ダイちゃん事件資料集−成果3 戸籍課への事務連絡

1997年1月8日付け「渉外的胎児認知の届け出があった場合の取扱について」と、1998年1月30日付け「外国人母の夫の嫡出推定を受ける子について、日本人男から認知の届出があった場合の日本国籍の有無について」の通達は、非常に混乱を招いているようで、再度、1999年11月11日に、「渉外的胎児認知届の取扱い等について」と言う再確認の通達が発出されました。これは、きわめて異例なことで、いかにこの問題が不合理で、混乱を招いているかの証左ではないかと思います。


渉外的胎児認知届の取扱い等について

平成11年11月11日付け法務省民第2420号民事局

第二課長

第五課長

通知

 (通知)最高裁判所は、平成9年10月17日、外国人母の嫡出でない子が日本人父から胎児認知されていなくても、特段の事情があるときは、国籍法第2条第1号により子が生来的に日本国籍を取得する場合があるとする判決(最高裁第二小法廷判決・民集51巻9号3925頁参照)を言い渡しました。これを踏まえて、平成10年1月30日付け民五第180号をもって、この種事案における国籍事務の取扱いの基準を示す民事局長通達(以下「第180号通達」という。)が発出されています。ところで、第180号通達は、外国人母の嫡出でない子が日本人父から胎児認知されていない事案一般に当てはまるものではなく、渉外的胎児認知届に関する従来の戸籍事務の取扱いを変更するものでもありませんが、近時、第18O号通達の適用範囲を過大に解釈したり、この通達により従来の戸籍事務の取扱いに変更があったものと誤解し、その結果、訴訟に至った事案も見受けられます。
 そこで、この度、第180号通達の趣旨、渉外的胎児認知届の取扱い等について再確認するため、下記のとおり整理しましたので、貴管下支局長及び市区町村長に周知方取り計らい願います。

1 第180号通達の趣旨について

 前記最高裁判決は、婚姻中の韓国人母から出生した子について日本人父が生後認知した事案において、国籍法第2条第1号による日本国籍の取得を認めたものであるが、外国人母の嫡出でない子が日本人父から胎児認知されていない事案一般に当てはまるものではなく、(1)嫡出でない子が戸籍の記載上母の夫の嫡出子と推定されるため日本人である父による胎児認知の届出が受理されない場合であって、(2)この推定がされなければ父により胎児認知がされたであろうと認めるべき特段の事情があるときは、胎児認知がされた場合に準じて、国籍法第2条第1号の適用を認めるのを相当としたものである。
 第l80号通達は、この最高裁判決の趣旨を踏まえて発出されたものであり、(1)及び(2)のいずれの要件にも該当する事案について適用されるものである。

 また、第180号通達は、渉外的胎児認知届に関する従来の戸籍事務の取扱いを変更するものではない。
 例えば、外国人母の離婚後に胎児認知の届出がされた場合には、届出の時期を問わず、これを受理する取扱いがされているので(大正7年3月20日付け民第364号法務局長回答、昭和57年12月18日付け民二第76O8号民事局長回答参照)、外国人母の離婚後に子が出生する事案については、(1)の要件を満たさないため、第180号通達が適用されないこととなる。

2 渉外的胎児認知届の取扱い等について

(1)相談があった場合の対応

日本人男から、外国人母の胎児を自分の子として認知したい旨の相談があった場合には、母が婚姻中であるか否かにかかわらず、胎児認知の届出の手続があることを説明する。

(2)胎児認知の届出があった場合の手続

ア 届書等の受付

胎児認知の届出があった場合には、その届出が適法かどうかを問わず、いったん届書及び添付書類(以下「届書等」という。)を受領(以下「受付」という。)し、その受付年月日を届書に記載する。この受付の後に,民法及び戸籍法等関連する法規に照らして、当該届出の審査をする。
 なお、胎児認知の届出が口頭による届出の場合には、届出人の陳述を書面に筆記し、届出の年月日を記載して、これを届出人に読み聞かせ、かつ、その書面に届出人の署名・押印を求める(戸籍法第37粂第2項)。口頭による届出を筆記したときは、当該書面の適当な箇所に、戸籍事務取扱準則制定標準(昭和42年4月13日付け民事甲第615号民事局長通達。以下「標準準則」という。)附録第19号記載例によって、その旨を記載する(標準準則第27条)。

イ 届書等に不備がある場合

 届書に不備がある場合には、不備な箇所を補正させ、また、母の承諾(民法第783条第1項)を証する書面等届出に必要な添付書類が不足している場合には、それらを補完させる。
 なお、即日に補正又は補完することができないため、届出の受理の決定がてきないときは、その旨を戸籍発収簿に記載する(標準準則第33条第1項)。

ウ 届出の受理処分及びその撤回

(1) 届出を適法なものと認めたときは、これを受理し、その旨を受附帳に記載する。
 また、届書等の不備により即日に届出の受理の決定ができなかった届出について、後日、補正又は補完がされ、これを適法なものと認めたときは、当初の届書等の受付の日をもって当該届出を受理し、その旨を戸籍発収簿の備考欄に記載する(標準準則第33条第2項)。
(2) 胎児認知の届出を受理した後に被認知胎児が出生したことによって、その子が外国人母の前夫の嫡出推定を受けることが明らかになった場合には、当該受理処分を撤回して、不受理処分をする。この場合には、受理処分を撤回して、不受理処分をした旨を受附帳の備考欄に記載し、届出の受理の年月日及び受付番号を消除した上で、届出人に届書等を返戻する。
 届書等を返戻する際には,届出人に対し,外国人母の前夫の嫡出推定を排除する裁判等が確定した旨の書面を添付して,返戻された届書によって届出をすれば,不受理処分を撤回し,当初の届書等の受付の日に届出の効力が生ずる旨を説明する。
エ 届出の不受理処分及びその撤回
(1) 届出を不適法なものと認めたときは,これを不受理とし,戸籍発収簿に発収月日、事件の内容及び不受理の理由を記載した上で、届出人に届書等を返戻する(標準準則第34条)。
(2) 被認知胎児が婚姻中の外国人母の夫の嫡出推定を受けることを理由に届出を不受理とした場合には、届書等を返戻する際に、届出人に対し、子の出生後に外国人母の夫の嫡出推定を排除する裁判等が確定した旨の書面を添付して、返戻された届書によって届出をすれば、不受理処分を撤回し、当初の届書等の受付の日に届出の効力が生ずる旨を説明する。

●1997年1月8日、法務省民事局第二課補佐官は、「渉外的胎児認知の届け出があった場合の取扱について」と題した事務連絡を出しました。これで、外国人女性と日本人男性との間の婚外子の胎児認知届の受理の仕方が統一されることが確認されます。


平成9年1月8日

法務局民事行政部戸籍課長 殿
地方法務局戸籍課長 殿

法務省民事局第二課補佐官

渉外的胎児認知の届出があった場合の取扱いについて(事務連絡)

 ここ数年、各局における戸籍・国籍事務担当者打合せ会における協議問題中、渉外的胎児認知届に関するものが数多く提出されています。
 特に、日本人男が外国人女の胎児を認知する場合には、その胎児認知届が受理された後に出生した子が生来的に日本国籍を取得するという重要な効果が生じます(国籍法2条1号)が、この胎児認知の届出があった場合の戸籍事務の取扱いは、下記のようになりますので、この旨を貴管下支局長及び市区町村長に周知方取り計らい願います。

1 届書の受付
 胎児認知の届出があった場合は、届書類を受領します。届書類を受領することを「受付」といいます。受け付けたときは、その年月日を一応届書に記載しておきます。この受付後に、民法及び戸籍法等関連する法規に照らし、審査することになります。また、届出事件本人から口頭による届出があった場合は、市区町村長は、届出人の陳述を筆記し、届出の年月日を記載して、これを届出人に読み聞かせ、かつ、届出人に、その書面に署名させ、印を押させます(戸籍法37条2項)。この場合は、書面の適当な箇所に、戸籍事務取扱準則制定標準(以下「標準準則」という。)附録第19号記載例によって、その旨を記載することになります(標準準則27条)。

2 届書等に不備がある場合
 届書等に不備がある場合は、不備な箇所について補正をさせることになりますが、同意・承諾等の書面(戸籍法38条、以下「添付書類」という。)が不足している場合は、それを補完させることになります。

3 即日に受理の決定ができない場合の届出の処理
 届書類に不備又は不足があり、その書類等を即日に補正又は補完することができないときは、受理の決定ができないため、届書等に受領の年月日を記載し、戸籍発収薄にその旨を記載することになります(標準準則33条1項)。

4 届出の受理
 民法及び戸籍法等関連する法規に照らし、適法なものであると認めたときは、その届出を受理し、受附帳に記載することになります。また、届書類に不備があったものについて、後日、添付書類等が補完され、適法なものであると認められたときも同様です。この場合は、その旨を戸籍発収薄の備考欄に記載することになり(標準準則33条2項)、当初の受付の日に受理したことになります。

5 届出の不受理処分及びその撤回
 届出が不適法なものであるときは、不受理の処分をし、その旨を戸籍発収薄の備考欄に記載することになります(標準準則33条2項)。なお、不受理処分の理由が、被認知胎児が他男の嫡出推定を受けることにある(例えば、被認知胎児の母である外国人女が日本人男又は外国人男と婚姻中で、その夫との間の子であるとの推定を受けるような場合)場合には、子が出生後、その嫡出推定を排除する裁判等が確定したときは、その裁判等が確定した旨の書面を添付して届出をすれば、市区町村長は、不受理処分を撤回し、その届出を不受理処分をした日をもって受理できる旨を届出人に説明しておきます。

 不受理処分を撤回した場合の受附帳の処理は、次のようになります。

(1) 不受理処分を撤回した届出事件が当該年度内の場合
 受付番号は、不受理処分を撤回した日における進行番号とし、受付月日は、当初の届出があった月日により記載します。また、不受理処分を撤回したことを明らかにするため備考欄に「年月日届出の不受理処分を撤回したので本号へ記載」とするとともに、本来の届出があった受付月日の最終事件の備考欄へも「何某の胎児認知届の不受理処分を撤回したので受付番号第何号へ記載」のように記載し、検索の便を容易にしておきます。

(2) 不受理処分を撤回した届出事件が当該年度のものでない場合
 受付番号は、届出した年度における受附帳の最終事件の次の番号を記載します。この場合、届出した年度の受附帳は、「終結」の表示がされ、既に閉鎖されていますので、「終結」の次の行に受付番号を付して記載します。不受理処分を撤回したことを明らかにするため備考欄に(1)と同様の記載をし、本来の届出があった受付月日の最終事件の備考欄へも(1)と同様の記載をしておきます(大正11年12月27日民事4565号回答参照)。

6 受理処分後被認知胎児が出生した場合
 胎児認知届受理後、被認知胎児が出生した場合、その出生子が他男の嫡出推定を受ける子であるときは、認知の要件を欠くことになりますから、受理処分を撤回し、不受理処分とします。この場合は、その旨を受附帳の備考欄に記載し、届書の受理の年月日及び受付番号を消除し、届出人に返戻することになります。
 届出人に届書を返戻する際には、5なお書と同様の説明をしておきますが、この場合の受理の日は、当初の届出日になります。受附帳の処理は、5の(1)及び(2)と同様です。

(法務省民事局編『民事月報』第52巻第3号、財団法人法曹界発行、1997年4月)

以上



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