坂木 司作品のページ No.1


1969年東京都生、学歴・性別不詳。2002年「青空の卵」にて覆面作家としてデビュー。作品は、「青空の卵」に始まる、ひきこもり探偵=鳥井とその友人である坂木司が活躍する“ひきこもり探偵”シリーズで注目される。13年「和菓子のアン」にて第2回静岡書店大賞・映像化したい文庫部門大賞を受賞。


1.
切れない糸

2.シンデレラ・ティース

3.ワーキング・ホリデー

4.ホテルジューシー

5.夜の光

6.短劇

7.和菓子のアン

8.ウィンター・ホリデー

9.大きな音が聞こえるか

10.ホリデー・イン


肉小説集、何が困るかって、アンと青春、女子的生活、おやつが好き、アンと愛情、楽園ジューシー、ショートケーキ。、アンと幸福、うまいダッツ

  坂木司作品のページ No.2

  


  

1.

●「切れない糸」● ★☆


切れない糸画像

2005年05月
東京創元社刊

2009年07月
創元推理文庫

(880円+税)



2009/08/10



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父親が急死し、大学卒業前にもかかわらず就職先が決まっていなかった主人公=新井和也は、いきがかりから家業のクリーニング店を継ぐことになります。
様々な顧客から衣料のクリーニングを請け負うこの稼業、知らず知らずの内に顧客の個人的事情も窺い知ることになる。
そんな和也が幾度か直面する日常ミステリ、という趣向の連作短篇集。

ただし和也は、クリーニング屋という稼業の関係から、否応なく謎を拾い集めてしまうという役回り。探偵役は、同じ商店街にある喫茶店でバイトする大学の友人=沢田直之です。
さてその日常ミステリですが、率直に言って余り大したことはない。
4篇の中では、同じ商店街にある不動産屋の娘で同学年生でもあった糸村麻由子に関わる謎を解明する「東京、東京」、クリーニング屋だから解き明かせるミステリという点で評価したい。

実のところミステリという面ではそれ程のことはありませんが、クリーニング業という業界知識に触れるのも、家事には疎い私にとっての面白さ。
また、やむなく継いだ家業に対する顧客の信頼を感じ、いつしか仕事にやり甲斐を見い出すという青春+お仕事小説部分、
頼まれると相談事には応じるが誰とも友人関係を築いていないという沢田と和也の青春+友情小説部分こそが、本短篇集の読みどころ。

和也、沢田のほか、アライクリーニング店の貴重な戦力であるアイロン掛けの名人=ヒデさんの人物像が、日常ミステリ小説という趣向を越えて魅力的。
なお、久々に若いメンバーを迎えて喜ぶ商店街の面々、そんな小さな町の商店街の良さも見逃せません。

プロローグ/グッドバイからはじめよう/東京、東京/秋祭りの夜/商店街の歳末/エピローグ

     

2.

●「シンデレラ・ティース」● ★★


シンデレラ・ティース画像

2006
09月
光文社刊
(1500円+税)

2009年04月
光文社文庫化



2007/11/19



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女子大生の叶咲子は歯医者が大っ嫌い。あのキーンというドリルの音を聞くと、足が震えてしまう程。その咲子が母親の勧めてくれた好条件のバイト先に向かうと、なんとそこは叔父・唯史の勤める歯科クリニックだったとは!
呆然と立ちすくむうちに次々とスタッフに温かく歓迎されてしまい、そのまま咲子は受付のバイトを始めることになります。
そんな咲子のひと夏のバイト青春記in歯科クリニック。

各篇のミソは、品川デンタルクリニックを訪れる患者さんのちょっとした奇矯な振る舞い。その理由は何なのか、という歯科クリニックならではの謎解きが各篇の面白味です。
そして本書全体を通しての面白さは、叶咲子の成長ストーリィにあります。単なるバイトから、患者に指摘されて歯科に関する知識を積極的に得ようと姿勢を改め、そしてついには自分の“歯科治療恐怖症”を克服します。
おまけに、意図しなかったまでもちゃっかりと恋人まで手に入れるのですから、咲子としては存分にお得なバイトだったと言えるでしょう。
ただ、「ホテルジューシー」を読んでしまった後なので、パワフルな柿生浩美と比べると、可愛くて気弱な女の子といった印象ある咲子の物語は、クリニックのスタッフが皆個性的ながらも好人物ばかりという環境もあってやや物足りない感じがしてしまう。
これから読む方には是非「シンデレラ・ティース」を読んでから「ホテルジューシー」に進まれることをお薦めします。

なお、誰しも歯科医院はあまり好きではない筈。本書を読んで多少歯科治療への理解は進んだものの、それよりは、できれば品川デンタルクリニックのような魅力あるスタッフばかりの歯科医院に通院したいと思う気持ちの方が膨らみました。

※本書は、沖縄のホテルで夏休みバイトをする柿生浩美を主人公とするホテルジューシーと対になる物語です。

シンデレラ・ティース/ファントムvs.ファントム/オランダ人のお買い物/遊園地のお姫様/フレッチャーさんからの伝言

    

3.

●「ワーキング・ホリデー」● ★★


ワーキング・ホリデー画像

2007年06月
文芸春秋刊
(1476円+税)

2010年01月
文春文庫化



2007/08/06



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しがないホスト、ヤマト(沖田大和)の前に、突然あなたの息子だと言って小学生のが現れる。母親はヤマトがヤンキーだった頃の恋人・神保由希子だという。
数日前に父親の存在を初めて知り、父親のことを知りたいと思って訪ねて来たという進は、大きく膨らんだデイバックを携えていた。
夏休みいっぱい、ヤマトと同居するつもりらしい。
動揺したヤマトは客といざこざを起こしたこともあってクビ、オカマのオーナー・ジャスミンに勧められて宅配の会社に転業することになります。
そこから始まるひと夏の、出来立て、新米父親&出来過ぎた息子の物語。

戸惑いつつ息子を受け入れ、心機一転、夜の仕事から昼間の宅配業に転職し、汗を流しながら奮闘するヤマトの姿が気持ち好い。
また、物怖じせずストレートにヤマトに向かっていく進の、健気な姿も気持ち好い。何たってこの進、同級生から“お母さん”と揶揄されるくらいの家事上手なのですから。
そしてさらに2人の親子生活を気遣い、お節介を焼いてくる仲間たち、ジャスミン、ホスト仲間の雪夜、若い常連客のナナらの存在感も見逃せません。
最初から父と息子だったら、とてもこうは行かないでしょう。今までお互いに知ることもなかった関係だから、お互いを主張し、知り合おうとし、その上で新しい関係を築こうとする、そんな2人の姿勢が新鮮です。
もっともそれは、ヤマトが突然現れた進をはねつけず、進もまたホスト稼業のヤマトを嫌悪することがなかったからこそ、始まり得た物語なのです。
ヤマトは進のおかげで少しは父親らしくなり、一方、進もまたヤマトのおかげで新しい愛情関係をつかむことができた、というストーリィ。そこに楽しさがあります。連作短篇風のストーリィ展開もテンポ良く、魅力充分。

なお、本書ストーリィは本当の父子という設定ですが、血が繋がっていなくても、お互いへの信頼・思いやりがあれば新しい親子関係は生まれ得るのではないか。そんな新しい親子関係への期待を抱かせてくれる佳品でもあります。

宛先人不明/火気厳禁/こわれ物注意/代金引換/天地無用

  

4.

●「ホテルジューシー」● ★★


ホテル・ジューシー画像

2007年09月
角川書店刊
(1400円+税)

2010年09月
角川文庫化



2007/10/19



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大学生の柿生浩美。大家族の長女気質の所為か、のんびりするのが苦手。夏休みのバイト先に石垣島のリゾートホテルを選び楽しんでいたところ、頼まれて那覇の路地裏にあるヘンテコなホテルジューシーへ・・・・。

ホテルといえば様々な人が出入りし、様々なドラマが繰り広げられるという格好の舞台。映画では「グランドホテル」があり、小説ではアーサー・ヘイリーの傑作ホテルがあります。
もっとも本書のホテルジューシー(ジューシーとは沖縄で雑炊のことらしい)、従業員はまるで役に立たないオーナー代理の安城幸二に、料理人の比嘉照子、掃除婦のヤナばあ&センばあ、主人公のヒロとたった5人。

それでも旅行客はちゃんと来るし、事件も謎もちゃんと起きる、という過不足ないドラマが繰り広げられます。
酔っ払ってばかりの常連客の老人、子ギャル2人組、怪しい骨董具商に嘘つき(?)な老夫婦等々。
従業員も客もなんて常識のない人間ばかりだと苛立つものの、そこは長女気質故に奮闘してしまう、というひと夏のバイト青春記in沖縄・那覇。

主人公の奮闘も楽しいけれど、実は本書の楽しさは別のところにあります。
それはゴチャゴチャしたものを丸ごと、清濁併せ呑むような沖縄の鷹揚さ、懐の深いところ。そしてもう一つ、料理の腕はピカイチの比嘉さんが繰り出す、庶民的な沖縄料理の数々。実に美味しそうなんですよね〜。
そんな沖縄の空気、夜だけシャッキッとするオーナー代理にもまれて、ひと夏過ぎてみればヒロ自身けっこう成長していた、という青春記。
私のように沖縄に行ったことのない人間が手軽に沖縄の空気を吸ってみたいと思うなら、本書を手にとってみることをお薦めします。さすればきっと思う筈、いつか那覇に行ってみようと、と。

※本書は、歯科クリニックで夏休みバイトをする叶咲子を主人公とするシンデレラ・ティースと対になる物語です。

ホテルジューシー/越境者/等価交換/嵐の中の旅人たち/トモダチ・プライス/同じじゃない/微風

   

5.

●「夜の光」● ★★☆


夜の光画像

2008年10月
新潮社刊
(1600円+税)

2011年09月
新潮文庫化



2008/11/09



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家族から勝手に自分の人生を決め付けられる、不当な暴力を振るわれる。そんな境遇を大過なくやり過ごすためには仮面をかぶって演技をしていればいい。そう、自分はスパイ。本当の自分を守るためには、学校でも家庭でも諜報活動をやっていると思って過ごせばいい。
そんな同朋意識を共有する、天文学部3年の4人。昼間は他人として過ごし、夜はスパイ仲間として連帯する。
そんな4人を代わる代わる章の語り手として、高校3年の一年間を連作形式で描く青春ストーリィ。

進路に関する親の勝手な決めつけ、思い込み、周囲が見る自分という人間像と本当の自分とのギャップ等々、自分の思うようにならないことは間々ある筈。そんな時演技するつもりになってその場をやり過ごすことは、人間誰しも幾度となく経験することではないかと思います。
本作品は、それを“スパイ”“諜報活動”に擬えてはっきり描き出したという点が痛快。その卓抜した発想には脱帽です。
4人が代わる代わる語り手となって、一人一人を色濃く描き出すという魅力に加え、彼らが学校の内外で出会った不可思議な出来事について代わる代わる謎解きをしてみせるという構成が、たまらなく面白い。
そして彼らが各々に孤独感を抱いているからこそ、4人が仲間意識を強めていく場面場面がどんなに愛おしく感じられることでしょうか。

ちなみに4人の顔ぶれ(スパイのコード名)は、
女の幸せは結婚だと思い込んでいる頭の固い父親に向学心が理解されない、「ぱっと見はお嬢様っぽい」=ジョーこと中島翠
恵まれた家庭ゆえにかえって何をしたらいいか判らないまま軽口を武器とする、「自称芸術家」=ゲージこと青山孝志
リストラされて酒乱、暴力を振るうようになった父親に愛想をつかした、「どう見たってギャルじゃん」=ギィこと安田朱美
年功序列、独裁的な祖父から百姓仕事を中学の時から負わされている、天文学部部長=ブッチこと黄川田祐一
4人のキャラクターだけ見ても、本ストーリイの面白さが期待できるというものではないでしょうか。
一見エンターテイメント小説風ですが、真には切ない青春ストーリィ。
最終章「それだけのこと」は、卒業した1年後再び一堂に会した4人を描いた章。自らの足で新たな一歩を踏み出した彼らに、心からエールを贈りたくなります。

季節外れの光/スペシャル/片道切符のハニー/化石と爆弾/それだけのこと

  

6.

●「短 劇」● ★★


短劇画像

2008年12月
光文社刊
(1700円+税)

2011年02月
光文社文庫化



2009/01/27



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26篇のショート・ストーリィ集。
星新一さんのショート・ショートに通じるところがあります。
ちょっといい話、ちょっと愉快な話、そこそこブラックな話もありますが、最後のオチに傑作!と思わず歓声を挙げたくなる話が幾つもあり。
SF要素を抜き(近未来に設定した話もありますが)、その代わりにブラック要素をぱらぱらと振りかけ、星さんの平面的文章をごく普通の小説文体に変えると、こんな風になるかも、という気がします。
こうしたショートショートでは何よりもオチが大切ですが、その期待を裏切っていないどころか、軽く超えていると言って良いのではないでしょうか。
ブラック部門なら、かの内田百關謳カにも張り合えているのではないか、と思う次第。

冒頭の「カフェラテのない日」、都市型ホラーかと思わせておいて、とても気分の好い結末。その温かさ、オチの軽さ、この一篇だけで他の篇への期待が膨らみ、本書を読み進むのが楽しみになります。
その後の各篇では、現代ならではの風潮を盛り込んだ傑作という点で、「MM」を挙げたい。
また、この短いストーリィの中でよくぞこれ程までに多層な物語を盛り込んだという点で、「ケーキ登場」がお見事。
「物件案内」は、本書中で一番温かでファンタジーっぽいストーリィ。好きだなぁ。
本書の面白さはまさに選り取り見どりであると喜んでいたら、最後の最後で絶句してしまったのが「秘祭」。とある地方のとある秘祭の話なのですが、こんな恐ろしい祭が世にあるものかと、まさに仰天。この恐ろしさ、是非多くの方に読んで味わってもらいたいものです。
若者にとってこんな恐ろしい祭があったとは! 読んでみれば、彼らが真っ青になる気持ちがよく判ることでしょう。

カフェラテのない日/目撃者/雨やどり/幸福な密室/MM/迷子/ケーキ登場/ほどけないにもほどがある/最後/しつこい油/最後の別れ/恐いのは/変わった趣味/穴を掘る/最先端/肉を拾う/ゴミ掃除/物件案内/壁/試写会/ビル業務/並列歩行/カミサマ/秘祭/眠り姫/いて

  

7.

●「和菓子のアン」● ★★


和菓子のアン画像

2010年04月
光文社刊
(1800円+税)

2012年10月
光文社文庫化



2010/07/07



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題名の「アン」、餡ではなくて、主人公の梅本杏子(きょうこ)の「杏」から。
つまり、赤毛のアンに引っ掛けての「和菓子のアン」という次第。
進路を決めないまま高校を卒業した主人公、ニートになっちゃうのはとマズイ!と、デパ地下食品街のバイト募集に応募。
そして働き始めたのは、「みつ屋」という和菓子屋。

この和菓子屋のメンバーが、まず楽しい。
キリッとした印象の店長=椿はるかはとんでもない面を持っているし、本来菓子職人だという立花早太郎は、イケメン青年なのに乙女チック。可愛い女子大生バイトの桜井は、元○○という前歴を持つ。
バラエティー溢れるうえに一人一人もすこぶる個性的。まるで色鮮やかな和菓子の品ぞろえを見るような楽しさあり。
しかも、ストーリィ中、和菓子に関する蘊蓄をたくさん聞くことができます。
さらに、お客さんの和菓子の買い方について謎解きストーリィもあるといった具合で、まさに楽しさ満載。

上記の楽しさに劣らず嬉しいのは、主人公の杏子を肯定的に描いているところ。
身長158cm、体重57kg という杏子、恋愛には無縁と諦めているのですが、何故か和菓子屋の売り子として大モテ。
決して表紙のような和菓子に似ているから、という理由ではありませんよ。杏子には杏子ならではの魅力があるのです。
杏子の良さを同僚、お客らがきちんと評価してくれているところが、また楽しいのです。

デパ地下の食品売り場、大勢の人が楽しい思いで出かける場所ですが、一方で画一的な印象も受ける場所。盲点をついたように、その場所を舞台に楽しい連作短篇集に仕上げた本作品、その着眼点も大いに評価したい。

和菓子のアン/一年に一度のデート/萩と牡丹/甘露家/辻占の行方

            

8.

●「ウィンター・ホリデー」● ★★


ウィンター・ホリデー画像

2012年01月
文芸春秋刊
(1550円+税)

2014年11月
文春文庫化



2012/02/11



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元ヤンキーにして元ホスト、現在はリヤカーでの宅配配達人である新米父親=沖田大和と出来過ぎた小学生の息子=、この2人が築いていく新たな父子関係を描いたワーキング・ホリデーの続編。

ストーリィとしての面白さ、良さは一通り前作で描かれているので、本書ではその後の2人の様子、父子関係を深めていく様子が読み処。
前作が夏休みという設定でしたが、今回は冬休み。
宅配
“ハチさん便”のハニービー・エクスプレスで働く同僚たちの他、ホストクラブのオーナーで大和に生きる上での知恵とマナーをしつけてくれたジャスミン、ホスト仲間の雪夜、若い常連客のナナらも相変わらず登場する他、進の友人たちも負けずに登場するといった具合で、登場人物の多彩さが本書の楽しいところ。
また、ジャスミンが大和に授ける処世訓には中々の味わいがあって、読者としては安易に読み過ごしたくないところです。

父子関係がますます深まっていけば気になるのは、そもそもの家族関係、大和とヤンキー時代の恋人=進の母親である由希子の関係はどうなるのか。2人の子である進ならずとも気にせずにはいられないところですが、そこがまた本書の注目点。

本作品、子持ちの大人ながら沖田大和の成長物語という面もあって、大和&進のファンとしてはもう少しこの物語を読み続けていきたいところ。さらなる続編を期待、です。

0.配達予告/1.サンタ便(トナカイなし)/2.歳末特別配送/3.初荷の酒/4.ハート配達人/5.届けたい

                   

9.

●「大きな音が聞こえるか」● ★★☆


大きな音が聞こえるか画像

2012年11月
角川書店刊
(1900円+税)

2015年07月
角川文庫化



2012/12/24



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主人公の八田泳(えい)は、サーフィン好きな高校一年生。泳が最近悩むことといえば、なりたいと思う大人の姿が見当たらないこと。
その泳がサーフィン中耳にした言葉は、“終らない波”があるというもの。
その言葉に興味を惹かれた泳が調べて知ったのは、アマゾン川に
“ポロロッカ”という大規模な潮流の逆流現象があること。大潮に由来して月に2回起きる現象で3月が一番大きく、5m程の高さの波となって時速65kmで川を逆流、何と 800kmの内地にまで及ぶことがあるという。

アマゾン川でポロロッカの波に乗りたいと思った泳、アマゾン行のためバイトを始めると共に、折よくブラジルに転勤となった叔父=七尾剛にも連絡をとります。
といって親がかりの高校生に過ぎない泳がそう簡単にアマゾンに行けるものではありません。非現実的な夢を実現するための高校生らしい奮闘ストーリィ、という感じでした前半は。
そして後半、泳がブラジルに到着した後は全てが新たな体験&冒険ストーリィ。外国旅、ブラジルでの現地体験と、読み手も主人公と一緒に新たな体験を重ねるといった面白さがいっぱいです。

しかし本書、気付いてみれば、そんな冒険風エンターテイメント小説ではなく、実はスケールの途轍もなく大きな成長小説だったのです(何たって地球規模ですから)。
主人公共々そのことが判ったのは、もはやストーリィも終りかけようとする段階に至ってから。終盤に至っていきなり幕を切って落とされ、実像を初めて知るといった興奮、喜びさえ感じます。
アマゾン川を舞台としているだけに、主人公である高校生=泳の青春、冒険、成長を描いた大河小説と称えて決して誇張ではありません。
処々で見せる切れ味の良さも、坂木さんらしい魅力。お薦め!

※私が初めてポロロッカのことを知ったのは、原宏一「東京ポロロッカによってでした。

      

10.

「ホリデー・イン」 ★☆


ホリデー・イン画像

2014年05月
文芸春秋刊
(1250円+税)

2017年04月
文春文庫化


2014/06/12


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元ヤンキーの父親=沖田大和と出来過ぎた小学生の息子=神保進が新しく父子関係を描いていく過程を描いたワーキング・ホリデー」「ウィンター・ホリデーの番外編。
上記2作の常連である登場人物たちの、ちょっとしたエピソードを描いた短篇集です。

どの篇もそれなりに楽しめますが、やはり存在感を発揮しているのはホストクラブ経営者であるオカマの
ジャスミン。2篇において主役を務めています。
見逃せないのは、「05」と「06」。
「05」は、進が父親の存在を知って一人で会いに行くまでを描く「ワーキング・ホリデー」直前のストーリィ。
また
「06」は、ジャスミンが道で偶々知り合った大和を拾い上げ、ホストに仕立て上げるという、大和の元を進が訪れるまでの直前ストーリィ。

せっかく各登場人物のエピソードを短篇集に仕立てあげて、あの2作の面白さを思い出させてくれたのですから、是非前2作の続編となる長編を読みたいものです。


01 ジャスミンの部屋/02 大東の彼女/03 雪夜の朝/04 ナナの好きなくちびる/05 前へ、進め/06 ジャスミンの残像

  

坂木司作品のページ No.2

     


  

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