スイスの音楽学校

 スイスの音楽学校(日本流に言えば音楽大学)はどういうところがあるのでしょうか?
 ジュネーヴ音楽院、ローザンヌ音楽院、ベルン音楽演劇院、バーゼル市立音楽アカデミー、チューリッヒ音楽院・音楽大学、ルツェルン音楽院といったところが代表的な学校です。変わったところではグシュタートのメニューイン・アカデミーやシオン高等音楽学校(と訳せばいいのでしょうか?)があります。
 教授陣は有名なところで、ローザンヌ音楽院のアルフレッド・コルトー、ヴラト・ペルルミュテールという大ピアニスト、シャルル・パンゼラというベテランの音楽ファンには懐かしい声楽家の名前も並んでいたりします。ミシェル・コルボもこことジュネーヴを掛け持ちして教えていますね。
 最近は、優秀なチェロなどの教授がいるのでしょうか?詳しいことは知らないのですが、何人か知っているチェロを専攻している学生がローザンヌに留学しています。
 ルツェルンで教えていたのは、クーレンカンプ、シュナイダーハンといったドイツ系の名バイオリニスト、ピアノでエドウィン・フィッシャーという大ピアニストも晩年、ベルリンから帰ってきて教えていました。彼はチューリッヒでも教えていましたね。大変情熱的な指導だったと読んだことがありますが、さもありなんという演奏がライブでいくつか出ています。
 ドイツ・リート(歌曲)のエディット・マティスもここで学んでいましたね。ここの後チューリッヒでも学んでいます。
 そうそう、このシュナイダーハンの弟子で、ルドルフ・バウムガルトナーという指揮者兼バイオリニスト、教育家という人もいましたね。あのルツェルン祝祭弦楽合奏団を現在主催している人です。

 バーゼル市立音楽アカデミーは、独立していたバーゼル音楽学校、バーゼル音楽院、バーゼル・スコラ・カントゥルムの三つの学校が一九五四年に合併してできました。バーゼル・スコラ・カントゥルムの創設者の一人であるザッヒャーをはじめ、フルートのリンデ、古楽の研究・演奏で一時代を築いたヴェンツィンガーがいますし、メルクスもヴェンツィンガーを慕って来ていたと思います。オーボエのピゲもここの卒業生ですし、彼もバッハが得意ですが、創設者ザッヒャーは現代音楽のエキスパート、そしてその学校は古楽の盛んな世界でも指折りの学校というのも面白いですね。しかし、現代音楽の作曲の分野で優秀な実績を持っていて、確か一時ブーレーズなどもいたことがあったと思うのですが、えーっと、どうでしたっけ?。
 バーゼル生まれの大ピアニストのエドウィン・フィッシャーも、バーゼル音楽院の卒業生です。ベルリンのクラウゼ教授の元に行くまで、ここでハンス・フーバーについて修行をしたのです。
 
 チューリッヒにはモイーズ門下のジョネという名教師がいました。彼の下からはニコレ、グラーフといった今世紀を代表するフルーティストが育っています。オネゲルもここが母校で、教鞭もとっていたのではなかったでしょうか?ヘフリガーやエディト・マティスといった大歌手もここの出身です。
 一八七六年創設とありますが、最初はアマチュア向けの学校だったようです。一九〇七年には職業音楽家養成を目指した音楽院に生まれ変わったそうで、ベルン音楽演劇院とよく似た経緯をたどった学校です。

 ジュネーヴには、あのリパッティが亡命後の最初の仕事として、ここのマスター・クラスを教えていましたし、エルネスト・アンセルメのお膝元で、ジュネーヴ国際コンクールもここで開催されるわけですから、スイスロマンドのローザンヌと並ぶ中心的な存在と言えるでしょうね。
 名オルガニストのライオネル・ロッグ氏もここで教えていて、スイスのオルガン奏者の多くがここの出身だそうです。
 ホーム・ページも開設されていて、興味のある方は行ってみられてはいかがでしょうか?但しフランス語です。見ていて知ったのですが、まあ当然でしょうが、ミシェル・コルボもここで教えているのですね。習いたい方はジュネーヴかローザンヌへどうぞ。入っても彼につくことができるかどうか保証の限りではありませんが…。

 ベルン音楽演劇院。ちょっと名前がかわってますね。ベルン音楽協会(一八五八年創設)による音楽学校(もともとはアマチュア対象の音楽教育をしていた)から一九二七年、職業音楽家の養成を目指して改組し、一九七九年に演劇学校と合併してこんな名前になったんです。
 ヴェレシュ教授の元でホリガーら作曲を志す多くの音楽家が巣立っていった学校ですし、最近リーダーがツェートマイヤーに変わったカメラータ・ベルンのメンバーや、映画「タイタニック」で一躍有名になったイ・サロニスティのメンバーも、ここの先生をしています。
 ベルンは、私はよく知らないのですが、大変演劇がさかんな町だそうで、市内には大小様々な演劇ホールがあるそうです。そういった背景が音楽演劇院という名前になっているのでしょうね。
 ついでながらベルン音楽協会が創設したベルン弦楽四重奏団という団体が実力派で活躍しています。モーツァルトのオーボエ四重奏やオーボエ五重奏をドイツのインゴ・ゴリツキと演奏しているのを聞いたことがあるのですが、なかなか美しい演奏で最近何かと話題が多いカルミナ弦楽四重奏団と共にスイスを代表する団体だと思います。

 あと、グシュタートにはメニューインはもちろん、アルベルト・リズィなどがいますし、シオンにはティボール・ヴォルガ一家がいます。

 九州ほどの国土の中に、なかなか充実した音楽教育が出来ているのではないでしょうか。