これまでの話題(2000年6月前半)

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2000年6月15日(木)

「台湾半導体産業の成長の秘密」

メールマガジンをチェックしていると、“日本の半導体が台湾に抜かれる日”という記事が目に付きました。冒頭の書き出しは次の通りです。

「台湾の半導体産業の成長が著しい。日本のお家芸だった半導体産業が台湾に 抜かれる日が近づいているという見方さえある。パソコンやその周辺機器の分 野では,台湾が世界の生産拠点になって久しい。いまや,電気街の東京秋葉原 で台湾製以外の製品を探すことは極めて難しい状況だ。それが半導体にも及ぼ うとしている。」(日経BP社の6月14日付「BizIT Mail」津田建二記者(=Nikkei Electronics Asia担当部長)の署名記事。以下、引用は同じ)

それから、日本のメーカーが1985年から90年にかけて世界の半導体売上で米国を抜いてトップに立ったあと、ASIC(特定用途向けIC)事業にシフトして失敗した経緯を述べています。そして、日本メーカーは設備投資でに台湾に遅れをとっているそうです。半導体で世界第2位のNECの設備投資額は2000億円なのに、台湾のTSMCは44億ドル(約4500億円)の投資を行うというのです。ちなみにTSMCはファウンドリ(製造請負)事業では世界一ですが、半導体市場全体では三洋電機とロームのあいだに位置する世界23位のメーカに過ぎません(Dataquestの発表資料による)。

津田記者は、こうした半導体の積極投資を行い、急成長している台湾の強さの秘密は二つあると生々しく述べています。ここはasktakaがまとめるよりも原文を引用して、直に感触をお伝えした方がよさそうです。つまり、第一点は次の通りです。

「台湾におけるビジネス・マインドが日本の企業とは全く違うことが挙 げられる。例えば,A社がある製品をヒットさせたニュースを聞いたとする。 日本ならば“それならわが社も同じ製品をもっと安く出そう”とか“もっと性 能を上げたものを出そう”となってしまう。ところが台湾のメーカは、“それ ならわが社はその製品ではなく別の製品を開発しよう”という方向に動く。だ から1社が安心して量産でき,その結果安く作れるわけだ。」

それから、二点目は下記のように述べています。

「強さの秘密はこれだけではない。製品ジャンルが正面衝突しないので,企業 同士やエンジニア同士での情報交換が行いやすい(実際,行われている)。し かも,台湾内の華人同士だけではなく,米国西海岸のシリコンバレーにいる華 人同士とも情報交換ができ,最先端の情報を入手できる。日本企業がシリコン バレーで情報を収集するよりも,はるかに素早く情報を手に入れられる。このため,新製品の開発にいち早く着手できる。」

asktakaはこれまで何回か、日本人よりも台湾のビジネスパースンの方が英語力と情報リテラシーが相対的に優れていると述べてきました。津田記者の指摘は、それらのみならず日本のマネジメントのあり方自体に疑問を投げかけているのです。

同記者は、台湾企業は政府や行政に頼らず、素早い情報収集に基づき世界規模での競争を繰り広げながら競争力を培っているとも述べています。こうした地球規模の活動によって、台湾企業は真の競争力の源泉は物真似ではなくオリジナリティにあるということを学んだのでしょうか。

asktakaは情報収集の迅速化の問題は、日本企業も何とか対処できると思います。だが、オリジナリティの問題を考えると、とても暗い気持ちになるのです。同質化された社会から、他者あるいは他社との違いを良しとする社会に移行する道のりはまだ見えていません。こうして足元から明日に視点を移すと、日本の根本が問い直されなければいけないと思うのです。“神の国”なんていっている場合ではないですぞ!



お知らせ:昨日の話題は「B2B2Cの時代?」 でした。



2000年6月14日(水)

「B2B2Cの時代?」

最近米国で「B2B2C」が話題になっています。つい一ヶ月ほど前の日経ビジネスにも“「B2B」「B2C」はもう古い、「B2B2C]に注目”という記事が出ていました。つまり、企業間電子商取引や消費者向け電子商取引から、消費者にネットを通じて製品・サービスを提供している企業向けのビジネスが注目されているとのことです。

皆さんもご承知のように、米国では当初企業間電子商取引に関心が集まりました。早期に利益が計上できると見られていたからです。ところが、この分野に大企業が参入するに従ってネット企業は形勢が不利になってきました。 一方、消費者向けはもともと利益構造が不透明だった上に、昨年末からオンラインショップの経営不振が伝えられたのです。ネット企業の株価急落はこうした背景がありました。

このような環境下で、最近米国でネット企業のビジネスモデルとして脚光を浴びているのが「B2B2C」なのです。このモデルは、電子取引を行いたい企業に対して技術やノウハウ、ソフトウエアを提供するところがポイントです。

先ず、Ask Jeevesは、ウェブ上で一般消費者が普通の文章で書く質問に答える技術をウォルマートやコンパックに提供しています。また、Net Perceptions は、特定顧客の商品購入パターンを類似サイトから集めて、今後の購入商品を提案するターゲット・マーケティングソフトをCDナウなどに提供。 MyPointsNetcentivesは、購入金額に応じてポイントを集めるシステムを提供しています。後者はAOLやLycosなどを顧客に持つそうです。

こうした「B2B2C」型モデルは、日本でいうと楽天市場が該当するそうです。一見すると「B2C」に見えるのですが、実は出店企業にネット取引の場を提供して、そこから利益を得ているからです。

以上からお分かりのように、「B2B2C」企業は既存の大企業やネット上の有力企業、あるいはこれからネットビジネスに参入意向を持つ企業を対象に、特定の技術やノウハウを武器にビジネスを行っているといえます。

「インターネット白書2000」によると、日本のインターネット人口は、6月末で2,000万人を超え、今年の12月までに2,260万人になると予測されています。米国のインターネットユーザーは現在7,900万人ですから、日本はまだユーザー数で見て4分の1、人口あたり普及率は約2分の1ということになります。

米国に比べてネットの普及はこうした状況ですから、日本でもネットビジネスで安定的な収益を得ようとすれば、“ネットに参入しようとしている企業”あるいは“ネット上のメジャーな企業”を相手にしなければ早期の立ち上げは困難でしょう。

このように考えると、これまで消費者相手のビジネスとは縁が薄かった企業にも、ネットビジネスのチャンスが見えてくるのではないでしょうか。従来のノウハウを新たな視点で見直すのも一案ですね。



お知らせ:昨日の話題は「IT革命と取引コスト」 でした。



2000年6月13日(火)

「IT革命と取引コスト」

IT革命によって取引コストが劇的に低下したといわれています。つまり、経済学でいうところの完全競争に近づくというわけです。欧米をはじめ日本でも、こうした取引コストの低減は当たり前のこととして議論されています。

ところが、池尾和人教授(慶應義塾大学)は、IT革命によっても必ずしも取引コストは低減されないと指摘しています。その概略は次のとおりです(「週刊東洋経済」5月13日号、P9)。

先ず、取引コストは取引のプロセスに従い次の3つに大別されます。

1.探索(サーチ)にかかわるコスト
2.交渉(バーゲニング)にかかわるコスト
3.監視(モニタリング)にかかわる費用

探索コストは有利な取引条件、例えば安い価格を提示している相手を探すための費用です。確かに情報技術によって探索コストは大幅に低下したものと思われます。

交渉コストについては、取引の合意形成にかかわる費用です。これについては、教授は大きく低下するという根拠が見出しにくいと述べています。取引の合意に達しても取引が継続している間は交渉は完了していないと見るからです。金融取引の場合などを見ると明解で、貸付金がすべて返済されるまで取引は完了しないのです。

最後の監視コストは、合意に従った取引遂行を監視して、必要に応じて強制措置などのしかるべき措置をとることに伴う費用です。こうした費用も情報技術の発達によって若干の恩恵を受けるものの、個々の取引が多様化しているのでかえって監視コストがかかる可能性もあります。更に、強制のための費用は人間が関与するため情報技術によって大きく影響されないと見る方が自然です。

池尾教授は上述した点を踏まえ、経済的な意味での取引費用の多くは人々の自己の利益を追求するという誘因にかかわっており、情報技術の発展にとって必ずしも削減されない。むしろ戦略的な情報操作の余地の高まりから、コストが高まる可能性があると指摘しています。結論として、「技術的な意味で情報伝達の費用が下がっても。即、取引費用が低下するとは結論できない」ということになります。

ところで、経済学的には取引コストは低下しないかもしれません。しかし、重要なのは、IT革命による探索コストの削減を背景にして、新たな市場を出現させたり、新規参入を促す効果がある点ではないでしょうか。

IT革命が真に企業家精神を呼ぶ起こすものであれば、資本主義のダイナミズムのためにも歓迎すべきです。asktakaは、交渉コストや監視コストをいかに削減するかはそうした精神の中から自然に発生し、結果として更に取引コスト全体を引き下げることになると思うのです。

IT革命により、これまで成立していた中間業者が不要になったり、雇用面での悪影響があるかもしれません。しかし、これも一層の規制緩和によって、広範なニュービジネスが出現すれば悪影響を吸収できるはずです。IT革命を考えるキーワードは、シュンペーターがいうところの企業家精神であることを肝に銘じるべきではないか。



お知らせ:昨日の話題は「今日の言葉(15):『Management Teams』より」 でした。



2000年6月12日(月)

「今日の言葉(15):『Management Teams』より」

80年代後半から90年代にかけて、欧米の企業組織に最も影響を与えたのは“チーム”という概念ではないでしょうか。メレディス・ベルビンMeredith Belbin)はチームワーク理論の第一人者ですが、主著『マネジメント・チーム(Management Teams:Why they succeed or fail)』(1981)で成功するチームの基本的な要因を明確に示しています。つまり、理想的なチームには次の8つの役割(当初は7つ)を担う人が必要です。

1.プラント(PLANT (PL)): 創造力があり困難な問題を解決できる人

2.資源探索者(RESOURCE INVESTIGATOR (RI)): 外交的で熱中しやすく、好機を探る人

3.コーディネーター(CO-ORDINATOR (CD)): 優れた議事進行者で、明確な目標を示し意思決定を促すことができる人

4.形づくる人(SHAPER (SH)): 挑戦的で、精力的に障害に立ち向かっていける人

5.チームワーカー(TEAMWORKER (TW)): 協調性があり、もめごとを避けるタイプだが、人の話をよく聞き築き上げる人

6.実行者(IMPLEMENTER (IM)):有能で頼りがいがあり、アイデアを実行に移せる人

7.補完的完成者(COMPLETER FINISHER (CF)):勤勉で誠実な仕事を納期通りに行う人。また自分や他者の誤りや手抜きにうるさい人

8.スペシャリスト(SPECIALIST (SP)): 特定分野の知識やノウハウをもつエキスパート

最近では上記の8つの他、“モニター”を加えることもあり、優れた戦略的判断力持つ人をいうようです。

現在、欧米の業績の高い企業は、戦略的事業単位や個人ではなく、チームが組織づくりのポイントだと考えています。こうした考え方は、伝統的な大企業からベンチャー企業まで浸透しています。

ベンチャーキャピタルが、マネジメントチームの陣容を見て投資判断を行うといわれるのも、このような背景があると思われます。伝統企業からベンチャーまで、もう一度チームの最適メンバーを考え直してみてはいかがでしょうか。まさかいまどき金太郎飴のようなメンバーを揃えて、チーム編成を考えている企業があるとは思いませんが、皆さんの会社はいかがですか?



お知らせ:昨日の話題は「コンサル業界人気に思う」 でした。



2000年6月10日(土)〜11日(日)

「コンサル業界人気に思う」

コンサル業界が学生や中途採用の労働市場で人気を集めるようになって久しい。だが、現在でもコンサル業界の実情については、あまり理解されていないと思います。もっとも当HPのお客様は、「コンサルティング業界の現状」(2月25日付今日の話題)やゲストブックでの議論をご覧いただいているので、業界事情はある程度お分かりだと思います。今日は最近のasktakaへの問い合わせ(会社も含む)などを踏まえて、コンサル業界の人気の原因などについて述べてみたいと思います。

先ず、コンサルティング会社といっても範囲が広い点にご留意ください。 Big5を中心とする会計監査系のコンサルティング会社は、どちらかというと大量採用を行いSI志向なので対象から外します(アンダーセンやプライスウォーターハウスなど)。ここでは主に外資を中心にする戦略系コンサルティング会社や経営コンサルティング会社を“コンサル会社”“コンサル業界”とします。

さて、asktakaの会社をはじめコンサル会社に入りたいと考えている人々は、大体次の5つのタイプに分類できます。

1.経営分析、企画などの専門知識を生かしたい(専門知識型)
2.将来の起業に向けてマネジメントの勉強をしたい(起業型)
3.知識産業の将来性に期待して(将来性期待型)
4.忙しそうだし報酬もよさそうだから(報酬期待型)
5.業界のことは知らないが、人気が高そうなので(人気便乗型)

この5つが人気の原因といえますが、中途採用の場合は1と2が圧倒的に多いですね。新卒の場合は、3から5が多いですが、最近では2の起業型も増えています。もっとも採用側も新卒に専門知識なんて期待していないですからね。もちろんMBAは別ですが。

現状では、コンサルタントとして新卒の定期採用を行っているコンサル会社は意外と少ないのです。特に日本のコンサル会社は、コンサル志望者を採用して営業職にするケースがほとんどですから注意が必要です。

では、めでたくコンサル会社に採用されたとしましょう。先ず最初は、情報収集、データ収集とデータの加工・グラフ化、分析などをやることになります。これもクライアントの会社でクライアントと一緒に作業するケースもありますが、社内でのデスクワークや社外での情報収集が中心です。少し慣れてくると、プロジェクト会合の議事録をとったり議論に参加して、実際にプロジェクトの方向付けに関与するようになります。

特に外資系の場合、最初の1、2年は仕事もハードで高いレベルの仕事が要求されます。MBA取得後の採用者で年俸1200〜1300万円ですから、当然それなりの仕事の質が求められるわけです。しかも、一定期間に昇進しなければ退職 するというルールがありますから大変です。

ところが、最近では新入りの在社期間が短くなっているそうです。どうも徒弟制度的な下積みの激務に耐えられず、1年以内に辞める人が増えているそうです。そのかわり有力外資出身のマネジャークラスは定着しているといういびつな構造になっているようです。

だから、年がら年中採用しているコンサル会社は、回転が速く定着率が悪いとみた方が無難です。こうした若手の出入りが激しい原因は、下積みを嫌がる風潮以外に、外資コンサル会社のOBを中心にネットビジネスなどの起業が盛んで、そちらに誘われるという側面が見逃せません。

ちなみに、日本ではまだコンサルの人気が高いのですが、すでに米国ではハーバードをはじめ有力なビジネススクール出身者は、以前ほど優秀な人材がコンサル会社に就職しなくなっています。優秀な人ほどスタートアップの会社やベンチャーキャピタルに行くか、自ら起業するようです。

こうした米国の動向がすぐに日本に伝染するとは考えにくいですね。以前にも指摘しましたが、米国では80年代の大企業志向から今日に至るまで10数年を要したわけで、日本において起業家志向が高まるにはもっと時間が必要です。

いずれにしても、今後はコンサル会社を取り巻く採用環境が変化しそうです。皮相的なコンサル人気に踊らされることなく、コンサルとしてのプロフェッショナルな道を歩むのか、ビジネスのプロの道を選ぶのか、この点を再確認すべきではないでしょうか。この選択が貴方の将来を左右することになりますよ!



お知らせ:昨日の話題は「あなたの会社を再発見する法」 でした。



2000年6月8日(木)〜9日(金)

「あなたの会社を再発見する法」

近着のFortune誌に興味深い読み物が2つありました。一つはコア・コンピタンスで有名なゲーリー・ハメルが執筆した“あなたの会社を再発見する法〜10のルール”で、他方は“老いたコンサルタントは決して死なない”です。今日はハメル教授のペーパーをご紹介しましょう(「Leading the Revolution」(HBS出版)からの抜粋だそうです)。

先ず、10のルールは次の通りです。

1.Set Unreasonable Expectation(桁外れの期待を設定)

2.Stretch Your Business Definition(ビジネスの定義を広げる)

3.Create a Cause, Not a Business(ビジネスでなく、大義名分を創造)

4.Listen to New Voice(新しい声を聞け)

5.Design an Open Market for Ideas(アイデアを育むオープンな市場をデザイン)

6.Offer an Open Market for Capital(それに金を出すオープンな市場を提供)

7.Open Up the Market for Talent(才能を受け入れる市場を開拓)

8.Lower the Risks of Experimentation(実験のリスクを軽減)

9.Make Like a Cell---Divide and Divide(セル風にやる--分割そして分割)

10.Pay Your Innovators Well---Really Well(イノベーターに十二分に報いる)

「桁外れの期待」の意味は、10%程度の利益増やコストダウンでは従来とは異なるやり方が生まれないということです。「ビジネスの定義」については、レビットの“マーケティング近視眼”を思い起こします。現在のビジネスにこだわらず、コアコンピタンスや戦略的資産に基づいて事業を見直そうというのがこの趣旨です。

「大義名分を創造」というのは、理念あるいは信念ともいえるかもしれません。例えば、チャールズ・シュワブがネット証券取引に移行する際、「顧客の金融面での夢の守護者(guardians)」という“大義名分”を使ったそうです。どうも日本企業のお題目的な社是や理念よりも、米国企業の方がよほど上手くそれらをビジネスに使っていますね。それから「新しい声」については、説明の必要はないと思います。

5から7のルールは一連の流れとして、ビジネスの革新を生むものです。 つまり、アイデアと金と才能が自由に取引される土壌があるかどうかが重要だと述べています。シリコンバレーの企業群及びEnron社、GEキャピタルなどと他の大企業との違いは、急進的なアイデアこそ唯一の富の源泉だと認識しているかどうかにあるそうです。こうしたアイデアに資金が提供され、優秀な人材が集まるといった好循環を生む仕組みを作ることが大事ですね。

8番目のルールは、リスクが多い大きな取引を行うよりも、例えば“ポップコーン・スタンド”のような小さい取引をたくさん行うことを意味しています。後の2つは説明はいらないですね。

以上の10のルールには、それぞれルールを実践している企業のトップの言葉が引用されています。最も多く引用されているのがEnron社で、2、5、7、9そして10の5つです。次は、GEキャピタルで1、4および8の3つです。そして、チャールズ・シュワブは3、ヴァージンは6に引用されています。この5社が“ビジネスを再発見”しているモデル企業といえそうです。

ところで、Enron社に関してはこれまで何回か話題にしましたが、米国で革新的なマネジメントを行っている企業として有名です。だが、同社はオリックスと合弁で「イーパワー」という会社を設立し、日本に上陸します。また、100%出資の日本法人「エンロン・ジャパン」を設立し、日本で本格的なビジネスを展開するようです。全米に天然ガスパイプライン網をもち、エネルギー業界という伝統産業で革新を続けるエンロン社ですが、今後は日本でも注目されそうです。

大企業にいる社員を“再発見”向きに改造することは骨が折れる仕事です。しかし、先ずはトップが上記の10のルールを単に理解するのみならず、実践する勇気をもつことが重要です。頭の切り替えのできないトップの下では、再発見の道はほとんど閉ざされていると思います。さて、皆さんは自分の会社を再発見できるでしょうか?日頃の思考訓練がものを言いますよ!



お知らせ:昨日の話題は「IT革命をあおった学者たち・その2」 でした。



2000年6月7日(水)

「IT革命をあおった学者たち・その2」

週末の「今日の話題」で、IT革命について発言している学者たちを槍玉にあげる形になりました。しかし、誤解があるといけないので、別の観点からこのテーマについて再度述べてみたいと思います。

IT革命といわれる情報通信技術の発展が社会経済に及ぼす影響は誰しも認めるところです。しかし、アナリストなど一部の株式取引に直結する人達を除いて、経済学者にしてもコンサルタントにしても、その影響度を見る視点は温度差があったと思います。

その典型的な例が、“ニューエコノミー論”に与する人達とポール・クルーグマンMIT教授との見解の差です。つまり、ニューエコノミー論は、一部の人に株高を正当化するために利用された点は否めません。しかし、それは情報や知識を積極的に評価して、ITをベースにした経済のメカニズムを理論的に説明したものです。

一方、クルーグマン教授は、ニューエコノミー論者たちのいうIT革命によるドラスティックな生産性の向上には、絶えず反対の立場をとっていました。IT革命といわれる技術革新が、今世紀初頭から70年代までの鉄道やモータリゼーションなどの技術革新に比べてインパクトが大きいのかと問うているのです。

大統領経済報告によると、95年以降の米国経済は、長期トレンドを1.47%上回る生産性上昇率を続けているそうです。そのうちの半分をIT投資による資本ストック増大(0.47%)とコンピュータ部門の生産性上昇(0.23%)が寄与しているとのことです。しかし、これ以外の分野の生産性向上分は0.7%で、これもIT革命の恩恵を受けていると判断されているといわれています。

この程度の生産性の加速をどう見るかは意見が分かれるにしても、IT革命の影響を分析することは経済学者にとっても重要です。結果としてどう影響するかについては、歴史が証明するというよりも、時間がたてば実証されることです。目先の話よりも、IT革命が経済システムやビジネスを構造的にどう変えていくか、この点について議論されるべきです。

クルーグマン教授は経済学者として一流ですから、ニューエコノミー論を論じる学者たちに一言いいたかったのかもしれません。かっての成長の限界を唱えたローマクラブの学者たちも、正統派の学者から批判されたのと同様に。 しかし、教授には現在の生産性がどうこうというよりも、ニューエコノミー論に替わる理論的解明に期待したいと思います。

先般槍玉に上がった日本の経済学者も、軽薄にIT革命の真っ只中にあるからIT関連の株価が上昇するとは言っていないと思います。ただ、経済学者として、あるいは経済学を研究する個人として、現状を評価したことだけは確かです。IT革命をテーマにして学者たちが執筆や講演などの個人ビジネスを行うことは、むしろ歓迎すべきことかもしれません。

冷静に考えてみると、経済ジャーナリスト東谷氏の見解は、学者は現実の問題に関してあまり発言するなといっているに等しいと思うのです。asktakaは、むしろ欧米の学者たちと同様にもっと現実問題に発言し、ビジネスに関わるべきだと思います。その結果、あまりにもズレが大きい人たちは、市場が淘汰するメカニズムができていればよいのです。

これからの日本には経済学的な考え方が定着することが求められます。以前にも述べましたが、日本の政財界の経済学的ファンダメンタルズは弱いですからね。こう考えると、発言しない経済学者よりも、発言する人たちの量と質の充実が求められるのではないでしょうか。



お知らせ:昨日の話題は「金融再編が都心を変える」 でした。



2000年6月6日(火)

「金融再編が都心を変える」

長銀が新生銀行に生まれ変わり、日債銀も近々再生の行方が決まりそうです。また、都銀4グループは信託銀行を含めて更に動きがありそうです。当HPのゲストブックのお客様たちが指摘しているように、当面日本の金融業界はとてもホットな話題を提供してくれます。

と思っていたら、asktakaが年に何回か寄稿している雑誌社から原稿の依頼がありました。テーマは“都心の街が変わる”です。金融再編による支店統廃合等により都心の空きスペースが出現していますが、街づくりの観点から変化の方向を示してほしいという依頼でした。

実はこの2年ばかり、都心の変化について毎年執筆していたのですが、今年のテーマは未来のビジョンを語るという点が新しいところです。このへんのテーマは、asktakaの本業というよりも個人的な趣味のようなところもあります。つまり、街をぶらぶらウォッチングする趣味の副産物でもあるわけです。

例えば、銀座だけをみても去年あたりから随分変わっています。ソニービルのそばのN証券の跡にイギリスのドラッグストア「Boots」が出店、また松坂屋のそばのA銀行跡にはフランスの化粧品チェーン「セフォラ」が出店しました。また、来年の3月には、松屋の隣にあったTM銀行の跡に「ルイ・ヴィトン」の日本最大の旗艦店が登場します。なんとスタッフ50名を揃えるというのですから驚きです。その他、ATMコーナーが「スターバックス」に変わっていたり、繁華街の確かな変化を感じます。

これまで銀行をはじめ金融機関は都心の一等地に立地していました。しかしこうした金融機関は、どちらかというと昼の顔です。金融機関に替わって物販のお店になるということは、街が夜の顔をもつことになります。つまり、物販、飲食、サービスなどの一層多機能な街へと変身する可能性を秘めているわけです。

丸の内のビジネス街に海外ブランド店などが集積しはじめたというニュースを聞いた方も多いと思います。丸の内の大家さんといわれる三菱地所が、仲通の富士ビルの一角にインターネットができるイベントスペース「丸の内カフェ」をオープンして話題にもなりました。今、この仲通を歩いてみると、現在建設中の丸ビル辺りまでお店が進出していることがわかります。asktakaにはこのへん一帯が、ニューヨークの5番街のように変身するような気がします。

このように金融再編が都心を変えつつありますが、この傾向が全国に普及すると思います。今後ネット取引が増えれば金融機関の支店機能は変質します。そうなれば現在のビッグバン対応の金融再編から、更に支店の統廃合が進展すると思うからです。

ガソリンスタンドはピーク時に比べて半減するといわれています。米国に比べて一人あたりの店舗数が多いことが一因だと聞いています。金融機関の支店数が米国に比べてどの程度多いのか、手元に具体的な数字をもっていません。だが、米国との生産性比較をみると、金融分野は農業や物販などとともに必ず低い部類に入ります。こう考えると半減とまではいかなくても相当数削減されることは間違いないと思われます。

金融のみならず百貨店などの流通業も今後不採算店の撤退や業態変換が進みます。そうなるとますます繁華街のビジネスチャンスは広がると思いませんか。こうしたチャンスを先取りするには、街づくりのビジョンが不可欠です。皆さんも身近な繁華街のビジョンを描いてみませんか?



お知らせ:昨日の話題は「今日の言葉(14):『君主論』より」 でした。



2000年6月5日(月)

「今日の言葉(14):『君主論』より」

ニコロ・マキャヴェリの『君主論(The Prince)』(1513)が今でも売れているそうです。この本は政治権力について述べたものですが、現代のビジネス界のリーダーたちの密かな愛読書になっています。この原因の一端は『君主論』が大著でないため手ごろな時間で読める、と見る向きもあります。だが、これはうがった見方で、リーダー論は時代を超えることはもちろん、洋の東西、政財界を問いません。そこで、マキャヴェリの言葉を拾ってみましょう。

「先頭にたって物事に新しい秩序を導入することほど、手がけるのが困難で、実行に危険が伴い、成功がおぼつかないものはない」

「何よりもまず、つねに部下をきちんとまとめ、訓練すべきで、またたえず狩猟により鍛え続けなければならない」

「だが、言語、習慣、あるいは法の異なる土地で国家を獲得するには困難が伴い、またそれを維持するには運と気力が必要となる。そこで最も現実的で賢いやり方の一つは、その国を獲得した者が行ってそこの住人になることだ。・・・・・なぜなら彼がそこにいれば、騒動が起きればすぐにわかり、ただちに対策を講じられるからだ。だがそこにいなければ、騒ぎが大きくなるまで知らせが届かず、その頃にはもはや対応が不可能となっている」

何とも含蓄のある言葉で、マネジメントの本質を述べているとは思いませんか。最後の言葉など、海外進出に失敗してきた日本企業のトップに聞かせてあげたいですね。

ただ、マキャヴェリは権謀術数にたけたリーダー論を述べている点は否定できません。リーダーは「必要とあらば悪に手を染めるやり方も知っておかなければならない」と聞くと、大きな時代の流れを感じます。現代において、つまり情報がネットを通じてリアルタイムにかけめぐる時代において、違法行為や悪はリーダーの命取りなることは周知のことです。

しかしながら、大企業、ベンチャー企業を問わず、この点を認識しないトップが現代に存在することを考えれば、マキャヴェリの言葉に一層の重みを感じます。今、新しい時代のリーダー像が求められている、とasktakaは痛感するのです。



お知らせ:昨日の話題は「IT革命をあおった学者たち?」 」でした。



2000年6月3日(土)〜4日(日)

「IT革命をあおった学者たち?」

まだ読み残していた文芸春秋を眺めていたら経済ジャーナリストの東谷暁氏が書いた『「株」で1億円を作る?あさましい・・・』というペーパーが目に付きました。

このペーパーのいいたいことは、最近巷にあふれている株式投資に関する本の中身があやしいという点につきます。だが、asktakaにはこの中で“IT革命をあおった学者たち”という小見出しの方が面白く感じました。

槍玉に上がっているのは、野口悠紀雄、斎藤精一郎、中谷巌の三氏で、いずれも学者としてというよりもマスコミの世界で人気のある人達です(ということは学者の間では評判が悪いということですが)。東谷氏は、ネットバブルがはじけてから、IT革命を積極的に評価してきたこの三人は、掌を返すように論調を変えたと批判しているのです。

簡単に東谷氏の話を紹介しましょう。野口東大教授は『日本経済再生の戦略』(中公新書)の中で、「アマゾンが黒字化しないのは将来の事業展開に向けて投資を続けているからだ」と述べています。しかし、その後アマゾンの株価低下を受けて軌道修正し、「インターネットをどうビジネスに活用するか手探りの状態で、生産性の向上も確認できていない」と日経新聞で述べています。

また、斎藤立大教授は、IT革命を20世紀初頭のモータリゼーションに匹敵すると評価していました。だが、最近では「IT革命の革新的効果が一般化するには・・・10年から30年の歳月は不可欠・・・。とすれば米国や日本で巻き起こりつつあるネット株ブーム・・は、株式市場の過剰期待」(『Voice』4月号)と述べるようになりました。

最後に中谷多摩大教授は『ITパワー』(PHP研究所)などで盛んにIT革命のインパクトを喧伝していました。ところが、最近『入門マクロ経済学』(日本評論社)の中で「情報革命が実際にどの程度の生産性上昇をもたらしたのか、という点については経済学者のあいだでも見解がわかれており、信頼に足る実証分析もまだまだ不十分」と述べるにいたりました。

東谷氏がこうした学者たちの言動に批判的なのは、彼らが今日の日本のネットバブルの下地を作ったとみるからで、一連のバクチ株式入門書を書いたお調子者に比べれば罪が重いと考えるからです。

asktakaが思うには、株をやろうとする人達は上述した経済学者の話をまともに聞いて意思決定することはないと思います。それよりもアナリストやファンド・マネジャーの発言の方がよほど影響を与えると思います。それから光通信に対する提灯記事をはじめ、あおったという意味では日経新聞が重罪だと思います。こうした連中は、かってのバブルにまだ懲りていないという意味で二重に罪が重いですね。

それにしてもクルーグマン教授は以前から“情報革命によって米国の生産性はさほど上昇していない”と指摘しています。経済学者ならば、このへんの発言はフォローしているはずですが、見えなくなるのでしょうか。asktakaには、人々が日本の経済学者の発言をまともに聞かなくなることの方が心配ですね。せめて伊藤元重東大教授のようなまともな人にもっと発言してもらうしかないのでしょうか。

やはり、わが国の学者は世間というかビジネスを知りませんからね。無理に現実問題に対して発言しようとするとズレが生じるのかもしれません。もっとも、ビジネスを知っているはずのコンサルタントの中にもあおるタイプの人がいて、時々外しますね。失礼、こういうのは論外というのでしたね。asktakaも気を付けます。



お知らせ:昨日の話題は「税の優遇措置と株式市場育成」 でした。



2000年6月2日(金)

「税の優遇措置と株式市場育成」

税の優遇措置は時の政府の政策をよく表しています。この点は最近の住宅取得減税やパソコンなどの情報機器購入の際年間100万円までの損金算入などの例を見ればよく分かります。

ところが、まだまだ政策と合致しないちぐはぐな面が散見します。例えば、貯蓄優遇制度や株式投資に対する税制、連結納税の問題などです。

連結納税については以前この欄で取り上げたので今日は触れません(2月5日・6日号)。問題は貯蓄と株式投資に対する税制です。

確かに戦後の経済成長を支えたのは日本の貯蓄率の高さであり、マル優制度などの税金面での優遇措置が寄与してきました。しかし、今グローバルに間接金融から直接金融へと流れが変化しており、郵貯資金を使った非効率な公共投資や銀行経由の資金調達が見直されているのが現状です。

こうした金融環境下で、今日本において必要なのは、現在の郵貯や銀行預金中心の個人の金融資産ポートフォリオを株式や投資信託へとシフトすることにあると思います。そうならなければ、いくら会計制度や企業評価を株式の時価ベースにしたところで、株式市場自体の成長が見込めないからです。

そういえば、日本では株に関するビジネスを表す“株屋”とか“株に手を染める”というネガティブな言葉があります。こうした言葉が生きているのも、元来日本では株に対する胡散臭さがあり、現在でもそれが続いていることを意味します。

米国を中心に株式の時価総額で企業を評価するやり方が標準となりつつありますが、株価偏重も行き過ぎれば問題はあると思います。だが、きちんと情報開示を行う企業及びトップが、マーケットという第三者に評価されるという仕組み自体は優れたシステムです。今後、グローバルにこうした市場価値によって企業が評価される流れはますます強くなるでしょう。

しかしながら、株式投資にはリスクが伴います。これまでローリスクというよりもノーリスクでの金融資産選択になれていた国民に、リスクを伴う 金融資産の保有を促進させるには、マル優以上の税制面での優遇措置が不可欠です。加えて、日本において企業が開かれた企業統治を行うとともに、タイムリーに適切な情報開示を行うことが、株式市場の信頼性を獲得する上での前提でもあります。

株式市場は単なる直接金融の資金調達先としてだけではなく、伝統企業の評価からベンチャー育成に至るまで、これからの資本主義経済の根幹をなすものです。健全な株式市場を育てるために何をなすべきか、税制上の優遇措置を含めて今こそこの点を真剣に考える時ではないでしょうか。



お知らせ:昨日の話題は「今日の言葉(13):『科学的管理法』より」 でした。



2000年6月1日(木)

「今日の言葉(13):『科学的管理法』より」

ビジネスに携わるものでフレデリック・W・テイラーの『科学的管理法(The Principal of Scientific Management)』(1911)という書物を知らない人はいない。しかし、他の古典と同様に実際に読んだ人は少ない のではないでしょうか。asktakaも同様です。古典といわれる所以は、それだけ現代にも影響を与えているわけで、この本を抜きに20世紀の産業の発展を考えることはできません。

「科学的管理は、実質的に、いかなる企業や産業に携わる人間にとっても、完全な精神革命といえる。自らの仕事、同僚、部下といったものに対して義務を負うという意味で、彼らにとって文字通り精神革命なのである」

テーラーは、個々の仕事の詳細な調査に基づき、仕事をする際の一連の動作を明確にした上で、業務遂行に必要な最適時間を割り出しました。そして、彼はこの情報をもとに、管理者は従業員の仕事を的確に判断できると考えたのです。

当時マネジメントとは、実務に付随するものとして考えられていました。しかし、テーラーは従来の考え方を一新しました。つまり、経営管理、マネジメントは、実際の生産等の実務とは異なる別の仕事であり、有能な管理者となるにはトレーニングや適切な教育が必要だという、現代のマネジメントの考え方の礎になったのです。

テーラーの科学的管理のエッセンスは、業務を単純化し、無駄な労力を省き、効率を上げる点にあります。かって世界のビジネス界にもてはやされたリエンジニアリングは、現代のテーラー主義とも言うべきものだといわれています。それから、テーラーの考え方は、ドラッカーの『現代の経営』や『エクセレント・カンパニー』など多くの経営書に影響を与えています。

科学的管理を盲信すると人間性を無視することになるなど、テーラー主義に対する批判もみられます。しかしながら、テーラーが現代に生きているのは、トップや管理者、従業員の双方に精神革命を迫るものである点ではないでしょうか。



お知らせ:昨日の話題は「21世紀の3つのトレンドと日本の役割 」でした。



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