これまでの話題(2000年5月後半)

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2000年5月31日(水)

「21世紀の3つのトレンドと日本の役割」

サミュエル・ハンチントンは『文明の衝突』の著者として有名です。同氏は21世紀の最初の10年の世界情勢を3つのトレンドで示して、世界における日本の役割は縮小すると予測しています。3つのトレンドは次の3つです。

1.技術的、経済的発展に加われない国が出現

2.国家主権は徐々に力を失い、言語と宗教と文化的遺産を共有する国々は団結

3.超大国アメリカと地域大国の一極多極システムとナンバー・ツー地域大国の存在

先ず、第一のトレンドに関して、ハンチントンは90年代の失われた10年と今後の生産人口の減少、EUの台頭などから、日本の経済的影響力は相対的に低下すると予測しています。

次に、日本は文明という観点から孤立しているゆえに、アジアでのリーダーシップはとれないともいっています。アジアが統合されるとすれば中国のリーダーシップによるもので、日本はそれに適応するしかないとのことです。

最後のトレンドについては、ハンチントンはイギリスのEU同盟と米国との両にらみの関係など、日本の立場と類似していると説く。アジアの場合、米国と中国の関係がEUのそれに比べて微妙なので、ナンバー・ツー地域大国の日本は、イギリスよりもはるかに難しい対応を迫られると述べている。

こうしたトレンドの中で、ハンチントンは日本に残された選択肢は二つあると述べています。一つは、大変革を実行することです。つまり、移民を奨励するか出生率を向上させ人口動態トレンドを逆転、他の東アジア諸国との文化的類似性をベースに劇的に外交手腕を向上させて親密な関係の強化などです。二つ目は、こうした大変革が困難であれば、大きな望みを捨てて世界政治の変化におとなしく適応すること。すなわち、世界の中での日本の役割が縮小しても、国民の幸福と安全にとって不利にならない政策を実施することです。

ところで、皆さんはハンチントンのいう3つのトレンドと日本の二つの選択肢についてどうお考えですか?asktakaは、これまでの同氏の考え方の流れから帰結される当然の結論だと思います。そして、あまり日本人からはこうした見解は出てこないという意味で、岡目八目に似たところがあるなと思う次第です。

asktakaは、これから日本はハンチントンがいう第一の選択肢をとっていくものと信じています。このような環境変化は確かな確率で生じることが分かっている以上、政府も企業も無策でいるはずがないですからね。政府に多くは期待していないですが、せめて企業活動の自由度を拡大する法改正だけは従来の数倍のスピードを上げてほしいと思います。それくらい叫んで、少し法改正が早まるぐらいでしょうから。

企業が何をすべきか?もう細かいことはいいません。これまでやってこなかったこと、やれなかったことを、制約条件を取っ払って考えるべきです。そうすればいかに多くのことが残されているかが分かるはずです。 そうです、確かな変革の実行、これあるのみではないでしょうか。



お知らせ:昨日の話題は「携帯電話は日本の期待の星か?」 でした。



2000年5月30日(火)

「携帯電話は日本の期待の星か?」

日本では携帯電話やiモードの勢いが止まりそうもなく、その将来に期待が集まっています。しかし、本当に期待通りなのかについては、あまり真剣に議論されていないような気がします。この点はネット・ベンチャー最盛期に、その先行きに警鐘を鳴らす人が少なかったのと同じ現象のような気がします。そこで、今日は携帯電話の将来性について考えてみたいと思います。

この10年のIT革命は、インターネット革命と移動体通信革命に象徴されます。携帯電話はまさに後者の渦中にある上に、iモードによってインターネットとリンクされているわけですから、一身に期待が集まるのも当たり前かなと思います。だが、実情をよく観察すると手放しで喜んでばかりはいられません。

国連の専門機関ITU(国際電機通信連合)が採択した次世代携帯電話には5つの方式があります。NTTドコモが来年5月にサービス開始予定のW-CDMA(Wideband Code Division Multiple Access、符号分割多元接続)は、この5方式のうちの一つに過ぎません。その上、NTTドコモが世界に先駆けて次世代サービスを開始するといっても、具体的に導入が決まっているのは日本だけです。ヨーロッパは2005年を目処に次世代への移行を考えているし、米国は第二世代さえ標準化されていないのですから、第三世代がどうなるかは分かりません。

それから、iモードにしても現在の需要を引っ張っているのは若者で、iモード向けコンテンツで最も売れ筋は、バンダイの「いつでもキャラっぱ!」だそうです。これは「たれぱんだ」などの画像を毎日受信できるサービスです。つまり、現状では一部で指摘されているように、iモードはまだ子供の玩具と変わりないのです。

要するに、NTTドコモの次世代携帯電話は、ここ数年は世界標準としてあまねく世界で通用するわけではないのです。もっともW-CDMAにしても米国クアルコム社の特許ですけど。 そして、iモードの画面表示技術に関しては、WAP(Wireless Application Protocol)フォーラムの標準に準拠しない独自の方式を採用しているのです。

もっと重要なのは、iモードを含めた携帯電話を使う場、マーケットがどう広がるかという点です。確かに日本では、一時のポケベルブームから乗り移ったように、若者を中心に人気を呼んでいます。しかしながら、今後携帯電話が情報端末として自宅や会社でパソコンに替わる存在になるかというと、その可能性は少ないと思います。

せいぜい、現在のザウルスやWorkPad(あるいはPalm)の情報端末機能と複合化してマーケットを拡大するぐらいではないでしょうか。例え、株価をiモードでチェックできるとしても、株をやる人間が増えなければ、既存のツールからの代替か、外出時の補完的利用によってしか需要を喚起できません。

このように考えると、今後次世代携帯電話によって恩恵を受けるのは、次の2つのグループだと思います。第一に、携帯電話端末メーカー向け部品メーカー、第二に、ネット取引が支配的となる業界とそのコンテンツ・プロバイダーということになります。

次世代携帯電話が世界に普及すると、日本のメーカーよりもノキア、モトローラ、エリクソンなどの端末三大メーカーが強くなると思います。しかしながら、日本の部品メーカーはトップメーカーへのメーンサプライヤーとして競争優位を保つものと思われるからです。後者は、将来的な企業向け及び消費者向け電子商取引の広がりを考えれば理解できると思います。

asktakaは携帯電話が真の期待の星になるには、iモードを含むネット社会のライフスタイルを世界に提案できるかどうかにかかっていると思います。さて、皆さんはNTTドコモの体質でそれが可能だと思われますか?この点が実は一番問題だと思うのは、asktakaだけでしょうか。



お知らせ:昨日の話題は「今日の言葉(12):『人を動かす』より(その2)」 でした。



2000年5月29日(月)

「今日の言葉(12):『人を動かす』より(その2)」

先週の金曜日にデール・カーネギーの『人を動かす(How to Win Freinds and Influence People)』(1937)の中から、“人を動かす3原則”と“人に好かれる6原則”をご紹介しました。今日はせっかくですから続編をご紹介します。“人を説得する12原則”と“人を変える9原則”です。

「1.議論を避ける。2.誤りを指摘しない。3.誤りを認める・4.おだやかに話す。5.“イエス”と答えられる問題を選ぶ。6.(相手に)しゃべらせる。7.思いつかせる。8.人の身になる。9.同情を持つ。10.美しい心情に呼びかける。11.演出を考える。12.対抗意識を刺激する。」

「1.まずほめる。2.遠まわしい注意を与える。3.自分のあやまちを話す。4.命令をしない。5.顔をつぶさない。6.わずかなことでもほめる。7.期待をかける。8.激励する。9.喜んで協力させる。」

それぞれの原則はきわめてシンプルで明快ですから、あえて説明する必要はないと思います。人を説得するのに議論を吹っかけては話になりません。議論に勝つ唯一の方法として「議論を避ける」とは、晩年剣を持たなかった名人、塚原卜伝の境地に似ていますね。

人を変える方法も、ほめて、顔をつぶさず、期待して、激励するなど、洋の東西を問いませんね。最近の薄っぺらなハウツーものや、得体の知れない日本人が書いたこの手の本よりも、asktakaは是非この『人を動かす』を一読されることをお薦めします。ビジネス道の基本、人間関係を知る自己啓発書として、ベストセラーを続けている理由がよく分かりますよ。



お知らせ:昨日の話題は「日本の強み・弱み 」でした。



2000年5月27日(土)〜28日(日)

「日本の強み・弱み」

マイケル・ポーターは以前から“国家の競争優位・競争力”に関心を持っていました。最近もこうしたテーマの訳本が出版されて話題になっています。だが、一部にはこうした国家レベルの競争優位を云々することに疑問を持つ向きもあります。しかし、先ずその点にはあまりこだわらず、日本の強み弱みを第三者の目からみてもらうのもよいことだと思います。

スイスのローザンヌにあるIMDは欧州を代表するビジネス・スクールの一つですが、毎年『世界競争力年鑑』を出版しています。この2000年版から日本の強み弱みを指標化してランキングした結果をみてみましょう。それぞれの上位10項目は下表のようになります(「文芸春秋・6月臨時増刊号」より)。

日本の強み・弱みTop 10
順位強みTop 10弱みTop 10
1特許許可件数オフィス賃貸料
2外貨準備高産業用大口電気料金
3国内総投資 サービス収支
4海外特許件数 生計費比較
5一人当り小売売上 財政黒字/赤字の対GDP比
6一人当り民間研究開発換算額 経営者の起業マインド
7証券投資額 観光収入の対国内総生産比
8経常収支 資産課税税収の対国内総生産比
9一人当り研究開発投資額 新規事業開発の活発さ
10製品輸出額 外国人労働者の雇用規制


この表から、日本が相対的に強いのは、研究開発と国内経済の水準の高さであることが分かります。一方、弱みは不動産コストを含む物価の高さと起業や新規事業への取り組みなどです。

総合順位をみると、米国がトップで、以下シンガポール、フィンランド、オランダ、スイスが続いています。G7ではドイツが7位、カナダが11位、イギリスが15位、日本が17位です。フランスは19位でイタリアが30位 となっています。先進諸国は米国を除いて軒並み競争力がないことになります。こうしてみると、それみろ国家の競争力なんてナンセンスだという声が聞こえそうです。

ところで、競争力を「国内経済」「国際化」「政府」「金融」「社会資本」「企業経営」「科学技術」「人的資本」の8つの分野でみると日本はどうなるでしょうか。「科学技術」が2位、「国内経済」が6位の他は、すべて20位以下です。実感としてはなんとなく理解できそうですね。

こうして改めて強み弱みの項目を眺めてみると、個々の企業の競争力と日本国のそれとが必ずしも整合していないことが分かります。マーケットで海外企業を含む競合と戦っているのは各企業であり、別に国が競争しているわけではないですからある意味では当然ですね。

asktakaが思うには、国家の競争力を議論することに意味があるのは、経済政策の優先順位付けに寄与する点ではないでしょうか。競争力の弱い分野のインフラを重点的に強化するといった発想になれば、前述した「政府」の評価も高くなりますしね。

このように考えると、今、政府が百年の計(ドッグイヤーの今日では15年の計)をもってなすべきことは明確です。つまり、ITインフラの重点整備、規制緩和を含む改革の推進及び産業クラスター(ある産業に関連する企業や機関の地理的集積)の育成などです。政府が国としての競争力を意識することによって、こうした政策が一日も早く実行に移されることを、asktakaは願ってやみません。



お知らせ:昨日の話題は「今日の言葉(11):『人を動かす』より」 でした。



2000年5月26日(金)

「今日の言葉(11):『人を動かす』より」

いくら立派な組織構造を作っても人次第で成果は左右されます。大企業からベンチャー企業まで、マネジメントの根底には“人”の問題がからんでいるのです。そこで、今日はデール・カーネギーの『人を動かす(How to Win Freinds and Influence People)』(1937)の中から次の言葉をご紹介しましょう。

「1.批判や非難をせず、苦情も言わない。2.率直で誠実な評価を与える。3.(相手の心に)強い欲求をおこさせる」

「1.(相手に)誠実な関心を寄せる。2.笑顔で接する。3.名前は、当人にとって、最も快い、最も大切なひびきを持つことばであることを忘れない。4.聞き手にまわる(相手自身のことを話させるように仕向ける)。5.相手の関心を見ぬいて話題にする。6.(相手に)重要感を与える―誠意をこめて」

最初の言葉は「人を動かす基本的なテクニック(3原則)」として述べられています。次は、「人に好かれる6原則」です。何だか当たり前の話のようでもあり、どこかで聞いた言葉のようでもあります。だが、これらはすべてカーネギーの言葉なのです。

カーネギーは、膨大な書物を読破した結果を背景にして、政治家、経営者から市井の人までさまざまな人々のエピソードを交えて分かりやすく語りかけています。人に接する基本を学ぶには、この本は時代を超えていまや古典とも言うべきだと思います。

現に「エクセレント・カンパニー」の顧客サービス志向をはじめ多くの経営書、ビジネス書に、カーネギーの影響が現われています。皆さんも一度この本を読んでみてはいかがでしょうか。asktakaはかっては、ハウツー物として馬鹿にしていましたが、最近読み返してみると新たな感動を覚えました。



お知らせ:昨日の話題は「インターネットと選挙運動」でした。



2000年5月25日(木)

「インターネットと選挙運動」

昨日の話題では、政治が変わらないのは企業や圧力団体の“政治依存シンドローム”に一因があると指摘しました。では、この点で政府与党に全く問題はないかというと、そんなはずがあるわけはないですね。問題は大ありです。政治を当てにしてもしょうがないので、asktakaはあえて企業側に奮起を促したつもりなのです。

しかしながら、また政治の季節がやってきました。6月25日に総選挙が行われるようです。そうなると米国のようにネットを使って効果的な選挙活動が行われるのかなと思っていたら、実はそれは日本では公職選挙法違反になるようです。

ある代議士が実際に当局に確認したところ、ネット上で文字を使って選挙活動をすると法に抵触するということで、白紙のページに音声が流れるだけであればよいそうです。何ともおかしな話ですね。

asktakaにはこのおかしな話が、日本の政治の現実をよく表していると思うのです。つまり、

1.法を変えず運用で対処
2.日本の過去の文化(?)遺産
3.世の中の本質的な動きに鈍感
4.先取り感覚ゼロ

等数え上げればキリがないと思います。

先ず、法を後生大事に守るのは法治国家としては重要だと思います。聞くところによると、日本では律令の時代から一旦作った法律は変えず、運用で弾力的に対応する体質があるそうですからね。そういえばこのような話は、そこかしこの企業でよく聞きますね。逆に制度を変えても、運用で従来通りのやり方を踏襲するなんてあきれた話もあります。

次は、やはり政治は日本人の体質の鏡みたいな性格をもつものだと思います。特に、国民の古い体質を一身にしょっているのが地方の政治家ではないでしょうか。なぜなら、地元の選挙民の顔色をうかがって時には違法行為まで当然のようにやらざるをえないのですから。つまり、たかり根性に応じてお金をばらまいたり供応したり、交通違反潰しをやったり、なかなか政治家も大変です。こうした国民は政策で代議士や政党を選んでいるわけではないですからね。

asktakaは後藤新平の気宇壮大さに政治家のあるべき姿を感じる一人です。今日の車社会を半世紀以上も前に見通して、皇居前や名古屋に広い道路を作ったのは、しかるべきビジョンがあったからだと思います。選挙民のご機嫌をとって予算をばらまかないで、IT関連に思いきった重点投資を行うべきではないでしょうか。

ところで、話を本題に戻しますと、日本の政治はこうした古い体質を持っていますから、大部分の政治家はインターネットとは無縁な生活をしているのだと思います。そして、そうした政治家を支持している国民も大半はまだネット生活とは関係がないのかもしれません。と考えると、今政治家が積極的にネットで選挙活動ができるように法改正を行うインセンティブは低いですね。

インターネットが更に普及して、ネットを使った選挙活動が行えるようになっても、それだけでは政治は変わりません。やはり、某政調会長のような露骨な利益誘導型政治家を選んだのは、地元の選挙民です。われわれ国民一人一人が、立候補者のビジョンや政策に賛同して投票する、こうしたインテリジェンスが不可欠です。皆さんの知的な一票が日本の政治を変えることだけは間違いないのです。例え時間がかかっても。



お知らせ:昨日の話題は「政治依存シンドローム 」でした。



2000年5月24日(水)

「政治依存シンドローム」

スピードの時代だ、ドッグイヤーだといわれて久しい。しかし、なかなかこうした変化に対応できていないのが現状ではないでしょうか。もっとも企業の場合には、環境変化に適合できなければ市場から退場をせざるをえないわけで、一部では着々と変身しています。だが、問題は政府や地方自治体で、旧態依然として変わっていないように思われます。その原因はどこにあるのでしょうか。

通説では、官僚機構や官庁の縄張り意識が変化を拒むということになっているようです。しかし、asktakaには、どうもこれはコインの一面に過ぎず、しかもあまり当たりの確率が多くないと思われます。実は、一部の企業群や団体が患っている“政治依存シンドローム(症候群)”が変化を妨げている主な要因ではないかと思うのです。

この点は規制に守られていた伝統産業、地域に根付いた中小企業、農協や全国郵便局長等の団体などを例にあげればよく分かると思います。政権政党自民党の支持基盤がこうした業界にある以上、圧力団体として政府の政策に影響を及ぼそうとするでしょう。こうした支持団体が金と票と口を出すのは、別に日本のみならず政治の世界ではごく当たり前のお話だと思います。

asktakaが問題だと思うのは、環境変化に対応すべき時に政治頼みで問題を先送りする企業群が存在する点で、その姿勢が病気だといっているのです。もちろん時間稼ぎという側面もあるとは思います。だが、そうした企業群の圧力によって政府のやるべき改革が遅れるとすれば、この進歩の早い時代にジャパン・インク全体が危機に陥いることは必至です。

今ここで規制緩和あるいは自由化などの改革の先延ばしを画策している 企業は、逆に政府与党に改革の促進を迫るべきではないでしょうか。そして、改革の結果生じるであろう諸問題に対して政府に十分に手を打つよう求めるべきだと思います。この点は大企業も中小企業も同じです。

企業は現在に生きるとともに、未来に生きなければいけないと思うのです。それには一日も早く政治依存シンドロームから脱皮して、自ら変化を求めるべきではないでしょうか。例え道のりは険しくても、未来には晴れの日が待っていることを信じて!



お知らせ:昨日の話題は「今日の言葉(10):『GMとともに』より」 でした。



2000年5月23日(火)

「今日の言葉(10):『GMとともに』より」

20世紀の米国の産業を語る場合、自動車を抜きにすることはできません。フォードの大量生産システムを超え、巨大企業を活性化させたのはGMのスローンでした。アルフレッド・P・スローンの主著『GMとともに(My Years with General Motors)』(1963)の中で述べられた次の言葉は、「連邦型分権化」と名づけられた事業部組織の誕生のきっかけを示唆します。

「あまりにも大勢の人間が関与しているので、何か新しいことをやろうとすると多大な努力を要する。そのためせっかく新しいアイデアであっても、それを理解させるのに要する労力を考えると、もうどうでもいいと思ってしまう・・・GMはあまりにも大きくなりすぎ、ものぐさ病も重症に陥り、リーダーシップをとることなどわれわれには無理なのだと思わずにいられないこともある」

この言葉の意味するところは、大きな組織を動かすにはそれに見合った組織が必要だということ、そしてそれがなければリーダーシップが発揮されないということです。スローンはこうした認識のもとに組織を変革し、20年代の初頭に5つの自動車事業部と3つの部品事業部に分けたのです。これが70年代に戦略的事業単位(SBU)と呼ばれるようになったのです。

こうしたSBUによって、GMは毎年モデルチェンジを行い、1925年には大量生産のT型にこだわるフォードのシェアを超えたのです。だが、こうした組織も中央(本社)のコントロールと事業部の分権的意思決定がうまくバランスがとれていなければ機能しません。60年代の終わりになると、本社の財務部門が社内の権力を握るに至って、GMの組織は機能を麻痺させたのでした。

スローンの分権的組織は、今日の企業組織に多大な影響を与えた点は誰もが認めるところです。しかしながら、分権的な組織といえども万能ではありません。GMの事例は中央のコントロールの難しさと、社内志向にならず、たえず顧客の視点で考えることの重要性を教えてくれます。この教訓を21世紀にどう生かすか、私たちの知恵が求められるのはこれからです。



お知らせ:昨日の話題は「今日の言葉(9):『企業よ信念をもて』より」でした。



2000年5月22日(月)

「今日の言葉(9):『企業よ信念をもて』より」

今日はIBMの創立者の息子で、同社の現在の成功の基礎を築いたトマス・ワトソン・ジュニアの言葉をご紹介しましよう。

「企業が成功するか失敗するかの真の違いは、組織がそれに属する人びとの大きなエネルギーと能力を十分に生かしきっているかどうかという問題にけっきょくゆきつく・・・」「つぎに、私は組織が成功するためのもっとも重要な一つの要因は、この信条を忠実に守ることであると考えている。・・・信条はつねに政策、実施、目標よりも優先しなければならない。後者が基本的信条を犯しそうだと思われたら、ただちに変更されなければならない」

上記の言葉はワトソンの著書『企業よ信念をもて』(A Business and its Beliefs: The Ideas that Helped Build IBM, 1963)の中で述べられています。

これからの企業のマネジメントにとって、哲学や独自の価値観の役割が増加するものと思われます。この点は一見奇異に感じられるかもしれません。しかし、ネット社会の中で企業の組織や意思決定のあり方が大きく変化しようとしています。つまり、リアルタイムでインタラクティブなマーケットへの対応が求められるのです。その際、個々のスタッフは何をよりどころにして判断し行動するのでしょうか。

単なる数値目標やノルマに追われていては、結局世間を賑わした商工ローン業界の二の舞になりかねません。今この点を再認識して、新たな信条、哲学づくりを見直すべきではないでしょうか。この意味で、ワトソンの言葉は現代に通用する重みのあるものだと思います。



お知らせ:昨日の話題は「N社のドンの取締役退任 」でした。



2000年5月20日(土)〜21日(日)

「N社のドンの取締役退任」

新聞や雑誌でNECのドンといわれたS氏(取締役相談役)の取締役退任が伝えられました。同氏が社長、会長として18年間の長い期間、N社を牛耳ってきたことは皆さんもご承知だと思います。

もちろん同氏のN社に対する貢献は多大なものがあります。企業史としてある期間を切って同氏のトップとしての業績を評価すれば、スリーAであることは間違いないと思います。S氏はN社を旧電電の納入業者から、日本でも有数の電気通信メーカーに育てたわけですから(生みの親は故小林氏です)。

しかしながら、最近のS氏の言動は公開された情報をみた限りでも、どうも権力に固執していた感は否めません。相も変わらず、企業を社会の公器として考えず、所詮私利私欲の対象としか考えないトップが多い点は嘆かわしいですね。今回の退任も、自ら進んでというわけではなさそうで、興銀名誉顧問の中山素平氏と元住金頭取の伊部恭之助氏が引導を渡したというのが真実のようです。

では、日本にはどうしてこのようにトップの座にしがみつくトップが多いのでしょうか。asktakaには次の5つが原因ではないかと思っています。

1.トップの報酬が相対的に少ない
2.フリッジ・ベネフィットが多い(上記と関連)
3.コーポレート・ガバナンスが欠落
4.仕事しか能がない
5.より格の高い勲章を狙っている

1と2とは連動しています。上場企業のトップといっても年収は5,000万円前後から1億円ぐらいです。ここから税金を引かれると実質的には平の取締役や部長クラスの2倍ぐらいでしょうか。そこで、車、秘書、役宅を与えて、社長退任後も面倒をみるというのが一般的です。このへんは、かっての日本企業の報酬制度の特長である、若い時代の賃金は低く抑えられて管理職以上になると優遇されるという図式と類似しています。

次に、トップに権力が集中し、自ら出処進退を決められないというのは、まさしくコーポレート・ガバナンスの問題です。社長もしくは権力者の取締役再任に関して、株主あるいはステークホルダーの利益を守るという視点が欠けていましたからね。トップが人事権を握っているメリットもありますが、このへんがガバナンスの欠如の温床となっていたと思います。

4と5はまさかこのためにトップの椅子にしがみつくと公言する人はいないでしょうが、案外本音のところではないでしょうか。

会社にも人間にもライフサイクルがあります。企業がゴーイング・コンサーンを社会的使命とするならば、その時々の時代背景とともに必要な人は変化してきます。かっての功労者といえども例外ではないはずです。

やはり、業績に応じてトップに年間数十億円から何百億円の報酬を支払う制度にすべきではないでしょうか。そうすれば、トップを勤めたほどの人であれば、報酬に見合う貢献ができなくなれば自分で判断するでしょう。もし判断できない場合は、トップの人事権を取締役会から独立させる米国型のコーポレート・ガバナンスがあれば大丈夫です。

日本企業には、まだ負の遺産を処理できていないケースがあるようです。これもN社のSプロジェクトのように、言い出しっぺが健在の間は処理しかねているのが実態だと思います。今回のS氏の退任が、同種の問題を抱える企業にとって、元凶を一掃するよいチャンスになることを祈ります。



お知らせ:昨日の話題は「21世紀に消える職業は?」 でした。



2000年5月19日(金)

「21世紀に消える職業は?」

昨日は“21世紀の有望な職業”を話題にしました。今日は同じTIME誌の記事から“21世紀に消える職業”をご紹介しましょう。実はこちらの方がショッキングで、かつ興味深いですね。

先ず、次のリストをご覧ください。

1.ストックブローカー、車ディーラー、郵便配達人、保険・不動産代理人
2.先生
3.印刷屋
4.速記者
5.CEO
6.歯科矯正医
7.看守(囚人監視人)
8.トラック運転手
9.家政婦
10.父親

ここにあげた職業が21世紀に消え去るのは、IT技術とりわけインターネットの発展の影響によるところが大です。

株取引などはすでに日本でもネットでの取引が急成長しています。車の販売については、米国では2005年に全体の5割がネットを通じた取引になると予測されていますから、日本でも何年か遅れてそうなるでしょう。郵便はメールに替わり、保険や不動産についても株や車と同様です。

次に、先生が不要になるのもネットを通じた遠隔教育が普及するからということのようです。asktakaは大学や企業研修はオンライン教育が効果的で、現在の教育システムを革新するとは思います。しかし、最近の犯罪の低年齢化現象をみるにつけ、小中学校の教育がこれですむとは思いませんね。もっとも、少なからず存在するダメ教師を淘汰するという意味はあるかもしれませんが。

それから、印刷屋、速記者については想像しやすいので説明は不要だと思います。CEOがいらなくなるというのは、将来のインターネット時代には意思決定の仕方が変わるというのがTIME誌の言い分です。トップダウン型の意思決定から、グローバルチームによる迅速な現場での意思決定に移行するというのです。確かにCEOの役割は変化するかもしれませんが、組織がなくならない限りトップは必要だとasktakaは思います。このへんの未来のマネジメントについては、また別の機会に話題にしますね。

歯の矯正については、今後3Dシミュレーションによってプラスティックの使い捨て型が普及するそうです。現在の金属製のブリッジは廃れて、歯科矯正医はいらなくなるというのです。看守は囚人にチップを埋め込むことによって行動を監視できるようになれば不要になるし、トラック運転手はコンピュータ制御の自動運転車の専用レーンができればいらなくなる。また冷蔵庫が在庫を管理して掃除ロボット活躍すれば家政婦も必要ない、まぁこんな具合です。

最後にいたっては、TIME誌は父親がいらなくなるといっています。クローニング(未受精卵の核を体細胞の核に置き換えて遺伝的に全く同じ生物を得る技術、リーダーズ英和辞典より)が発達し試験管ベービーが増え、人工子宮によって・・・・。

ここまでくると、asktakaは20世紀の人間のせいか、少し抵抗を感じます。ネット時代の家庭はバーチャルになってしまうのか。そんなことはないと思いますね。asktakaはネットや技術の発達によって、逆に人間的なもの、人間でなければできないこと、つまり“人間とは何ぞや”という基本が問われることになると思います。現に、ネットのコミュニティでも盛んにオフ会が行われているのは、そうした人間の本質的な営みへの回帰の現れではないでしょうか?

いずれにしても、TIME誌の21世紀ビジョンは日本の雑誌にはない面白い記事でした(そのうち日本の雑誌が物まねの記事を載せるでしょうが)。asktakaには、21世紀に必要なものは合理的な行動とともに、理念や哲学が求められると思います。“人間は考える葦である”という有名なパスカルの言葉を、改めてかみ締めるべきではないでしょうか。



お知らせ:昨日の話題は「21世紀の有望な職業は?」でした。



2000年5月18日(木)

「21世紀の有望な職業は?」

この1ヵ月ばかり仕事以外の情報源を絞っていたので、未読の雑誌などが随分たまってしまいました。一気にフォローするのは難しく、時代の流れの一部が欠落したような気分です。やはり、情報は良質のものをコンスタントに入手するのが基本だと改めて感じています。それと、同じ時期に2人の日本のトップが海外の雑誌の表紙(アジア版)を飾ったり、結構話題のネタはあったのですが、すでに旬を過ぎた話になってしまいました。

そこで近着のTime誌を開いたところ、21世紀のビジョンを特集にした記事が目に入りました。いくつかの面白そうなテーマのうち、今日は、"What will be the 10 hottest jobs?"をご紹介しましょう。

“10年前に、誰が2000年にウェブデザイナーが有望な職業になると予想しただろうか?”Time誌はこう問いかけます。そして、次の10の職業が21世紀に有望だと述べています。

1.Tissue Engineers(人体組織エンジニア)
2.Gene Programmers(遺伝子プログラマー)
3.Pharmers(製薬者)
4.Frankenfood Monitors(人造食物モニター)
5.Data Miners(データ発掘者)
6.Hot-line Handymen(ホットラインよろず屋)
7.Virtual-Reality Actors(仮想現実俳優)
8.Narrowcasters(あなただけの放送者)
9.Turning Testers(チューリング(マシーンの)テスター)
10.Knowledge Engineers(知識エンジニア)

上記の10のうち4つまでが、広義の医学・薬学及びバイオが占めます。残りはITあるいはネットの分野です。大体は想像できると思いますが、分かりにくそうなものだけ若干の説明をしましょう。

3番目のPharmers(製薬者)は健康に寄与する食物づくりを行う人を意味しています。21世紀の世の中では、遺伝子工学の力を借りて、健康維持に役立つタンパク質を含む穀物や家畜を栽培、飼育することが当たり前になるそうです。ワクチン入りトマトとか薬入りミルクなどが研究中とのことですが、個人的にはあまり食指が動かないですけどね。

その他、情報の山の中から役に立つとっておきの話ができる人(データ発掘者)、個人の専門的知恵をソフトウエアに換える人(知識エンジニア)、マス放送からカスタマイズされたあなただけの放送を行う人(あなただけの放送者)などは想像できると思います。

チューリング・マシーンについては、アングロサクソンの世界では有名で す。このマシーンは、英国の数学者チューリングが50年前に提唱した、無限大の情報量を持つ想像上の万能コンピュータです。Time誌は、コンピュータ技術者が今後も人間のインテリジェンスを取り入れて、コンピュータを一層人間らしくしようとするだろうと述べています。チューリング・テスターとはこのようなエンジニアのことをいうのです。

以上がTime誌による21世紀の有望な職業のエッセンスです。おぼろげながら未来の花形職業がイメージできると思います。asktakaはこの中の2つであれば、何とか変身できるかもしれませんね。皆さんが変身するとすればどの職業を選ばれますか?



お知らせ:昨日の話題は「AccountabilityとInternal Marketing 」でした。



2000年5月17日(水)

「今日の言葉(8):“リーダーシップ”とは」

ビジネスの世界、政治の世界を問わず、根本的な問題を詰めていくとリーダーシップの問題に帰着します。まさにリーダーシップは語り尽くすことのできない不朽のテーマだと思います。この点に関して、今世の中を賑わしている、どこかの国のリーダーたる首相の“神の国”発言は論外にしても、次の言葉を聞くと納得します。

「今日のリーダーシップは、権力を持つ者の多くが凡庸化し、無責任となっていることで危機に瀕している。(中略)また、リーダーの凡庸化をもたらしている基本的な要因は知性の問題である」

そうなんです。知性の問題だと喝破したジェームズ・マグレガー・バーンズはさすがだといわざるをえません。これは同氏の主著「リーダーシップ」(1978)の序文の中で述べられた言葉です。

バーンズは、“現状変革型リーダーシップ”と“交流型リーダーシップ”の2つのタイプが重要だと指摘したことで有名です。しかし、リーダーには道徳的な基盤が必要で、責任は広く分散させるという考え方こそ、米国でいや世界で高く評価されたのです。

要約すると、バーンズは“リーダーにとって知性と道徳的基盤が不可欠”だと述べていると解釈できます。asktakaは、伝統企業からベンチャー企業のトップまでこの言葉を肝に銘じるべきだと思います。

実は世の中のトップが凡庸に見えるのは、世を忍ぶ仮の姿で、密かに人物と知性を磨いている方が多いのではないでしょうか。少なくてもasktakaの周りにいるトップの方々は志が高く、日夜そのように努力している方が多いのです。皆さんの会社のトップはいかがでしょうか。



お知らせ:昨日の話題は「在庫と顧客満足」でした。



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