日本での報道の中にはインドが自動車を自国生産していると驚いているものもあった。その程度の認識しかない知識人が(モダンなデザインの新車が並んだ)TATAのサイトをのぞいてみれば、インドのクルマ事情を勘違いして、脅威に感じることだろう。
実際はどうなのか。百聞は一見にしかずで以下をご覧あれ。
http://www.hmambassador.com/
インドを訪れた人ならおなじみだろう。アンバサダルはインドの顔である。元々はイギリス製のモーリス。戦後の日本と同じで、最初は外国のクルマを作るところから自動車製造のノウハウを学んでいったのだ。つまり、アンバサダーとはいすゞのヒルマンや日野自動車のルノーが今も新車で売られているようなもの。シトロエンの2CVが消えた今では、世界最古の車種と呼べるだろう。メーカーも50年の伝統を誇らしげにうたっているではないか!

インドの町並みに溶け込んでいるアンバサダー。
インドの乗用車の主役は今もアンバサダーである。(乗り物の主役はまだまだオート力車)
TATAと聞いて思い浮かべるのは乗用車ではなく、まずトラック。
例えて言えば、アンバサダーのヒンドゥスタン・モーターズはトヨタ(車種は圧倒的に少ないというかアンバサダーだけだけど)で、TATAはいすゞ自動車。アショカ・レイランドは日野自動車みたいなもの。
しかし、もっと大きな違いがある。それがアンバサダーが主役であり続ける理由でもあるが、現役バリバリで走っているアンバサダーは、オート力車がそうであるように、壊れたら町工場でトンテンカンと修理、また壊れたらまた修理と、ツギハギだらけのオンボロ車がほとんど。どんなにモダンな新車が出たところで、数年でインドの風景が変わってしまうほど旧車に取って代わることはない。
どこかの「3年経ったら乗り換えたい」といって新車を購入するような、モノに対する愛情のかけらもない愚国とは大違いなのだ。
最初に本格的に進出した外国の自動車メーカーは日本のスズキである。そのマルチ(日本ではアルト)が登場した時、インドのドライバーは町工場で修理できないことを欠点としてあげていた。けだし、正しく、インド的な評価である。
ヒンドゥスタン・モーターズのサイトをじっくり見れば、修理部品がしっかりと記載されている。部品さえ取り寄せれば、トンテンカンの町工場で壊れたアンバサダーは直ってしまうのだ。さらにガソリンエンジンをジーゼルエンジンに乗せ変えることまで可能ではないか。ひとつものを大事に大事に使い続ける。これがインド。
ナノが登場して風景は少し変わるだろうが、そう簡単にアンバサダーが引退することはないのである。(別会社だしネ)