|
|
4.ホテルジューシー 5.夜の光 6.短劇 7.和菓子のアン 10.ホリデー・イン |
肉小説集、何が困るかって、アンと青春、女子的生活、おやつが好き、アンと愛情、楽園ジューシー、ショートケーキ。、アンと幸福、うまいダッツ |
●「切れない糸」● ★☆ |
|
2009年07月
|
父親が急死し、大学卒業前にもかかわらず就職先が決まっていなかった主人公=新井和也は、いきがかりから家業のクリーニング店を継ぐことになります。 ただし和也は、クリーニング屋という稼業の関係から、否応なく謎を拾い集めてしまうという役回り。探偵役は、同じ商店街にある喫茶店でバイトする大学の友人=沢田直之です。 実のところミステリという面ではそれ程のことはありませんが、クリーニング業という業界知識に触れるのも、家事には疎い私にとっての面白さ。 和也、沢田のほか、アライクリーニング店の貴重な戦力であるアイロン掛けの名人=ヒデさんの人物像が、日常ミステリ小説という趣向を越えて魅力的。 プロローグ/グッドバイからはじめよう/東京、東京/秋祭りの夜/商店街の歳末/エピローグ |
●「シンデレラ・ティース」● ★★ |
|
2009年04月
|
女子大生の叶咲子は歯医者が大っ嫌い。あのキーンというドリルの音を聞くと、足が震えてしまう程。その咲子が母親の勧めてくれた好条件のバイト先に向かうと、なんとそこは叔父・唯史の勤める歯科クリニックだったとは! 各篇のミソは、品川デンタルクリニックを訪れる患者さんのちょっとした奇矯な振る舞い。その理由は何なのか、という歯科クリニックならではの謎解きが各篇の面白味です。 なお、誰しも歯科医院はあまり好きではない筈。本書を読んで多少歯科治療への理解は進んだものの、それよりは、できれば品川デンタルクリニックのような魅力あるスタッフばかりの歯科医院に通院したいと思う気持ちの方が膨らみました。 ※本書は、沖縄のホテルで夏休みバイトをする柿生浩美を主人公とする「ホテルジューシー」と対になる物語です。 シンデレラ・ティース/ファントムvs.ファントム/オランダ人のお買い物/遊園地のお姫様/フレッチャーさんからの伝言 |
●「ワーキング・ホリデー」● ★★ |
|
2010年01月
|
しがないホスト、ヤマト(沖田大和)の前に、突然あなたの息子だと言って小学生の進が現れる。母親はヤマトがヤンキーだった頃の恋人・神保由希子だという。 戸惑いつつ息子を受け入れ、心機一転、夜の仕事から昼間の宅配業に転職し、汗を流しながら奮闘するヤマトの姿が気持ち好い。 なお、本書ストーリィは本当の父子という設定ですが、血が繋がっていなくても、お互いへの信頼・思いやりがあれば新しい親子関係は生まれ得るのではないか。そんな新しい親子関係への期待を抱かせてくれる佳品でもあります。 宛先人不明/火気厳禁/こわれ物注意/代金引換/天地無用 |
●「ホテルジューシー」● ★★ |
|
2010年09月
|
大学生の柿生浩美。大家族の長女気質の所為か、のんびりするのが苦手。夏休みのバイト先に石垣島のリゾートホテルを選び楽しんでいたところ、頼まれて那覇の路地裏にあるヘンテコなホテルジューシーへ・・・・。 ホテルといえば様々な人が出入りし、様々なドラマが繰り広げられるという格好の舞台。映画では「グランドホテル」があり、小説ではアーサー・ヘイリーの傑作「ホテル」があります。 それでも旅行客はちゃんと来るし、事件も謎もちゃんと起きる、という過不足ないドラマが繰り広げられます。 主人公の奮闘も楽しいけれど、実は本書の楽しさは別のところにあります。 ※本書は、歯科クリニックで夏休みバイトをする叶咲子を主人公とする「シンデレラ・ティース」と対になる物語です。 ホテルジューシー/越境者/等価交換/嵐の中の旅人たち/トモダチ・プライス/同じじゃない/微風 |
●「夜の光」● ★★☆ |
|
2011年09月
|
家族から勝手に自分の人生を決め付けられる、不当な暴力を振るわれる。そんな境遇を大過なくやり過ごすためには仮面をかぶって演技をしていればいい。そう、自分はスパイ。本当の自分を守るためには、学校でも家庭でも諜報活動をやっていると思って過ごせばいい。 進路に関する親の勝手な決めつけ、思い込み、周囲が見る自分という人間像と本当の自分とのギャップ等々、自分の思うようにならないことは間々ある筈。そんな時演技するつもりになってその場をやり過ごすことは、人間誰しも幾度となく経験することではないかと思います。 ちなみに4人の顔ぶれ(スパイのコード名)は、 季節外れの光/スペシャル/片道切符のハニー/化石と爆弾/それだけのこと |
●「短 劇」● ★★ |
|
2011年02月
|
26篇のショート・ストーリィ集。 冒頭の「カフェラテのない日」、都市型ホラーかと思わせておいて、とても気分の好い結末。その温かさ、オチの軽さ、この一篇だけで他の篇への期待が膨らみ、本書を読み進むのが楽しみになります。 カフェラテのない日/目撃者/雨やどり/幸福な密室/MM/迷子/ケーキ登場/ほどけないにもほどがある/最後/しつこい油/最後の別れ/恐いのは/変わった趣味/穴を掘る/最先端/肉を拾う/ゴミ掃除/物件案内/壁/試写会/ビル業務/並列歩行/カミサマ/秘祭/眠り姫/いて |
●「和菓子のアン」● ★★ |
|
2012年10月
|
題名の「アン」、餡ではなくて、主人公の梅本杏子(きょうこ)の「杏」から。 この和菓子屋のメンバーが、まず楽しい。 上記の楽しさに劣らず嬉しいのは、主人公の杏子を肯定的に描いているところ。 デパ地下の食品売り場、大勢の人が楽しい思いで出かける場所ですが、一方で画一的な印象も受ける場所。盲点をついたように、その場所を舞台に楽しい連作短篇集に仕上げた本作品、その着眼点も大いに評価したい。 和菓子のアン/一年に一度のデート/萩と牡丹/甘露家/辻占の行方 |
●「ウィンター・ホリデー」● ★★ |
|
2014年11月
|
元ヤンキーにして元ホスト、現在はリヤカーでの宅配配達人である新米父親=沖田大和と出来過ぎた小学生の息子=進、この2人が築いていく新たな父子関係を描いた「ワーキング・ホリデー」の続編。 ストーリィとしての面白さ、良さは一通り前作で描かれているので、本書ではその後の2人の様子、父子関係を深めていく様子が読み処。 父子関係がますます深まっていけば気になるのは、そもそもの家族関係、大和とヤンキー時代の恋人=進の母親である由希子の関係はどうなるのか。2人の子である進ならずとも気にせずにはいられないところですが、そこがまた本書の注目点。 本作品、子持ちの大人ながら沖田大和の成長物語という面もあって、大和&進のファンとしてはもう少しこの物語を読み続けていきたいところ。さらなる続編を期待、です。 0.配達予告/1.サンタ便(トナカイなし)/2.歳末特別配送/3.初荷の酒/4.ハート配達人/5.届けたい |
9. | |
●「大きな音が聞こえるか」● ★★☆ |
|
2015年07月
|
主人公の八田泳(えい)は、サーフィン好きな高校一年生。泳が最近悩むことといえば、なりたいと思う大人の姿が見当たらないこと。 アマゾン川でポロロッカの波に乗りたいと思った泳、アマゾン行のためバイトを始めると共に、折よくブラジルに転勤となった叔父=七尾剛にも連絡をとります。 しかし本書、気付いてみれば、そんな冒険風エンターテイメント小説ではなく、実はスケールの途轍もなく大きな成長小説だったのです(何たって地球規模ですから)。 ※私が初めてポロロッカのことを知ったのは、原宏一「東京ポロロッカ」によってでした。 |
10. | |
「ホリデー・イン」 ★☆ |
|
2017年04月
|
元ヤンキーの父親=沖田大和と出来過ぎた小学生の息子=神保進が新しく父子関係を描いていく過程を描いた「ワーキング・ホリデー」「ウィンター・ホリデー」の番外編。 上記2作の常連である登場人物たちの、ちょっとしたエピソードを描いた短篇集です。 どの篇もそれなりに楽しめますが、やはり存在感を発揮しているのはホストクラブ経営者であるオカマのジャスミン。2篇において主役を務めています。 見逃せないのは、「05」と「06」。 「05」は、進が父親の存在を知って一人で会いに行くまでを描く「ワーキング・ホリデー」直前のストーリィ。 また「06」は、ジャスミンが道で偶々知り合った大和を拾い上げ、ホストに仕立て上げるという、大和の元を進が訪れるまでの直前ストーリィ。 せっかく各登場人物のエピソードを短篇集に仕立てあげて、あの2作の面白さを思い出させてくれたのですから、是非前2作の続編となる長編を読みたいものです。 01 ジャスミンの部屋/02 大東の彼女/03 雪夜の朝/04 ナナの好きなくちびる/05 前へ、進め/06 ジャスミンの残像 |