これまでの話題(2000年11月後半)

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2000年11月30日(木)

「ネット市場崩壊後のメリット」


昨日は「ネット企業の新ルール」について述べました。今日は同じ「シリコンアレーデイリー」のCEO、Jason McCabe Calacanisが書いたマニフェストの後半部分を紹介したいと思います。題して、「ネット市場崩壊後のメリット」ですが、それは次の6つに要約されます。

1.過当競争で淘汰が進み、生き残った企業が余裕を持って活動可。

2.顧客を獲得するための費用の低下と顧客ロイヤリティの向上。

3.現実的な報酬を求める優秀な人材を確保。

4.技術的に確立した無料の技術プラットフォームを利用可。

5.賢くかつグローバルになったマーケット。

6.過去の失敗から学習。

そして、最後に次の言葉でマニフェストを締めくくっています。

"The rules have changed, but the opportunities have only gotten bigger. Keep the faith, study the rule changes, and create a revolution based on evolution."

なるほど。“進化をベースにした革命”とは何と感動的な言葉でしょうか。 そして、asktakaには、“信念をもって”“変化したルールを学べ”というのが、何とも切実な叫びに聞こえます。

一方で、asktakaは、上記の6つから環境変化を逆手にとって、失敗から学び、新たな変化を創造しようとする力強さを感じます。実は、米国から学ぶべきなのは、このようなケインズの言う“アニマル・スピリッツ”ともいうべき起業家精神ではないでしょうか。皆さんはいかがお考えですか?



お知らせ:昨日の話題は「ネット企業の新ルール」 でした。



2000年11月28日(火)〜29日(水)

「ネット企業の新ルール」


ニューヨークのシリコンアレーの業界紙「シリコンアレーデイリー」のCEO、Jason McCabe Calacanisがマニフェストを発表しました。最近のネット企業の失速に業を煮やして、自らが激励文を書いた形です。今日は、前半の“ネット企業の6つのルールの変化”について紹介したいと思います。

1.成長性

旧ルール:急速なマーケットシェア拡大を目指す。
新ルール:利益を優先し、お金になりそうなユーザーだけを囲い込み。

2.人材確保

旧ルール:人材は限られているので金に糸目をつけず誰でも雇用。
新ルール:優秀な人材は高くつくので、ベストで必要な人材のみを採用。 だけを雇う

3.ドットコムに対する考え方

旧ルール:ネット上だけで展開する純粋なドットコムを目指せ、さもなくば市場から罰せられる。
新ルール:純粋なドットコムを目指すな、さもないと市場から罰せられる。

4.競争の考え方

旧ルール:早いもの勝ちで、何でも手を付けろ。
新ルール:持続性が勝ち組の鍵。現実的なペースで長期的視点が不可欠。

5. ”オールド”カンパニーと伝統的メディア

旧ルール:オールド.カンパニーは成り立たない。資金を引き上げよ。
新ルール:既存企業をより効率的に利益が出る体質にするのがインターネット。

6.マーケットとの関わり方

旧ルール:株式市場で認められるビジネスモデルに注目。
新ルール:収益を生み顧客をひきつけるビジネスモデルに注目。

マニフェストには具体例が示されていますが、新旧のルールを見れば内容は十分に理解できるので割愛します。

ところで、上記の“新ルール”を見ると、asktakaには少しも“新”とは思えないのです。どうも“宴は終わった、目を覚ませ”と言っているに過ぎないように思います。

とはいえ、asktakaは日本企業にとって、ルール5を認識することが重要だと思います。インターネット、ITの活用によって、更に競争力を強化していく米国企業の戦略を、活眼を開いて学ぶべきではないでしょうか。


(注)後半の「マーケットの崩壊後の変化」については、近々この欄で紹介します。なお、原文は下記の11月13日号を参照。

Silicon Alley Daily
http://www.siliconalleydaily.com/



お知らせ:昨日の話題は「地方発の起業家魂」 でした。



2000年11月27日(月)

「地方発の起業家魂」


祭日開けの24日(金)午前9時、久しぶりに山口宇部空港に降りました。昨年の12月以来、実にほぼ1年ぶりのことでした。真っ先に降りて空港を歩いていくと、施設も新しくなり何となく山口の躍動感が伝わってくるようでした(データを見ると県内の景気はよくないようですが)。

何と言っても山口の元気なイメージは、民間の起業家の活躍が寄与しています。中でも県出身で今話題の経営者といえば、ファストリーテーリング(ブランド名はユニクロ)の柳井社長ですが、まだまだ他にも起業家魂を持った人が存在するのです。これも柳井さんの成功が、地元の人達に希望とやる気を与えたと見ることも出来ると思います。高知のように知事が躍起になって“情報生活維新”などいって旗を振っても、民間の草の根的な起業家魂がなければ新たなビジネスが育つわけがありません。

山口の起業家の一人は、24時間保育所サービスのP社を経営するM氏です。P社は日本版フォーブス誌にも紹介された女性起業家の会社として有名ですが、実質的起業家はM氏なのです。現在P社は九州から静岡まで16ヵ所の施設を展開しており、首都圏進出が実現すれば一躍全国版として注目されるようになると思います。

もう一人は、昨年10月に西日本最大級の介護用品専門店をオープンしたH社のO氏です。同氏は県内の有力建設・不動産会社を経営する二代目社長ですが、 建設市場が縮小する中で新たな分野で起業したのです。この介護分野は、今年4月からの介護保険法の実施に伴い、2兆円とも10兆円ともいわれるマーケットになると予測されていました。H社は当面は地域に密着した展開でこの分野のリーダーを目指していますが、本業への相乗効果を含めて新たな事業モデルとして期待されています。

このお二人の起業家のお話を聞いて、共通するのは事業理念を大事にしているということです。介護分野ではコムソンの事業縮小など、とかく悪いニュースや噂が絶えません。asktakaは、これもこうした理念の部分が欠落していたためだと考えます。特に、サービス分野では、形の見えない商品を提供するだけに、経営者が確固とした理念をもつことが重要だと痛感しました。

ところで、米国でもドット・コム企業の失速や撤退が目に付きます。日本でも同様で、多くのネット・ベンチャーの若き起業家の未熟さが露見した形です。 しかしながら、asktakaは80年代半ば頃から、日本で起業を考える場合、広義のサービス業に注目すべきだと指摘してきました。この点に関して、参考までに、asktakaが今年の2月に他所の掲示板に書いた記事を再掲します。

「皆さんもご承知のように、米国の雇用構造はここ10年で大きく変わっ ています。製造業の就業者が約300万人減少し、流通サービス業で約 2000万人増加しています。そして、物販や外食、医療・介護サービ スでちょうど製造業の減少分を相殺したといわれています。」

「こうした雇用構造は、今後の日本の雇用問題を考える場合も重要で、 ハイリスク・ハイリターンからローリスク・ローリターンまでのより 起業による成功確率が高いビジネスモデルのオプションが必要ではな いでしょうか?私がサービス分野での起業にも注目したいと思っている のは実はこうした観点からなのです。」

日本の起業率の低さは有名ですし、この点は過去の「話題」でも取り上げました。ただ、闇雲に不慣れなITを使ったビジネスを考えるよりも、もっと身近なところで地域住民に密着した有望ビジネスが存在するのです。今、asktakaは、この点に注目して地方発の新たなビジネスの創造に期待しているのです。

今日の「話題」は、地方の起業家の方々の元気さとasktakaのエキサイティングな気持ちを伝えたかったのですが、皆さんも地方発の起業家を目指してみませんか?



お知らせ:昨日の話題は「欧州のトップはボーダーレスに」 でした。



2000年11月25日(土)〜26日(日)

「欧州のトップはボーダーレスに」

ビジネスウィーク(BW)誌の最新号(11/20号)の特集"Managers without Borders"によると、ヨーロッパのエグゼクティブ達は随分様変わりしたようです。

先ず、ヨーロッパのビジネス社会では、急速に英語が共通語化していることがあげられます。そして、ヨーロッパの大企業トップ200社のうち、40社はすでに外国人が最高責任者になっているそうです。

また、インシアード(Insead)やロンドン・ビジネススクール(LBS)などの欧州の有力B-Schoolsの卒業生は、半数は自国以外で働いているそうです。こうして、エグゼクティブ予備軍を含めて、欧州のトップはボーダーレスになっているというのです。

こうした変化をBW誌では次のように表にまとめています。


欧州のエグゼクティブの進化
時間軸→
諸条件↓
これまで現在から今後
教育エリート国立大学出身(仏の国立行政学院(ENA)など)か工学やファイナンスの博士号を取得。米国あるいは欧州のINSEADやLBSなどのトップ校でMBAを取得。
キャリアパス自国の大企業で出世街道を登る。しばしば官僚経験あり。20代の早い時期に海外の多国籍企業、投資銀行、コンサル会社に勤務。平均して4回転職し少なくとも3ヶ国で就労。
外国語英語を必要としない(但し、スカンディナビア諸国やオランダ人は英会話力がある)。 英語は不可欠で、欧州のトップは大抵3ヶ国語を話す。


こうした欧州の“超国家的”現象は、資本市場、財・サービス市場、労働市場のボーダレス化の波が予想以上に早く浸透した結果といえます。それも、欧州企業が、米国人を含む米国流マネジメントを身につけた人達から学び、アウトサイダーが企業を改革することを学んだからだ、とBW誌は述べています。

さて、皆さんは、欧州のこのような“超国家的”なエグゼクティブの動きを どう思われますか。asktakaは複雑な思いでこの記事を読みました。何故ならば、経済体制論でいう経路依存性の存在が、欧州において予想以上に早く消失しつつあるように見えるからです。アメリカン資本主義のみならず欧州や日本など様々なタイプの資本主義が存在するという一つの根拠は、この経路依存性にありますからね。どうも市場の圧力が経路依存性を押しのけたように思えます。

欧州のトップの動向は、日本にとってもよそ事ではありません。自動車業界では、周知の通りすでに日産とマツダは外国人トップが指揮しています。金融業界や石油業界なども外国資本が多数を占める企業が少なからず存在しますから、外国人トップが登場する日も遠くはないでしょう。

欧州のように、日本もトップ200社の2割が外国人社長となる日は到来するのか?もしそうであればいつ頃なのか?その時期は意外と早いのではないか、とasktakaは思うのです。皆さんはどうお考えですか?



お知らせ:昨日の話題は「『コンサルティングの悪魔』を読んで」 でした。



2000年11月23日(木)〜24日(金)

「『コンサルティングの悪魔』を読んで」

少し前に当BBSでも『コンサルティングの悪魔』という本が話題になっていました。asktakaとしては、業界の内幕の暴露ものではあるし、あまり趣味がよくないと思うので、ノーコメントにしようかとも思いました。しかし、まだ現役のコンサルタントの一人として、一言コメントする気になりました。

というのは、コンサルタント業界は外部から見ていると分かりにくく、そのためこの手の本がコインの一面からしか見ていないという点に気付く人は少ないと思うからです。『〜悪魔』で述べている事柄の大部分は真実のように語られていますが、ある眼鏡をかけたフィクションだといいたいのです。ただ、日本人の登場人物の何人かは、ややデフォルメされてはいるものの直ぐ想像できる点が、真実味を演出してはいますが。

先ず、最初に明らかにしておくべきは、コンサルティング会社はれっきとした営利を求める組織であるということです。従って、通常の事業会社や金融機関などと同様に、商品やサービスを提供して収益を得ているのです。

この点を確認した上で、『〜悪魔』を読むと、同書の3分の1は“仕事をとる”いわば営業の話であることが理解できるはずです。もちろん何を売るかというと、無形の商品であるコンサルティングを売るわけですから、ブランドやグルそしてコネなどをフルに使うわけです。それから実績やノウハウなどを、守秘義務を守りながらそれとなくアピールするのです。これを著者のように、“知ったかぶりの騙しのプレゼンテーション”といってしまえばそれまでですが。

同書に書かれているコンサルティングの営業プロセスは、asktakaからみれば一般の事業会社と大同小異で、特に“悪魔”が棲んでいるとは思えません。ただ、メーカーと違って、目に見えない無形の商品、コンサルティングというサービスを売るので、この点が同書の著者の在職した鉄を売る会社とは違うのです。メーカーだって、かってのコンピュータ会社を想起すれば分かるように、クライアントの無知をいいことに随分オーバースペックなマシーンを売っていたではないですか(まさか最近はこのようなことはないでしょうが)。

何もasktakaは、メーカーの売り方と比べて、コンサルティングの営業のやり方を正当化しようといっているのではありません。B社やその他のコンサル会社が、すべてはったりや誇張で仕事をとってくるだけではないといいたいのです。この点は、そうしたやり方では仕事がリピートできるわけがないことからも、想像できると思います。

一方、『〜悪魔』の残りの3分の2は、コンサルティングという“商品”と“生活”の話といえます。商品としてのコンサルティングは、情報を入手し、それを加工・分析して、提案して、実行する、こうした一連の流れになります。特に、業界情報を入手する行動を、企業秘密を盗み出す産業スパイと同一視する著者の論調は論外です。それは彼の特殊な才能かもしれませんが、それが極めて例外的であるゆえに重宝されたということではないでしょうか。

“生活”の類の話やその他の話は切りがないので割愛します。asktakaとしては、こうしたコンサルティング業界の暴露的な読み物が世に出るようになるとは、時代の変化を感じますね。それだけこの業界に関心が集まっている証左といえますからね。

最後に、これからコンサルティング業界を目指す方は、是非この本を読んでくださいね。そして、同書を反面教師として、例えば患者の利益を第一に考える名医のようになってくださいね(そうそう、その前にたっぷり栄養を取って体力をつけなければいけませんが)。



お知らせ:昨日の話題は「今日の言葉(42):“グローブ・インテル社会長”の言葉より」 でした。



2000年11月21日(火)〜22日(水)

「今日の言葉(42):“グローブ・インテル社会長”の言葉より」

昨日(21日)会社の方にamazon.co.jpから本が届きました。19日に発注しましたから2日目に届いたわけです。今日はその本の中から、ハーバード(HBS)のPankaj Ghemawat教授らが書いた"Strategy and the Business Landscape" に引用されている言葉を孫引きしたいと思います。

それは、皆さんもお馴染みの、インテル社のグローブ(Andrew S. Grove)会長の次の言葉です。

"If the actions are dynamic, if top management is able to alternately let chaos reign and then rein in chaos, such a dialectic can be very productive."

この言葉は、前掲書の最終章である第5章の「持続的な成功を構築する」の冒頭に引用されています。Ghemawat先生は、カオスを作り出したり、コントロールしたりして、いかに現在の経営資源を変化させるかがポイントだといいたかったようです。

ちなみに、現在の戦略論の流れは、かってのポーター先生の産業組織論をベースにした環境アプローチから、企業の経営資源をベースにしたアプローチへと変化しています。この点は、中核能力(コア・コンピタンス)や組織能力が注目されていたことを考えると分かりやすいでしょう。

最近では、経営資源ベース・アプローチから一歩進んで、ダイナミック・アプローチが主流です。これは"A Dynamic View of the firm"ということで、既存の経営資源をいかに変化させていくかという、変革に対するコミットメントを重視したアプローチなのです。

こうした戦略論の流れを考えると、グローブ会長の言葉の含蓄も一段と深まりますね。ただし、カオスの深みにはまり込んで、そこに埋没しないようにご注意くださいね。(笑)



お知らせ:昨日の話題は「デジタルTV時代の勝者は?」 でした。



2000年11月20日(月)

「デジタルTV時代の勝者は?」

今年の12月1日からBSデジタル放送が開始されます。シドニーオリンピックもあって9月から試験放送されていますが、デジタルTVの売れ行きは順調のようです。では、今何故デジタルTVなのか、今日はこの点を考えてみたいと思います。

先ず、デジタル放送の特徴は、次の3つに大別されます。

1.一層精細なデジタルハイビジョン映像の実現
2.多チャンネル化の実現
3.番組連動型及び独立型データ放送の実現

この中で最も注目されているのは、3のデータ放送であることは想像できると思います。具体的にはデータ放送によって、次のようなことが可能になるのです。

リモコン操作で、サッカーの試合を観戦しながら選手のデータを入手したり、CMを見ながら資料請求をしたり、アンケートに答えること出来るようになります。また、料理番組のレシピを入手したり、ドラマを見ながら出演者の着ている洋服を注文することも可能になります。

それから、番組とは独立したコンテンツを見ることも出来ます。つまり、デジタルテレビでTVショッピングやチケット予約、バンキングサービスなどが利用でき、“T(テレビ)コマース”と呼ばれる商取引が普及する可能性を秘めています。

このように書くと、すでにインターネットに馴染んでいる皆さんは、何だこの程度かと思われるかもしれません。しかし、すでに4千数百万世帯に普及し、キーボードが不要なテレビが活用できるとしたら、ネットの世界が更に広がることは想像に難くありません。

メーカー側もデジタルTVの普及のために、受信機の規格統一のみならず、BSやCS放送におけるインターネットを利用した双方向サービスの規格の統一を行い共同開発を開始しています。後者に関しては、この11月にソニー、松下、東芝に日立を加えた四社が、“eプラットホーム”のサービスを企画する新会社をスタートさせました。これを見ても力の入り具合が分かりますね。

こうしたデジタルTVに熱い視線が注がれているのは、単にそれが携帯電話に続いて成長分野になるということだけではないのです。日本のIT戦略の担い手になると期待されているからです。つまり、パソコンのウィンテル連合に対して、日本はデジタルテレビ、情報家電で主導権をとろうというのです。 現在の12桁のIPアドレスが将来枯渇することをにらんで、32桁の次世代型IP、IPv6を日本のIT戦略の中に位置付けたのも、このような背景があります。

ところで、デジタルTV時代に向けて、ソニーと松下電器、東芝の3社の戦略の違いが興味深いですね。あえていえば、ソニーがブロードバンド・ハード・ソフト融合型、松下が情報家電統合型、東芝がデジタル総合ソリューション型ということでしょうか。

デジタルTVの普及の鍵はコンテンツいかんである点は、皆さんも周知の通りです。そのためには従来のメーカーの開発スタイルを変えるとともに、新たなビジネスモデルの創造が不可欠となります。

すでに各社ともこうした動きは活発ですが、さて勝者は何れか。asktakaは預言者ではありませんが、“ソフトパワー”に勝る某社が一、二歩先行し逃げ切るとみました。皆さんはいかがお考えですか?



お知らせ:昨日の話題は「IT戦略でトップ追撃」 でした。



2000年11月18日(土)〜19日(日)

「IT戦略でトップ追撃」

建設業界とその関連業界はアゲインストの風が吹いています。特に、公共事業の削減の影響もあって、建設機械は市場が縮小しており、市場は半減したと見る向きもある業界です。こうした業界の中で、“失われた10年”をIT戦略の推進によって、業界トップのコマツに挑んでいるのが日立建機です。

現在の瀬口龍一社長が“CS&CIM”を唱えたのは、専務時代の91年でした。顧客満足(CS)とコンピュータによる生産統合を実現しようという試みでした。つまり、“営業と現場の直結”をコンピュータによって実現しようというものです。

ところが、当時は幹部や社員にもこのイメージが理解できなかったようで、 瀬口氏はGEのウエルチ会長の哲学を浸透させるなどの啓蒙活動を行いながら、IT導入を進めたそうです。

IT戦略の推進によって具体的に次の2つの成果が現れました。

1.オーダーメイドの油圧ショベルの納期が4日に短縮

2.ネットワーク型未来ショベル「ZAXIS(ザクシス)」の発売

納期に関しては、従来は受注から納品まで2週間かかっていたのですが、実に3分の1以上短縮できたわけです。これはITを使った「二プラス二」体制の成果なのです。営業マン全員がノートパソコンを持ち歩き、顧客のニーズに合わせて画面上で完成品を見せる。その場で受注できれば、その情報が工場に送られ、2日で部品を揃えて、2日で組み立てを完成する。こうした流れを「二プラス二」と呼んでいるのです(なお、ノートPCは4,000人強の社員のうち営業マン800名とサービス保守1,000名全員が所持)。

今年6月に発売された「ZAXIS(ザクシス)」は、20箇所に搭載したセンサーで管理や保守に必要なデータを把握し、ユーザーは日立建機のホームページからこうした情報を入手できるのです。これにより、故障の前にメンテナンス情報が把握でき、部品交換などがすばやく行えるようになりました。この結果、建機の稼働率の向上とメンテコストの削減を図ることができるのです。

日立建機の凄さは、10年前からIT推進に取り組み、顧客情報が開発や生産にリアルタイムにリンクし、更に各業務プロセス全体を見直した点にあります。納期以外にも開発期間は半減、在庫も圧縮されて、損益分岐店が3割も低下してことも特筆すべきです。

ところで、同社はこうしたIT戦略の推進によって、油圧ショベルのシェアを27.2%にアップ(前年比1.6%増)してトップのコマツの30.7%に迫っています。asktakaは“トップ追撃戦略”は馴染のあるテーマですが、成熟あるいは衰退市場の中で2番手以下が年間1ポイント以上シェアを向上させることの難しさを熟知しているだけに、今後の展開に注目しています(99年日経「主要製品・サービス100品目シェア調査」より)。

いずれにしても、日立建機のIT戦略は瀬口社長のリーダーシップ抜きには語れません。こうなると、やはりトップ次第かということになりかねませんが、トップを動かすのは参謀の貴方だということを肝に銘じてくださいね。


(注)
あえて申し上げるまでもないですが、上記の話は、新聞、雑誌、書籍、Webなどの公開資料に基づいています。



お知らせ:昨日の話題は「今日の言葉(41):“フィオリ−ナHP社長兼CEO”の言葉より」 でした。



2000年11月16日(木)〜17日(金)

「今日の言葉(41):“フィオリ−ナHP社長兼CEO”の言葉より」

今日は皆さんお馴染みのカーリー・フィオリーナ(Carly Fiorina)の言葉を紹介しましょう。改めて述べるまでもなく、同氏はヒューレット・パッカード(HP)の社長兼CEOとして、米国の女性経営者のリーダー的存在です。もちろん全米で初の女性CEOなのです(詳しくは過去の「今日の話題」をご参照ください)。

「分析すべきは時間なんです」

この言葉は、フィオリーナ女史がHPの取締役陣からスカウトされた際に、発した言葉だそうです。つまり、彼女は名門HPを時代の波に乗せ、再生する鍵は、“時間”にあると喝破したのです。

そして、機敏な動きがとれるようにと、99年3月に同氏はHPをコンピュータ及び周辺機器事業と電子機器やヘルスケアを中心とする事業とに分割すると発表したのです。

日本企業にとっても、最近“時間”や“機敏さ”という言葉が、単に観念論ではなく、実践の場へと移ってきているのは事実です。しかしながら、asktakaが気になるのは、まだまだ現状維持の発想、現状を所与とする制約から自由になっていないという点です。

ここは改めて、“時間”を機軸にした変革を考えてみてはいかがでしょうか。 決裁の時間は?、稟議の時間は?、会議の時間は?、納期は?問い合わせに対する応答時間は?などなど、トップも現場もまだやるべき事柄はたくさんありますね。さぁ、キーワードは“時間”ですよ!



お知らせ:昨日の話題は「日本語ドメインとインターネット鎖国」 でした。



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