ミシェル・コルボとフリブール

 初夏のさわやかな風に、スイスへの思いがつのります。
 フリブール出身の大指揮者ミシェル・コルボについて書いてみたいと思います。

 現在は、ローザンヌに住むという、この戦後スイスを代表する大指揮者についてはあまり話題にのぼることもありません。それはレパートリーがほぼ声楽を含むバロック期以前の音楽、特に北イタリアのバッハ以前の最大の巨匠モンテヴェルディを中心として、モーツァルトやフォーレの宗教音楽に限られているからです。
 しかし、近年の古楽復興が、バーゼルのスコラカントゥルムから始まったということからも、この分野を大切にする土壌がスイスの文化的風土にはあるようです。
ともかく、他に並ぶべくもない名盤のモンテヴェルディの倫理的・宗教的な森の全曲盤や、マドリガーレ選集、聖母マリアの夕べの祈りといった演奏の数々を聞く度に、その配慮の行き届いたテンポの設定、合唱の扱いの巧みさ、そして音楽的な深さに感動します。

 ローザンヌを出た列車は、ワイナリーが点在する葡萄畑の中をグングン高度を上げ、レマン湖とフランス・アルプスの眺めを思い存分堪能させてくれます。
 しばらくすればロモン、そしてフリブールに着きます。あの辺りの車窓の素晴らしさはそれはすばらしいもので、何度乗ってもいつも感動させられます。
 グリュイエール、ビュル、モレソンといったそれこそ魅力に満ちた町や村があるフリブール州は、高い山は無いけれども、穏やかな田園風景と、カトリックの大学町を持つ州です。
 あの見事な高層建築のそびえる中でもサン・ラコラ大聖堂は特に目立っていますし、こういう背景から、コルボという大指揮者が生まれ育ってきたということに、何か必然のようなものを感じます。

 さて、コルボはウィーン・フィルやベルリン・フィルを指揮したりといった、国際キャリアには目もくれず、あの魅力的なスイスフランス語圏の中心で、豊かな時を送っているのでしょう。