ダイちゃん事件資料集−ある昼下がり 最近のダイちゃんとフロリダさん

ある昼下がり 最近のダイちゃんとフロリダさん

高畑:ダイちゃんこのあいだね、フィリピン帰ったでしょ。どうだった?

フロリダさん:どうだった?ママのところいって。友達いっぱいできたしょ。

ダイちゃん:聞こえない。

高畑:ダイちゃん、フィリピン帰って、おじいちゃんあったでしょ?

ダイちゃん:うん。

高畑:おじいちゃんどやった。やさしかった?

ダイちゃん:(うなずく)

高畑:ほんま。

フロリダさん:友達、いっぱい。

ダイちゃん:とってるの?これ。

フロリダさん:そうよ。ダイちゃん、こっちおいで。

高畑:フィリピン、行ったでしょう。なにして遊んだ?

ダイちゃん:なにも遊んでない。

フロリダさん:いろいろゲーム遊んでたでしょ。

ダイちゃん:ウントンパン?

高畑:ウントンパン?

ダイちゃん:うん。ばつして、まるしたら飛ぶ、でバツにしたら飛ばない。

フロリダさん:あと、じゃんけんぽいしてたでしょ。

ダイちゃん:してないよ、してないよ。してない。

***

ダイちゃん:ママって、恥ずかしいで。いっとき。

フロリダさん:恥ずかしくないよ。

ダイちゃん:恥ずかしいで。

高畑:なんで。

フロリダさん:ママの、、、どこが。

ダイちゃん:ママは、フィリピンでしょ。

フロリダさん:そうよ。

ダイちゃん:ママは大阪の、フィリピンでしょ。

高畑:ママは大阪のフィリピンの子やろ、

ダイちゃん:うん。

高畑:ダイちゃんは?

ダイちゃん:、、、

フロリダさん:ダイちゃんは?

ダイちゃん:日本。

高畑:ダイちゃん日本。

ダイちゃん:うん。

高畑:ほんまあ。

ダイちゃん:あ、アメリカ、アメリカのパスポートは?

フロリダさん:持ってないもん。アメリカ人じゃないから。

ダイちゃん:僕は?

フロリダさん:日本人でしょ。(笑)じゃ、どんなパスポート。

ダイちゃん:、、、ママ、みつあみ上手なの。

フロリダさん:、、、

ダイちゃん:ママ、ドラえもんが好きなの。

高畑:ドラえもんが好きなの。ダイちゃんは何が好き?

ダイちゃん:うーんと、ドラえもん。

フロリダさん:あとは、何が好き?

ダイちゃん:えーっと、はっぱのゲーム。はっぱがね、ひらひらーと落ちてくるの。

高畑:はっぱのおもちゃ。

ダイちゃん:プールに行ったら、ぽとんぽとんって色が変わる。そして、後ろ向けにしたら、へへっ。

***

高畑:ダイちゃん、フィリピンに行ったら、ガールフレンドできたか?仲いい子できた?

ダイちゃん:女の子ばっかり。

高畑:仲良くなった?

フロリダさん:エイプリル?

ダイちゃん:うん。

高畑:エイプリルと仲良くなった?

ダイちゃん:ううん。

フロリダさん:ジェニー?誰が一番好き?

ダイちゃん:ママは?

フロリダさん:テルテル。

ダイちゃん:テルテルや。、、、えーっとね、ママはね、大輔やで。

フロリダさん:そら、自分のことや。そして誰?

ダイちゃん:えーっとお、ドラえもん。ドラえもんやでー。そしてなあ、日本だって。日本のドラえもん。、、、うんとね、ママは、えんぴつ大好き。手紙も大好き。そしてー、お買い物も大好き、そしてー、服も買うし、そして、食べるし、うーん、えーと、人形も買う。えーと、うさぎいっぱい。

高畑:ダイちゃんは誰が好き?

ダイちゃん:、、、、

フロリダさん:誰が好き、ダイちゃん。

ダイちゃん:え?えっとおー。日本人。

フロリダさん:え、なーにそれー。何その話、わからん。

***

高畑:フロリダさん、フィリピン帰ってどうやった?

フロリダさん:ものすごく、楽しかった。とても興奮して、帰る前は夜も眠れなかった。とても帰れるとは信じられなかった。

ダイちゃん:僕は寝たよー。

フロリダさん:いろいろとやりたいことを考えてたから。

高畑:例えば、どんなこと?

フロリダさん:お母さんのお墓参りとか、きょうだいと一緒に、お父さんとも、ゆっくり話したいなと思ってた。そしてショッピングに出かけたり、外食したり、親戚や友達を訪ねたりしたかった。

高畑:いつ帰ったんだっけ?

フロリダさん:今年の2月25日。

高畑:フィリピンに帰った時、だれが迎えにきてた?

フロリダさん:お父さん、きょうだい、そしてきょうだいのダンナとか。

高畑:帰って、最初にきかれたことは?

フロリダさん:最初に?うん、「元気ー?あーよかったわ、帰れて。もう何年、会っていなかったのかしら、もう、ながーいこと、帰っていなかったねえ。本当によかったわ、帰国できて。」だって。

高畑:お父さんは何て?

フロリダさん:「お前は変わっていないねえ。みんな、お前が帰国できてうれしいよ。問題も解決したようだし、みんな会えてよかったよ。」

高畑:ダイちゃんのことは?

フロリダさん:「この子がお前の子どもかい、大きいね!本当に、日本人のようだ!どうやって話をしたらいいのかな?この子は日本語だし、私はタガログ語だ、どうやって話が通じるのかな?」だから私は、「ちょっとわかるのよ、お父さん。なんとかタガログ語はわかるから、でも、あんまり話すことはできないの。」最初はダイちゃんももの静かにしてたんだけど、あと1週間もしたら、お父さんが「この子はやんちゃだねえ」だって。近所の子と喧嘩したり。

***

高畑:裁判が終わって、それが勝ったから、それでひとつの願いがかなったというわけだよね。どういう気持ちだった。

フロリダさん:本当に、まるで、のどにささっていたトゲが抜けたようだった。ずっと問題があったでしょう、それで裁判が勝つか負けるかわからなかった。だから、勝ったとわかった時には、ほんっとうに、嬉しかった。「神様、ありがとう」って。私の問題が終わった。もうダイちゃんのことで心配しなくてもいいんだわ、もう安心して日本に住めるんだわ。」って、それが解決したから、この次は、日本での毎日の生活を考えたらいいんだわって。もう長いこと、問題だったからね。

***

高畑:ダイちゃんの将来について、どんな仕事をしてほしいとか、希望はある?

フロリダさん:大学を卒業して、いい仕事が見つかって、いい家族に恵まれたら、、(ダイちゃんに向かって)社長になりたい?ダイ?何になりたい?

ダイちゃん:お弁当。

フロリダさん:お弁当屋さん?、、弁護士さん違う?

ダイちゃん:違う。

フロリダさん:何がいい?

ダイちゃん:お花。

フロリダさん:お花屋さん?

ダイちゃん:僕もうすぐ、最後の誕生日。

フロリダさん:あ、そやな。来月。最後じゃないよ。

ダイちゃん:最後!! 最後の誕生日!

***

高畑:フロリダさん、最近、Aさん(ダイちゃんの父親)には会ってない?

フロリダさん:たまたま、このあいだ見かけただけ。

高畑:もう彼には期待してないの?

フロリダさん:期待してるけど、私たちの生活費を渡してくれないかなって。

高畑:前は、Aさんと結婚するつもりだったんでしょ。

フロリダさん:前?そう、ずっと前、彼はそう言っていたもん。でも、彼は奥さんと別れることができなかったし。でももう何も期待してない。奥さんと別れるための一歩も進めてないんだもん。もうずっと待つだけ。もう私も待つ気がなくなった。ずーっと待ってたのに。でも、何もならなかった。

***

高畑:フロリダさん、じゃあこれからどうしたい?

フロリダさん:ダイちゃんに十分な教育をしてやりたい。それで彼がひとり立ちできるようになって、自分で考えるようになったら、もう私も歳とって働くこともできないだろうし、そうなったらもうフィリピンに帰ろうかな。それまではがんばるわ。

高畑:フロリダさん、今までね、裁判、3年半かかったわけだけど、そのなかで一番大変だったのはいつぐらいだった?

フロリダさん:えっとね、最初に入管に行った時。まだダイちゃんが赤ちゃんの時。あれから(本当に大変になった)。最初に入管に行ったでしょ、それで「1年後にはフィリピンに帰れ」って(言われて)、それで「日本には滞在できない」って言われた時。裁判しなければ、フィリピンに帰るほかなかった時ね。それから、あちこち行って、まだその頃は広島にいたから、入管行って、弁護士さんのところ行って、(訴状を作成するために)いろいろ聞かれるでしょう、頭が痛くなった(笑)

高畑:そんな時に、一番助けになってくれたのは誰かな?

フロリダさん:やっぱり最初は崎阪さん。これは裁判にしなければ、って言ってくれて、その時にとっても心強く感じた。それから弁護士の先生たちも、この事件を引き受けてくれて、裁判しましょうって言ってくれたこと。

高畑:そのほかは、誰かな。

フロリダさん:友達も。うん。もしここでフィリピンに帰ってしまったら、もうAさんがお金送ってくれるとも限らないし、日本でがんばって、って言ってくれた。

高畑:フィリピン人の友達?

フロリダさん:うん。

高畑:3年半もやっていて大変だったと思うけど、最初は勝つかどうかわからなかったよね。

フロリダさん:そうそう。

高畑:やっぱり、裁判やってよかった?

フロリダさん:そうそう、ほんとによかった。勝った時、裁判やってよかったな!って思ったの。もし裁判で闘わなかったら、そのままもうフィリピン帰って、どうにもならなかったと思う。だから、裁判やってほんとによかった。本当に、神様に感謝してる。毎日お祈りしてたのが神様に届いて、私は問題から逃れることができた。

高畑:最初ね、裁判を始めた頃は心配もあったんじゃない?

フロリダさん:そうそう。最初は、裁判すべきなのかどうか、もしかしたら最後には裁判に負けるかもしれないし、そうなったら時間ももったいないし、どうしようか、って考えてた。それから、もし裁判に負けてフィリピンに帰るとしても何も蓄えがなかったらどうやって生活したらいいのかと不安だったし。だから、裁判に勝っても負けてもいいように、貯金をするようにして、もし帰国することになっても持って帰るお金があるように準備してたの。結局、貯金もしたし、裁判も勝ったから、一番いい結果になった。
高畑:じゃあね、今まで、一番しんどかったのは入管に行った時ね。じゃあ、嬉しかったのは?

フロリダさん:嬉しかったのは、弁護士さんたちが「裁判が勝ちそう」って言った時。「ああ、本当?!ああ、よかった!!」って思った。「いやいや、喜んでいても後で負けるかもしれないわ…って思ってはいたんだけど、とにかく嬉しかった。」それで、裁判長が最後に、「本当に12日に胎児認知届けに行ったと信じる」って言ってくれた時に、ああ、よかった!って、それまでの疲れが一挙になくなった。それまでの辛さがふっとんだ。

***

高畑:ダイちゃん、なにか欲しいものある?

ダイちゃん:おもちゃ屋さんになりたい。

フロリダさん:ケーキ屋さん、花屋さん、

ダイちゃん:そして、おもちゃ屋さん。人形屋さん。

フロリダさん:何が一番好き。

ダイちゃん:えーっと、えーっと、人形。人形がほしい。くまさんと、ぞうさんと、そして、ママのおっきい怪物の人形と、そして車と、ビデオと、そしてー日本と、地球と。それだけ。

フロリダさん:(笑)



|目次|事件の流れ|発刊にあたって|広島での活動状況|日弁連の警告書|日本人の実子を養育する外国人親に定住者の在留資格|
|戸籍課への事務連絡|メッセージ|ライブラリー|訴状など|意見書|新聞記事|支援ニュース|編集後記|また胎児認知届けの受付拒否