福田恆存 ふくだ・つねあり(1912—1994)


 

本名=福田恆存(ふくだ・つねあり) 
大正元年8月25日—平成6年11月20日 
享年82歳(實相院恆存日信居士) 
神奈川県中郡大磯町東小磯19 妙大寺(日蓮宗) 



評論家・劇作家・演出家。東京府生。東京帝国大学卒。第二次世界大戦のあと日本近代文学への批判を込めた評論集『作家の態度』『近代の宿命』により注目された。劇作家としても活躍、『キティ台風や詩劇』『明暗』がある。劇団『雲』主宰。ほかに『シェークスピア全集』の翻訳、『人間・この劇的なるもの』などがある。






  

 私は全くの「運命論者」である。人間には自由は全くない。如何なる国の如何なる両親に生れるか、その生の出発点において、人間は完全に自由を奪はれてゐる。誰と附合ひ、誰に好かれるか、その点でも自由ではあり得ない。どの学校に行くか、どこへ就職するか、誰と結婚し、どんな子供を生むか、そこでも人は決して自由ではない。ある事に関心を持ち、ある事に関心を持たない、そこにも自由は許されない。
 さういふ運命論を聴かされれば、「なるほど、それはさうだ、が……」と、誰しも不服さうな顔をするに違ひ無い、そして「それなら自由といふ言葉は無いはずだが」と眩くであらう。確かに日本には無かつた、少くとも明治まではなかつた。あつても、それは「勝手、気儘」の意味にしか使はれなかつた、それでいいのである。さう言ふと、人間に自由が無ければ、息苦しくて仕方が無いと、多くの人は考へる。私の運命論は楽天的であるのだが、それなら、言葉の上でだけ、自由といふ言葉を使へばいい。
 では、すべてが運命で決る、それも生れた時に、この身も蓋も無い事実をその通りだと受けとつたら、どういふことになるだらうか。それでは勉強する張合ひが無くなるといふ、もしさうなら、君は生れつき怠け者なのだ、もしさうなら、たとへ人間は自由だと言はれようが、やはり同じことで、君は勉強する張合ひを失ふであらう。それに反して運命論を押しつけられてもそしてなるほどと思っても、やらねばならぬことはやる人間がゐる。誰もが自由なのだと言って、人を甘やかし、それがさうではないといふことで挫折感を抱かせるよりは、誰もが運命の糸に操られ、その糸から逃れようともがきにもがいて、そして最後には「所詮は人間さ、死ぬに決ってゐる唯の人間さ」と落附いて、あるいは見苦しく喚いて、この世を去ったらいい。私は固く信じてゐる、すべての人間は「神様に死に時を借りてゐるのだ」と。

 

(反核運動の欺瞞・私の死生観)



 

 小林秀雄がいう〈福田という人は痩せた、鳥みたいな人でね、いい人相をしている。良心をもった鳥のような感じだ〉、とあるいは坂口安吾のいうように〈あの野郎一人だ、批評が生き方だという人は〉、と観ずべきかはともかくとしても〈保守的精神の世界における単独者でありつづけてきた〉福田恆存。晩年には〈言論は空しい、いや言論だけではない、自分のしてゐる事、文学も芝居も、すべてが空しい。〉、とばかりに自分の書いた原稿をつぎつぎと焼却してしまった。昭和56年に軽い脳梗塞を患っていたものの、58年に小林秀雄の弔辞を読む頃には、ほぼ恢復していたのだが、平成6年10月23日、急激な血圧低下で緊急入院のひと月ほどのちの11月20日午後1時、東海大学大磯病院で胆管がんのため死去した。




 

 自分のしていることの空しさを悟った上でなお、孤独をかみしめながら言論活動を続けてきた。〈私が自分を最も信じてゐないのは、最も信じたいからであり、人格としての完成體でありたいからである。〉など、〈自己に対する誠実という点で群をぬいていたとしかいいようのない〉福田恆存の今あるところ、大磯町山王の終の栖に移るまで住んでいた東小磯107番地の線路を挟んだ山側にある日蓮宗の乗勝山妙大寺。〈俺が死んだら、恆存はいなくなるんだから、福田家之墓に葬ってくれればそれでいい〉といっていた恆存は、昭和28年に自ら設計した十五センチ角、高さ一メートル弱の白御影石柱墓碑「福田家之墓」に両親とともに眠っている。




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

編集後記


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