、事業戦略室長に任じられた村井玲子。仕事のために頑張ろうとすると障壁も多い。そんな時、玲子を勇気づけてくれた言葉とは・・・。 ・「港に泊まる」:事業戦略室長から北海道の造船所長へ辞令を受けた九州男児の太田武夫。単身赴任というのも侘しい。そつなく実績を上げてここまで昇進してきたというのに何故? そう思う気持ちが抑えられず・・・。 ・「船に乗る」:北海道の造船所長から今回の異動で社長に昇格した北里進が主人公。社長職を応諾するまでの経緯は・・・。 造船所という舞台は特殊ですが、それを除けば、会社員の宿命である人事異動絡みとしては普遍的なストーリィだと思います。 印象的なのは、この会社の従業員に対する温かさ、柔軟さです。 こうした雰囲気がある会社なら(全部が全部ではありませんが)、さぞ働き甲斐があり、働く楽しみもあるだろうなぁと、羨ましさを覚えます。 そう、人事異動が自分にとってプラスかマイナスか。それは自分の気持ち次第、でもあるのですよね。 ※それにしても倉内人事部長、いい意味で油断なりませんねー。 海に出る/舵を切る/錨を上げる/櫂を漕ぐ/波に挑む/港に泊まる/船に乗る |
「ありえないほどうるさいオルゴール店」 ★☆ | |
2021年02月
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北国の、小さな町にあるオルゴール店。 そこでは心の音楽が聞こえるという店主が、訪れた客のために、その心に流れる音楽をオルゴールに仕立ててくれます・・・。 ふと通りかかった人が何の店だろうかと、ドアを開けて店内に足を踏み入れると、優しく店主が声を掛けて客を店の中へと誘ってくれます。 そして、お任せいただければ相応しい曲を用意できます、「お客様の心の中に流れている曲を聴かせていただいて、それを使います」と。 はっきりしたドラマの起承転結がある訳ではありません。どこかふわふわした感じなのですが、最後までそのふわふわ感のままに終わってしまった、という観があります。 各章毎に、主人公である客は異なります。 変わらないのは、オルゴール店の店主と、その向かいにある喫茶店のマスター、注文されるとコーヒーを届けに行く若い店員の瑞希ちゃん。 その瑞希ちゃんがどうもオルゴール店の店主に淡い恋心を抱いているらしい。そんなふとしたことが本連作ストーリィを彩づけているようです。 最後、余韻を残す処は素敵ですが、ストーリィとしてはあっさりとしたまま終わってしまったなぁというのが読後感。 よりみち/はなうた/おそろい/ふるさと/バイエル/おむかい/おさきに |
「虹にすわる」 ★★ | |
2022年08月
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老いて一人暮らしとなった祖父を気遣い、東京の住宅ホーム会社を退職して故郷の田舎に戻り、修理屋を手伝っているのが、主人公である徳井、もう30歳。 その徳井の前に突然現れたのが、大学で1年後輩だった魚住。大学で建築学科、造形学科と学科は異なりながら2人が親しくなったのは、椅子作りの実習を共にしたことから。 その魚住、せっかく就職した有名な家具工房を辞めてきた、一緒に椅子工房を立ち上げようと、一方的に徳井に迫ります。 祖父が了承して魚住は徳井家に居候、作業場を片づけて工房の形を整え、早速椅子づくりに乗り出します。 しかし、大学当時からデザイン力はあるが技術が伴わないと評価されていたのが魚住。それと対照的に、技術力はあるがデザイン力が不足と評価された徳井、魚住に押しまくられるまま椅子づくりを始めるのですが、その作業が結構楽しい。 性格的にも、楽天的で猪突猛進型の魚住に対し、慎重すぎて心配ばかりし行動に移せない徳井。だからこそぶつかり合うこともあるのですが、お互いに補い合うところもある、という設定が楽しい。 そんな2人に寄り添うかのような2人の恋人?の登場もあり、多少ドタバタしながらも和気藹々した雰囲気が楽しいかぎり。 自分のやりたいことを、一緒にやりたい奴とやる、そのうえ自分たちを応援してくれる人が近くにいる・・・これ以上良いことはないように思います。 場所が東京ではなく田舎だろうと、そんなことはもう重要ではないし、むしろ田舎だから伸び伸びやっていける、そう感じます。 ただし、かなり夢物語的です。徳井が心配することの方が現実的でしょう。 でも夢があってこそ楽しい。夢を持とうよ、というのが本作から感じるメッセージ。 そう、楽しさあってこその人生と、4人を応援したい気持ちになります。 |
「女神のサラダ」 ★★☆ | |
2024年05月
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全国各地、様々な農場あるいは自家の畑で農業に従事する女性たちの姿を描いた短篇集。 題名からは、最近多いグルメをテーマにした短篇集かなと感じたのですが、あにはからんや農業がテーマ。 高齢化、コスト高、貿易自由化、自給率低下と、長らく農業の先行きは真っ暗としか思えない状況が続いていますが、本書を読むと日本の農業に再度期待したい、(コロナ影響もあり)将来的な可能性も十分に有り、と思えてきます。 ここでも可能性を担ってくれるのは、男性より女性でしょうか。 大地、自然を相手にする農業がテーマである所為か、伸び伸びとした爽快さが感じられる短篇集になっています。お薦め。 ・「夜明けのレタス」:システム会社SEから農業法人に転職した沙帆。しかし、転職を母親に告げられず・・・。 ・「茄子とコーヒー」:てきぱき動けない性分の真里亜。でも、大叔父の作る美味しい茄子のことなら一生懸命に。 ・「本部長の馬鈴薯」:時間潰しにと頼まれて農業法人に迎え入れた元商社の本部長=斎藤氏。でも苛々が募るばかりに。 ・「アスパラガスの花束」:全寮制の農業大学校に入学した葉月。しかし、3人の同期生と少しも合わず・・・。 ・「レモンの嫁入り」:思いがけず都内OLから農家の嫁となった美優。自分なりに役立とうとしたのですが義父が怒り・・・。 ・「月夜のチーズ」:離婚して息子の大和と共に実家の牧場に戻った佐智子。息子にとって何が良いのか迷う日々・・・。 ・「オリーブの木の下で」:小豆島で一人暮らし、時々収穫の手伝いという老女=光江が思うのは、若い頃のレオとの恋。 ・「トマトの約束」:トマト作り、コック、将来の夢を約束し合った幼馴染=夏実と隼人が22年ぶりに再会したとき・・・。 夜明けのレタス(群馬県昭和村・高樹農場)/茄子とコーヒー(岡山県備前市・横尾農園)/本部長の馬鈴薯(北海道京極町・新美牧場)/アスパラガスの花束(長崎県諫早市・いさはや農業大学校)/レモンの嫁入り(和歌山県広川町・織田果樹園)/月夜のチーズ(岩手県葛巻町・森牧場)/オリーブの木の下で(香川県小豆島町・高山オリーブ園)/トマトの約束(石川県小松市・須知トマトファーム) |
「あなたのご希望の条件は」 ★★ | |
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主人公の千葉香澄は、転職斡旋会社<ピタキャリア>の転職エージェント、40歳、バツイチ。 ピタキャリアに依頼してきた、男女を問わず、年代も事情も多様な転職希望者たち。 香澄が彼らに転職のサポートをする様子を描きながら、転職模様とその小ドラマ、そして香澄の個人生活もちょっと挟みながら描く、お仕事小説+香澄の人生ドラマ、といった観あるストーリィです。 私はひとつ企業にずっと勤めてきましたので転職経験も、転職を相談した経験もありませんが、決して無縁だった訳ではありません。経営状況が悪化したときは中途退職者の募集があり、転職会社の説明会に出席したこともあり、実際に転職した同僚も数多くいましたので。 ストーリィは、1月から12月まで、主人公である香澄の仕事生活が落ちついた語り口で描かれていきます。 展開は地味で、主人公の香澄においても大きな人生ドラマがある訳ではありませんが、転職希望者たちに対する香澄の、丁寧で誠実、本当の希望者たちのために尽くそうと向かい合っている姿が印象的で、好感を抱きます。 そうしたことによって、仕事とは、利益を上げればいい、実績を上げればいい、会社のためにさえなればいい、というものでは決してないことを諭されている気がします。 なお、香澄も相談を持ちかけたりする相手、対話型AI=ソフィアの存在が秀逸。感情に寄らず分析結果に基づくソフィアの回答は、時に意表を突いてハッとさせられるところがあります。 お薦め! |
「さよなら校長先生」 ★★ | |
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第三小学校の元校長で、定年後も教育関連で長く地元で活躍された高村正子先生が亡くなる。 その報を受けた人たちが、かつて高村先生と関わった頃のことを思い出し、温かい気持ちになる、連作ストーリー。 いつも子どもたち一人一人のことを考え、温かく見守っていた高村先生、皆から好かれ、敬愛されてきた高村先生の人柄が、各章主人公の思い出から浮かび上がって来るようです。 ただし、実娘となると、またそこは違った思いがあるようです。そこは先生と母親の違いということで、高村先生も例外ではなかった、ということでしょう。 そのことにかえって、高村先生もごく普通の人であった、ということを認識します。 静かで温かな連作ストーリー。とても気持ちの良い作品です。 ・「コンパス」:小一の孫娘から高村先生の訃報を知った梅本信介。彼女は、信介が小一の時の担任教師、大学を卒業したばかりの平野先生だった。 ・「連絡帳」:病弱で発達が遅かった息子のため、過保護かつ神経質だった明代に、高村先生は適確な助言をしてくれた。 ・「うちわ」:男性アイドルグループの地方公演で高村さんと知り合い、ファン仲間となった希実。高村先生の意外な面が知れて楽しい。 ・「スーツ」:一人娘の沙智、カナダ留学してそのまま現地男性と結婚、今はカナダ居住。母親への想いは・・・。 ・「こんぺいとう」:涼花 9歳。祖母に誘われ、その友達だという高村さんに会う。高村さんは大事なアドバイスをしてくれる。 ・「深呼吸」:教師の小田忠司は<高村先生を偲ぶ会>開催準備に奮闘中。高村先生が校長だった時、小田は教育実習生だった。その時の高村先生の言葉が今も忘れられない。 1.コンパス/2.連絡帳/3.うちわ/4.スーツ/5.こんぺいとう/6.深呼吸 |