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1.卵の緒 2.図書館の神様 3.天国はまだ遠く 4.幸福な食卓 5.優しい音楽 6.強運の持ち主 7.温室デイズ 8.見えない誰かと 10.戸村飯店青春100連発 |
僕の明日を照らして、おしまいのデート、僕らのごはんは明日で待ってる、あと少しもう少し、春戻る、君が夏を走らせる、ファミリーデイズ、そしてバトンは渡された、傑作はまだ、夜明けのすべて |
その扉をたたく音、夏の体温、掬えば手に、私たちの世代は |
●「卵の緒」● ★★★ 坊ちゃん文学賞 |
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2007年07月
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「卵の緒」は、「僕は捨て子だ」という唐突な一文から始まる中編小説。 「
7's blood」は、高校生の七子と、亡き父親が愛人に生ませた小学生の弟・七生との関係を描いた中編小説。 卵の緒/7's blood |
●「図書館の神様」● ★★☆ |
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2009年07月 2004/02/29 |
高校までバレーボールに打ち込んできた日々でしたが、部員の自殺という事件から道を失い、投げやり気分のまま高校の講師となった早川清(きよ)が主人公。 その彼女が顧問とされたのは、部員が垣内君という3年生たった一人という文芸部。 地方小都市での意に染まぬ仕事、部活動顧問、おまけに恋人とは不倫関係というのが主人公の置かれた状況。そんな中で清の徐々に再生していく姿を描くストーリィ。 文学音痴の清と文学好きの垣内君との間に交わされる遠慮ないやり取りは、かなり楽しい。文芸部での朝練という発想には笑ってしまいます。 |
●「天国はまだ遠く」● ★★ |
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2006年11月 2004/06/20 |
会社での仕事が憂鬱、会社に行きたくなーい、そう思うことがありませんか。 昔、上野駅での電車乗換え時、降りた電車の向かいに停まっている長距離列車を見る度、それに乗ってこのまま遠くへ行ってしまえたら、と年中思っていました(若い頃の一人旅の動機はそれと共通するもの)。
本書の主人公はそんな願望を実践した23歳のOL・千鶴。もっとも、遠くへ行くのは自殺を決行するため、というところがちょっと違いますが。 |
※映画化 → 「天国はまだ遠く」
●「幸福な食卓」● ★★ 吉川英治文学新人賞 |
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2007年06月
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初々しくちんまりしていて、それでいてきらり光っている、というのがこれまでの瀬尾さん3作の印象でした。4冊目となる本書は、ぐぅっと作家の書いた小説らしくなった小説。 佐和子という女の子の、中学・高校時に経験した出来事を、連作短篇風に描いた長篇小説です。
冒頭の「幸福な食卓」で、まずこの中原一家の状況が紹介されます。父親は5年前に自殺未遂。今回は突然父親を辞めると宣言したうえに中学校の教師まで退職。一方、母親は家を出て近所に一人住まい。天才児と評判の高かった兄・直ちゃんは、大学進学せず無農薬野菜を作る農業団体で働いているが、恋人が出来てはすぐ振られるということの繰り返し。 ※ふと思い出したのは佐藤多佳子「黄色い目の魚」の主人公・村田みのり。同作品が好きな方なら、きっと本書も気に入ることでしょう。また、本書が気に入ったのなら、是非「黄色い目の魚」もお薦めします。 幸福な食卓/バイブル/救世主/プレゼントの効用 |
※映画化 → 「幸福な食卓」
●「優しい音楽」● ★★☆ |
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2008年04月
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どうしたらこんなに甘くまろやかに切ないストーリィを書けるのでしょう? 瀬尾さんの巧さにうならされた中篇3作。
「優しい音楽」は、早朝の駅で話しかけてきた可愛い女性、千波ちゃんと僕が恋人関係へと進んでいくストーリィ。しかし、どこか普通の恋愛とは展開が違う。千波ちゃんが隠そうとしていたその理由を知ったとき、僕はどう反応すれば良かったのだろう? 次の「タイムラグ」に至って、その甘くまろやかな切なさに思わず溜息してしまいました。現実的にはかなり不自然なストーリィなのですが、それを簡単に凌駕してしまう巧さ、優しさがあります。深雪と佐菜ちゃん、この2人がいいなァ。 「ガラクタ効果」は良識の裏をかいたようなストーリィ。同棲中のカップル、はな子と俺の優しさが楽しい。世の中捨てたものじゃない、という明るさ、希望を抱ける作品です。 瀬尾ファンでしたら、この3篇、是非読むべし! 優しい音楽/タイムラグ/ガラクタ効果 |
●「強運の持ち主」● ★☆ |
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2009年05月
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元OLの占い師・ルイーズ吉田が関わる、ほんのりとした4つの物語。 読み始めてすぐ感じる、ほんのりと温かく、そして優しさのある雰囲気。いいなァ、この感じ。これが瀬尾さんの魅力だと思います。 主人公となるルイーズ吉田は、新卒で入社した会社に我慢できずを僅か半年で退社。その後占い師となって3年という、まだ若い女性。かつて占いに来た女性の恋人が強運の持ち主と判り強引にアタックし、現在はその彼=通彦と同棲中。 良い占い師の評判を得るコツがいかにも瀬尾さんの優しさにあるのですが、「当るも八卦当らぬも八卦」という占いに皆が頼ってくるところ、依頼に対するルイーズの応え方に占いがはやる本質が透けて見えるようで、占い師を主人公にした設定は楽しい。 ニベア/ファミリーセンター/おしまい予言/強運の持ち主 |
●「温室デイズ」● ★★ |
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2009年06月
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これまでの温かでささやかなストーリィから、一歩踏み出した観のある作品。 現在の教育現場、中学3年の荒れたクラスの様子を描いた作品です。実際に国語講師を勤めていた瀬尾さんが書いているというところに、本作品の重みを感じます。 荒れた雰囲気のクラス。中学生活の残る日々、完全に壊れる前に何とかできないかと、主人公の中森みちるは実際に行動しようとします。でもその結果は・・・。 みちるへのクラス全員のイジメが開始され、親友の優子はそんなみちるを見ることに耐えられず、別室登校となる。 ここまでの状況は全ての学校であるものではないと思いますが、大なり小なり多くの問題が今の小学校、中学校には生じているのだと思います。率直に言って息子や娘がそうした時期を何とか無事に通り抜けて私立の高校へ進学した時には、ホッとしたものです。 しかし、みちるは決して孤立無援ではなかった。正面切って挑んだみちるとは違いますが、自分のできる範囲で着実に成果を積み重ねようとしていた友人がちゃんといるのです。地道に努力を積重ねることの大切さを、彼らに教えられた気がします。 |
●「見えない誰かと」● ★★ |
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2009年07月
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瀬尾さんの初エッセイ集。 モバイル連載「誰かとつながる。それは幸せなことだ」(2004年10月〜05年06月)を加筆訂正して単行本化したものだそうです。 書かれていることは、講師時代に薫陶を受けた先輩先生方、学生時代のバイト先で一緒になったおばちゃんたち、正教員になってから担当した生徒たち、等々のこと。 読み始めてすぐに、瀬尾さんのゆったりと柔らかく、温かな視線を感じます。そしてその雰囲気は、瀬尾さんの作品に通じるものです。 ※なお、ただひとつ気になったことがあります。 |
●「ありがとう、さようなら」● ★★ |
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2010年10月 2019年04月
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瀬尾さん2冊目のエッセイ本。 「ダ・ヴィンチ」2003年9月号〜07年4月号まで連載されたエッセイ+αとのこと。 教頭先生に「おみゃあが出している学級通信と区別つかんわや」と言われたそうなのですが、本当にそんな内容のものばかり。 ですから、瀬尾さんの教師ぶりがありのまま、ほんのりと伝わってきて嬉しい。
宮津という海に近い小学校に勤務したおかげで給食に鯖が出ることが多く、鯖が大嫌いな瀬尾さん、困ったらしい。
教師生活はいろいろと問題も起きて大変だけれど、どんどん成長していく子供たちの姿をいつも目にしていられることは楽しい、そんな瀬尾さんの気持ちが沢山伝わってきます。そんな気持ちがあるからこそ、優しく温かみのある瀬尾作品が生まれるのでしょう。 普段着の瀬尾さんが感じられるエッセイ本。好き嫌いがあったり、拗ねたりするところも微笑ましく、可愛らしい。 |
●「戸村飯店青春100連発」● ★★ 坪田譲治文学賞 |
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2012年01月
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戸村飯店とは、コテコテの大阪下町にある小さな中華料理店。 本書は、その戸村飯店の2人の息子を交互に主人公にした青春ストーリィ。 兄のヘイスケは昔から外面良く、昔から女の子によくモテる。しかし、本人に言わせるとただ要領が良いだけ。高校を卒業するとさっさと専門学校に入るため上京してしまいます。 瀬尾さんらしい、爽やかでさっぱりとした雰囲気が、理屈ぬきに楽しい。 読み終わってすぐはちょっと物足りなさを感じるかもしれませんが、もう一度噛み直していると、その味わいがゆっくり広がってきます。 |
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