●1996年6月26日、日本弁護士連合会は法務大臣広島入国管理局長に対し、ダイちゃん事件につき警告書を発しました。以下に再録します。


日弁連総第28号
1996年6月26日

法 務 大 臣
長 尾 立 子 殿

日本弁護士連合会
会長 鬼 追 明 夫

警 告 書

 当連合会は、1995年度第4号人権侵犯救済申立事件(申立人****A・****、同F、相手方法務大臣、同広島入国管理局)につき別紙のとおり警告を発する。

警告の趣旨

  1. 国が申立人ダイちゃんの日本国籍を認めないことは重大な人権侵害行為であり、ただちに申立人ダイちゃんの日本国籍を認めるよう警告する。

  2. 今後同様の人権侵書を再発させないために、早急に認知の遡及効を認める行政解釈を通達等によって確立周知させること及び国籍法改正に向けた具体的準備作業を開始することを求める。

  3. 法務大臣が申立人****A・****、同Fらの異議の申出を理由なしと裁決したことは重大な人権侵害であり、ただちに当該裁決を取り消すよう警告する。

  4. 今後同様の人権侵害を再発させないために、子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)9条に関する解釈宣言を撤回し、通達等により「親子の分離禁止の原則」を出入国管理行政に確立周知させること、親子の分離に関し司法審査に服する制度を創設するための具体的準備作業を開始することを求める。

警告の理由

  1. 申立人****A・****の日本国籍について

     申立人****A・****(以下、申立人****という)は、フィリピン人である申立人Fを母、日本に居住する日本人男性を父として、1991年9月18日、日本で出生し、父に認知されている者であるが、国が、国籍法2条1号の解釈において認知の遡及効を認めず、外国人女性と日本人男性との間に生まれた非嫡出子については、日本人男性が胎児認知をしない限り、生後認知をしても日本国籍を認めないとの行政解釈をしているために、日本国籍を認められていない状態にある。
     しかしながら、このような行政解釈は、他方で、国籍法3条により、準正によって嫡出子たる身分を取得した子には、届け出による日本国籍の取得が認められていることと比較すると、明らかに嫡出子と非嫡出子を差別するものである。
     嫡出子か非嫡出子かによる差別は、憲法14条1項の禁ずる社会的身分による差別であり「法の下の平等」に反するとともに、憲法13条の保障する個人の「幸福追求権」を侵害し、市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「国際人権(自由権)規約」という)2条・24条・26条、ならびに子どもの権利条約2条に違反する重大な人権侵害である。ことに、国際人権(自由権)規約委員会が1993年11月に非嫡出子の差別を廃止するよう勧告していること、当連合会も1994年2月の「非嫡出子に対する差別廃止の法改正を求める意見書」において国籍法上の差別の是正を求めていたこと、差別の是正は法改正を持たなくとも民法が既に認めている認知の遡及効を国籍法上も認めさえすれば可能なことなどにかんがみると、国が未だに非嫡出子差別の解釈を温存させていることは、誠に遺憾である。
     よって、上記警告の趣旨1.2.記載のとおり警告するものである。

  2. 申立人らに対する強制退去処分について

     申立人ダイちゃんは、国がその日本国籍を認めないため、申立人Fを法定代理人親権者として、国籍確認訴訟を提起し、現に係属中であるところ、申立人らは、広島入国管理局主任審査官により退去事由に該当すると判定され、広島入国管理局より退去強制処分を受けている。
     しかしながら、そもそも国が申立人ダイちゃんの日本国籍を認めないことは、上記のとおり重大な人権侵害であり、申立人ダイちゃんには日本国籍が認められるべきであるから、同人の異議の申出に対し法務大臣が理由なしと裁決したことは、日本人に対する退去強制処分を認容した行為として違法であり、人権侵害である。
     また、申立人ダイちゃんの日本国籍の有無を争っている裁判の結果日本国籍が認められれば退去強制事由のなくなる同人の異議を認めず、その判決確定前に退去強制処分に付することは、憲法32条、国際人権(自由権)規約14条により保障されている同人の「裁判を受ける権利」を著しく侵害するものである。
     申立人Fに対する退去強制処分も、申立人ダイちゃんが未だ4歳の幼児であり、訴訟の遂行が実質的には法定代理人親権者たる申立人Fによって行われていることからすれば、同じく申立人ダイちゃんの「裁判を受ける権利」を侵害することになる。また、仮に申立人ダイちゃんが日本人たる父の嫡出子であれば退去強制されないことは明らかであるから、同人に対する退去強制処分は非嫡出子に対する差別であり、前記憲法、国際人権(自由権)規約、子どもの権利条約の各条項に違反する。
     さらに、申立人2名に対する退去強制処分は、申立人ダイちゃんの人格の全面的かつ調和のとれた発達のために保障されるべき家庭環境を破壊し、日本人父との親子の分離をもたらす点で、憲法13条、国際人権(自由権)規約7条・23条、子どもの権利条約3条・5条・7条・8条・9条に違反するものである。中でも子どもの権利条約9条は、「親子の分離禁止の原則」をうたい、その例外を、権限ある機関が司法審査に服することを条件とし、かつ親子の分離が子どもの最善の利益のために必要であると決定される場合に限定している。これに対して、本件退去強制処分は、司法審査に服することなく、しかも子どもの最善の利益に反して親子を分離させるものであり、許されない人権侵害と言わざるを得ない。

 よって上記警告の趣旨3.4.記載のとおり警告するものである。

以上


日弁連総第28号
1996年6月26日

広島入国管理局
局長 下 野 博 司殿

日本弁護士連合会
会長 鬼 追 明 夫

警 告 書

 当連合会は、1995年度第4号人権侵犯救済申立事件(申立人****A・****、同F、相手方法務大臣、同広島入国管理局)につき、別紙のとおり警告を発する。

警告の趣旨

 広島入国管理局に対し、申立人****A・****、同Fらに対する退去強制処分を取り消し、今後このような人権侵害を繰り返さないよう警告する。

警告の理由

 申立人****A・****(以下、申立人ダイちゃんという)は、フィリピン人である申立人F(以下、申立人Fという)を母、日本に居住する日本人男性を父として、1991年9月18日、日本で出生し、父に認知されている者であるが、国が日本国籍を認めないため、国籍確認訴訟を提起し現に係属中であるところ、広島入国管理局は申立人らを退去強制処分に付している。
 しかしながら、そもそも国が申立人ダイちゃんの日本国籍を認めないのは、認知の遡及効を否定し非嫡出子を嫡出子と差別するような行政解釈をしているためであり、憲法14条1項、13条、市民的及び政治的権利に関する国際規約(以下「国際人権(自由権)規約」という)2条・24条・26条ならびに子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)2条により申立人ダイちゃんには日本国籍が認められるべきであって、同人に対する退去強制処分は、日本人に対する退去強制処分として違法であり、人権侵害である。
 仮に、申立人ダイちゃんの日本国籍の有無が裁判で争われている現状を前提としても、裁判の結果日本国籍が認められれば退去強制事由のなくなる同人を、その判決確定前に退去強制処分に付することは、憲法32条、国際人権(自由権)規約14条により保障されている同人の「裁判を受ける権利」を著しく侵害するものである。申立人Fに対する退去強制処分も、申立人ダイちゃんが未だ4歳の幼児であり、訴訟の遂行が実質的には法定代理人親権者たる申立人Fによって行われていることからすれば、同じく申立人ダイちゃんの「裁判を受ける権利」を侵害することになる。
 また、仮に申立人ダイちゃんが日本人たる父の嫡出子であれば退去強制されないことは明らかであるから、同人に対する退去強制処分は非嫡出子に対する差別であり、前記憲法、国際人権(自由権)規約、子どもの権利条約の各条項に違反する。
 さらに、申立人2名に対する退去強制処分は、申立人ダイちゃんの人格の全面的かつ調和のとれた発達のために保障されるべき家庭環境を破壊し、日本人父との親子の分離をもたらす点で、憲法13条、国際人権(自由権)規約7条・23条、子どもの権利条約3条・5条・7条・8条・9条に違反するものである。中でも子どもの権利条約9条は、「親子の分離禁止の原則」をうたい、その例外を、権限ある機関が司法審査に服することを条件とし、かつ親子の分離が子どもの最善の利益のために必要であると決定される場合に限定している。これに対して、本件退去強制処分は、司法審査に服することなく、しかも子どもの最善の利益に反して親子を分離させるものであり、許されない人権侵害と言わざるを得ない。
 よって上記警告の趣旨記載のとおり警告するものである。

以上



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