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旧野首教会
Nokubi Church
33 11 15.84,129 07 42.41

 教会は集落を見下ろす位置にありました。
堂々たる煉瓦造りです。


 今回の旅のハイライトは、やはりこの旧野首教会でしょう。きびしい孤島での生活。それに耐えながら隠れキリシタン時代から信仰を重ね、晴れて正々堂々とキリスト教徒をうたうことを許されるようになり、そして自分たちの教会を持とうと決意する。献金を集め、棟梁を呼び、材料を調達し、勤労奉仕で教会堂を作り上げていく。この小さな島で人々はそれを実行し、素晴らしい教会を生み出しました。鉄川与助が手がけた最初の煉瓦造りの教会です。
 
 教会が完成したのは明治41年、1908年ですから、今から105年前になります。強固な煉瓦造の教会は、1世紀以上の年月を耐えて無人となった島に存在し続けています。その昔一体どれだけの信徒がこの教会を作ろうと思いに賛同し、資金を集め、場所を決め、鉄川与助に依頼し、勤労奉仕をしたのでしょうか。小さな集落、田畑は限られ、漁業は野首集落は山の中腹でちょっとハンデがある。それとも野崎集落との共同しての建築だったのでしょうか。そうした人々の信仰の宝が、今もこうして残されています。
 
 しかし、高度成長期に全島民退去という事態を受け、この教会も存続の危機を迎えます。ましてや丘の上、風の通り道に建っているから、台風の風をまともに受けたことでしょう。でも煉瓦造りの教会はその姿を保ち続けました。そうしているうちに小値賀町を中心に保存の動きが起こり、更に世界遺産登録の大きな活動を受け、この教会は保存へと確かな道を歩み始めました。
 
 いくら煉瓦とはいえ、風雨の力は強いものがあります。訪れたときもガイドの人が前々日の低気圧の時の雨漏りを確認していました。確かに雨が吹き込んで床が濡れている所があります。また天井も一部はげ落ちているのが目に入ります。こうした事態を受け、県と町は修復をすべく準備に入っているとのことでした。早ければ3月からだったようですが、若干遅れているらしく、ゴールデンウィーク明けから行うとのことでした。こうしてこの建物は崩壊の危機から脱しています。

 堂内に入ると、小さな集落の人たちの信仰の結晶が100年のときを超え、我々を包んでくれるのを感じます。私にとっては全く知らない人々なのですが、こんなに作り手の人々の努力、信仰の力を感じたことはありませんでした。町の中心に聳える言わば権力が作り出した巨大な聖堂の対極をなすような小さな聖堂。人々の信仰に対する意志の力を痛切に感じることが出来ました。そしてとても安らぐ空間。何時間いてもいい。ここに抱かれることにより、作り手の心をずっと感じていたいと思わせた教会でした。

煉瓦造の壁の後ろに木造の扉が見えます。主廊、身廊構造がそのまま正面に現れています。キーストーンがいいですね。
十字架を守るように配置されている胸壁のような飾り。そして煉瓦の組み方の巧妙さが面白い。アップにするといろいろ見えてきます。
小さいけれど、煉瓦が持つどっしりとした力強さが伝わってきました。これなら百年以上持つと実感します。
内部。リブヴォールト天井は木造の柱と相まって森にいるような気分になります。与助はこの当時は尖塔アーチを採用していました。ヴォールト天井の修理は終わったのでしょうか。
高台に建っている教会の前には、村を取り囲む山の斜面が遠くに見えています。段々畑ではなく、段々牧草地なのでしょうか。相当の傾斜を持たせながら、でも人の手で加工した斜面が見えています。まだ朝の霧が残っていました。
台風で何度か破損したステンドグラスは、一部入れ替えが行われ、その美しさが保たれています。

いつまでもいたいと思わせる空間でした

旧野首教会

長崎、小値賀島