ダイちゃん事件資料集−広島での活動

 広島では、「国際婚外子の国籍を考える会」が結成され、蔵本正俊さんが世話人代表となって集会や要望書提出などを行いました。その要請書を再録します。

広島入管宛要請書    法務大臣宛要請書    法務大臣宛国籍法改正要請 


1993年6月6日

広島入国管理局長 様

国際婚外子の国籍を考える会
世話人代表 蔵本正俊
〒725
竹原市竹原町1916番地の7

要 請 書

 F(国籍・フィリピン共和国、生年月日19**年**月**日)さんとダイちゃん(父は日本国籍のAさん、母はFさんで、****A・****という呼称で取り扱われている。生年月日1991年9月18日)ちゃんの取扱につきましては、収容を猶予する仮放免の制度の適用をしていただいておりますことに、敬意を表しますとともに感謝いたします。
 さて、ダイちやんを原告とする「日本国籍存在確認の訴え」の訴訟は、広島地方裁判所に訴訟係属しているところであリ、また、Fさん及びダイちゃんを申立人とする国外強制退去命令の執行停止申立については、1993年6月3日広島地方裁判所がその執行停止を認める決定をしたところであります。そして、広島入国管理局による同申立人母子に対する「仮放免」の期限は、1993年6月7日14時までとされているところであります。
 今、1歳余りのダイちやんを母と分離させることは、人間が有する愛と理性に反し、また、なんら責任のないダイちゃんを収容による鉄格子の「獄」に置くことは、人道に反することというべきであります。
 そして、「経済黒字国・人権赤字国」と諸外国から非難されている日本の現状を思うとき、私たち日本人一人ひとりの人権感覚が問われていると真摯に受けとめ、ダイちやん母子に対する取扱についても、「仮放免」の継続と人権の配慮が必要があると思科するものであります。
 そこで、次のとおり要請する次第であります。

1.ダイちゃんを原告とする「日本国籍存在確認の訴え」の判決確定の日まで、Fさんと、ダイちやんの「仮放免」をしていただきたい。

2.上記「仮放免」にあたっては、ダイちやんの父であるAさんが大阪府に住んでいることを考慮して、居住制限についてFさんの意思を尊重した取扱をしていただきたい。

以上


1993年6月28日

法 務 大 臣 様

国際婚外子の国籍を考える会
世話人代表 蔵 本 正 俊
〒725
広島県竹原市竹原町1916番地の7

要 請 書

 F(国籍・フィリピン共和国、生年月日19**年**月**日)さんとダイちゃん(父は日本国籍鋳のAさん、母はFさんで、****A・****という呼称で取り扱われている。生年月日19**年**月**日)の取扱につきましては、広島入国管理局において収容を猶予する仮放免の制度の適用をしていただいておりますところであり、敬意を表しますとともに感謝いたします。
 さて、ダイちやんの国籍については、日本の国籍法第2条第1号が「出生時に父又は母が日本国民であるとき、子は日本国民とする」と定めているところ、国籍取得の要件に婚姻関孫及び胎児認知を付加して、「婚姻関孫がない揚合、胎児(出生前)認知がされなければ、出生時の父は不明であり、母の国籍しか取得できない。」と解釈され、胎児認知届けの書類不備を理由として、日本国籍が認められていません。そこで、「日本国籍確認」の訴えが広島地方裁判所に提訴されているところであります。
 一方、Fさんとダイちゃん母子に対して、在留資格外として広島入国管理局から国外退去命令が出されており、広島地方裁判所が一審判決言渡しの時までその執行停止を認めたものの、抗告により広島高等裁判所において訴訟係属しているところであります。また、仮放免につきましては、1993年7月5日14時まで期間が廷長されてはいるものの、その後も仮放免が継続されるか否か不明であり、当事者は国外退去又は収容の危険にさらされた不安の中で余儀ない生活を送っております。
 当会は、婚外子差別・外国人差別をはじめ、あらゆる差別の撒廃と人権の確立を求める立場から、国籍法第2条第1号について次のとおり解釈を提示し、ダイちゃんの国籍は「日本国籍」であると思慮いたしますので、これを認めていただきたく、且つまた、人権尊重を配慮した環境の中で「裁判を受ける権利」が保障されますよう格別のご配慮をいただきたく、次のとおり要請するものであります。

1、国籍法第2条第1号の解釈について
 法務省の解釈によりますと、子どもの国籍は、父と母のいずれかの一方が日本国籍で他の一方が外国籍の場合において、父と母に婚姻関係がなく、しかも胎児(出生前)認知がなされなかったときは、父が日本国籍を有するか否かではなく、母が日本国籍を有するか否かによって定まる、ということになります。
 しかしながら、国籍の取得に婚姻制度を導入することは婚外子差別の再生産をもたらすものであり、胎児認知を国籍取得の条件とすることは外国人差別を拡大するものであります。
 よって、法務省におかれましては、同条同号を素直に文理解釈して、ダイちゃんの日本国籍を認めていただきたい。

2、人権尊重を配慮した環境の中で「裁判を受ける権利」の保障についてFさん及びダイちゃん母子が国外退去させられると、裁判の過程において適切且つ効果的な訴訟遂行方法の機会が奪われ、憲法第32条により保障された裁判を受ける権利が侵害されます。
 また、1歳余りのダイちゃんを母と分離させることは、人間の愛と良心と理性に反することであり、そして、なんら責任のない子どものダイちゃんを収容することは、人道に反するものであります。
 よって、関係入国管理局におかれましては、ダイちゃんの「日本国籍確認」の裁判の判決確定の日まで、Fさん及びダイちゃん母子の国外退去と収容をしないようにしていただきたい。
 なお、同母子の仮放免にあたっては、期間延長を2週間の継続更新とすると、賃借等による住居の確保に支障をきたしますので、「日本国籍確認」の裁判の判決確定の日まで更新を必要としない仮放免にするとともに、居住制限につきましては、父親との関係を考慮のうえ同母子の意思を尊重した取扱いをしていただきたい。

 なお、当会が中心となりまして、1993年6月26日広島市婦人教育会館で開催いたしました「国際婚外子の国籍を考える集い」において、参加者一同が上記要請と同様のことを「宣言」として採択いたしましたので、当該「宣言」を添付いたし、重ねて要請のお願いといたします。

宣言

 婚外子差別をはじめ、あらゆる差別の撤廃と人権の確立を求める国際潮流の中で、日本は、人権関係条約の批准等について依然として遅れている状況にあります。
 私たちが念願していた「子どもの権利条約」は、「児童の権利に関する条約」とする名称に包摂される間題、留保事項及び国内法の不整備の問題とりわけ婚外子差別(非嫡出子の相続分は嫡出子の相続分の2分の1と定めている民法第909条第4号但し書き前段)を存置したままで、衆議院で可決され、参議院に送付されていましたが、去る6月18日衆議院の解散が行なわれたことにより、廃案となリました。
 去る6月23日、東京高等裁判所は、「民法第999第4号但し書き前段(相続分に関する婚外子差別)剖分は憲法第14条第1項に違反する」と決定し、ここに希望の光を見ることができましたが、「子どもの権利条約」の批准すらこのような状況であり、子どもたちは差別と抑圧に取り巻かれています。
 ところで、日本の国籍法第2条第1号は「出生時に父又は母が日本国民であるとき、子は日本国民とする」と定め、法務省は「婚姻関係がない場合、胎児(出生前)認知がされなければ、出生時の父は不明であり、母の国籍しか取得できない。」と解釈しています。
 そのため、婚姻関係のない日本人の父とフィリピン人の母との間に生まれた<ダイちやん>(1歳9カ月)は、胎児認知届けの書類不備を理由に日本国籍を認められませんでした。そこで、<ダイちやん>親子は、「日本国籍確認」の裁判を広島地方裁判所に起こしました。
 一方、ダイちやん母子に対しては、在留資格外として広島入国管理局から国外退去命令が出されており、広島地方裁判所が一審判決言渡しまでその執行停止を認めたものの、抗告により広島高等裁判所において訴訟係属しているところであります。また、仮放免につきましては、1993年7月5日14時まで期間が延長されてはいるものの、その後も継続されるか否かは不明であり、ダイちやん母子は国外退去又は収容される危険性にさらされています。
 私たちは、婚外子差別・外国人差別をはじめ、あらゆる差別の撤廃と人権の確立を求める立場から、次のとおり国籍法第2条第1号の規定に関する法務省の解釈の差別性を明らかにして、大ちやんの「日本国籍取得」のための「裁判」を支援するとともに、人権尊重を配慮した環境の中で「裁判を受ける権利」が保障されるよう求めるものであります。

1、国籍法第2条第1号の解釈について
 法務省の解釈によると、子どもの国籍は、父と母のいずれかの一方が日本国籍で他の一方が外国籍の場合において、父と母に婚姻関係がなく、しかも胎児(出生前)認知がなされなかったときは、父が日本国籍を有するか否かではなく、母が日本国籍を有するか否かによって定まる、ということになります。
 国籍の取得に婚姻制度を導入することは婚外子差別の再生産をもたらすものであり、胎児認知を国籍取得の条件とすることは外国人差別を拡大するものであります。
 よって、法務省は、同条同号を素直に文理解釈して、ダイちゃんの日本国籍を認めるべきであります。

2、人権尊重を配慮した環境の中で「裁判を受ける権利」の保障について
 関係入国管理局は、ダイちやんを原告とした「日本国籍確認」の裁判の判決確定の日まで、ダイちゃん母子の国外退去と収容をしないようにしていただきたい。なお、ダイちやん母子の仮放免にあたっては、期聞延長を2週間の継続更新とすると、賃借等による住居の確保に支障をきたすので、「日本国籍確認」の裁判の判決確定の日まで更新を必要としない仮放免にするとともに、居住制限については、父親との関係を考慮のうえダイちゃん母子の意思を尊重した取扱いをしていただきたい。

1993年 6月26日

「国際婚外子の国籍を考える集い」参加者一同

以上


1994年2月25日

法務大臣 三ケ月章 様

〒725
広島県竹原市竹原町1916の7
国際婚外子の国籍を考える会
世話人代表 蔵本正俊

子どもの権利を尊重するための国籍法の改正と解釈について(要請)

 婚外子差別をはじめ、あらゆる差別の撤廃と人権の確立に向けて、ご尽力いただいておりますことに敬意を表しますとともに感謝いたします。
 さて、日本で生まれた子どもの国籍については、国籍法第2条の規定が定めているところでありますが、法務省入国管理局登録課調ベ(1993年6月末現在)によると、1599人にも及ぶ無国籍者が日本に居る状況であり、この原因の多くは、同規定が血統主義を原則・生地主義を例外としていること及び同規定の無国籍防止の趣旨を没却した解釈にあるといえます。
 子どもは、親を選んで生まれることも、国籍を選んで生まれることもできません。親にいかなる理田や状況があろうとも、子どもが日本で生まれた以上、日本は、子どもにとって、生まれた国であるとともにアイデンティティー形成への出発となるものであります。子どもの生まれた国に対する誇りを培うためには、日本で生まれた子どもに第一次的に日本国籍が認められるようにすベきであり、そうすることこそ、基本的人権を基調とした「国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思う」という憲法前文の趣旨に合致するものといえます。
 子どもに対する差別の撤廃と子どもの権利の保障を図ることを目的とした「児童の権利に関する条約」については、これを批准すベく、今通常国会に提案されているところであります。
 そこで、まず第一に、この条約の批准に合わせて、日本で生まれた子どもに対して第一次的に日本国籍が認められるよう、生地主義原則の国籍法に改正していただきたく要請する次第であリます。

 第二に、日本国籍が認められていないダイちやん(父は日本国籍のAさん、母はフィリピン共和国籍Fで、****A・****という呼称で取り扱われている。)及びリ**・ア***・ロ***ちやん(父母不明、養親がリ**・ウ****・リ****さんとリ**・ロ**・ロ**さん)についてであります。
 いずれも国籍法第2条の規定に関し、子どもの権利を尊重しない法務省の解釈によって日本国籍が認められず、その結果、訴訟係属(前者の事件については広島地方裁判所、後者の事件については最高裁判所)となっているものであります。
 ダイちゃんの日本国籍の件については、国籍法第2条第1号の解釈に関わるものであります。
 国籍法第2条第1号は、「出生時に父又は母が日本国民であるとき」、子は日本国民とする、と定めているところ、法務省においては、国籍取得の要件に婚姻関係及び胎児認知を付加して、「婚姻関孫がない場合、胎児(出生前)認知がされなければ、出生時の父は不明であり、母の国籍しか取得できない。」と解釈しておられます。
 この法務省の解釈によりますと、子どもの国籍は、父と母のいずれかの一方が日本国籍で他の一方が外国籍の場合において、父と母に婚姻関孫がなく、しかも胎児(出生前)認知がなされなかったときは、父が日本国籍を有するか否かではなく、母が日本国籍を有するか否かによって定まる、ということになりますが、このような解釈は、「女子に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約」第9条第2項の規定に違反する女性差別であります。
 加えて、国籍の取得に婚姻制度を導入することは、婚外子差別の拡大・再生産をもたらすものであり、また、胎児認知を国籍取得の条件とすることは、外国人差別を拡大するものであります。
 よって、国籍法第2条第1号による国籍取得の条件に婚姻関係及び胎児認知の条件を付加しないよう解釈運用して、ダイちゃんの国籍を日本国籍と直ちに認めていただきたく要請いたします。

以上



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